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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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236/825

233・通路の奥にあったもの

第233話になります。

よろしくお願いします。

 謎の空間に逃げ込んだ僕らは、それぞれのランタンに火を灯した。


 ボッ


 周囲が明るく照らされる。


 そこは、やはり通路だった。


 幅は3メード。


 天井までの高さは、5メードほどだ。


(そんなに広くないかな)


 通路の真ん中には、奥まで延々と柱が立っている。


 ただ古い通路なのか、柱の何本かは、倒壊してしまっていたけれど。 


 それでも、壁自体は強固な造りみたいで、ひびはあっても壊れそうな気配はない。


(これなら、暴風竜も強引に中に入ってくることはなさそうだね)


 ちょっと安心。


 と気を抜いたら、傷の痛みが襲ってきた。アイタタ……。


「マール、手当てを」


 気づいたイルティミナさんが、すぐに治療してくれる。


 暴風竜の真空波で、みんな、ボロボロだった。


 その場に座って、全員、傷の手当てをしていく。


 魔力を温存するために、回復魔法は使わないで、軟膏と当て布、それに包帯のみだ。


 ゲルフォンベルクさんの仲間の女の人は、腕の裂傷が酷かったので、彼女にだけはコロンチュードさんが回復魔法を使った。


 あと、ラプトとレクトアリスは、自動治癒があるので何もしなくても、傷が塞がっていた。


(……ちょっと羨ましいね)


 そうして治療を済ませると、


「しかし、ここは何なのじゃ?」


 そう呟いて、キルトさんは立ち上がった。


 ランタンを、通路の奥へとかざす。


 でも、通路はずっと先まで続いているようで、30メードほど先からは光が届かず、そこからは暗闇に包まれていた。


 …………。


 みんなの視線が僕に集まる。


 僕が、ここに逃げるように言ったんだから、当たり前の反応だ。


(えっと……)


「ごめん、僕にもわからないんだ。ただ、頭の中に声が聞こえて……」

「声?」

「うん。その声が、ここのことを教えてくれたんだ」


 僕は、3人の同胞を振り返って、


「ラプトたちも聞こえたよね?」

「あぁ、間違いあらへん」

「聞こえたわ」

「…………(コクッ)」


 3人も頷いてくれた。


 キルトさんは「ふむ」と唸る。


 イルティミナさんが首をかしげて、


「その声は、今も聞こえているのですか?」


 と聞いてくる。


 僕は耳を澄ませて、というか、心を澄ませて、しばらく待った。


(…………)


「ううん」


 僕は息を吐いて、


「通路に入ってからは、何も聞こえないよ」


 と答える。


 一応、ラプトたちを見るけれど、


 フルフル


 3人とも首を振る。


 やっぱり聞こえていないようだった。


「そうですか」


 イルティミナさんは頷いた。


 僕は言う。


「でも、おかげで暴風竜から逃れられたし、悪い声じゃないと思うよ」

「はい」


 イルティミナさんは優しく微笑み、訴える僕の髪を撫でてくれた。


 カリカリ


 と、コロンチュードさんが、近くの壁を爪でひっかく。


(ん?)


 指先に白い粉がついている。


 ハイエルフさんはそれを眺めて、


 ペロッ


 と舐めた。


 わっ?


 みんなが驚く中、彼女はペッペッと吐き出して、


「……ディオ石材」


 と呟いた。


「……400年前の神魔戦争の時代に、よく使われてた素材。……ここは多分、その頃の遺跡」


 …………。


 そ、そうなんだ?


 その確認方法に、びっくりしちゃったよ。


 でも、400年前。


 このカリギュア霊峰は、その400年前に愛の女神モアが、初めて降臨した地だと言われている。


 そして、山頂には『女神の神殿』があるという。


 …………。


(ということは)


「つまりこの通路は、『女神の神殿』と関りのあるものということか」


 フレデリカさんが、僕の考えを代弁するように言った。


 みんな、改めて通路を見回してしまう。


「ふむ」


 キルトさんが言った。


「謎の声の正体はわからぬ。しかし、せっかくの誘いじゃ。このまま奥に進んでみようではないか」

「うん」

「そうですね」

「いいわよ、行きましょ」


 いつもの僕ら3人は頷き、他のみんなも同意する。


 それから10分ほど休憩して、体力を回復させた僕らは、改めて、謎の通路の奥へと進んでいった――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 コツン コツン


 通路の中に、僕ら14人の足音が木霊する。


 揺れるランタンの炎のみが、僕らの視界を確保してくれている。


「…………」


 先頭を歩くのは、ゲルフォンベルクさん。


 でも、彼は少し退屈そうだった。


 だって、ここまで罠もなければ、分岐もなかったんだ。


 1本道。


 もう30分ぐらい、ただ真っ直ぐな通路だけが続いていた。 


(いったい、どこに向かってるんだろう?) 


 なんだか怖くなってくる。


 あの聞こえた声に、悪意は感じなかったんだけどなぁ……。


「う~ん」


 不意に、黒髪の青年が唸った。


 キルトさんが問う。


「どうした、ゲルフ?」

「いやね、この通路は、ほとんど斜度がついていなくてさ」

「ふむ」

「しかも単純に、山の中心に向かってるんだ」


 山の中心に?


「それに空気の流れもないし、どうも、どこか別の出口に繋がっている感じじゃないんだよね」


 彼は、少し困ったように笑った。


 出口じゃない……?


 となると、


(どこかで引き返さなきゃいけないってこと?)


 キルトさんも「むぅ」と唸った。


 イルティミナさんが言う。


「ですが、その突き当たった場所には、何かがあるかもしれません」

「そうだな」


 黒騎士のお姉さんも頷いた。


「戻るにしても、まずはそれを確かめてからでも良いのではないか、キルト殿」

「ふむ」


 キルトさんは僕らを見る。


「皆もそれで良いか?」

「うん」

「はい」

「もちろん」


 僕らは頷き、


「かまへんで」

「えぇ」

「……いい、よ」

「…………(コクッ)」

「しかり」


 他のみんなも頷いた。


 ゲルフォンベルクさんは、


「何か、凄いお宝でも見つかるといいんだけどねぇ」


 と『真宝家』らしく笑った。


 つられて、みんなも笑ってしまった。


 ――そのまま、僕らは、更に30分ほど歩いた。


 と、


「ん?」


 不意に、先頭のゲルフォンベルクさんが小さな声をあげる。


(どうしたの?)


「扉だね」


 え?


 僕らの目には、暗闇ばかりで先は何も見えない。 


 でも、彼は暗視ができるみたいだ。


 やがて、30メードも歩けば、ランタンの灯りに映し出され、僕らの目にもその扉が見えるようになった。


 通路を塞ぐような、金属製の大扉だ。


 ゲルフォンベルクさんが1人で近づいて、5分ぐらい調べる。


「罠はないね」


 それから振り返り、


「ガルンさん、開けてもらえる?」

「承知」


 指名されたアルンの『金印の魔狩人』は、ガチンッと兜を被って、扉の前に出た。


 ゴンッ


 身体を押しつけるようにして押す。


 ギッ ギギィンッ


 錆びついているのか、単純に重いのか、鎧の足裏と床が擦れて、火花が散った。


 でも、少しずつ扉が押し開けられていく。


 ギシギシシ……ッ


 扉の隙間から、ランタンとは違う光が漏れた。


(なんだ……?)


 青白い光だ。


 警戒して、『妖精の剣』の柄に手を当てておく。


 やがて、ガルンさんの怪力のおかげで、人1人が通り抜けられるだけの隙間ができた。


「先に行く」


 キルトさんが先鋒として、まず中へと入った。 


 …………。


 僕らは、息を潜めて待つ。 


 すぐに、


「大丈夫じゃ。そなたらも来い」


 扉の向こうから、そんな声が聞こえた。


(ホッ……よかった)


 そうして、僕らも順番に扉の隙間から、向こう側へと入っていく。


 ソルティスに続いて、僕も入った。


(……なんだ、ここ?)


 そこは、1つの部屋だった。


 天井までは10メードぐらい、部屋も10メード四方の大きさだ。


 部屋の四隅には、直径30センチぐらいの魔法球が設置された台座がある。


 そして、足元の床一面に、巨大な魔法陣が描かれていた。


 青白い光は、その魔法陣が放っていた。


「ここは、いったい……?」

「何よ、これ?」


 イルティミナさんたちも驚いた顔だ。


 キルトさんは、


「どうやら、ここで行き止まりのようじゃ」


 と言った。


 確かに、僕らの入ってきた扉以外に、出入り口となりそうな場所はない。


 ゲルフォンベルクさんも、四方の壁を調べて、


「隠し通路もなさそうだね」


 と肩を竦めた。 


(この魔法陣がある部屋で、おしまい?)


 僕は戸惑ってしまう。


 と、『金印の魔学者』であるハイエルフさんは、その碧の瞳で魔法陣をジッと見つめていた。


 コツン コツン


 魔法陣の外周に沿って、歩いていく。


「……あれが、ここと繋がって……あっちがここへ」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らには理解できない何かを、彼女は把握しているようだった。


 みんな、固唾を飲んで見守る。


 そのハイエルフさんの表情も、いつもの眠そうなものではなく、どこか真剣な表情だ。


 コツンッ


 やがて、魔法陣の周囲を1周して、彼女の歩みは止まった。


「……わかった。……これ、転移陣」


 そう淡々と告げる。


(……転移陣?)


 訝しがる僕の隣で、


「転移陣って……つまり、空間転移の魔法陣ってことですか!?」


 ソルティスが大きく目を見開いた。


 コロンチュードさんは頷いた。


「そ」


 その白い指が、四方にある『魔法球の台座』を指差して、


「あそこに魔力を注入。転移陣が起動。魔法陣内の物質は、他の場所へ移動できる」


 と言った。


(つまり、テレポート装置!?)


 それが本当なら、前世の世界の科学を上回る超技術だ!


 フレデリカさんが呟く。


「つまり、これはタナトス魔法文明の遺産なのだな」


 魔法陣を見つめる瞳には、確かな畏怖が宿っていた。


 キルトさんが、『金印の魔学者』へと問いかける。


「それで?」

「……ん?」

「この魔法陣で、どこへと転移するのじゃ?」

「……わかんない」


 コロンチュードさんは、あっさり言った。


「この魔法式だと、対となる転移陣に飛ぶはず。だけど、それがどこにあるかまでは、予測不能」


 そうなんだ……。


(どこに飛ぶかわからない、謎の転移陣か……)


 …………。


 うん、決めた。


 僕は、トコトコと魔法陣の中に入っていく。


「マ、マール?」


 イルティミナさん、ちょっと慌てた顔だ。


 僕は言う。


「転移陣、使ってみようよ」

「…………」

「引き返しても、暴風竜がいるんだしさ。だったら、これで転移した方がいいと思うんだ」


 みんなを見ながら、


「それに、僕らを導いた声も、きっとそのつもりだったんじゃないかな?」


 と笑った。


 みんな、ちょっと呆気に取られた顔をしていた。


 でも、


「せやな」


 ラプトが気楽そうに応じて、あっさりと魔法陣の中に入ってきた。


「…………」


 続いて、ポーちゃんが。


「そうね、私もそう思うわ」


 レクトアリスも大人の微笑みで、僕ら3人のそばに来る。


『神の眷属』たちの行動に、人間たちは、びっくりしていた。


 でも、イルティミナさんとソルティスの姉妹が顔を見合わせ、頷き合うと、


「マールが行くならば、私も参りましょう」

「私も行くわ」


 と魔法陣の中へ。


「……じゃ、私も」


 好奇心旺盛なハイエルフのコロンチュードさんも、当然、入ってくる。


「やれやれ」 


 ゲルフォンベルクさんと3人の女冒険者さんたちも、笑いながら、僕らのそばにやって来た。


「私はマール殿を信じよう」


 フレデリカさんは力強く頷き、魔法陣内へ、颯爽と歩いてくる。


 ポン


 ガルンさんは、鎧に包まれた手で、キルトさんの肩を叩いた。


 そのまま彼も、魔法陣の中へ。


「ぬぅ」


 最後まで残ったキルトさんは、小さく唸る。


 それからため息をこぼして、


「困った奴らじゃ」


 と苦笑する。


 そして、彼女も魔法陣の中へ。


 結局、全員だ。


 それが、なんだか嬉しかった。


 コロンチュードさんは、長さ30センチほどの玩具みたいな杖を取り出して、


「……じゃあ、出発」


 その先端を、4つの魔法球へと順番に向けた。


 ポッ


 1つ目の魔法球に、光が灯る。


 台座に光のラインが走って、魔法陣まで到達する。


 魔力が流れ込んだのか、魔法陣の青白い輝きも強くなった。


 ポッ


 2つ目の魔法球。


 ポッ


 そして、3つ目の魔法球。


 足元から照らしだされる魔法陣の光は、とても強くなり、僕らはお互いの姿を見ることも難しくなる。


「皆、手を繋げ」


 キルトさんの指示。


 僕らは急いで、隣り合った者同士の手を握った。


 僕の場合は、左手にイルティミナさん、右手にソルティスだ。


(…………)


 なんか安心する。


 見れば、こちらに気づいたイルティミナさんも、小さく微笑みかけてくれた。


 えへへ……。


 そして、


「……最後」


 左手だけポーちゃんと繋いだコロンチュードさんは、最後の魔法球へと魔法の杖を向けた。


 ポッ


 4つ目の魔法球に光が灯った。


 台座を伝って、光が魔法陣に到達する。


 凄まじい光だ。


 もう目を開けていられない。


 目を閉じた僕は、ただ握った2人の手だけを頼りにして、より指に力を込める。


 次の瞬間、


 ヒュオンッ


 まるで高いところから落ちた時のような、内臓が浮き上がるような気持ち悪い感覚があった。


(うっ)


 一瞬の浮遊感。


 けれど、すぐに足場の感覚が戻ってくる。


 まぶたの向こう側からの光も、少しずつ収まっていった。


(転移し終わった……?)


 僕は、閉じていた青い瞳を、恐る恐る開けていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 壁面の削りカスを躊躇なく舐めるコロンチュード。 しかもタイムラグなしで答えを導き出す辺りは流石ですね(笑) [一言] マールが転移陣を使う決断を下した時に『神の…
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