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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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227/825

224・キルトの抱き枕の日

第224話になります。

今話から、またアルン神皇国が冒険の舞台となります(といっても、今話はまだ海の上なのですが……)。

どうぞ、よろしくお願いします。

 ヴェガ国を発ってから、数日が過ぎた。


 僕らは今、広い海の上にいる。


 乗っている船は、ヴェガ国が用意してくれた白と黄金で彩られた高速船だ。


(速いなぁ)


 風を切って進む速さは、シュムリアの『王船』にも負けていない。


 僕らが『王船』に乗っていないのには、訳がある。


 僕らが目指しているのは、アルン神皇国。


 でも、『王船』には『悪魔の死体』が積み込まれているために、『王船』はそのままシュムリア王国へと向かったんだ。


 まさか、アルンに持ち込むわけにもいかないし、ヴェガに残しておくわけにもいかないもんね。


 そして、僕らの代わりの足として、アーノルドさんが高速船を用意してくれた。


「奴には、世話になりっぱなしじゃの」


 乗船する時、キルトさんは苦笑してた。


 求婚を断った相手だけに、複雑な気持ちだったのかもしれない。


 でも、アーノルドさんは嫌な顔1つしなかったよ。


(本当にいい人だね)


 そうして彼とヴェガ国のおかげで、僕らは大勢の獣人さんに見送られながら、無事に大海原へと出航することができたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「また退屈な航海の始まりね~」


 甲板の柵に寄りかかったソルティスが、海面を見ながらぼやいている。


 見える景色は、360度、海ばかり。

 

 イルティミナさんとキルトさんは、苦笑している。


 僕は訊ねた。


「アルンまで、どのくらいかかるの?」

「2~3週間ほどでしょうか。まず1ヶ月はかからないと思いますよ」


 そうなんだ?


 シュムリア王国までは2ヶ月かかるのにね。


「シュムリアとアルンは、アルバック大陸の東と西ですから。ヴェガからは、やはりアルンの方が近いのですよ」

「うん」


 とはいえ、その2~3週間は何もできない。


 ちなみに、コロンチュードさんは、船室で、ソルティスが渡した『神術のレポート』と『悪魔の死体』についての研究をしていた。


 ポーちゃんは、そんなハイエルフさんのそばで、いつもポ~としている。


 そんな2人のことを、僕はなんとなく、


(いいコンビだなぁ)


 と思ってる。


 と、海を見ていたソルティスが、不意に寄りかかっていた柵から身体を起こした。


「私、部屋で本でも読んでるわ」


 と宣言。


「あ、うん」

「では、私も戻りましょう。マールはどうしますか?」

「僕は、もう少しここで海を眺めてるよ」

「わかりました」


 イルティミナさんは微笑んだ。


「海風で体を冷やさないよう、気をつけて」

「うん」

「キルトは?」

「マールが海に落ちないよう、見張っておくかの」


 と笑った。


(え~、落ちないよ)


 子供扱いされて、ちょっと不満。


 でも、絶対に事故は起きないと言い切れなくて、それに備えるのが大人の責任なのかもしれないから、文句を言うのはやめておく。


 そうして姉妹は、船室へと戻っていった。


 僕とキルトさんは、海を眺める。


 潮の匂い。


 涼しい海風。


 生き物のように波の動く海面。


(見ていて飽きないなぁ)


 ソルティスは退屈って言っていたけど、僕はそうでもなかった。


 キルトさんが頭上を見上げる。


 青い空には、太陽が煌めいている。


 それに黄金の瞳を細めて、


「ふむ。せっかくだし、釣りでもするかの」


 と呟いた。


「釣り?」

「うむ。マールはしたことがあるか?」

「ううん」


 前世も含めたらわからないけど、マールでは経験ない。


 キルトさんは笑った。


「一緒にやるかの?」

「うん」


 僕は、大きく頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ヴェガ国の獣人の船員さんに声をかけて、釣り竿を用意してもらった。


 釣りエサは、イカの切り身。


 それを針につけて、ポ~ンと海に投げる。


「ほう? なかなか良いフォームじゃ」


 キルトさんに褒められた。


 あはは。


(竿を振るのって、剣を振るのとちょっと似てるからね)


 そうして、のんびり待つ。


 とはいえ、


「船が停まっているわけではないからの。あまり期待せぬ方が良いぞ?」

「あ、うん」

「まぁ、ただの退屈しのぎのつもりで楽しむが良い」


 と、キルトさんは笑う。


(そうなんだ?)


 でも、いいや。


 魚を釣りたいんじゃなくて、キルトさんと釣りをしているのが楽しいんだから。


 …………。

 …………。

 …………。


「キルトさんは、よく釣りをするの?」


 一向に手応えがなくて、僕は何となく、キルトさんに話しかけた。


 銀髪を陽光に輝かせながら、彼女は答える。


「昔はしたの」

「昔?」

「アルンで盗賊をしていた頃じゃ。飯に困っていたからの」

「……そうなんだ?」

「シュムリアでは、『金印』としての仕事が多くて、あまりしておらぬな」

「ふ~ん」


 僕は相槌を打って、


「王都ムーリアには、あんなに大きな湖もあるのにね」

「本当じゃの」


 キルトさんは苦笑する。


「じゃから、こうしてのんびりできる釣りは、人生で初めてかもしれぬな」


 と付け加えた。


 …………。


 キルトさんの横顔は、とても穏やかだった。


(う~ん)


 こうして見ると、本当に普通の女の人なんだよね。


 こんなキルトさんでいられる時間が、もっとたくさんあればいいのにな、と思ってしまったよ。


 …………。

 …………。

 …………。


 それから3時間ぐらい釣りをしたけれど、


「駄目であったの」

「うん」


 残念ながら、ボウズだった。


 でも、キルトさんは笑っていたし、僕ものんびりお話ができて、なんだか楽しい時間だった。


 そうして釣り竿を片づけていると、


「そういえば」


 ふとキルトさんが思い出した顔をした。


「ん?」

「わらわも30になったな」


 え?


 思わず、キルトさんの美貌を見つめる。


 彼女は片づけを続けながら、なんでもないように、


「今日が誕生日であった」

「…………」

「まさか海の上で迎えるとはの。すっかり忘れておったわ」


 な、なんだって~!?


 先月、ソルティスの誕生日を祝ったばかりなのに、今日がキルトさんの誕生日とは……。


「しかし、わらわも30代か……年を取ったの」


 と、キルトさんはため息。


 見た目、全然20代なんだけどなぁ。


(……誕生日プレゼント、どうしよう?)


「えっと……キルトさん、何か欲しいものある?」

「ん?」


 彼女は苦笑した。


「いやいや、もはや祝う年でもあるまいよ」

「ううん、駄目だよ」

「む?」

「せっかくキルトさんが生まれてくれた日なんだから。キルトさんがよくても、僕が祝いたい」

「…………」


 キルトさんは驚いた顔をする。


 頬が少しだけ赤くなり、それから僕を見つめて、黄金の瞳を優しく細めた。 


「すまんな、マール」

「…………」

「しかし、ここは海の上であるからの。手に入るものもあるまい?」

「う……っ」


 言われてみれば、確かに。


(海の上じゃ、お酒とか買うこともできないしね……)


 困ったな。


「じ、じゃあ、僕に何かして欲しいこととかは?」

「む?」

「肩揉みでも、掃除でも、なんでもするよ?」


 拳を握って見つめ、必死にアピール。


「…………」


 そんな僕を、キルトさんはジッと見つめた。


 そして、


「ならば1つ、良いかの」


 と言った。


「うん!」


 僕は当然、頷く。


 そんな僕に、キルトさんは小さく微笑みながら、


「今夜だけ、わらわの抱き枕になってくれ」



 ◇◇◇◇◇◇◇



「……まぁ、マールが望むのであれば、私も我慢しますが」


 イルティミナさんにお伺いを立てたところ、彼女は、不承不承といった感じだったけれど、キルトさんの誕生日ということもあって了承してくれた。


 キルトさんは苦笑する。


「すまんな。そなたがあまりにしているから、一度、どんな感じか試してみたくての」

「ほう?」


 イルティミナさんの目がキラリと光った。


「お目が高いですね」

「む?」

「マールの身体は、小さいのにしっかりしていて、抱き心地は最高ですよ」


 …………。


「体温も高くて、お日様の匂いがします」

「ふ、ふむ?」

「強く抱くと、身をよじったりして、またそれが可愛いのですよ。髪を撫でると、寝顔も気持ち良さそうになって」


 熱く語るお姉さん。


(な、なんか恥ずかしいんですけど……)


 キルトさんも「ほうほう?」と、ちょっと赤くなりながら聞いている。


 ソルティスは、呆れ顔だ。


 結局、その日の夕食は、イルティミナさんも厨房に立って、ちょっぴり豪華になった。


 そして夜。


「では、マール……覚悟は良いかの?」

「う、うん」


 消灯されて、窓からの月明かりだけに照らされる室内で、ベッドに横たわったキルトさんが僕を手招いた。


 ちなみに、イルティミナさんとソルティスは、先に就寝している。


 ソルティスは、豪華な料理で満腹になって、満足そうにぐっすり。


 そしてイルティミナさんは、


「他の女の抱き枕になるマールを見たくはありませんので」


 とのこと。


 早々に就寝してしまった。


 僕は深呼吸して、キルトさんのベッドに近づく。


「そう緊張するな」


 彼女は笑う。


 月明かりに照らされているせいか、銀髪が濡れたように煌めて、いつもよりも色っぽく感じる。


 ドキドキ


(どうした、僕?)


 抱き枕なんて、いつものことだろ?


 ちょっと戸惑いながら、キルトさんのベッドに横になった。


 丸くなった背中側から、キルトさんが抱き着いてくる。


「…………」

「…………」


 弾力のある胸が、僕の背中で潰れる。


 意外とたおやかな腕が、お腹へと触れてくる。


 彼女の鼻先が、僕の髪をくすぐった。


「ふむ……」


 小さな呟き。


 しっとりした太ももが、僕の腰に巻きついた。


 ドキドキドキ


 鼓動が早くなる。


 彼女に聞かれてしまうのかと思うと、ちょっと恥ずかしい。


「なるほど……これは、良いの」


 艶っぽい声。


(気に入って頂けたのなら、光栄です……)


 僕は、大きく息を吐いた。


「それじゃあ、おやすみ、キルトさん」

「うむ」


 彼女は微笑んだ。


 それから、


「その……な」

「?」

「ありがとうの、マール」

「…………。うん」


 僕は頷いた。


 僕が笑ったからか、キルトさんも安心したように息を吐いた。


 まぶたを閉じる。


 暗闇の中、キルトさんの身体を感じる。


 30歳になったばかりのお姉さんの肉体……。


 キルトさん……。


 キルト・アマンデスさん……。


 その人は『金印の魔狩人』で、英雄みたいな人で、でも触れ合っていると、やっぱりただの普通の女の人に思えたんだ。


「おやすみじゃ、マール」


 柔らかな声。


 その慈しみに満ちた声に導かれるように、僕は眠りに誘われる。


 キルトさんの30回目の誕生日の夜。


 僕とキルトさんは、一緒に夢の世界へと落ちていった――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ マールがキルトの抱き枕になっても、明日の御天道様を拝める事。 …………チッ、運のいい奴め……( ̄∇ ̄) [気になる点] 流石に船は乗り換えての移動でしたか。 …
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