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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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191・雪夜の遭遇

第191話になります。

よろしくお願いします。

 星々の煌めく夜空を、僕は、虹色に輝く金属の翼を広げて、後方にキラキラと残光を残しながら飛んでいく。


 目指すのは、レヌさんの生まれ故郷であるギタルカ領の村だ。


 紅白の月光が照らす雪の大地。


 その上空を、僕は飛翔する。


 時速は、100キロぐらい出ているかもしれない。


 ヒュゴォオオ


 強い風圧が、髪を暴れさせる。


(目が痛いね……)


 細めた目からは、涙がポロポロこぼれて、空に散っていく。


 そんな僕の首に両腕を回して、防寒ローブをまとったレヌさんは、僕に背負われていた。


 冷たい外気の中で、触れ合う背中だけが温かい。


 ちなみに、彼女の防寒ローブは、イルティミナさんの物である。


 黙って借りてきてしまった。


(ごめんね、イルティミナさん)


 あとで、ちゃんと謝らないといけないね。


「マール、さん」


 そんな僕の耳に、レヌさんが唇を寄せて呼びかけてきた。


(ん?)


 風切り音を抜けて、彼女の不安そうな声は言う。


「その……本当に良かったんですか? 黙って抜け出してきてしまって」


 あ~。


「えっと、うん。大丈夫だと思うよ?」


 僕は、曖昧に笑って答えた。


 レヌさんの生まれ故郷であるギタルカ領の村までは、3日で往復するのは不可能だという。


 ただ、それは陸路の話。


 起伏や迂回のない空路ならば、多分、3日もあれば往復できると、僕は思った。


 でも、さすがにそれだけの距離を、何人も運ぶ力はない。


 せめて、レヌさん1人が限界。


 でも、そのことを話したら、きっとキルトさんとイルティミナさん……特にイルティミナさんは、僕とレヌさんが2人だけでギタルカ領まで行くことは、危険だからと絶対に認めてくれないと思ったんだ。


 だから、こっそりと出発した。


 あ、一応、みんなを心配させると悪いと思って、書き置きは残してきたんだよ?


 ……いやまぁ、それでも心配するとは思うんだけどさ。


(…………)


 だから僕は、レヌさんにお願いする。


「その、大丈夫だとは思うんだけど、でも……帰ったら、一緒に謝ってくれる?」

「…………」

「……1人で怒られるの、やっぱり怖いし……」

 

 しょぼんと告げる。


 レヌさんは、何だか呆気に取られたように僕の顔を見つめていた。


 う……呆れられてる予感。


「ち、ちょっと高度があると寒いよね? もう少し低く飛ぶね」


 話題を逸らして、僕は、高度を下げていく。


 雪国の夜だ。


 気温は、とても低い。


 加えて、時速100キロ以上で飛んでいる風圧もあるのだ。


 2人とも防寒ローブを着ているとはいえ、少しでも保温を考えたいところである。


 僕は、地上200メードほどだった飛翔高度を、半分ぐらいに下げていく。


 幸い、月明かりがあるので、視界は確保できている。


 きっと障害物に当たることもないと思う。


 でも、月が見えるということは雲がないということで、それはつまり、地熱が空へと逃げていく分、余計に寒いということだ。


(火の魔石、何個、持ってきていたかな……?)


 暖を取る時のことを、ぼんやり考える。


 と、ふと目の前の雪原が、少し盛り上がって丘になっていることに気づいた。


 距離的には、地上まで30メードほどの間隔。


(まぁ、ぶつかる距離じゃないよね)


 大して気にもせず、僕は、その上を通過しようとする――その時だ。


 ビュッ


「!?」


 その真っ白な大地から、ピンク色をした細長い何かが飛び出してきた。


 ギギュルッ


 それは飛んでいた僕らの胴体に絡みつく。


「うわっ!?」

「きゃ……っ!?」


 強制的に急制動がかけられて、上空で無理やり停止させられる。


 虹色に光る金属の翼をはためかせ、必死に制御しながら、なんとか空中で体勢を立て直す。


(い、いったい何が……っ?)


 混乱した僕の青い瞳は、すぐに地上へと向けられた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(???)


 ……何もいない?


 ピンク色の細長い何かが飛び出してきた地上には、降り積もった白い雪の大地しかなかった。


 いや、雪の地面が動いた。


(もしかして、雪の下に何かいるの?)


 レヌさんが切迫した声で言う。


「これは……スノーバジリスクの舌!?」


(スノーバジリスクって……もしかして、魔物がいるの!?)


 ググッ


「わっ?」


 その弾力のある細長いピンク色の舌は、巻きついた僕らを地上へと引っ張ろうとする。


 ヴォオオン


 翼を輝かせ、必死に抗う。


(くっ……強い)


 思った以上の力で、少しずつ地上に引き寄せられている。


 この舌を切断したいと思ったけれど、胴体ごと両腕も巻きつかれているので、剣が抜けない。


 ど、どうしよう?


 そう思った時、


 ガバァ


 雪の大地がめくれ上がり、白い塊を弾き飛ばしながら、巨大な魔物が現れた。


(!)


 体長15メードはある、全身に白い体毛を生やしたトカゲだ。


 頭頂部には、巨大なトサカがあり、目玉はカメレオンのようにギョロリと突き出している。


 雪の大地から現れた魔物は、捕らえた獲物ぼくらを捕食しようと、3メードはある真っ赤な口を大きく開けていた。


 まるで、赤牙竜みたいな大きさと迫力。


 レヌさんは、顔色を青ざめさせている。


 ググッ……グググッ


 巨大な白いトカゲは、四つ足の爪を大地に穿ち、凄まじいパワーで僕らを引き寄せる。


 そのギョロリとした眼球に、必死な僕らの姿が反射する。


(く……っ、なめるな!)


「――神気開放!」


 僕は、体内にあった神なる力の蛇口を開く。


 ギュオッ


 瞬間、僕の髪の中から、ピンとなった犬耳が伸び、レヌさんの下腹部を押し上げるようにフサフサ尻尾が生えてくる。


「え……? あ……っ」


 レヌさんの瑠璃色の瞳が、大きく見開かれた。


 その驚いた声と吐息が、僕の犬耳に当たる。


 グギュ、ギュ……ッ


『神狗』のパワーで両腕を広げ、僕らを拘束していた舌を外側に押し広げる。 


「精霊さん!」


 ジ、ジガガァッ


 願いに応えて、左腕にある『白銀の手甲』の緑の魔法石が光を放った。


 魔法石から溢れる白銀の鉱石が、左腕を覆い尽くす。


 僕の左腕は、あの『白銀の狼』のような鋭い鉤爪の生えた白銀の腕となる。


「やっ!」


 ガヒュッ


 腕で押し広げた隙間に、その鉤爪を通して、直径20センチほどもある太い舌を切断した。


 舌の切断面から、紫の血が飛び散る。


『ギギュウウ……ッ!』


 地上のスノーバジリスクは、悲鳴を上げながら、千切れた舌を引き戻した。


 ヴォン


 僕は翼を羽ばたかせ、一気に急降下。


「やぁああ!」


『白銀の拳』の拳を弓のように引き絞り、


 ドゴォオオン


『神狗』のパワーによる全力パンチを、逃げようとしたスノーバジリスクの額にぶち込んだ。


 衝撃で、周囲の雪の大地が弾け飛ぶ。


 まるで爆弾が落ちたような威力。


 頭部のトサカが千切れ飛び、けれどスノーバジリスクは、絶命することはなくヨロヨロと後退する。


 ズルッ


 雪の丘の端っこから、後ろの片足が滑った。


『ギョ!?』


 ズルル……ズルン


 もがく巨体は、けれど、雪の大地を崩していくばかりで止まることはなく、急斜面を滑落していく。


 ズザザァア……ッ


 小さな雪崩を巻き起こしながら、


『ギョァアア……』


 下方の暗闇へと、魔物の悲鳴が尾を引きながら消えていく。


 それを見届けて、


「ふぅぅ」


 空中にホバリングする僕は、大きく息を吐いた。


 と、その背中で、


「……凄い……これが『神狗』の力」


 レヌさんの驚愕の声が、僕の耳に小さく響く。


 それは夜風にさらわれて、すぐに雪原の空へと遠く消えていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 せっかくなので、僕らは、少し休憩することにする。


 雪の散った土の地面に、薪木を集め、火の魔石を使って焚火を作る。


 ボウボウ


(あ、あったかい~)


 長い間、冷たい中を飛んでいたので、指先まで凍えていた。


 炎に手のひらをかざすと、ジンジンと痺れて、そこに血液が流れていくのがわかるほどだった。


 鍋に雪を入れて、火で溶かして、お湯も沸かした。


「はい、レヌさん」

「……ありがとうございます」


 コップに注いで、レヌさんにも渡す。


 ズズッと一口。


 あぁ……美味しい!


 ただのお湯だけれど、身体の内側から温められて、とても心地好くて美味しかった。


「…………」


 ホクホクした笑顔の僕を、レヌさんはコップに口をつけることなく見つめている。


 それから、巨大な魔物の滑落した崖下の方を見て、


「スノーバジリスクは、悪食の魔物で、竜種に匹敵する巨体もあって、この地域の生態系では上位に位置する捕食者なんです。それを、まさかこうもあっさり撃退するなんて……」


(ん……?)


 キョトンした僕を、レヌさんの瑠璃色の瞳は、また見つめる。


「これが『神狗』なのですね……想像以上の力でした」

「そ、そう?」


 ほ、褒められているのかな?


 よくわからなくて、曖昧な表情になってしまう。


 レヌさんは、ようやくコップに口をつける。


 ズズ……ッ


 そして、吐息がこぼれた。


 それは白く染まって、すぐに透明に溶けていく。


 揺らめくコップの水面――そこに映る自分の顔を見つめながら、レヌさんは言った。


「『闇の子』は、貴方のことをとても気にしていました」


(…………)


 僕の動きも止まる。


 レヌさんは続けた。


「彼は、私たちには見えない何かを、いつも見ていました。私たちに向ける表情は豊かでしたけれど、その内側にある感情は、全くの別でした」

「…………」

「虚無に近い空洞」

「…………」

「その心には、決して満たされることのない渇きがあったように感じます」


(渇き……?)


 と、レヌさんが顔を上げる。


「でも、ある時、その虚無の心が満たされた瞬間がありました」

「…………」

「それは……マールさんの存在を知った時」

「僕……?」

「はい。二度の邂逅を経て、『闇の子』はマールさんの中に『何か』を見つけたようです。それに喜んでいるようでした」


 ……それは、


(もしかして、不完全な神狗の中に混じった、僕の魂?)


 レヌさんは、当時を思い出しているような眼差しで、星々の煌めく夜空を見上げる。


「まるで1人ぼっちだった子供が、ようやく遊び相手を見つけたような……そんな感じでした」

「…………」

「他の『神の子』と出会っても、同じ反応はありませんでした。その表情を見せるのは、マールさんに関することだけ」


 彼女は、泣きそうな笑顔をこちらに向けた。


「『闇の子』にとっても、なぜか貴方は特別な存在だったようです」


 …………。


 ……そんなこと言われても、ちっとも嬉しくないんだけど……。


 ズズ……ッ


 僕は、ソルティスばりの仏頂面で、コップのお湯をすする。


『闇の子』が僕のことをどう思っているのかなんて、知らない。興味もない。


 僕の中にあるのは、


「僕は、アイツが嫌いだ」


 それだけだ。


 言い切る僕に、彼女は、少しだけ複雑そうな顔だった。


 それからは、レヌさんは何も言わなかった。


 僕らは黙って、お湯をすすって身体を温め、焚火に当たって体力を回復させる。


 ――煌めく星々に見守られながら、僕らは15分ほど休憩した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「それじゃあ、そろそろ行こうか?」

「はい」


 焚火を消して、僕らは再び出発しようとする。


 ヒュウウウ


(うっ?)


 さ、寒い。


 夜風が吹いた途端、僕の身体が凄く冷たさを感じたんだ。え、何?


「? マールさん?」


 レヌさんが、僕の異変に気づいてキョトンとする。


 僕は、慌てて自分を見下して、


「あ」


 なんと、着ている防寒ローブが大きく斬り裂かれているのを発見した。


 こ、これは……、


(もしかして、スノーバジリスクの舌を斬った時に!?)


 そうだ、そうだよ。


 スノーバジリスクの舌は、防寒ローブの上から僕らに巻きついていた。


 僕はそれを、ローブの内側から『白銀の左手』で斬ったから、防寒ローブも一緒に斬れちゃったんだ!


(な、なんてことだ……)


 ヒュオオオ


 ひぃ……さ、寒い!


 夜の風が吹き抜けるだけで、氷の塊を押しつけられているみたいだ。


 もし、これで空を飛んだら?


(…………)


 その想像に、背筋が更に寒くなる。


 僕の防寒ローブに、レヌさんも気づいて、


「だ、大丈夫なんですか、マールさん?」

「だ、大丈夫、大丈夫」


 心配そうな彼女に、僕は笑って頷いた。


(……だって約束したんだから)


 レヌさんをちゃんと、故郷の村まで連れていくって!


 寒くたって、


 ヒュオオオ


 ……っ、さ、寒くたって、我慢の子だよ!


 身体をガタガタと震わせながら、強がる僕。


 そんな僕を、レヌさんは呆気に取られたような顔で見つめていた。


 少し悩んだ顔で、彼女は自分の防寒ローブを見る。


 そして、


「マールさん」

「ん?」


 バフッ


 わっ!?

 何、何……っ?


 突然、頭から何かを被せられ、僕は混乱した。


 でも、すぐに自分の身体が温かくなるのを感じた。

 ……え?


 気づいたら、レヌさんの褐色の美貌が、すぐ目の前にある。


 彼女の白い吐息が、僕の顔に当たる。


 ちょっと甘い匂い。


「こうすれば、寒くないでしょう?」


 レヌさんは、僕の身体も、自分の防寒ローブの中に入れてくれたのだ。


 た、確かに温かい。


 温かいけど、ローブの中で、レヌさんの成熟した大人の女性らしい肉体が押しつけられてるんですけど!?


 ちょっとドキドキして、赤くなってしまう。


 そんな僕を、レヌさんは、まるで母親みたいな優しい眼差しで見つめた。


「マールさんは、不思議な子ですね」

「え、う」

「あんなに強いのに、こんなに幼くて、繊細で……」


 なんだかレヌさんの眼差しは、どこかイルティミナさんのそれによく似ていた。


(う、う~ん?)


 まぁ、いいか。


 確かに凍死してもおかしくない寒さだし、やせ我慢できるレベルじゃないかもしれない。


 背負って飛ぶ時には、結局、密着するんだし、


(むしろ、防寒ローブがなくて布が少ない分、お互いの体温で温め合える方がいいのかも……)


 ちょっと恥ずかしいけどね。


「じゃ、じゃあ、このまま飛ぶね?」

「はい」


 レヌさんは、優しく頷いた。


 恥ずかしさを押し殺して、僕は大きく息を吐くと、『神武具の翼』を背中に展開する。


 ヴォオン


 翼が虹色に輝き、僕らの身体が上昇する。


 ギュッ


 レヌさんの腕に力が入り、より密着する。


 イルティミナさんほどではないけれど、柔らかな弾力が背中に当たっている。


 き、気にしちゃ駄目だ。


「よし、行くよ!」

「はい」


 レヌさんは、艶やかな赤い髪を揺らして、コクッと頷く。


 バフッ


 僕は、空中で大きく金属の翼を羽ばたかせた。


 ヴォオン ヒュゴオオ


 紅白の月たちに見守られながら、僕らは夜空を飛翔する。


 まるで流れ星のように虹色の残光を残して、一路ギタルカ領を目指した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


実は、この話を更新する前に、『転生マールの冒険記』がHJネット小説大賞2019の一次選考を通過しているのを確認しました!

皆さん、本当にありがとうございました!

この作品で一次選考を通過したのは初めてのことで、とても嬉しかったです。まだ一次選考を通過しただけですが、これを励みに、これからも精一杯、執筆を頑張りますね!


『転生マールの冒険記』を読んで下さる皆さん、本当に本当にありがとうございました。やりましたよ~!


※次回更新は、来週の火曜日0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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