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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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番外編・転生マールの冒険記13

番外編・転生マールの冒険記13になります。

よろしくお願いします。

 翌朝、僕ら『第5次開拓団』は『墓守の村』を出発する準備を整えた。


 村の前に、全員が集まっているんだけど、


「え? トルキアも一緒に行くの?」


 その事実を知らされて、僕は大いに驚いた。


「ウン、ソウダヨ♪」


 僕の前で笑っているトルキアは、外套を羽織り、大きなリュックも背負って準備万端である。


(いいの?)


 僕は、隣のキルトさんを見る。


「本人と村長の強い希望での。まぁ、開拓団としてもトルーガ語を話せる通訳がいてくれるのは、ありがたい」


 とのお返事だ。


 ただキルトさん自身、少し迷っている節もあるみたい。


(……だって、危険な旅だもんね)


 自分たちの身の安全さえ保障できないのに、この少女を巻き込んでいいのかという気持ちは、どうしても生まれてしまうんだ。


 だけど、


「絶対ニ、一緒ニ行クカラ!」


 とトルキア。


(なんでそこまで?)


 そう思って、理由を聞いてみた。


 トルキアは、青い空を見上げて、


「外ノ世界ガ見タイノ」


 と答えた。


 彼女は生まれてこの方、この村以外の場所に行ったことがないそうだ。


 他の村や街に、興味がなかったわけじゃない。でも、そこに行くのはとても危険で、同時に、そうまでしていく理由もなかった。


 また祖父のこともあった。


 トルキアの両親は、彼女が幼い頃に『黒大猿』に殺されてしまったんだって。


 たった1人の肉親である祖父。


 そんな祖父を置いて、村を出ることはできなかった。


 だからトルキアは、その気持ちは、ずっと心にしまって、村で過ごしてきたんだって。


 でも、


「マールニ会ッタカラ」


 白い髪の少女は言った。


 突然、出会ってしまった異国の少年。


 自分と同じぐらいの年で、世界中を旅している存在に出会ってしまったんだ。


 それが、トルキアの抑えていた心に火を点けてしまった。


 そして、そんな彼女を後押ししてくれたのは、なんと祖父であるモハイニさん自身だった。


 モハイニさんは、孫娘が『外の世界』に憧れていることを知っていた。


 本来のトルキアは、村のため、1人で採取に出てしまうほど活動的な少女なのだ。


 孫娘にとって、この村は小さすぎる世界。


 だからモハイニさんは、トルキアに、『命を助けられた恩返しのため、2つの国の懸け橋となる通訳として、僕らと一緒に行きなさい』と言ってくれたんだそうだ。


(…………)


 もしかしたら、モハイニさんは30年前、村を出るジェスさんと一緒に行きたかったのかもしれない。


 その想いも、孫娘に託したのかもしれない。


 ふと、そう思った。


 視線を巡らせると、モハイニさんは離れた場所から、僕とトルキアのことを見ていた。


 視線が合う。


 モハイニさんは、深々とこちらに頭を下げた。


 …………。


 僕は、改めてトルキアを見る。


「わかった。トルキア、これからよろしくね」


 右手を差しだした。 


 トルキアは驚き、輝くような笑顔を浮かべる。


「ウン、コチラコソ!」


 僕も笑った。


 そうして僕と白い髪をした異国の少女は、お互いの手を強く、しっかりと握り合わせたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「イッテキマ~ス!」


 トルキアの元気な声が、谷間の村に木霊する。


 たくさんの村人たちに見送られながら、僕ら『第5次開拓団』400人は、『墓守の村』を出発していった。


 空は快晴。


(うん、旅立ちにはいい天気だ)


 青い瞳を細めて、僕は微笑んだ。


 目的地は、ここから20日ほど南下した場所にある、トルーガ帝国の街だ。


 そこから、トルーガ帝国の政府に連絡をしてもらい、『神霊石』探しの協力を求める予定なんだって。


(……協力してもらえるかな?)


 ちょっと不安。


 でも、そうしなければ、世界が危ういんだ。


 そこには、きっとトルーガ帝国も含まれているだろうから、何とか説得しないとね。


(うん、がんばろう!)


 気合を入れ直す。


 ちなみに、『神霊石』に反応する『探査石円盤』は、腰ベルトから紐で吊るしている。


 いつでも確認できるようにしてあるんだ。


 ……今のところ、反応はないけどね。


 そうして僕らは、暗黒大陸の大地を、南に向かって歩いていく。


 今までの『探索』とは違って、目的地の決まった『移動』なので、2つの部隊に別れることもなく、400人全員での移動だ。


 ズシン ズシン


 竜騎隊の竜たちも、1騎は空を飛んで周囲の監視を行い、残る3騎は僕らと一緒に地上を歩いている。


(迫力あるなぁ)


 竜の歩く姿を間近で見れるのは、ちょっと感動するよ。


 トルキアも、巨大な竜たちの姿に、おっかなびっくりな顔をしているのが印象的だった。


 そうして僕らの旅は、数日間、続いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 周囲の景色は、森や岩だらけの大地から、乾燥した荒野へと変わった。


 吹く風は、少し砂が混じっている。


「なんだか、この辺の土地は、荒れ果てた感じね」


 隣を歩くソルティスが、そんな感想を漏らした。


 すると、


「ソレハ、『黒死ノ大地』ノ影響ダヨ」


 と、トルキア。


 彼女の説明によれば、400年前、『黒の巨人』が暴れたのは、この大陸の北部が中心だったんだって。


 つまり、今、僕らが歩いている地域。


 そのせいで、今も北部には人が少なく、帝国内でも辺境の地域とされているんだそうだ。


(ふ~ん?)


 つまりトルーガ帝国は、南部の方が栄えているんだね。


 それともう1つ、北部にはデメルタス山脈を中心に『黒大猿』が繁殖しているのも、人が少ない原因なんだとか。


『黒大猿』によって壊滅した町や村は、少なくないそうだ。


 そして、『黒大猿』が数を増やして、南へと勢力を伸ばしてくるのを防ぐため、トルーガ帝国の帝都レダは、戦士団をすぐに派遣できるように北部寄りにあるそうだ。


(なるほど)


 安全な南部に首都を作らない辺り、『強さ』を誇りとする帝国の考え方が伝わってくるよ。


 トルキアの説明に、


「ほほぉ、そうなのね~!」


 ソルティスは瞳をキラキラさせながら、一生懸命、その内容をメモに取っていた。


 そうして開拓団は、荒野を歩く。


 そんなある日、


(ん?)


 僕らは、その荒れた大地に、奇妙なものを発見した。


 骨だ。


 動物の骨らしきものが、大地に転がっている。


 でも、サイズがおかしい。


 それは、300メードほどの大きさの骨だったんだ。


(何だこれ……?)


 開拓団のみんな、唖然と見上げてしまう。


「これは……大王種の骨ですね」


 イルティミナさんが驚いたように、その正体を口にした。


 大王種。


 それは神魔戦争以前、古代タナトス魔法王朝の時代に人類と地上の覇権をかけて争っていたという、超巨大生物のことだ。


「……暗黒大陸にもいたんだね」


 僕は呟く。


 古の時代には、きっとトルーガ帝国の戦士とも戦ったんだろう。


 まさに、古代のロマン。


 僕は、ちょっと胸が熱くなってしまった。


「ホワァ……」


 外の世界を知るために村を出てきたトルキアも、初めて目にした大王種の骨の巨大さに、ため息をこぼしている。


 その夜、僕らはその巨大な肋骨の中で、野営をした。


 焚火を囲んで夕食を食べながら、


「ナンダカ、私タチノ方ガ食ベラレタミタイネ♪」


 楽しそうなトルキアの言葉に、僕らはみんな、吹き出すように笑ってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『第5次開拓団』の旅は続いていく。


 その中で、僕らは旅の休憩時間に、トルキアから『トルーガ語』についても教わっていた。


「ルパ、ルタ、ルト、ルガ」


 長さ5メードはある大きな木版に書かれた文字を、トルキアが発音していく。


 ちなみに、木版を支えるのは、竜騎隊の竜である。


 トルキアの発音に合わせて、僕らも発音を繰り返した。


 トルーガ語の文字は、39文字。


 その中には、タナトス文字と似ていて、発音も同じ文字もあったりする。


 博識少女のソルティスは、


「戦争する前には、もしかしたら、トルーガ帝国と古代タナトス魔法王朝との間で交流があったのかもしれないわね。あるいは、それ以前の時代には、2つの国が同じ文明を祖としていたっていう可能性もあるわ」


 との予想だ。


(こっちは歴史のロマンだね)


 ソルティスは瞳を輝かせて、


「今は時間がないけれど、いつかは、じっくり研究してみたいわ」


 と呟いていた。


 そうしてトルキアの授業は、毎日、進む。


「オハヨウ、ハ、ラタパタ」


 ふむふむ。


「コンニチハ、ハ、ラタルート」


 ふんふん。


「コンバンハ、ハ、ラタポルフ」


 ほうほう。


 僕は、必死にメモを走らせる。


 トルキアは僕を見て、


「ジャア、マール? 今ノ時間ノ挨拶ハ?」


 と、みんなの前で、ご指名を入れてきた。


(え、えっと、今はお昼休憩だから……)


 僕は言った。


「ラタルート!」

「ウン、正解♪」


 トルキアは笑った。


 パチパチ


 少女の拍手に合わせて、開拓団のみんなも拍手してくれる。


 ちょっと恥ずかしい。


「さすが、マールです」


 イルティミナさんも笑って、頭を撫でてくれる。


 ソルティスは呆れ顔だ。


 トルキアの授業は、なんというか褒めて伸ばすという感じだ。


 褒めることで自信をつけさせ、楽しく覚えて、より自分から学ぶ意識を高めさせようとする。


「私モ、オ母サンニ、ソウヤッテ教ワッタンダ」


 と、トルキア。


 実はこれ、今は亡きトルキアのお母さんが、トルキアに『アルバック共通語』を教えてくれた時の方法なんだって。


 祖父から娘へ。


 娘から孫へ。


 代々、アルバック共通語が伝わった。


 その結果、今、こうして僕らとトルキアは、意思の疎通ができているんだ。


「トルキアのお母さんにも感謝だね」


 僕が言うと、トルキアは「ウン♪」と嬉しそうに笑ってくれた。


 それにしても、


(トルキアって、凄く頭がいい子なんだなぁ)


 人に教えられるということは、その物事をしっかり理解しているということ。


 トルキアは、アルバック共通語を完璧に理解していた。


(2ヶ国後が話せるって、本当に凄い)


 僕も負けてはいられない。


 そんなトルキアの授業を受けて、僕は、必死に『トルーガ語』を覚えていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 村を出てから、17日が経過した。


 そろそろ、目的とする街が見えてくる頃だった。


 そして、その頃になると、開拓団員の中には、トルーガ語である程度の会話ができる人たちも現れていた。


 特に、その中の1人、


「アパ、カルア、ルトルト、アーガ?」

「タタッカ、アン。ルティ」


 トルキアと流暢なトルーガ語で会話をするのは、あの何でもできるお姉さんだったりする。


 トルキアも驚いていた。


「凄イネ、イルティミナ! モウ完璧ダヨ!」 


 そんな賞賛を受けて、イルティミナさんは「そうですか」と穏やかに微笑んでいる。


(さ、さすが、イルティミナさんだ)


 一方の僕はと言えば、まだ挨拶と簡単な単語での会話ぐらいしかできない。


 キルトさんや他の開拓団員も、そんな感じだ。


 ソルティスは、39文字とたくさんの単語は覚えたけれど、発音と聞き取りはまだ苦手なようで、「筆談ならある程度はできそうだけどなぁ」とぼやいていた。


 キルトさんは笑う。


「これで通訳がもう1人増えたの」


 うん、そうだね。


 僕の向ける尊敬の眼差しに、イルティミナさんは、少し照れ臭そうにはにかんでいた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 事態が動いたのは、その日の午後だった。


(ん?)


 歩いている僕らの上空を飛んでいた竜騎隊の竜が、突然、前方へと飛翔していったのだ。


「どうしたのかな?」


 僕は、キルトさんに訊ねる。


 キルトさんも「ふむ?」と首をかしげていた。


 そうしている間にも、竜騎隊の竜は、遥か遠方まで行くと、クルリとUターンしてこちらに飛んでくる。


 ゆっくりと高度を下げている。


 地上に降下するつもりなんだ。


「全開拓団、止まれ!」 


 気づいたロベルト将軍の指示で、僕らの歩みは止まった。


 ズズゥン

 

 砂煙を立てて、竜が着地する。


 頭部の鞍から竜騎士が飛び降りて、ロベルト将軍の下へと向かった。


 ここからは聞こえない声で会話をしている。


(…………)


 上空から何かが見えたのかな?


 それを近づいて確認し、僕らの方へと報告に戻ってきた、といった感じに見えた。


 そして、


「何だと!?」


 報告を受けたロベルト将軍は、険しい表情になる。


 その表情を見て、僕らは、この旅の道中に何か良くないことが起こったことを悟った。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ >「絶対ニ、一緒ニ行クカラ!」 >「マールニ会ッタカラ」 やはり同行する事になったトルキア。 言動から察するに、来るべき聖戦(マール争奪戦)に備えての行動か?(…
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