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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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番外編・転生マールの冒険記14

番外編・転生マールの冒険記14になります。

よろしくお願いします。

 僕らの目の前には、破壊された街があった。


 高さ20メードはある石造りの街壁は、あちこちに破壊跡があり、特に北方の壁が大きく崩されている。


 街中からは、黒煙が空へと昇っていた。


「……なんだ、これ?」


 街の前に辿り着いた『第5次開拓団』は、その光景に立ち尽くしていた。


 僕らが、当初の目的地としていた街。


 シュムリア竜騎隊が上空から異変を見つけ、その報告を受けて駆けつけた僕らの前にあったのが、この惨状だったのだ。


「嘘でしょ……」


 ソルティスの顔色も真っ青だ。


 イルティミナさんもキルトさんも険しい表情をしている。


「……ア、ァア……」


 トルキアは力が抜けたように、膝から地面に崩れた。


 ポーちゃんが慌てて、彼女の背を支える。


 そんな立ち尽くしている僕らに向かって、


「まだ生き残っているトルーガの人々がいるかもしれん! 全団員、街の探索を開始するぞ!」


 ロベルト将軍の鋭い声が響いた。


 あ……。


(そうだ、呆けている場合じゃない!)


 我に返った僕らは、すぐに行動を開始した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そこは、人口2000人規模の街だった。


 赤青黄の3種類の色の石を使った美しい石畳の大通りや建物があり、水路の先には噴水広場もあった。


 そこに多くの死体が転がっている。


 兵士もいれば、民間人もいる。


(…………)


 眩暈がして、その臭いに吐きそうになった。


 これは、本当は夢ではないかと本気で疑ってしまった……。


 でも、現実だった。


 この街が壊滅したのは、数日以内だと思われた。


 そして、半日かけて行われた捜索で、生存者はゼロ。


 そう、ゼロだ。


 誰1人、この街の住人で生き残った人はいなかったんだ。


 トルキアには、初期の段階から探索から外れてもらった。


 とてもじゃないけれど、彼女にこんな恐ろしい光景を見せられない。


 イルティミナさんたちは、未成年である僕とソルティスとポーちゃんの3人にも、探索から外れて欲しかったみたいだけど、強く断った。


「この出来事から、目を逸らしたくない」

「…………」


 そんな僕らの意思を、キルトさんは「わかった」と了承してくれた。


 そうして僕らは、日が暮れるまで探索を続けたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その夜、街の外で『第5次開拓団』は野営をした。


 街の探索でわかったこともあった。


「『黒大猿』の仕業だと?」


 部下の報告を受けたロベルト将軍は、表情を険しくする。


 ここは、開拓団本部の天幕だ。


 キルトさん、レイドルさん、アーゼさんと共に、なぜか僕まで同席させられている。


 報告した騎士さんは、「はい」と頷いた。


 街に残された破壊跡には、魔物の痕跡があった。


 また人々の死体には食べられた跡もあり、更には『黒大猿』の死骸も20体ほど見つかっていた。


 つまり、この街は『黒大猿』に襲撃されて壊滅したのだ。


 キルトさんも言う。


「推定だが、1000体ほどの群れだったと思われるの」


 1000!?


 僕は驚いた。


 ロベルト将軍は顔をしかめた。


「……間違いはないのか?」

「北部の大地に、それだけの規模の魔物どもの足跡が残されておる」


 魔物討伐の専門家、その最高峰である『金印の魔狩人』は、はっきりと答えた。


 1000体の『黒大猿』。


 それは僕ら開拓団が敗走した時の5倍の数の群れだ。


 キルトさんは見解を続ける。


「街を襲った理由は、飢えかもしれぬの。この街の住人の亡骸には、全て、奴らのかじりついた痕跡が残っていた」


 …………。


(飢え……か)


 そういえば、モハイニさんも言っていたよね、今年は7年に1度の『黒大猿』が大繁殖する年だって。


 そして、村周辺の『黒大猿』を狩った時、大繁殖を知ってるモハイニさんたちでさえ、その狩られた魔物の数の多さに驚いていたんだ。


 それは生息域から追い出される『黒大猿』が例年以上に多かったということ。


 つまり、


「……今年は7年に1度どころか、それ以上の異常な大繁殖をしてるのかも?」


 僕は、そう呟いた。


 代表の4人が僕を見る。


「マール君が口にすると、真実味を感じてしまうね」


 そう言って、レイドルさんが苦笑する。


 アーゼさんの兜に隠された視線が、天幕の外にある北方を見る。


「つまり、あの黒き獣たちは、生息域の食料だけでは飢えを満たせず、こうして人のいる領域まで南下したということか?」

「恐らくの」


 頷くキルトさん。


「もしかしたら、この1000体では済まぬかもしれぬ。それ以上の数が各地で動いていれば、トルーガ人の被害は更に増えるぞ」


 恐ろしい予測。


 それは、あの鬼姫の勘なのかもしれない。


 …………。


 しばらく、沈黙が場を支配した。


 やがて、ロベルト将軍が大きく息を吐き、


「ここから一番近い、トルーガ人の街はどこだ?」


 と言った。


 すぐにテーブル上に、大きな地図が広げられる。


 それはモハイニ村長の証言を基に作成された、この地域一帯の拡大地図だ。


 皆でそれを覗く。


「ここかな?」


 僕の小さな指が触れたのは、ここから南西100キロほどの地点にある町だ。


 移動するなら3日ぐらい。


 キルトさんが難しい顔をする。


「この街の南西方向にも、『黒大猿』どもの移動した跡があった。これはまずいかもしれぬの」


 えっ!?


(それって、この街を襲った1000体の群れが、次はこの南西の町を襲うってこと?)


 その可能性に、背筋が凍る思いがした。


 ロベルト将軍は、眼光鋭く僕ら4人を見る。


「明朝、夜明けと共に発つぞ!」


 シュムリアの誇る将軍の言葉に、僕らは強く頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 太陽の光が輝く中、僕ら『第5次開拓団』は南西方向へと急いだ。


 頭上には、シュムリア竜騎隊の竜が2騎、飛んでいる。竜が1騎、追加されたのは、周辺警戒をより厳にするためだ。


 1000体の『黒大猿』は、実際、どこにいるかわからない。


 そして、それほどの規模の魔物に遭遇してしまえば、僕らもただでは済まないだろう。


(危険な状況なのは、僕らも同じなんだ)


 そばを歩くイルティミナさん、キルトさんからも、ピリピリした緊張感が伝わってくる。


 ソルティスも硬い表情で、前を見つめている。


 ポーちゃんも、その横を無表情で歩いている。


「…………」


 いつも元気なトルキアも、今は言葉を発することもなかった。


 トルキアの語学授業は、当然、休止だ。


『外の世界を見たい』


 そう言っていたトルキア。


 でも、こんな世界を見たかったわけじゃないはずだ。


 ギュッ


 僕は、トルキアの手を握った。


 彼女は驚いたように僕を見つめてくる。


 僕は言った。


「大丈夫」


 何が大丈夫かはわからないけれど、強くそう言い切った。


 僕の青い瞳を見つめ返して、


「……ウン」


 トルキアは、小さく微笑んだ。


 そうして僕らは、2日間、トルーガの大地を歩き続けた。


 そして3日目。


 頭上を飛んでいた竜騎隊の竜が、突然、大きく咆哮した。


『グォオオン!』


 下っ腹まで響くような、凄まじい声だ。


 見上げる僕ら。


 竜の頭部にいる竜騎士が、剣を持った腕を前に突き出し、遠く前方を示している。


 僕らはすぐに、視線を降ろした。


(!)


 荒野の遥か遠方に、砂煙が舞っていた。


 町だ。


 視線の先に、小さく町が見えていた。


 そして、その周辺には、黒い影たちが無数に群がっていた。


 町を囲む壁を登ろうとし、それを壁の上にいる人々が必死に落としている。


 戦っていた。


 トルーガの人々は、町を、人を、家族を守るために黒い魔物の群れと戦っていたんだ。


 その光景に、僕の全身の毛が逆立つ。


 町は、多すぎる魔物の群れに、少しずつ追いつめられていた。


(でも、間に合った!)


 ロベルト将軍が、タナトス魔法武具の長剣を抜き放った。


 それを見て、『第5次開拓団』の全員が、自分たちの武器を手に構えた。


 シュラン


 僕も『妖精の剣』を鞘から抜く。


 そんな僕らの姿を、トルキアの大きな瞳が見つめていた。


 ロベルト将軍の輝く長剣が、天に向く。


「トルーガの大地であっても関係ない。力なき人々を守るため、己が武を示すため、我らはシュムリア人の誇りにかけて、あの町の人々を助けるぞ! 全団員、突撃!」


『おぉおおおおおっ!』


 前方へと振り下ろされる剣に、僕らは雄叫びをあげて走りだした。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 最初の街は蹂躙されてしまい全滅してしまったけれど、二つ目の町の襲撃にはギリギリ間に合ったようで一安心。 此れで間に合わなかったらトルキアが自閉症にでもなってしま…
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