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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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264/825

261・青海への出航

第261話になります。

よろしくお願いします。

 紅白の月明かりの下で、僕は、しばらく夜空を見上げていた。


 ピクッ


(ん……?)


 頭に生えていた獣耳の片方が動き、そこに足音が聞こえてくる。


 音の方に顔を向けると、


「マール!?」


 宿の廊下を、こちらへと走ってくるイルティミナさんの姿があった。


 その後ろには、ポーちゃんを先頭にして、キルトさん、ソルティスの走る姿もある。


 と、近づくイルティミナさんの足が止まった。


 驚いたような表情で、真紅の瞳が見開かれ、僕のことを見つめている。


 僕が『神狗』の姿をしていたからかな?


 ポタッ


 僕の右手からは、紫色の血が床へとこぼれ落ちている。


 イルティミナさんの視線は、それを追いかけていた。


 キルトさんたちも気づく。


「マール!? いったい、何があった?」


 問われて、でも、どう答えていいのかわからなかった。


 自分自身、まだ少し混乱していたから。


 だから僕は、


「みんな……どうして、ここに?」


 答える代わりに、そう聞き返していた。


 キルトさんは言う。


「ポーが『魔の気配』を感じたと訴えての。その異変を感じた場所へと向かい、そなたと出会った」

「……そっか」


 僕は、小さく笑った。


 その表情を見て、イルティミナさんは息を呑む。


 ギュッ


 次の瞬間、彼女は僕のことを抱きしめてくれた。


「貴方が無事でよかった……っ」


 震える声。


 僕は、びっくりした。


 でも、嬉しかった。


 彼女の温もりを感じられることに、心から安堵していた。


(……1歩間違えていたら、僕は殺されていたんだね)


 その事実を噛み締める。


 僕の手は、イルティミナさんの背中に触れて、その温もりをしっかりと確認する。


 キルトさんは、そんな僕らを見つめて、


「ふむ……ここは一度、部屋に戻ろう。詳しい話は、そこで聞かせてもらおうではないか」


 そう提案した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、7階にある客室へと戻った。


 そこで僕は、イルティミナさんに抱きしめられたまま、ベッドに腰かけて、みんなに先ほどの出来事を伝えたんだ。


 キルトさん、ソルティス、ポーちゃんは、ソファーに座ったまま、話を聞いてくれる。


 そして、


「まさか、『闇の子』が来たのか!?」


 全てを聞き終えたキルトさんは、黄金の瞳を丸くして、驚きの声を発した。


 ソルティスも、


「嘘でしょ……」


 と、呆気に取られたように呟く。


「…………」


 ポーちゃんは無言のままだったけれど、水色の瞳を険しく細めていた。


 そしてイルティミナさんは、


「あぁ、ごめんなさい、マール。貴方を1人にしてしまったばかりに、こんな怖い目に遭わせてしまうなんて……っ!」 


 ギュウッ


 僕を抱く腕の力を強くして、そう悔いるように言う。


 う……ちょっと苦しい。


 でも、心配してもらえることも嬉しかった。


「ありがとう、イルティミナさん。でも、大丈夫だよ」


 ポン ポン 


 そう笑って、小さな手で僕を抱いてくれる腕を軽く叩く。


 キルトさんは確かめるように言う。


「本当に怪我はないのじゃな?」

「うん」


 むしろ、『闇の子』の方が怪我をしてたね。


「そうか」


 安心したように息を吐くキルトさん。


 それから、すぐに表情を引き締めて、


「しかし、まさか奴が単独で、このように姿を現すとはの」


(……うん)


 ここには、400人以上の開拓団の戦士たちがいる。


 いわば、敵地のど真ん中だ。


 人の目から姿を隠せる能力を持っていても、相当のリスクがあったはずなんだ。


(そうまでして、奴は僕らに警告したかった……?)


 それも、僕を心配して……。


 う~ん。


 考え込む僕を見つめながら、ソルティスが言う。


「アンタって、本当にアイツに気に入られてるのね」

「……やめてよ」


 冗談でも笑えないって。


「あるいは、わらわたち全員に襲われても、逃げ切れるだけの、もしくは返り討ちに出来るだけの自信があったか……じゃな」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 キルトさんの言葉は、重く聞こえた。


 悪魔への進化。


 奴の狙いがそれならば、ヴェガ国の悪魔を倒し、魔力を吸収したことでアイツは『進化』したはずなんだ。


(……今のアイツは、どれくらいの強さなんだろう?)


 さっきは虚勢を張ったけれど、本当に戦いになれば、武器もなく勝てる自信はなかった。


 …………。


 本当にラッキーだったね、僕。


「しかし、そうまでして警告するほど、暗黒大陸とは危険なのか?」


 キルトさんが呟いた。


 ソルティスは肩を竦めて、


「そう思わせて、私たちを行かせないようにする策略だったんじゃないの?」


(策略……?)


 それはない気がする。


 アイツは、神霊石のことを知らなかった。


 僕らが『悪魔を倒しに行く』と思っていたんだ。


(悪魔を倒すことは、奴にとっては願ったりのはずだもの……)


 行かせない理由はない。


 それに、


「アイツ、本当に真剣だった」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「だから、弁護したくはないけれど、嘘は言ってないと思えるよ」


 僕の言葉に、ソルティスは渋い顔をした。


「つまり、それって暗黒大陸に行ったら、私ら全員死ぬってこと?」


(う……)


 そういうこと、なんだよね。


 僕も言葉に詰まってしまった。


 客室の空気が重くなる。 


 イルティミナさんが大きく息を吐いた。


「行ってみなければ、わかりませんよ。この目で確かめ、肌で感じるまでは、何をどう言われようと全ては憶測の域を出ません」


 ……うん。


(それもそうだね)


 キルトさんたちも頷いた。


 そして、イルティミナさんは、


「そんなことよりも、むしろ私はマールが心配です」


 そう続けた。


(え?)


 イルティミナさんは僕を背中から抱きしめながら、


「今後もマールを1人にして、何かあっては困ります。これからは、マールが1人にならないよう注意する必要があるでしょう」


 と強く訴えた。


 キルトさんたちは、ちょっと驚いている。


 僕も驚いている。


 イルティミナさんは、更に続けた。


「これからは、マールがお風呂の時も、トイレの時も1人にはできません。私が付き添うことにします」


 …………。


(え、えええっ!?)


 お風呂やトイレも!?


 って、


「だ、大丈夫だよ、イルティミナさん。きっと『闇の子』はもう来ないよ」


 僕は、慌てて言った。


 イルティミナさんの真紅の瞳が、至近距離から僕の顔を見つめる。


「いいえ、安心はできません」

「…………」

「マールの安全については、この私が全て責任を負います。どうか安心してください」


 キリッ


 とても真剣に訴えられました。


(ど、どうしよう?)


 普段はともかく、お風呂やトイレまでは、さすがに恥ずかしいし困るよ。


 助けを求めて、銀髪のお姉さんを見る。


「む……」


 気づいたキルトさんは、少し悩ましげな顔をしたあと、豊かな銀髪をガシガシとかいた。


 それから、


「あ~、イルナ」

「はい」

「その、な。マールには、常に周囲に人目がある場所にいるようしてもらえば、それで良いのではないかの?」


 と言ってくれた。


 けれど、イルティミナさんは形の良い眉をひそめて、


「何を言っているのです? それでもし、周りの者が助けてくれなければどうするのですか?」

「……む」


 キルトさんがたじろいだ。


 そして、


「マールは私が守る。それ以外は信用できません」


 再びのイルティミナ宣言。


「…………」

「…………」

「……そ、そうか。そうじゃな」

「はい」


 キルトさん、押し切られちゃった!


(キ、キルトさん?)


 涙目で訴える僕。


 そんな僕に、キルトさんは弱り切った顔をして、


「あ、あ~、その、せめて、トイレの時ぐらいは、個室の外で待っていてやるが良い。マールも自尊心があるしの」

「…………。そうですね、わかりました」


 少し不満そうに頷くイルティミナさん。


 妥協を取り付けて、キルトさんは、ホッと息を吐いた。


 それから僕の視線に気づくと、


「…………」


 これが精一杯だというような表情をする。


(うう……)


 もっとがんばって欲しかった。


 一縷の望みにかけて、ソルティスとポーちゃんにも救援を求める視線を送る。 


 でも、


「…………」

「…………」


 フルフル フルフル


 2人は沈痛な面持ちで、首を左右に振るのみだった。


「大丈夫ですよ、マール。貴方のことは、私がしっかりと守りますからね」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 イルティミナさんは僕の髪を撫でながら、優しく笑って、力強くおっしゃるのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 パーガニアの街を出発して、4日が経った。


『第5次開拓団』を乗せた騎竜車の群れは、順調に南下を続け、もう数日で王国最南端の港町ウェルカに到着する見込みだった。


 その間、


「マール、トイレは大丈夫ですか?」

「う、うん」


 イルティミナさんは、ずっと僕にベッタリだ。


 僕の護衛として、片時もそばを離れない。


(頼もしいけれど……)


 でも、ちょっと困ったり。


 今も竜車での移動中、僕を心配してくれたりするんだ。


 まぁ、心配されるのは嬉しいから、イルティミナさんの気の済むようにしてもらおうと思ってる。


 窓の外には、大きな草原が広がっている。


 やがて、太陽が頭上に届く頃、騎竜車の全車両が街道脇の空き地に停止して、本日のお昼休憩となった。


 ガヤガヤ


 焚火が燃やされ、配給のパンとスープがみんなに配られている。


「はい、マール」

「あ、ありがと、イルティミナさん」


 優しいお姉さんは、僕の分ももらって来てくれた。


 妹のソルティスが問う。


「……私の分は?」

「自分でもらって来てください。私は、マールのそばを長く離れられませんので」

「…………」


 え、え~と……。


 悲しげに配給を受け取りに行く少女の背中に、僕は、何も声をかけられませんでした。


 そんなこんなでお昼の時間だ。


 キルトさん以外は、配給の昼食を受け取って、騎竜車の前まで戻っている。


(キルトさん、遅いな)


 みんなが集まるまでは、食べ始めないのが僕らのルール。


 食いしん坊少女のソルティスなんかは、ソワソワした感じで、パンとスープを見つめていた。


 と、


「すまんな、遅くなった」


 キルトさんがようやく戻ってきた。


 席に着く彼女に、ソルティスが唇を尖らせる。


「遅いわよ。何してたの?」

「いや、わらわたち宛てに翼竜便が届いていての。それを確認していた」


(翼竜便?)


 思わず、彼女を見つめる。


 キルトさんは、僕らを見回して、最後に金髪の幼女へと視線を定めた。


 そして、


「コロンが昨日、無事にシュムリア王国から出航したそうじゃ」


 と言った。


 ピクッ


 ポーちゃんの小さな身体が反応する。 


「使節団と共にヴェガ国へと向かった。『エルフの国』に到着するのは、3ヶ月後の予定だそうじゃ」

「…………」


 幼い美貌が持ち上がり、銀髪の美女を見上げる。


 そして、


「ポーは了承した。情報、感謝する」


 無口な彼女が、そうお礼を口にした。


(ポーちゃん……)


 僕は、ポーちゃんの横顔を見つめてしまう。


 ソルティスが、吐息をこぼした。


「コロンチュード様たちの方が、先に出発しちゃったのね……」

「仕方がありません。私たちは400人の集団で動いていますから、比べて、どうしても足は遅くなるでしょう」


 少女の姉は、冷静に言う。


 いつも眠そうな、不思議なハイエルフさん。


 王都にいる間に、彼女にも『探査石円盤』は渡してある。


(役立ててくれると嬉しいな)


 そして、無事に『神霊石』を手に入れて、ポーちゃんの元に帰ってきて欲しい。


(そのためにも、僕らも暗黒大陸から無事に帰ってこないとね)


 うん、がんばろう。


 見たら、ポーちゃんは配給のパンを千切って、モソモソと小動物のように食べ始めていた。


 ……なんか可愛い。


 みんなで優しい表情で眺めてしまった。


「わらわたちも、コロンに負けないようにやらねばな。そのためにも、まずは腹ごしらえじゃ」

「うん」

「はい」

「その通りよね!」


 僕らは頷き合って、その日の昼食を口へと運んでいったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 天気にも恵まれて、僕らは王都を出発して17日目に、目的地である港町ウェルカへと到着した。 


(ここがウェルカかぁ)


 南国風の樹木が生えていて、どこか陽気な雰囲気の街だ。


 港町だからかな?


 多様な文化が入り混じったような、趣の違う建物が並んでいて、人々の服装も違っていたりするんだ。


(あと、獣人さんも多いね)


 ちょっとヴェガ国を思い出してしまうよ。


 そうした街中を通り抜けて、僕らの乗る騎竜車の群れは、そのまま港へと向かった。


「あ、船だ!」


 窓からの景色に、僕はつい声をあげてしまった。


 大きな港には、かつて僕らが乗った『王船』と同じぐらいのサイズの帆船が4隻も停泊していたんだ。


 どの船舶にも、大砲が積まれている。


(軍船だね)


「僕らは、あれに乗るの?」

「うむ。そうじゃ」


 キルトさんは頷いた。


「暗黒大陸への開拓団の派遣が決まった1年以上前より、急ピッチで建造が進んでおったそうじゃ。性能的には、『王船』にも引けは取らぬそうじゃぞ」


(へぇ、そうなんだ?)


 なんだか頼もしいね。


 でも、それぐらいでなければ、未知の暗黒大陸には挑めないんだろうな。


 4隻の巨大な船を眺めながら、僕らを乗せた竜車は、港の奥へと進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『第5次開拓団』の400人が竜車から降車する。


 それぞれに指示を受けて、乗船する船ごとに人数が分けられていく中で、僕ら5人は、なぜかロベルト将軍から呼び出しを受け、港湾施設の建物を訪れていた。


(はて、なんだろう?)


 不思議に思いながら、応接室のような場所で、ロベルト将軍と対峙する。


 将軍は、


「レクリア王女より、これを預かってきた」


 と、僕らに小さな木箱を差し出した。


(レクリア王女から?)


 長さ15センチほどの長方形をした木箱だ。


「マール君とポー君にだそうだ」

「僕らに?」


 キルトさんたちではなくて?


 戸惑いながら、2人を代表して、僕が受け取った。


「……開けてもいいですか?」

「構わない」


 ロベルト将軍は頷く。


 じゃあ……。


 僕は、木箱の蓋に指をかけて、ゆっくりと開いた。


 カポッ


 空気の抜ける音がして、中身が明らかになった。


 木箱の中には、おが屑と白い布が敷き詰められていて、そこに細い鎖の繋がった宝石が2つ、納められていた。


(これは……?)


 宝石は、青く輝き、内側には揺らめくタナトス文字が光っている。


(えっ!?)


 その正体に気づいて、僕は硬直した。


 僕の反応に、みんな怪訝な顔をして、木箱を覗き込む。


『!』


 途端、3人も僕と同じ反応になった。


 反応が変わらなかったのは、多分、この宝石の正体を知らないポーちゃんだけだ。


 ロベルト将軍が厳かな声で告げた。


「『命の輝石』だ」


 ……やはり。


 これを身につけていれば、命を落としても、1度だけ生き返ることができる奇跡のような宝物ほうもつだ。


 忘れるはずもない。


 僕も、イルティミナさんも過去に助けられているんだ。


 でも、


「こんな貴重品を、僕らに……?」


 僕は戸惑いながら、ロベルト将軍に確認した。


 将軍は頷いた。


「『神の眷属』である君たちの存在は、この先の人類の未来のために、絶対に必要だ。レクリア王女も、そう判断をされたのだろう」

「…………」

「前に、マール君が王国に寄贈してくれた1つに加えて、シュムリア王家が所有していた『命の輝石』も1つ、ここに加えられている。シューベルト王もレクリア王女も、それぐらいの覚悟で、君たちに期待をし、身を案じている。そう理解をして欲しい」


 国王様とレクリア王女が……。


 改めて、2つの宝石を見る。


 この奇跡を、僕ら2人のために与えてくれることを望まれた。


(…………)


 その光栄の重さに、心が震えた。


 と、


「失礼」


 動けなくなった僕を見て、イルティミナさんが横から手を伸ばした。


『命の輝石』の1つを手にして、


 チャリッ


 僕の首へと、手ずからかけてくれた。


「…………」


 チャリッ


 ポーちゃんの首にも、同じ宝石がかけられる。


(イルティミナさん……)


 見つめる僕の視線を、イルティミナさんは、真っ直ぐに受け止めて、そのまま強く見つめ返してくる。


 コクン


 大きく頷いた。


「――うん」


 その意志を感じて、僕も覚悟を決めて、頷いた。


 そんな僕らの様子に、ロベルト将軍が、どこか眩しそうに目を細めた。


 そして、


「どうか、私たち人類と共に、これからも君たちの光があらんことを」


 そう微笑んだんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて僕らは、4隻の『開拓船』の1隻に乗り込んだ。


 出航は、もう間もなくだ。


「…………」


 僕の首からは、青く光る宝石が提げられ、小さく揺れている。


 ソッと指で触れる。


 1年ぶりに戻ってきた奇跡の宝石。


 ソルティスは、


「いいなぁ、マール。あとで、それ、ちょっと調べさせてよね」


 と笑った。


 軽やかな笑顔と言葉に、色んな重さを感じていた僕も、少し笑ってしまった。


 イルティミナさんやキルトさんも笑っている。


 と、その時、ふとポーちゃんが頭上を見上げた。


(ん?)


 太陽が一瞬、陰った。


「あ……!」


 思わず、声が出た。


 見上げた空には、大きな翼膜を広げた巨大な竜たちの姿があったんだ。


 竜の頭部には、人の姿もある。


「おう、レイドルたちも到着したようじゃの」


 キルトさんが笑った。


 シュムリア王国が誇る最強の騎士たち、その4騎の竜騎隊の威容には、乗船していた開拓団の全員がざわついていた。


 グォオオオン


 竜が吠える。


 鼓膜を震わせ、お腹まで響く咆哮だ。


 それは力強くて、この強大な竜たちが味方なのだと思うと、とても頼もしい。


 バフッ バフッ


 巨大な翼をはためかせ、4頭の竜は4隻の船のマストに、止まり木のように着地した。


(か、かっこいい……っ!)


 最初からそう設計されていたのか、竜たちはとても安定した姿勢だ。


 眼下の僕らに向かって、竜騎士が軽く手を振る。


 すると、


 プォオオオン


 ほら貝のような警笛の音が、周囲一帯へと響き渡った。


 ザブン


 船が動きだした。


 青く煌めく波を蹴散らしながら、巨大な船体はゆっくりと遠洋へと向かって進んでいく。


「……ついに出発だ」

「はい」


 呟く僕の手を握って、イルティミナさんは頷いた。


 キルトさんは、黄金の瞳を細めながら、進行方向の海と空を見つめる。


 ソルティスは、吹く風になびく紫色の髪を、小さな手で押さえていた。


 ポーちゃんは、前を見つめ、静かに息を吐く。


 …………。


 僕ら『第5次開拓団』は、未知なる暗黒大陸に向かって、こうして広大な海上へと、長い航海に漕ぎ出したのだった――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] イルティミナ「守護らなきゃ…」 女神ヤーコウルから直接マールを頼むってお願いされてるからね。 トイレについてきても仕方ないね。 おはようからおやすみまでイルティミナ。
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ イルティミナの過保護さに磨きが掛かってしまいましたね。 風呂にトイレ(のドアの前)にと付き従う姿には戦慄を覚えますが……(笑) [一言] イルティミナは一体何処…
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