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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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265・上陸の刻

第265話になります。

よろしくお願いします。

 海の旅が始まって、50日間が過ぎた。


 あれからも数回、海の魔物に襲われることはあった。


 けれど、あのタコみたいな巨大なサイズの海の魔物に襲われることはなく、なんとか撃退しながら、今日まで無事に航海を続けることができている。


 ザパァン ザザァア


 今日は、少し波が高い。


 空は曇っていて、雨粒が船室の窓にポツポツと当たっている。


「そろそろ、大陸が見えてきても良い頃じゃの」


 ふとキルトさんの声がした。


 僕は、窓から視線を外す。


 キルトさんは、船室の床に固定されたテーブル上へ、海図を広げていた。


 海図には、僕らの進んできたルートと日付が記されている。


 地図上で見ると、暗黒大陸はもうすぐだ。


 でも、暗黒大陸だと思われる部分は、楕円形に真っ黒く塗り潰されている。


(誰も行ったことがないからだね)


 発見されたのは、40年前。


 以来、4度の調査団が送られているけれど、誰も帰ってきていないという謎の大陸だ。


 …………。


 ふと思った。


「そもそも暗黒大陸って、どうやって発見したの?」


 と。


 その呟きに、みんなが僕を見る。


 物知り少女が答えた。


「偶然よ」

「偶然?」

「そ。だいたい40年前にね、ニューグリア商船団っていうのが嵐に遭遇したのよ」


 へぇ?


「そうして難破した1隻が南海に流されて、その時に、遠くに陸地を発見したの」

「もしかして、それが?」


 僕の予想に、少女は「そ」と頷いた。


「暗黒大陸よ」

「…………」

「ニューグリア商船団の難破船は、舵を失っていて、大陸には行けなかった。やがて、潮流と風に乗って北上し、偶然、通りかかった別の商船団に発見されて、難破船は無事に救助されたの」


 ホッ……それはよかった。


「でも、難破船は、星の位置から大陸の座標は把握してたのね」

「ふむふむ」

「皆、半信半疑の中、改めて調査船が派遣されたところ、本当に大陸はあった。ただ大陸周辺の海流は激しくて、その調査船も上陸はできなかったそうよ。それでも正式な新大陸発見ということで、当時はかなり騒ぎになったらしいわ」


 そうなんだ。


(でも、それは、そうだろうね)


 だって、手の届くところにある新しい世界だもん。


 僕は問う。


「それで、また改めて開拓団が派遣されたの?」

「えぇ」


 ソルティスは頷く。


「でも、それが悲劇の始まり」


 少女は1本指を立てて、そう言った。


 ザパァン


 波が強く当たったのか、船体が大きく揺れる。


 天井にぶら下がっていたランタンも揺れて、僕やイルティミナさんたちを照らす光も激しく動き、不気味な陰影を揺らした。


 少女の唇が開く。


「第1次開拓団が派遣されたのは、大陸発見の3年後」

「…………」

「派遣されたのは、54名。当時は、新しい大陸でどんな新発見があるのかって、みんな浮かれてたそうよ。……でも」

「……でも?」

「派遣から1年経っても、開拓団からの連絡は一度もなかった」

「…………」


 ザパァン


 波が当たる。


 ランタンの光も揺れる。


 ソルティスは、揺れる陰影の下で、話を続けた。


「第2次開拓団は、さらに1年後。第1次開拓団に何かがあったのだと推測されて、救助隊としての意味も含めて、派遣されたそうよ」

「…………」

「でも」


 ソルティスは、そこで1つ言葉を区切った。


「やっぱり、第2次開拓団からの連絡も途絶えた」

「…………」


 ゴクッ


 僕は唾を飲む。


「第3次開拓団が派遣されたのは、6年後。大陸発見から10年目ね」

「…………」

「総勢200名。その中には、当時の『金印の冒険者』も乗船してるわ」


(金印の冒険者が……)


 僕は、チラリとキルトさん、イルティミナさんを見た。


 時代は違っても、同時の『金印の冒険者』も、きっと彼女たちとそう実力は違わなかったんじゃないかなと思う。


「でも、結果は……」

「…………」

「…………」

「…………」


 それ以上何も言わず、ソルティスは妖しく笑った。


 ……うぅ。


 少女は、前屈みになっていた姿勢を戻して、大きく息を吐く。


「以来、()()()()()()()()()の『開拓団の派遣』は、しばらくなくなったわ」


 ……シュムリア王国から?


 その言い方が気になった。


「その代わりってわけじゃないけれど、それ以後になると、アルン神皇国やドル大陸の7つ国からの開拓団が派遣されてるの。当時のアルンなんて、1000人規模の人員も用意したらしいわ」


 さすが世界一の大国だ。


「でも、ね」

「…………」

「やっぱり、帰ってきた者は1人もいなかった」

「…………」

「10年前、シュムリア王国からも『第4次開拓団』が20年ぶりに派遣されたけれど、結果は同じ。この40年の間、派遣された開拓団は全て――」


 ソルティスは静かに息を吸い、


「――全滅よ」


 ザパァアン


 今日、一番大きな波が船体を激しく揺らした。


 薄暗い室内で、ランタンの光が暴れる。


 …………。


 しばらく、沈黙が室内を支配していた。


 雨粒の窓を叩く音だけが響いている。


 やがて、キルトさんが息を吐く。


「それらは事実じゃ。しかし、それは皆、過去の結果じゃ」


 クシャッ


 その手が、僕の髪を強めに撫でる。


「わらわたちがどうなるかは、わらわたち次第じゃろうて」

「……うん」


 僕は頷く。


 イルティミナさんの白い手が、僕の手を包むように握る。


「大丈夫ですよ、マール」

「…………」

「貴方のことは、必ず私が守りますからね」


 そう優しく笑った。


(イルティミナさん……)


「…………」


 ポンポン


 ポーちゃんも無表情のまま、僕の肩を叩く。


 3人の励ましに、僕も笑顔を作った。


 ソルティスは、そんな僕らを見つめて、小さな肩を竦めている。


 僕はなんとなく、窓の向こうの暗い灰色空を見上げた。 


 外の雨は激しくなっている。


 ギャアン


 黒い雲の中を、雷が蛇のように走り抜けた。


 風と波に翻弄される船体は、ギシリ、ギシリと悲鳴のような音を絶え間なく響かせる。


(…………)


 緊張と不安を内包したまま、僕らの開拓船は、嵐の海を進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 航海開始から53日目のことだった。


「――陸地が見えたぞ!」


 その声が響いたのは、まだ朝日も昇りきらぬ早朝だった。


 イルティミナさんの腕の中で眠っていた僕は、彼女の起きた気配で目を覚ます。


 ガタッ ガタン


 他の船室からも、人の起きる気配がする。


 キルトさんは、すでに戦士の顔になっていて、すぐに船室の扉を開けて甲板へと歩きだした。


「…………」


 ユサユサ


 ポーちゃんは、いまだ眠っているソルティスの身体を揺らして、少女を起こしている。


「むにゃ……何よぉ?」


 眠そうに目をこする少女。


 そんな妹に「行きますよ、ソル」と手を引いて、イルティミナさんは歩きだす。


 僕とポーちゃんも続いた。


 甲板に出ると、そこには冒険者と神殿騎士、水兵さんたちが集まっていた。


 皆、前方を指差して、何か話している。


(あ、キルトさんだ)


 船首に、銀髪の揺れる後ろ姿を発見する。


 そばには、神殿騎士団長のアーゼさん。


 僕らは、そちらへと近づいた。


「キルトさん」

「…………」


 僕に気づくと、キルトさんは何も答えず、場所を譲ってくれた。


 …………。


 そこから、海を見る。


 太陽の光はまだ遠く、東の水平線が白んでいるだけで、海は真っ黒だ。


 そんな黒い海の南方。


 水平線の上に、黒く影となった陸地が見えた。


「……暗黒大陸」


 僕は、震える声で呟いた。


 キルトさんとアーゼさんが頷いた。


 イルティミナさんたちも声もなく、遠くにたたずむ未知なる大陸を見つめた。


 ソルティスも、完全に目が覚めたようだ。


 他の3隻の開拓船の甲板にも、大勢の人が集まっているようだった。


 冷たい早朝の風が吹き抜ける。


 長い航海の果てに、僕ら『第5次開拓団』は、ついに目的の地を発見したのだ――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 2時間ほどかけて、大陸へと接近する。


 太陽は登り、早朝の光が海面を照らしている。


 4隻の船は、その波を突っ切って、初めて目にする暗黒大陸に向かっていた。


 近づいたことで、陸地の様子も見えてきた。


(――岩場だ)


 海面から棘のように、10メード以上もある尖った岩たちが無数に生えていた。


 大きなものは、30メード近い。


 陸地部分も、似たような尖った岩の連なる岸壁となっていた。


 崖上までは、50メードはあるだろうか?


 そして、


 ザザァアアン


「うわ!」

「きゃっ?」


 船体が大きく揺れた。


 あの大陸に近づくにつれて、潮の流れが速くなり、波が荒くなっているんだ。


 海面には、白い泡を作りながら、渦を巻いている場所もある。


 転びそうな僕とソルティスを、イルティミナさんが支えてくれた。


「あ、ありがと」

「いいえ」


 微笑むお姉さん。


 キルトさんが海面を睨み、


「むぅ」


 と唸った。


 とてもじゃないけれど、ここからは上陸できない。


 と、ひし形になっている4隻の『開拓船』の先頭の『開拓船』の上で、1人の水兵さんが赤白2本の旗を大きく動かした。


 手旗を使った合図だ。


 キルトさんたちは、それを見つめる。  


 水兵さんたちは、すぐに持ち場へと走っていった。


 僕は訊ねた。


「手旗、なんだって?」

「ここから東へ転進して、海岸線に沿って、上陸できる場所を探すそうです」


 イルティミナさんが、そう教えてくれた。


 ザザァアン


 風に帆を大きくはらませながら、船はゆっくりと進路を巡らせる。


 …………。


 見える範囲に、崖以外の場所は見られない。


 刺々しい岩たちに激しい海流。


(まるで大陸が、僕らを拒んでいるみたいだ……)


 朝日の生み出す影の中、黒くたたずむ不気味な大陸に、僕は青い瞳を細めて、小さく身を震わせてしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 上陸地点を見つけるまで、まだ時間がかかりそうだったので、僕らは一度、船室へと戻った。


 すると、


「そなたらには、これを渡しておく」


 キルトさんが僕ら全員に、何かを手渡してきた。


 長さ10センチほどの細い金属筒だ。


(これって……)


「発光信号弾じゃ」


 キルトさんは、僕の予想通りのことを言った。


 1人、2本ずつ。


 そして、それぞれの先端は、赤色と緑色に塗られている。


(???)


 思わず見つめる僕らに、キルトさんは教えてくれる。


「これは、開拓団全員に配られている特殊な物じゃ。それぞれの色で意味が違う」


 意味……?


「緑の光は、何かを発見した場合じゃ」

「…………」

「大陸を探索中、自分たちで持ち帰れぬ大きな遺物や遺跡など、何かを発見した時に使え。すぐに人を向かわせる」


 なるほど。


「助けを求める時は、通常の白い光の発光信号弾じゃ。こちらも救助がすぐに向かう」

「うん」


 となると、赤は?


「赤の光は、危険の合図じゃ」

「…………」

「自分たちが助からぬ状況で、かつ周辺の仲間たちにまで危険が及ぶ可能性がある時に、この赤い発光信号弾を使え。そして逆に、もしも赤い光を見たならば、すぐにその場から離脱しろ。何があってもじゃ」


 え……?


「助けには……いかないの?」

「ならぬ」


 キルトさんは、鉄のように固い声で言った。


「この赤い発光信号弾は、被害を最小限に食い止めるための物じゃ。救助に向かうなどは断じてならぬ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 その声の強さに、僕らは黙り込んだ。


 手の中にある赤い色のついた発光信号弾を見つめてしまう。


 キルトさんは言う。


「使う機会はないに越したことはない。しかし、ここは暗黒大陸じゃ。そういう状況を考慮しないわけにはいかぬ」


 …………。


(……うん)


 言ってることは理解できる。


 ただその状況を思ったら、心が重くなってしまった。


 イルティミナさんは、


「わかりました」


 さすがに大人なだけあって、落ち着いた声で頷いた。


 キルトさんは、若い僕らを見る。


「わかったの?」


 念を押すように確認してくる。


「うん」

「わかったわ」

「ポーは、了承した」


 僕らは声に出して、歴戦の『金印の魔狩人』に答えた。


 キルトさんも頷いた。


(…………)


 僕は、手の中にある発光信号弾を見つめる。


 ギュッ


 赤色を使うことがないよう願いながら、強く握り締めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 上陸できる場所を探して移動を始めてから、半日が経過した。


 僕ら5人は、再び甲板に出ていた。


 棘のような岩の岸壁は、まだ続いている。


 でも、


(潮の流れは落ち着いたかな?)


 まだ流れは少し強いけれど、渦を巻いたり、激しい波になったりはしていない。


 と、その時、


「……砂が見える」


 不意に、ポーちゃんが言った。


(え?)


 小さな指が前方を指差している。


 慌てて僕らも、目を凝らした。


「あ」


 本当だ!


 棘みたいな岩がなくなって、砂浜のようになっている。


 まだ遠いけれど、砂浜の奥には、森のようなものも見えていた。


「キルトさん!」


 僕は振り返った。


 キルトさんは大きく頷いて、


「うむ、あそこからならば上陸できそうじゃな」


 と答えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 4隻の『開拓船』は、陸地の砂浜へと向かった。


 向かっていて気づいたのだけれど、砂浜近くの海に、大きな柱のような物体があった。


(なんだ、あれ?)


 首をかしげる。


 やがて、近づくにつれて、その正体が明らかになった。


(え? 船!?)


 そう、そこにあったのは、木造の船だったんだ。


 かなり古そうで、帆柱が折れている。


 座礁しているみたいで、船体の半分が海中に沈み、斜めに傾いていた。


「これは……」


 キルトさんたちも絶句している。


 こんなところに船があるなんて、完全に予想外だった。


 ソルティスが言う。


「もしかして、これ……私たちの前の『開拓船』?」


 そうだ。


 僕ら以前にも、この暗黒大陸には、何度も『開拓団』が送られているんだ。


 それ以外に考えられない。


(僕らと同じように上陸場所を探して、ここに来たのかな?)


 そう思った。


 座礁した船には、開拓船4隻からボートを出して、内部の調査が行われた。


 この船からは、キルトさんと神殿騎士4人が向かった。


 …………。

 …………。

 …………。


 2時間ぐらいして、戻ってきた。


 ボートから縄梯子で甲板に上がると、


「どうやら、シュムリア王国の『第3次開拓団』の船で間違いないようじゃ」


 と、キルトさんは報告してくれた。


 船内には、10名ほどの遺体が確認されたそうだ。


 それと、船長がつけていただろう航海日誌も。


 それらを調べて、この座礁した船が『第3次開拓団』のものだったと判明したんだって。


(…………)


 全滅した開拓団。


 これから上陸する者として、先達の残した遺物には、なんだか胸に来るものがあった。


 航海日誌には、全滅した理由などが書かれているかと思われたけど、損傷が激しくて、解読には時間がかかりそうなんだそうだ。


(何か、わかるといいんだけどな)


 40年間、多くの帰らぬ人が生まれた暗黒大陸。


 その秘密がわかれば……。


「その辺りの解読は、乗船している『魔学者』たちがやってくれよう」


 キルトさんはそう言った。


 それから、座礁した船の残骸を振り返る。


 …………。


 しばらく、僕らは全員、それを眺めた。 


 やがて、キルトさんは息を吐くと、気を取り直したように僕らを見る。


 そして、


「わらわたちは、これより暗黒大陸へと上陸するぞ」


 と覚悟のこもった声で告げたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ソルティス先生の『なぜなに開拓団』。 解りやすい解説は、流石の一言。 そしてやはりと謂うか、シュムリア王国以外の国々からも開拓団は派遣されていたのか。 領土権の…
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