表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

245/825

242・ガルンの稽古

第242話になります。

よろしくお願いします。

 翌日の天気も、雨だった。


 僕らのあてがわれた客室の窓ガラスには、バチバチと雨粒がぶつかって、大きな音を立てている。


(風も強いな) 


 ガタガタ揺れる窓に、そんなことを思う。


 今日は、ガルンさんと手合わせをする約束だ。


 そろそろ時間なので、部屋を出ようと思ったんだけど、


「わらわも行こう」


 銀髪のお姉さんがそう言った。

 え?


「わらわは、そなたの師であるからの。弟子の手合わせを見届けるのも当然であろう」

「…………」


 そういうものなの?


 よくわからないけれど、僕としては別に構わない。


 そう思っていたら、


「私も行きます」


(え?)


 今度はイルティミナさんまで同行する宣言をしてきた。


「稽古とはいえ、私の大切なマールに何かあっては大変です。近くで見守らせてください」


 と、真剣な眼差し。


「う、うん」


 僕としては頷くしかない。


 そんなわけで、僕は、過保護なお姉さん2人と一緒に、ガルンさんとの待ち合わせ場所へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 長い連絡通路を渡り、別の建物へと向かう。


 そこは、この軍基地にあるアルン兵たちの室内訓練場の内の1つだった。

 ここがガルンさんとの待ち合わせ場所。


 中は、前世でいう体育館みたいな感じだ。


 入り口から中に入ると、


「お、来たでござるな」


 訓練場の中央で、黒い鎧を着たガルンさんがすでに待っていた。


(あれ?)


 よく見たら、ガルンさんの隣には、青い髪をまとめた軍服のお姉さんも立っている。


(フレデリカさんもいるんだ?)


 僕は、そちらに近づいて、


「お待たせしました」


 と頭を下げる。


 ガルンさんは明るく笑って、


「今日はよろしく頼むでござる」


 と右手を差しだしてきた。


 僕は、その大きな手をギュッと握って、「はい、こちらこそ」と笑顔を返した。


 と、


「貴方もいたのですね、フレデリカ」


 イルティミナさんが、隣にいる軍服の麗人に声をかける。


「まぁな」


 彼女は頷いた。


「ガルン殿の要求で、この訓練場を貸し切らせてもらった。その責任者として立ち会っている」


(え、貸し切り?)


 言われてみれば、他にアルン兵の姿はない。


 驚く僕に、フレデリカさんは苦笑した。


「マール殿? 貴殿は『神狗』だろう」

「…………」

「忘れているかもしれないが、その存在は公にされていない。この基地にいる多くの兵に対しても、機密しなければならない存在なのだ」


 あ……。


(そっか、完全に忘れていたよ)


「貸し切りならば、『神体モード』とやらも気兼ねなく使えるだろう」

「うん」


 フレデリカさんは、そこまで考えてくれたんだね。


「ありがとう、フレデリカさん」


 僕は、満面の笑みでお礼を言った。


 フレデリカさんは嬉しそうに頷いて、


「何、これが私の役目だ」


 と笑った。


 ちなみに僕ら5人以外は全員、別の場所にいる。


 ソルティスは、レクトアリスの部屋で勉強中だ。もちろん、ラプト、コロンチュードさん、ポーちゃんも同じ部屋にいる。


 ゲルフォンベルクさんは、自室で休んでいるんだって。


「……『ご褒美タイム』の反動だそうだ」


 と、フレデリカさんがため息交じりに教えれくれた。


 仲間の3人の女冒険者さんも、ゲルフォンベルクさんと一緒にいるそうだ。


 ということで、ここには僕ら5人だけ。


「では、早速、始めようではござらんか」


 ガシャッ


 ガルンさんが待ちきれないように言って、その手に『タナトス魔法武具の戦斧』を構えた。


(……え?)


 その戦斧、使うの?


 ちょっと唖然となる僕。


「待て待て待て!」


 キルトさんが慌てたように、間に入ってくれる。


「そなた、そのような物を持ち出すとは、何を考えている!?」


 と怒った。


 イルティミナさんも僕を背中に庇うようにして、


「ただの稽古にタナトス魔法武具を使うとは、貴方は正気ですか?」


 と、ガルンさんを睨む。 


 フレデリカさんも額に白い指を当てて、嘆息する。


「少しは自重してくれ、ガルン殿」


 3人のお姉さんに叱られて、ガルンさんは「ぬぅ……」とたじろいだ。


「仕方ないでござる……」


 残念そうに戦斧を引っ込める。


(よ、よかった)


『タナトス魔法武具』なんて殺傷力の高い武器を使われたら、それこそ、殺し合いの真剣勝負になってしまうよ。


 僕は、安堵の吐息をこぼした。


 結局、僕らは訓練場に備えられていた木剣を使うことにした。


(よし)


 では、改めて。


「じゃあ、お願いします」

「うむでござる」


 僕らは訓練場の中央で向き合うと、それぞれの木剣を相手に向けて構えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ガルン・ビリーラングさんは、キルトさん、イルティミナさんと同格の『金印の魔狩人』だ。


 僕が勝てる要素は、1つもない。


(――でも)


 これまで僕だって、ずいぶんと鍛えてきたんだ。


 勝てなくても、1本ぐらいは取ってみたい。


 僕は、5メードほどの距離で対峙する、黒い鎧の大男を見つめた。


(胸を借りるつもりで、思い切ってやってみよう!)


 そう気持ちを定める。


 タンッ 


 同時に、思い切って踏み込んだ。


 ヒュッ


 まずは小手調べ。


 一番得意な『撫でる剣』を繰り出してみる。


 ガッ


(うっ!?)


 簡単に弾かれた。


 それどころか、弾かれた木剣の勢いに引きずられて、踏み込んだ以上の距離を下がってしまう。


 なんてパワーだ!


 ガルンさんの木剣と軽く触れあっただけなのに、こんなに弾かれるなんて。


「全力で行け、マール!」


 キルトさんの叱咤の声が飛ぶ。


 美しい師匠の言葉に、僕は頷いて、もう一度、前方に踏み込んだ。


 ヒュッ ヒヒュン


 フェイントも混ぜ、連撃を放つ。


「…………」


 ガルンさんは、黄色い瞳を細める。


 カツッ ガッ


(!)


 ガルンさんの木剣は、僕の連撃を弾き飛ばし、鋭い突きを繰り出してきた。


 木製の剣先が迫る。


(よけないと!)


 必死に身体を捻った――けど、


 ドフッ


「がっ!?」


 僕の腹部に、木剣の先がめり込む。


 胃の中から、気持ちの悪い感触が持ち上がり、口から胃液がこぼれた。


「マール!」


 イルティミナさんの悲鳴が聞こえる。


(く……っ)


 苦痛を堪えて、僕は慌てて下がる。


 すぐに正眼に木剣を構えた。


「…………」


 ガルンさんは、追撃してこなかった。


(今のは避けれたと思ったんだけど……目測を誤ったのかな?)


 もっと集中だ。


 と、


「マール殿、某は、マール殿の本気を見たいでござる」


 ガルンさんが不意に言った。


(え?)


 真剣な声。


 その眼差しには、真っ直ぐな強い光がある。


 …………。


 僕の本気。


 ガルンさんは、ただの子供である僕と剣を合わせる気はないようだった。


 そっか。


 ジンジンとしたお腹の痛みがある。


 僕は、大きく息を吐いた。


「わかりました」


 答えて、一度、構えを解く。


 青い瞳を伏せながら、自身の体内へと意識を集中する。


 そして、


「――神気開放」


 僕は、内なる蛇口を開き、神なる力を開放した。


 ドンッ


 体内にマグマのような熱い力が流れ、頭部にはピンと立った獣耳が、お尻からはフサフサした長い尻尾が生えてくる。周囲には、放散した神気がパチパチと白い火花を散らした。


 僕はまぶたを開き、青い瞳でガルンさんを見る。


 彼は、嬉しそうに頷いた。


「それを待っていたでござる」


 大きな手が、鎧の首後ろに下がっていた兜を掴んだ。


 ガチンッ


 それを装着。


 ガルンさんの表情は見えなくなり、同時に、タナトス魔法武具の凄まじい魔力の波動がビリビリと伝わってきた。


「…………」


 さっきまでと、また雰囲気が違う。


 張り詰めた空気。


 稽古ではあるけれど、本気の勝負をしているような感覚だった。


 キュッ


 僕は、手にした木剣を正眼に構える。


 ガルンさんも半身になりながら、木剣を構えた。


(行くぞ!)


 ドンッ


『神狗』となった僕は、訓練場の床を踏み砕くように蹴って、ガルンさんへと一気に襲いかかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 結果から言うと――僕は完敗した。


 タナトス魔法武具を装着したガルンさんは、とんでもないパワーだった。『神狗』となった僕でも敵わないぐらいの力が、合わせた木剣から伝わってきたんだ。


 でも、速さなら僕が勝っていた、と思う。


 それを駆使して、必死にガルンさんを攻めたけれど、あと1歩がどうしても届かなかった。


 逆に、ガルンさんの攻撃は、面白いように僕の小さな身体に被弾した。


(どうして!?)


 剣を合わせながら、何度もそう思った。


 極限集中の世界で、ガルンさんの剣は、僕には、とてもゆっくりに見えていた。


 ゆっくりと迫る剣。


 僕は、それをかわそうと動く。


 もちろん、僕の動きもゆっくりだ。


 ゆっくりと迫る剣を、ゆっくりとした動きでかわそうとする。


 なのに、


(かわせない……っ!)


 回避する先へと木剣は動き、追いかけてきて、やがては追い詰められて、命中する。


 見えているからこそ、余計に焦り、恐怖を感じる。


 見えているのに、避けられない。


 ゆっくり迫っているのに、どうしても回避できない。


 ガルンさんが攻撃を放ったら最後、僕がどんなに避けようとしても回避できず、またそのパワーで防ぐこともできない。


(っっっ)


 こんな恐怖は、今までになかった。


 ガツン


「っが!」


 ドコッ


「がふっ」


 バキッ


「……あぐっ」


 途中から、僕はもう一方的に嬲られるだけだった。


「そこまでじゃ!」


 キルトさんが予備の木剣を手にして間に飛び込み、ガルンさんの剣を止めてくれなければ、僕はもっと酷い怪我をしていたかもしれない。


「マールっ!」


 フラフラと倒れそうになった僕を、イルティミナさんが抱き止めてくれる。


 僕の全身は、腫れと青痣だらけになっていた。


 ガルンさんは、


「ふっ、ふぅぅ」


 兜の奥から熱い呼気を吐き出し、やがて、キルトさんと合わせていた木剣を引いた。


 キルトさんも木剣を引く。


 チラリと僕へと視線を向けてから、


「やりすぎじゃ」


 非難するように言う。


 ガチャン


 ガルンさんは兜を外した。


「面目次第もござらん。神狗殿は思った以上に速くて、加減をする余裕がなかったでござる」


 そう答える彼の顔は、汗びっしょりだった。


 禿頭から流れる汗を、彼の大きな手は拭う。


「急所は外したゆえ、命に別状はないでござろう」

「別状があってたまるか」


 キルトさんは憮然と言った。


 はぁ、はぁ……。


 僕は呼吸を整え、フラフラだったけど、イルティミナさんに支えられながら、なんとか立ち上がった。


「あ、ありがとう……ござい、ました」


 そう言って、ガルンさんに頭を下げる。


(やっぱり強いや)


 もう少し通用するかと思っていたけれど、まるで駄目だった。


 悔しい。


 でも、完敗すぎたから、すっきりしている自分もいた。


「マール殿……」


 フレデリカさんは、そんな僕に驚いた顔をしていた。


 武人ガルン・ビリーラングさんは、頷いた。


「強かったでござるよ」

「…………」

「しかしながら神狗殿は、その素直すぎる性格と、良すぎる目が仇となったでござるな」


 え……?


「こちらのフェイントに全て引っ掛かっていたでござるゆえ」


(フ、フェイント?)


 驚く僕に、彼は頷いた。


「某は、剣の初速をわざと遅く放っていたでござる」


 え!?


「それを見て神狗殿は動き、けれど、某は、その動きに合わせて剣を速めるので、回避が間に合わなくなっていたでござる」

「…………」


 そ、そんなことが……。


(全然、気づかなかった)


「なまじ目が良すぎて、剣の振り始めが見えてしまうばかりに、剣速を錯覚してしまうでござるな」


 そうだったんだ……。


 ガルンさんは笑って、


「神狗殿は、本当に素直でござるよ」


 その大きな手で、僕の頭をクシャクシャと撫でた。


 まさか、剣の速さを途中で変えることができるなんて、想像もしていなかった。


(……本当に凄い技量だよ)


 これがアルンの『金印の魔狩人』かぁ。


 ガルンさんは、表情を和らげて、


「マール殿は、もう少しずるい剣を覚えた方が良い気がするでござるな」


 ずるい剣?


「人をだます剣でござるよ」

「待て待て」


 と、それまで黙っていたキルトさんが口を挟んできた。


「人の弟子に、勝手なことを教えるな」

「む?」

「そのような剣は必要ない。マールには剣の正道を歩ませる」


 キルトさんは、ガルンさんと向き合う位置に立ちながら、そう宣言した。


 彼は、自分の禿頭を撫でる。


「しかし、それにしてもマール殿は素直すぎるでござろう?」

「それが、こやつの長所じゃ」

「…………」

「外道な剣を学べば、その剣の輝きは鈍くなる。こやつには必要のない剣じゃ」


 美しい師匠は、そう言い切る。


 ガルンさんは、僕を見る。

 それから、キルトさんを見返して、


「別にマール殿が外道の剣を使う必要はござらぬ。しかし知っておけば、相手がそれを使っても対処ができるでござる」

「必要ない」

「む」

「このまま磨き抜けば、知らずとも、いつか対処できるようになるわ」

「……頑固でござるな」

「なんじゃと?」


 シュムリアとアルン、2国の『金印の魔狩人』は睨み合った。


(え、えっと?)


 僕の教育方針で、そんな揉めないで欲しいんだけど……。


 でも、そんな願いも虚しく、2人は僕そっちのけで、あーでもない、こーでもない、と自分たちの剣に対する持論をぶつけ合っている。


 ど、どうしたらいいの?


「はぁ……」


 イルティミナさんは大きく嘆息した。


 それから、僕に優しく微笑みかけて、


「少しここで待っていて下さいね、マール。医務室に行って、医療品を借りてきます」

「あ、うん」


 立ち上がるイルティミナさん。


 僕は、困ったようにキルトさんたちの方を見る。


「えっと……あの2人はどうしたら?」

「放っておきなさい」

「…………」

「2人とも良い大人なのですから。――では、すぐに戻ってきますからね」


 イルティミナさんは微笑む。

 それから、


「フレデリカ」

「わかっている。貴殿が戻るまでは、私がマール殿を見ていよう」

「頼みます」


 頷く軍服のお姉さんに、イルティミナさんはそう言い残して、訓練場から出ていった。


 その背中を見送っていると、


「マール殿、歩けるか?」

「あ、うん」

「こちらに休憩用の椅子がある。そこで休むといい」


 そう言って、フレデリカさんは肩を貸してくれた。


(アイタタ……っ)


 全身の打ち身がビリビリと痺れる。


 骨は折れていないと思うけれど、かなり熱を持っている感じだった。


「ゆっくり歩こう」


 フレデリカさんは、優しくそう言ってくれる。


 …………。


 火照っているせいか、触れ合う彼女の肌は、ひんやりしていて気持ち良かった。


(あと……なんか、いい匂い)


 どこか落ち着くフレデリカさん自身の匂いだった。


 なんとか、椅子まで辿り着き、そこに腰を落とす。


(ふぅぅ)


 大きく息を吐く。


 フレデリカさんは、僕の前にしゃがむと、僕が身につけていた鎧や手甲を外してくれた。そのまま、シャツの襟紐も解いて、大きく開いてくれる。


 汗に濡れた肌を、彼女の冷たい指が撫でていく。


(……なんか、気持ちいい)


「……フレデリカさん」

「ん?」

「もしよかったら、僕のおでこを触っていてくれない?」

「…………」

「…………」

「あぁ、わかった」


 スッ


 ひんやりした手のひらが、額に押し当てられる。


 あぁ……。


 全身の痛みが、少し和らいだ気がした。


「ありがとう、フレデリカさん」


 僕は目を閉じて、笑いながら言った。


「構わん」


 黒騎士のお姉さんは、そう微笑んだような声を返してくれる。


 しばらく、そうしていた。


 …………。


「マール殿は、本当に強くなったな」


 ふとフレデリカさんが呟いた。


(ん?)


「男子三日会わざれば……などというが、先ほどの動きを見て、本当に驚いた」

「…………」

「もう、私よりも強くなったかもしれないな」


 僕は目を開ける。


 フレデリカさんは、少しだけ寂しそうに笑っていた。


 …………。


「そんなことないと思うよ」


 僕は答えた。


「でも、あれから僕が強くなったんだとしたら、フレデリカさんのおかげかもね」

「……え?」

「もっと剣を振れ」


 懐かしさと共に、口にする。


「前に飛行船の中で、フレデリカさんに剣の悩みを相談した時に、そう言ってくれた。だから、僕は迷わず、これまで剣を振ってこれたんだ」

「…………」

「だから、これからも一生懸命、剣を振って、僕はもっと強くなるよ」


 フレデリカさんは驚いた顔をしている。

 けれど、


「……そうか」


 なんだか熱い吐息と共に、そう言葉をこぼした。


(???)


 僕を見つめる瞳は、少し潤んでいるように見えた。


「私も、マール殿の中にちゃんといるのだな……」


 白い指が、開いた襟元から入って、僕の心臓の上を撫でていく。


 …………。


 ひんやりしていて、とても気持ちの良い指だ。


 フレデリカさんは、瞳を閉じて、僕の肩へ額を押しつけるようにする。


 柔らかな青い前髪が歪む。


 いい匂いが強くなった。


「…………」

「…………」


 しばらく、お互いに動かなかった。


 と、


「お待たせしました、マール!」


 カタンッ


 訓練場の扉が開いて、救急箱を手にしたイルティミナさんが戻ってきた。


 フレデリカさんは額を離す。

 それから、イルティミナさんの方を見ながら立ち上がった。


「遅かったな」


 毅然とした声。

 その表情は、もう僕からは見えない。


 やがて、やって来たイルティミナさんと一緒に、白と黒2人のお姉さんは、僕の手当てをしてくれた。


(ようやく、少し落ち着いたかも……)


 ホッと一息だ。


 ちなみに、キルトさんとガルンさんは言い合いが発展して、なぜか2人で木剣をぶつけ合う稽古になってしまっていた。


 …………。


 もう僕の稽古はしてもらえなそうだ。


 ということで、僕は、イルティミナさん、フレデリカさんの2人に稽古をつけてもらった。


 怪我をしているので、軽く剣を合わせる程度だったけれど、


(フレデリカさんの嘘つき!)


『神体モード』にならない僕は、彼女の剣に全然、敵わなかった。


 というか、フレデリカさん、前に会った時よりも強くなっていた。


(…………)


 もっと剣を振れ。


 それを彼女自身も、続けていたんだね。


 フレデリカ・ダルディオス。


 本当に格好良くて、素敵なお姉さんだ。


 僕は、敬愛する彼女との剣の稽古を、いつまでもいつまでも楽しんだ。


 ――そうして、時は流れる。


 気がつけばもう、僕らの軍基地で過ごす3日間は、あっという間に過ぎていったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ガルン・ビリーラング。 マールをボコってイルティミナの逆鱗に触れなかった貴重な存在ですねd(⌒ー⌒)! ……急所は外した……ってねぇ~f(^_^; [一言] 満…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ