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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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283/825

280・森の遺跡

第280話になります。

よろしくお願いします。

 近づくことで、白い霧に隠されていた建造物の全容が明らかになった。


「ピラミッドだ!」


 思わず、僕は叫んでいた。


 そこにあったのは、灰色の石を積み上げて造られた、高さ30メードはある巨大な四角推だったんだ。


 他の4人も驚いている。


「ずいぶん、古いものみたいね」


 近づいたソルティスが石の1つに触れて、そう呟く。


 石1つの大きさは、少女の背丈と同じぐらい。


 風化しているのか、石の表面には雨水の流れたような跡が残り、角は丸みを帯びている。


「入り口がありますね」


 イルティミナさんが上の方を見ながら、そう言った。


 その視線を追いかける。


 ピラミッドの中腹ぐらいまで階段が造られていて、その先に、内部に入れそうな四角い穴が開いている。


「行ってみましょ!」


 ソルティスは訴えた。


 今にも駆けだしそうな妹の襟を押さえつつ、イルティミナさんは、判断を仰ぐようにパーティーリーダーを振り返る。


 キルトさんは「ふむ」と唸った。


「中を調べてみるのはやぶさかではないが、まぁ待て」


 そう言うと、彼女は荷物の中から緑色のペイントがされた金属筒――発光信号弾を取り出した。


 緑色は『発見』の合図だ。


「一応、近くの仲間にも協力を仰ごう。遺跡の中に入って、もし閉じ込められでもしたら、どこからも救助が来ぬからの」


 なるほどね。


(備えあれば憂いなしだ)


 そしてキルトさんは、筒の先端を空へと向ける。


「……しかし、この霧の中で見つけてもらえれば良いがの」


 少し心配そうに言って、トリガーを引いた。


 ヒュルル シュパアン


 霧に包まれた白い空に、緑色の光が輝く。


 ……霧のせいで、ちょっとぼんやりした光だ。


「あ……」


 いつもなら5分ぐらい輝いているのに、30秒ぐらいで光が消えてしまった。


 実は、発光信号弾の魔法の光は、湿気に弱いんだ。


 濡れると、すぐ消えてしまうんだって。


 だから、雨の日は使えない。


(霧でもおんなじだね)


 それでも一応、光らせた。


 誰か来てくれるかな?


 …………。

 …………。

 …………。


 30分ぐらい待ったけれど、誰も来ませんでした。


「やはり駄目でしたね」

「むぅ……」


 イルティミナさんは冷静に呟き、キルトさんは唸った。


 ソルティスは、ピラミッドの石の1つに腰かけて、足をプラプラさせながら、


「もう私たちだけで入っちゃおうよ~?」


 と、じれったそうに訴えた。


 ちなみに、その隣でポーちゃんも少女の真似をして、石に座り、足をプラプラさせていた。


 僕は問う。


「もう1回、信号弾を撃ってみる?」

「……いや、よい」


 キルトさんは、大きなため息をこぼした。


 顔をあげ、


「この霧では、無駄弾になりそうじゃ。わらわたちだけで行くとしよう」

「やった!」


 ソルティスは、指をパチッと鳴らす。


 そして、ピョンと石から飛び降りる。


「じゃあ、早く行きましょ!」


 急かすソルティス。


 そんな少女の隣に、ポーちゃんも真似をして、石から飛び降りる。


「よろしいのですか?」


 イルティミナさんが確認した。


 キルトさんは頷く。


「遺跡の規模も、そう大きそうではないしの。もしも閉じ込められたら、遺跡を破壊して出るとしよう」

「はぁ」


 その答えに、呆れ気味に応じるイルティミナさん。


 キルトさんは苦笑する。


「ま、中を確認しないという選択もできぬ。仕方なかろう?」


 イルティミナさんは少し考え、


「それはまあ、そうですね」


 と、ようやく納得したように頷いた。


「ちょっと何してるのよ、早く早く~!」


 すでに階段を登り始めているソルティスが、地上の僕らを呼んだ。


 ちなみにポーちゃんも、少女の隣だ。


(護衛してくれてるのかな?)


 好奇心旺盛なせっかち少女に、2人の大人たちは苦笑して遺跡へと歩きだす。


 僕もあとに続いた。


 さて、何か見つかるかな?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 15メードほど階段を登って、入り口の前に立つ。


 ソルティスは大杖を振り上げ、


「私たちの道を照らしなさい。――ライトゥム・ヴァードゥ!」


 光の鳥を生み出した。


 ポーちゃん、隣でパチパチと拍手。


「よし、隊列を組んで進むぞ」


 キルトさんの指示に、僕らは頷く。


 そうして僕ら5人は、四角い入り口からピラミッド内部へと入っていった。


 コツン コツン


 足音が石壁に反響する。


 灯りに照らされる遺跡の廊下は、天井が5メードぐらいあって、緩い下り坂になっていた。


(1本道だね)


 これなら迷うこともない。


 10メードほど進むと、下り階段があった。


「かなり急じゃな」


 ほぼ垂直に近い。


「ゆっくり、1人ずつ行くぞ」


 そうして、キルトさん、ポーちゃん、ソルティスが降りていく。


 次は僕。


「気をつけて」

「うん」


 イルティミナさんの声掛けに笑顔を返して、僕も階段に手もつきながら、気をつけて降りていく。


(ふぅ)


 無事、階下へ。


 イルティミナさんも降りてくる。


「扉だわ」


 ソルティスの声に振り返った。


 言葉通り、降りた先には、光に照らされる扉があった。


 石の扉だ。


「ふむ」


 キルトさんが手をかける。


 ゴッ ゴゴッ


 重そうな音と土煙を立てながら、石の扉が開いていく。


 人1人が通れるだけの幅ができた。


 僕らは、順番にその隙間を通っていく。


(わ……)


 通った先にあったのは、小さな部屋だった。


 中央には、棺のようなものが1つだけ置いてある。


(この遺跡は、お墓だったのかな?)


 棺の前には、枯れた花や装飾の施されたお皿や花瓶、宝石のついた剣や槍が供えられていた。


 部屋の壁には、絵が描かれていた。


 壁画だ。


 山や草原、森などの風景画みたいだ。


「へ~、へ~、へ~!?」


 ソルティスは瞳をキラキラ輝かせて、部屋の中にある物を見つめている。


 キョロキョロと動く少女。


 ポーちゃんもその後ろを律義についていく。


 その時、


「マール、探査石円盤に反応はありませんか?」


 イルティミナさんが声をかけてきた。


(ん?)


 僕は、腰のポーチから『探査石円盤』を取り出した。


 けれど、中央の魔法石に反応はない。


「ううん、ない」


 僕は首を振った。


 暗黒大陸に来てからこれまで、色んな場所で『探査石円盤』を確認しているけれど、1度も光ることはなかった。


 ここでも同じみたいだ。


(『神霊石』は、やっぱりこの先の『廃墟の都市』にあるのかな?)


 そう思いながら、円盤をしまう。


 と、


「これは何の絵じゃ?」


 キルトさんが呟いた。


 それは、棺の正面にある壁画だった。


 街の中にあるピラミッド、その頂上に1人の女性らしい姿が立っていて、ピラミッドの下にはたくさんの人たちの姿が描かれている。


(……女王様の絵かな?)


 街の周囲には、額縁のように何匹もの蛇の姿が描かれていた。


「ポー、これ開けて」

「了承」


 ガコン


 僕らが壁画を見ている間に、ソルティスに命じられて、ポーちゃんが棺の蓋を開けた。


 ……って、何してるの!?


「……罰が当たっても知らないよ?」


 僕は怯えながら言う。


 ソルティスは「ふん」と鼻で笑った。


「罰が怖くて、古代の研究なんてできないわよ」


 ……そんなものかな?


 棺の中には、当たり前だけど白骨化した遺体が納められていた。


 衣服や装飾品を見る限り、かなり立場のあった人みたい。


「…………」


 僕らは目を閉じ、手を合わせた。


 それが終わってから、ソルティスは棺の中を改めて見る。


「石板だわ」


 少女は手を突っ込み、遺体のそばにあった石板を引っ張り出した。


 床に置き、光を当てる。


 石板には、文字が刻まれていた。


「フッ」


 ソルティスは息を吹きかけ、砂埃を払う。


 ケホッ ケホッ


 こ、こっちに吹かないで欲しいな。


「読めますか?」


 イルティミナさんが妹に訊ねた。


「ん~」


 少女は、しばし石板を見つめる。


「タナトス文字が使われているから、少し読めそう。でも、違う文字も使われているから、断片的にだけね」


 それから「ちょっと待ってね」と荷物を漁った。


 中から出てきたのは、タナトス文字の辞典と紙と筆とインク。


 それから30分ほど、この小さな部屋の中で、少女は解読作業を行った。


 僕らは黙って見守り、待つ。


 やがて、


「ふぅ、終わったわ」


 筆を置き、少女は大きく息を吐いた。


「お疲れ様」


 僕はソルティスを労う。


 ポーちゃんも少女の肩を揉んでやり、少女は「あ~、効くわぁ」と気持ち良さそうな声をこぼしていた。


「して、なんと書いてあった?」


 キルトさんが問う。


「えっとね」


 ソルティスは筆を走らせた紙を手にして、


「栄光なるトルーガ文明、人造の神人、蛇の王より生まれし者、大王種との戦争、偉大なる女王……かしらね」


 と答えた。


(……本当に断片的だ)


 キルトさんは眉をひそめる。


「どういう意味じゃ?」

「わかんない」


 ソルティスは小さな肩を竦めた。


「ただ、この大陸には、古代タナトス魔法王朝とは違う『トルーガ文明』っていうのが存在してたみたいね。そして、古代タナトス魔法王朝みたいに『大王種』と争っていたみたいだわ」


 僕は息を呑む。


「……タナトスとは違う文明が、本当に存在してたんだ」

「そうね」


 ソルティスは笑う。


「本当、大発見だわ。これだけでも、暗黒大陸まで来た甲斐あったわよ」


 嬉しそうな顔だ。


 あはは……。


(よかったね、ソルティス)


 イルティミナさんは、紙の上に書かれた単語へと、白い指を置く。


「『人造の神人』、『蛇の王より生まれし者』、『偉大なる女王』とは何でしょう?」


 姉の前で、妹は両手をあげた。


「そっちは全然わかんない」

「…………」

「タナトス文字以外の文字、トルーガ文字が多くてね。これらの単語以外は解読できなかったのよ。もうちょっと他の資料もあるといいんだけど」

 

 そっか。


 これ以上、この遺跡から得られる情報はなさそうだ。


 棺の中に石板を戻して、蓋を閉める。


(ごめんなさい、お邪魔しました)


 もう一度、手を合わせて、僕らはピラミッドの中から外に出た。


 外の光が眩しい。


 階段を降りて、僕らは古きピラミッド遺跡を振り返った。


 少女が呟く。


「『トルーガ文明』には、タナトス文字が使われているから、きっと古代タナトス魔法王朝から派生した文明なのかもしれないわね。ううん、もしかしたら、こっちが源流なのかしら?」

「…………」

「神霊石探しがなかったら、もっと、じっくり調べたかったわね」


 知識の探究者らしい、そんな切なそうな声をこぼした。


 太古のピラミッド。


 その年月に隠された真実に思いを馳せて、僕は青い瞳を細めた。


 ポン ポン


 キルトさんの両手が、僕とソルティスの頭に乗った。


 彼女は笑う。


 それから、表情を引き締めて、前を向く。


「さぁ、この遺跡の調査は終わりじゃ! 先を急ぐぞ?」


 意識を切り替えさせるように、強く大きな声で言った。


「うん」

「えぇ」


 僕らは頷いた。


 ポーちゃんもソルティスの後ろで頷いている。


 そんな僕らに、イルティミナさんは真紅の瞳を伏せながら、優しく微笑んだ。


 そうして僕ら5人は、白い霧の森へと入っていく。


 太古よりあるピラミッドだけを残して、この場からは誰もいなくなった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 絶好調のソルティス博士。 助手のポーちゃんを従えて我が道を往く。 ……愉しそうで何よりです(笑) [一言] 久し振りの『探査石円盤(ドラゴン・レーダー)』。 出…
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