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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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216/825

214・戦いが終わって

第214話になります。

よろしくお願いします。

 みんなの待っている地上へと、僕は滑空していく。


 パシュ パシシッ


(ん……?)


 その時だ。


 体内にある『神気』が枯渇したのか、突然、右の金属の翼が形を保てなくなって、虹色の粒子に分解した。


(わっ?)


 地上まで30メード以上ある。


 僕は、きりもみ回転しながら落下していく。


「マール!」


 地上にいるイルティミナさんが、悲鳴のような声をあげた。


「いかん」

「ちょ……嘘でしょ!?」


 みんなも、慌てている。


 ポーちゃんが落下地点に入ったり、コロンチュードさんが魔法の杖を構えたりしてくれた。


「やれやれ」


 ガクンッ


 からの声と共に、僕の落下が止まった。


(!)


 僕の右手首を、黒い子供の手が掴んでいた。


 見上げればそこには、漆黒の4枚の翼を生やした『闇の子』がいた。


「これは貸しかな?」


 そう笑う。


(む……っ)


 その言葉に反感を覚えた僕は、腰ベルトの後ろに差してあった『マールの牙・弐号』を振るう。


 ヒュッ


「うわ!?」


 奴は驚き、手を離した。


 ヒュウウウ


(お前に貸しを作るぐらいなら、落ちた方がマシだよ)


 大怪我したって、ソルティスもコロンチュードさんもいる。


 きっと治してもらえるはずだ。


 ……落ちたら、凄く痛いと思うけど。


 そうして意地っ張りな僕は、地上へと向かう。


 でも、


「マール!」


 ボフッ


 一度、『闇の子』に捕まれて落下速度が落ちたのか、イルティミナさんがしっかりと僕を受け止めてくれた。


(うっぷ)


 衝撃で、彼女の胸に顔を突っ込んでしまった。


 鎧越しに、しっかりした弾力を感じる。


 勢いを殺すためか、イルティミナさんはそのまま後ろに倒れて、尻もちをついていた。


「大丈夫ですか、マール!?」 


 この小さな身体を抱きしめながら、心配そうな声が響く。


 僕は、その腕の中で顔を上げた。


「う、うん。ありがと、イルティミナさん」

「……あぁ、よかった」


 ギュウッ


 無事な僕の顔を見つめると、彼女は、また僕を抱きしめて、安心したように息を吐いた。


(イルティミナさん……)


 僕も思わず、抱きしめ返してしまった。


 キルトさんたちも、ホッと息を吐いていた。


 と、


「そんなに嫌わなくてもいいじゃないか」


 少し離れた場所に、『闇の子』が着陸した。


 その顔は不満そうだった。


 僕は、イルティミナさんと共に立ち上がり、奴を睨む。


「共闘はしただろ?」


 そう答えた。


 僕らの共通の目的である、この地の悪魔を――その生みだすであろう『悪魔の欠片』を倒すことは、無事に果たした。


 それが済んだ今は、


「僕らはまた、敵同士……かい?」


 彼は悲しそうに言う。


 …………。


 その表情に騙されるな。


 相手は『闇の子』だ。


 その考え方も、感じ方も、僕ら人間とは違うかもしれない。


 キルトさんとポーちゃんが、僕を庇うように前に出て、『雷の大剣』と『龍鱗の拳』を構える。


「…………」

「…………」


 魔法使いの2人も、それぞれの杖を構えた。


 イルティミナさんも、僕を片手に抱きながら、『白翼の槍』の美しい刃を向けている。


 僕も、『妖精の剣』の柄に手をかける。


「僕は、どうしてもお前が嫌いだ」


 僕は言った。


 あの時、『闇の女』に大きなダメージを与えるために、仲間であるはずの2人を自爆させた。


 同胞かぞくだといった者を、使い捨てにした。


(そんな奴に、心を許せない)


『闇の子』の光のない黒瞳は、そんな僕ら6人を、しばらく眺めた。


「そう」


 やがて、息を吐く。


「ここで戦うのは、さすがのボクも厳しいかな」

「…………」

「今は引かせてもらうよ。それぐらいは許してくれるだろ? それぐらいの貢献はしたつもりだよ」


 と、悪戯っぽく笑った。


 …………。


 キルトさんが剣を引いた。


「いいだろう」

「キルトさん……」

「そなたの与えた情報が、その闇の力が、世界を救ったのもまた事実じゃ。しかし次はない」


 鉄のような声。


(…………)


 僕ら5人も、それぞれの武器を下げる。


『闇の子』は頷いた。


「わかった」

「…………」

「でも、僕はマールを気に入っている。何か頼みたいことがあるなら、いつでも呼んでよ」


 はぁ?


「まだ悪魔は、5体もいるんだよ?」

「…………」

「共闘する機会は、またあると思うんだ。ボクは、その時を楽しみにしているよ」


 黒い子供は、そう笑った。


 バサッ


 その背中にある漆黒の翼がはためき、小さな身体が浮き上がる。


「いつか、また会おう」


 赤い三日月のような笑み。


 そして、翼をもう一度羽ばたかせると、彼の姿はあっという間に青い空の彼方へと遠ざかっていく。


 ほんの数秒で、その姿は見えなくなった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕らは誰も、しばらく何も言わなかった。


 結局、アイツは約束を守って、僕らに対して敵対行動を全く取らなかった。


 でも、


(何か裏がありそうな感じがする……)


 そう思えてならない。


『雷の大剣』を背に戻して、キルトさんも言った。


「あまりに素直すぎるの」

「…………」

「この戦いに、奴には何か別の目的があったのか? そして、それを果たしたから引いた?」


 皆の視線が集まる。


「……わからん」


 キルトさんは嘆息する。


「まぁ良い。正直、今はこちらも消耗が激しかった。これ以上の戦闘にならずに済んで良かったの」 


 ……うん。


 僕は『神気』を使い果たした。


 キルトさんとイルティミナさんも、自身の最大奥義を放って、消耗している。


 コロンチュードさんも、『神術』を使った反動があるだろう。


 ポーちゃんも『神龍』でいられる5分間は、もう過ぎるはず……って、ほら? 思っている間にも、神体モードを解除しているよ。


(余力があるのは、ソルティスだけだったね)


 彼女だけで『闇の子』に立ち向かうのは、さすがに無理がある。


 キルトさんは、僕らを振り返って、


「何にせよ、皆、生きて勝利した。今は、それを喜ぶべきじゃな」


 白い歯を見せて、そう笑った。


「うん!」

「はい」

「そうね」

「……うんうん」

「……(コクッ)」


 僕らも笑った。


 正直、立っているのもしんどくて、僕は地面の上に座り込んだ。


 途端、みんなも気が抜けたのか、次々に座った。


 僕は、イルティミナさんの背中に寄りかかり、彼女もこちらに体重を預けて、お互いに背もたれにした。


 甘やかな匂いと体温が伝わってくる。


 なんだか安心するよ。


 きっと彼女も、同じように思ってるんだろうな、と思った。


(ふぅぅ)


 大きく息を吐いて、空を見上げる。


 青くて、とても綺麗な空だ。


 戦場となった地上の景色とは大違いに、美しくて平和な光景だった。


 …………。


 ふと『闇の子』が消えた空を見る。


「……いつか、また会おう……か」


 小さく呟いて、僕は、青い瞳をゆっくりと閉じていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 座っていたキルトさんは、荷物の中から、10センチほどの金属筒を取り出した。


 カシャッ


 筒を捻ると、引き金が出てくる。


 そして、筒の先端を空へと向けながら、その指は引き金を引き絞った。


 ヒュウウン パァアアン


 青い空に、煌々と大きな魔法の光が輝く。


 ――発光信号弾だ。


 まるでもう1つ太陽が生まれたみたいな空を見上げて、


「これで、しばらくすればアーノルドたちが迎えに来るであろ」


 キルトさんはそう説明した。


(なるほどね)


 それまではのんびり休憩じゃ――彼女は、そう付け加えて笑った。 


 戦いが終わったからか、空気は和やかだ。


 みんな、思い思いに休んでいる。


 そんな中、僕は、少し気になったので立ち上がった。


「マール?」


 イルティミナさんの不思議そうな声を背中に浴びながら、僕が向かったのは、倒壊した『聖神樹』だった。


 焼け焦げた地面に、虹色の巨大な結晶が横たわっている。


 カシャッ カシャン


 細かい破片となった結晶を踏みながら、一番太い幹の部分へと近づいた。


(…………)


 直径300メードはある美しい結晶の中に、ソレはあった。


 ――悪魔の死体だ。


 身長100メードはありそうな、巨大な老人の姿だった。


 ただし、普通の人と比べて、頭部が異常に大きくて、特に後頭部が長くせり出している。


 手足はやせ細っていて、肋骨も浮いている。


 光のない眼球は3つあり、水分が蒸発したのか真っ白だった。


「…………」


 一目見て、酷く衰弱している肉体なのだとわかった。


 手足の指は4本ずつあって、でも左手だけ指が2本、根元から千切れている――その指たちが、あれだけの恐ろしい戦闘力を見せたのか。


 これが、悪魔……。 


 コキュード地区では、戦闘直後に動けなくなってしまったから、僕自身は、その姿を確認できなかった。


 だから、本物の悪魔を初めて見る。


(ま……僕の中のアークインは違うんだろうけど、さ)


 ん?


 ふと気づいたら、他のみんなも集まっていて、一緒に『悪魔の死体』を見ていた。


「ふむ……これがヴェガ国の悪魔か」


 キルトさんが呟いた。


 ソルティスが気味悪そうに、死んだ巨大老人を見つめて、


「コキュード地区で見た悪魔とは、また外見が違うのね」

「……そうなの?」

「あっちは、全身が鱗だらけだったし、竜と人が混じったような感じだったわ。見た時は、全身が干からびた感じで、あちこちに焼け焦げた跡があったけど」


 へぇ、そうなんだ。


 頷いた僕に、イルティミナさんが寄り添い、小さな肩を抱く。


「かつて、400年前のマールは、このような存在たちと戦っていたのですね」

「…………」


 ギュッ


 そう口にした彼女の手には、強い力がこもっていた。


 当時の記憶があるポーちゃんは、


「…………」


 特に何も言わない。ただ水色の瞳で、『悪魔の死体』を見ているだけだった。 


(そういえば……)


 ハイエルフのコロンチュードさんは、1000歳を超えているという。


 古代タナトス魔法王朝時代を生きた彼女は、当然、神魔戦争も経験しているんだ。


 だから、その頃のことを聞こうとしたんだけど、


「……忘れちゃった」


 そう答えられてしまった。


 …………。


 本当なのかはわからない。


 もしかしたら、思い出したくない過去なのかもしれない。


 その真偽は、眠そうな顔からは読み解けなかった。


 僕らは、しばらく『悪魔の死体』を見つめた。


「これ、どうするの?」

「ふむ」


 キルトさんは少し考えて、


「できるならば、シュムリアに持ち帰って、王立魔法院に研究を頼みたいの」


 と答えた。


「コキュード地区の悪魔の死体は、アルン神皇国の研究機関に持ち込まれた。シュムリアには、あの『闇の子』の元となった悪魔の死体もある。それらのデータとコレを比較することで、新しい発見もあるかもしれぬ」

「新しい発見?」

「対悪魔用の『何か』、じゃよ」


 キルトさんの瞳には、魔狩人としての輝きがあった。


(そっか)


『悪魔』に対抗できる術を、あるいは『悪魔の欠片』に対抗できる術を、未来を想えば、人類は手に入れるべきだろう。


 ソルティスがぼやく。 


「悪魔そのものと戦う時なんて、正直、来て欲しくないわね……」


 見上げる巨人の死体。


 身長100メードの恐ろしい巨躯には、生きていたら、どれほどの戦闘力が秘められていたのだろう?


 ほんの一欠片でさえ、世界を震撼させる存在だ。


(僕も……戦いたくないな)


 正直に、そう思った。


 そして、そんな存在と戦ったアークインたち、7人の『ヤーコウルの神狗』は、本当に勇敢だと思ったよ。


 ガラン ガラン


(ん?)


「む? 来たかの?」


 遠くから聞こえる鐘の音は、獣車の象さんたちの首につけられていた鐘の音だ。


 戦場となった窪地の底から、丘の上を見上げる。


 やがて、青い空と森の景色を背景に、そこにアーノルドさんの乗った獣車と、獣人の兵士さんたちが姿を現した。


「おお~い!」


 僕ら6人は、大きく手を振った。


 遠い彼らは、すぐにこちらに気づいて、大きく手を振り返してくれる。


「さて。まずは、この国の首都カランカに戻って、しばしの休息といくかの」

「うん」

「はい」

「えぇ」

「……そだね」

「……(コクッ)」


 キルトさんの笑顔に、僕らも笑った。


 ガラン ガラン


 近づく鐘の音が、戦いの終わった青空に吸い込まれていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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