番外編・転生マールの冒険記03
初日3連続更新の3回目です!
番外編・転生マールの冒険記03になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「本当にあったじゃないの、遺跡!」
立ちすくむ僕らの中で、真っ先に再起動したのはソルティスだった。
駆けだそうとする妹の首根っこを、イルティミナさんが慌ててキャッチする。
それから、
「どうしますか、キルト?」
と、リーダーである銀髪の美女に判断を仰ぐ。
「ふむ」
言いながら、キルトさんは空を見上げた。
灰色の空からは、止むことのない大粒の雨が落ち続けている。
「できれば、発光信号弾を撃っておきたいが……」
あ……。
その呟きで思い出した。
発光信号弾の魔法の光は、雨に弱いんだ。
晴れていれば、空に10分ぐらい、太陽のように輝いているけれど、水分に触れると30秒ぐらいで消えてしまうんだって。
「この雨では無駄でしょうね」
イルティミナさんは言った。
その腕に掴まれるソルティスは、大いに訴えた。
「迷う必要なんてないわ。いつ雨が止むかなんてわかんないし、だからって、この遺跡を放っておく選択はできないでしょ!?」
ブンブン
少女の両腕が上下に動く。
ブンブン
わかっているのか、いないのか、隣のポーちゃんも真似をしていた。
(う~ん)
できれば僕も、遺跡を調べたいな。
僕は、キルトさんを見つめる。
気づいたキルトさんは、雨に濡れる銀の前髪を、ワシャワシャと手でかいた。
そして、
「仕方がないの。罠などもあるかもしれぬ。注意しながら、慎重にいくぞ」
と、認めたんだ。
ソルティスは「よっしゃ!」と拳を握る。
(あはは……)
ソルティスらしい姿に、僕らは苦笑する。
それから、僕らは、この森の遺跡の探索を行うことになった。
◇◇◇◇◇◇◇
遺跡は、高さは30メードぐらいのピラミッド型をしていた。
地上部分は、100メードほどの長さ。
1辺が1メードぐらいの石が、本当に隙間なく積み上げられている。
(凄い技術だね……)
またピラミッドの中腹ぐらいまで階段があって、その先に、中に入れそうな空洞が空いていた。
僕らは、階段を登る。
入り口から先は、真っ暗だ。
ランタンに火を灯し、魔法の『光鳥』も呼び出して、奥へと向かう。
コツッ コツッ
真っ暗な通路が続いている。
幅は、2人が並べるほどで、天井までは3メードぐらい。
(ほえ~)
未知なる遺跡の内部を、僕は感慨深く眺めてしまう。
しばらく進むと、
「階段だわ」
下へと降りる階段が見つかった。
かなりの急勾配。
慎重に、1人ずつ下へと降りていく。
(足を踏み外さないように……)
雨のせいで、靴底も濡れている。
僕らは、いつも以上に気をつけながら、1段1段、階段を下っていった。
階段の先には、石の扉があった。
「ふむ?」
キルトさんがランタンをかざして、扉を見つめた。
ここまで通路の分岐はなく、この遺跡にあるのは、この先の部屋ぐらいのようだ。
キルトさんの手が、扉にかかる。
「むん」
ゴ、ゴゴ……ッ
その凄まじい腕力が、重そうな扉を押し開けていった。
中へと入った。
そこは、50メード四方はある広い部屋だった。
床には、たくさんの石棺が並んでいる。
僕は息を呑んだ。
「……お墓だ」
思わず、呟いた。
このピラミッド型の遺跡は、たくさんの人を埋葬しているお墓だったんだ。
石棺の数は、50以上ある。
青くなる僕とは対照的に、ソルティスは瞳を輝かせていた。
「へぇええ?」
そう言って、ランタンをかざして石棺を眺めながら、奥へと進んでいく。
僕らは、少女についていく。
(ん……?)
部屋の奥には、1段高くなった場所があり、他よりも1回り大きな石棺が置かれていた。
その後ろには、大きな壁画があった。
(……なんだ、これ?)
中央には、ピラミッドの上に立つ王様らしい人物が描かれていた。
胸があるので、女王かな?
ピラミッドの下では、人々が跪いている。
よくわからないのは、その人々のいる地面から、たくさんの人の手が生えているところだ。
その手に掴まれた人々は、横に倒れていた。
(…………)
なんだか不気味な絵だ。
「マール」
不意にキルトさんに呼ばれた。
「報告のため、この壁画を絵に描いておいてもらえるか?」
「あ、うん」
僕は頷いた。
すぐにリュックから、紙と筆とインクを取り出して、筆を走らせる。
サラサラ
「これでいい?」
完成した絵を見せる。
キルトさんは頷く。
「相変わらず、上手いの」
そう笑って、褒めるように僕の頭を撫でてくれた。
(えへへ……)
役に立てて、ちょっと嬉しい。
イルティミナさんも、我が子が褒められた母親みたいな顔で『うんうん』と頷いている。
「ね、マール? こっちも描いてくれる?」
今度は、ソルティスに呼ばれた。
見れば、少女は、一番大きな石棺のそばにいた。
その小さな指は、石棺の蓋をなぞっている。
僕は、そちらに近づいて、
(あれ……?)
その蓋に刻まれている文字のようなものに気づいた。
「これ……タナトス文字?」
僕は呟く。
ソルティスは僕の横顔を見た。
「アンタにも、そう見える?」
「うん」
素直に頷く。
ここに刻まれた文字は、僕の知っている33文字の古代文字とそっくりだ。
だけど、
「……全部じゃないね。こっちの文字は、知らない文字だ」
「そうね」
ソルティスは笑った。
「2割ぐらいは、タナトス文字。でも、残りの8割は知らない文字だわ」
弾んだ声だ。
「これは、どういう意味かしら? 未知の文明は、古代タナトス魔法王朝と関係があったんだわ。でも、どんな? もしかしたら、タナトス文明の源流となる文明が、この暗黒大陸にあったとか?」
真紅の瞳はキラキラと輝き、語る声はとても楽しそうだ。
…………。
(古代タナトス文明と関係のある未知の文明、かぁ)
なんだか壮大だ。
僕もドキドキしてくる。
「この辺の文字、ちゃんと書きとっておいてくれる?」
「うん」
ソルティスの言葉に、僕は頷いた。
サラサラ
筆を走らせる。
文字が間違っていないか、ソルティスも横からチェックしてくれる。
(よし、完成)
「うん、いいわね」
ソルティスも満足そうだ。
キルトさん、イルティミナさん、ポーちゃんの3人は、そんな僕らを眺めている。
「よっし」
そしてソルティスは、石棺の蓋に手をかけた。
(……え?)
「じゃあ、中を見るわよ。手伝って」
え? え?
「ち、ちょっと待って? これ、お墓だよ?」
僕は慌てた。
ソルティスは呆れたように僕を見る。
「だから何よ?」
「……罰、当たるよ?」
恐る恐る、告げる。
それを聞いた少女は、僕を馬鹿にするように「はっ」と笑った。
「罰が怖くて、古代遺跡の調査なんてできるわけないでしょ?」
「…………」
「もういいわ。――ポー、お願い」
ソルティスの言葉に、素直なポーちゃんは頷いて、少女と一緒に蓋に手をかけた。
ガリガリ
止める間もなく、蓋がずらされる。
(うわぁ……)
ちょっと震える。
ソルティスは、石棺の中を覗き込んだ。
「ふ~ん、人間だわ?」
そう呟く。
そこに横たわっていたのは、人骨だった。
風化した衣服や装飾品などから、結構、立派な立場の人だったことが窺える。
気がついたら、キルトさん、イルティミナさんも覗き込んでいた。
ソルティスは「なるほどね」と頷く。
(……何が『なるほど』なの?)
僕の視線に気づいて、
「つまりさ、この未知の文明の人たちは、『人間』だったってことよ。エルフでも、ドワーフでも、竜人でも、魔物でもない。人間の作った文明ってこと」
あ……。
(そうか。この異世界には、たくさんの種族がいるんだっけ)
ソルティスは人骨を見つめる。
「骨太だけど、特に私たちと変わらないわ」
「…………」
「肋骨に傷がある。他にも、いくつか骨折の治った箇所があるみたい。……この人は戦士だったのかしら?」
そう呟いた。
…………。
「凄いね。骨だけで、そこまでわかるんだ?」
「ふふっ、尊敬した?」
「うん」
素直に頷く。
ソルティスは嬉しそうに「そう」と笑った。
それから僕ら5人は手を合わせ、石棺の蓋を閉める。
そして、
「今回の探索は、このぐらいかの」
部屋の中を見回して、キルトさんが言った。
ソルティスは頷いた。
「そうね。色々と収穫もあったし、いいんじゃない? ……私としては、全部の石棺を開けてみたいけど」
(ひえっ?)
チラッと、彼女は僕を見て、
「マールの顔色も青くなってるし、やめておくわ」
そう笑った。
(……ありがとって、お礼を言うべきかな?)
複雑な表情の僕に、ポーちゃん以外のみんなが笑う。
それから僕らは、部屋を出る。
ゴゴン
キルトさんが石の扉を閉めた。
(お邪魔しました)
静かな眠りの場所を騒がせたことを、心の中で謝罪する。
それから僕らは、来た道を戻り、遺跡の外へと出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇
外に出ると、雨が止んでいた。
灰色の雲が集まっていた空には、切れ目ができ、そこから日差しが差し込んでいた。
(……綺麗だな)
僕は、青い瞳を細める。
そのまま、僕らは階段を降りていこうとした。
クシャ
(え?)
何かを踏んだ。
足を上げると、そこに萎れた花が数本、置かれていた。
…………。
「え……花?」
その意味に、僕は気づく。
他の4人が、固まってしまった僕に気づいて、足を止めた。
「どうしたのですか、マール?」
イルティミナさんが問いかけてくる。
僕は、無言で足元の花を拾った。
「それは?」
「……ここに置かれてた」
入る時は、雨が降っていたせいで気づかなったんだ。
僕の言葉に、皆、反応しなかった。
でも、すぐにイルティミナさんがその意味を理解してくれた。
「まさか」
とても驚いた顔だ。
そこで、キルトさん、ソルティスもわかったようだ。
ここには、花が置かれていた。
……そう、『誰』かが置いたのだ。
このお墓に、花をたむけに。
それも、ここ最近に。
置かれていた別の花を、キルトさんが拾う。
「ふむ。萎れているが、まさか30年前の『第3次開拓団』のものではあるまいの。せいぜい、2週間か1ヶ月といったところか」
そう推測する。
ソルティスの瞳が、またキラキラしていた。
間違いない。
僕は頷き、強く言った。
「この近くには、花を手向けに来る現地の人が存在するんだ」
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、本日24時(明日0時)以降の予定です。番外編は毎日更新の予定ですので、もしよかったら、また読んでやって下さいね。どうぞ、よろしくお願いします。




