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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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188・雪見風呂

第188話になります。

よろしくお願いします。

 浴衣みたいな湯着に着替えて、僕らは、客室の外にある露天風呂へと向かった。


 石畳の床の中央に、大きな浴槽が造られている。


(へ~、立派な風呂だね)


 部屋風呂だというのに、10人ぐらいは入れそうな大きさだ。


 感心する僕の耳に、


「ふむ、いい眺めじゃの」


 キルトさんの声が届いた。


 見れば、ポニーテールにした銀髪を風になびかせ、キルトさんは、露天風呂からの景色に黄金色の目を細めていた。


 僕らも視線を向ける。


 活火山の斜面に造られたツペットの町。


 その向こうに広がる大自然の雪景色。


 露天風呂の一角からは、そんな雄大な美しい景色を一望することができたんだ。


「うわぁ、いい眺めだね」

「はい」

「なかなか、いいじゃないの」


 みんなで、しばらく見惚れてしまう。


 やがて、全員、かけ湯をして、温泉へと入ることにする。


「ふふっ……服を着たまま入るというのは、不思議な感覚ですね」


 チャポッ


 そう言いながら、イルティミナさんは、白い素足をお湯に沈めていく。


 白い湯着も濡れていく。


 そして、その布地を押し上げるように、大きな胸がお湯に浮かんだ。


(…………)


 あ、あんまり見ちゃ駄目だよね。


 ドキドキした僕は、すぐに視線を外した。


 その視線の先にいたキルトさんは、宿の人に用意してもらった酒瓶と盃をお盆に載せて、それを温泉に浮かべているところだった。


「風呂に入って雪見酒か。贅沢じゃのぉ」


 その表情は、実に楽しそうです。


(う~ん、子供みたい)


 その無邪気な笑顔は、年上だけれど、とても可愛かった。


 と、同じようにキルトさんを見ていた少女と、ふと目が合った。


「……あんま、こっち見ないでよね」


 ソルティスは、湯着を着ているというのに、恥ずかしそうに胸元を腕で隠して、温泉に入ろうとしているところだった。


(…………)


 い、意識されると、逆にこっちも恥ずかしいんだけどな。


 チャポ


 湯着に包まれた少女の肉体が、お湯に沈む。


 ……ソルティスの首って、細いんだな……いやいや、あまり見ちゃいけない。


 気を取り直して、僕も温泉に入ることにした。


 チャポン


(ふぁぁ……気持ちいい)


 温泉の熱が、手足の指先まで広がっていく。


 冷たい外気もあって、湯船の中の温かさがとても心地好い。


 懐かしいような硫黄の香り。


 美しい雪景色。


 そばには、3人の美女と美少女。


(ここは天国かな?)


 手足を伸ばして、思わず、大きな吐息がこぼれてしまう。


 と、そんな僕へと、イルティミナさんが真紅の瞳を細めて笑いかけ、


「ふふっ、いい温泉ですね、マール」

「うん」


 楽しそうな彼女に、僕も大きく頷いた。


 キルトさんも「本当にの」と雪見酒の杯を傾ける。


 ソルティスも、ようやく慣れてきたのか、「そうね~」と湯船の縁に寄りかかって、外の景色を眺めながら呟いた。


 戦いの日々を忘れて、僕らは、しばらくツペットの温泉を楽しんだ――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 穏やかな時間を、のんびり堪能する。


 やがて僕は、客室の方へと青い瞳を向けた。


(……まだ起きないかな?)


 客室のベッドには、あの魔物から人間に戻った女の人が横になっている。


 あれから3日。


 まだ目覚める様子はなかった。


 僕の視線に気づいて、ソルティスが言う。


「焦ってもしょうがないわよ。肉体的には、どこにも異常はないわ。その内、目が覚めるはずだから、のんびり待ちましょ」

「うん」


 僕は頷く。


 でも、やはり気にはなる。


 彼女は、きっと『闇の子』についての情報を、色々と知っているはずなんだ。


(だから、目が覚めたら、たくさん聞きたいことがあるんだよね)


 そうして客室の方を見ていると、


 チャポン


(ん……わ?)


 後ろからイルティミナさんに抱き締められた。


 薄い湯着越しに、大きな胸が押しつけられ、僕の背中で重く潰される……ひゃああ?


「マール? あまり他の女のことばかり、気にしないでください」

「え、う」

「私も、焼きもちを焼くんですよ?」


 そう可愛く怒って、僕の首に軽くキスをする。


(うひゃあ?)


 く、くすぐったい。


 ソルティスは呆れた顔をして、キルトさんは苦笑する。


 杯をあおって、


「まぁ、マールの気持ちはわかるがの」


 と言った。


 なんとなく、僕ら3人の視線が、キルトさんに集まる。


 彼女は、酒瓶の中のお酒を、盃にこぼしながら、


「あの時、『闇の子』の語った言葉に、嘘はなかったように思える。しかし、それが全てとは限らぬ」

「…………」

「何か、こちらに隠していることがあるやもしれぬ。……それを確かめるためにも、あの女には、問いたいことが山ほどあるからの」


 コクコク プハッ


 そう言って、彼女はまた杯をあおった。


(うん、そうだよね)


 停戦と共闘。


 一時的とはいえ手を組むつもりだけれど、だからって、気を許してはいけないんだ。


 僕は、改めて気を引き締める。


 と、


「……でもさ、私は『闇の子』の気持ち、ちょっとわかる気がするのよね」


 不意にソルティスが、そんなことを口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 びっくりする僕ら。


 ソルティスは、濡れたおくれ髪を指で触りながら、言う。


「自分を受け入れる世界が欲しい……だっけ? でも、それってさ、当たり前のことだと思うのよ」


 少女は紅い瞳を軽く伏せながら、


「アイツもさ、生まれたくて『闇の子』に生まれたわけじゃないでしょ?」

「…………」

「それなのに、みんなから疎まれて、私たちに狙われて、この広い世界のどこにも、誰も味方がいなくって……だから禁忌のような魔法を使ってでも、仲間を増やして、必死に居場所を作ろうとしてる」


 パシャッ


 髪から離した指で、軽く水面を弾いて、


「私も『魔血の民』だからさ。そういう気持ち、やっぱわかるのよね……」


 ソルティスは、そう寂しそうに笑った。


(……ソルティス)


 自分にはどうにもならない部分で、世界から理不尽に嫌われてきた少女。


 その言葉は、胸に刺さる。


 でも僕は、それでも正直に言った。


「それでも僕は、『闇の子』のしてきたことは許せないよ」


 彼は、罪もない人をたくさん魔物に変えてしまった。


 多くの人生を狂わせたんだ。


 その結果、死んでしまった人も大勢いる。


(それを見過ごすことは、僕にはできない……)


「……マール」


 唇を噛み締める僕を、イルティミナさんが気遣わし気に見つめる。


 ソルティスは、苦笑した。


「ま、そうよね。マールの場合、神界の同胞かぞくも殺されているんだもの。そう思うのは当然よ」


 …………。


『闇の子』は、すでに7人の『神の眷属』を殺していると告白した。


(……7人も)


 人類を救うため、この世界に降り立った彼ら、彼女らを、もう『闇の子』は手にかけているんだ。


 ギュッ


 その無念を思って、僕は強く目をつむる。


 僕の中にいる神狗アークインの心も、仲間を思って泣いているようだった。


「でもさ」


 その耳に、ソルティスの声がした。


「その7人は、殺そうとしたから、逆に殺されたのかもしれないわ」


(……え?)


 思わず、目を開けた。


「もし殺そうとしなければ、もしかしたら『闇の子』も、その7人を手にかけなかったかもしれない」


 ……それは。


 ソルティスの紅い瞳は、僕を見つめる。


「前にケラ砂漠で『闇の子』を見た時のマールの反応、私、覚えているわ」

「…………」

「我を失ったように、『闇の子』に襲いかかろうとしてた。彼の行動どうこうではなくて、『闇の子』という事実だけで敵視してた」


 その瞳には、少しだけ悲しそうな色があって、


「それは『神の眷属』の本能かもしれない。そして、それはもしかしたら、その7人も同じだったのかもしれないわ」

「…………」

「でも、それってさ」


 少女は短い吐息をこぼして、


「――まるで『魔血の民』だからって、私たちを嫌う人たちみたいに見えるのよ」


 そう続けた。


(――――)


 そのソルティスの言葉に、僕は、衝撃を受けた。


 手が震えた。


 声が上手く出せなくなった。


 でも、


 でも……僕は、必死に言った。


「僕は……僕らは……人間を守ろうとして戦ったんだ。死んだ7人も、他の『神の眷属』たちも……それなのに、その守ろうとした人間たちから、そう言われてしまうの?」

「……あ」


 ソルティスは、ハッとする。


 僕らは、万能じゃなかった。


『人間』と『魔』の両方を守ることなんて、できない。


 だから僕らの手は、『人間』を守ることを選んで、彼らのために伸ばされたのに……それでも、両方を救えと罵られなければいけないのか。


 ソルティスは、泣きそうな僕の顔を見つけて、バツが悪そうに視線を外す。


「ごめん……ちょっと言い過ぎたわ」


 そう小さく呟いた。


(…………)


 僕は、すぐに答えられなかった。


 重い沈黙が、露天風呂に落ちてくる。


 チャポッ


 僕を抱きしめるイルティミナさんの手が、優しく髪を撫でてきた。


「ごめんなさいね、マール」

「…………」

「私たち『魔血の民』は、人から嫌われることに、良くも悪くも慣れてしまっているのです。だからこそ、『闇の子』の立場に共感してしまう。……その愚かさを、どうか許してくださいね」


 寂しそうな声。


 もしかしたら、イルティミナさんの中にも、その共感する心はあるのかもしれない。


 …………。


 キルトさんは、お酒の入った盃を見つめる。


「まぁ、確かにの」


 ふと呟いた。


「わらわも『闇の子』の立場ならば、同じようなことをしたかもしれぬ」

「…………」

「しかしの、それは『闇の子』にも同じことが言える。奴が我らと同じ立場であったならば、結果、今のわらわたちと同じことをしたであろうよ」


 キュッ


 お酒を一気に、喉の奥に流し込んだ。


 熱い吐息と共に、彼女は言う。


「理解もできる、同情もできよう。――しかし、今の互いの立場は変えられぬ」


 その声に宿るのは、鉄の意思。


 揺るがぬ覚悟だった。


「わらわたちは、わらわたちの正しいと信じる道を進むしかないのじゃ」


 僕ら3人を見つめながら、言う。


(…………)


 うん、そうかもしれない。


 きっと、ソルティスの言ったことも間違ってはいないんだろう。


 でも、


(それでも、僕は……自分が最善だと思ったことをやるしかないんだ)


 本当の正しい答えなんて、誰にもわからないのだから。


「…………」


 ソルティスが、僕の横顔を窺うように見る。


 気づいて、僕も見返した。


「……えっと。……ソルティス……ごめんね、僕は、その」

「……いいわよ」


(……え?)


 彼女は唇を尖らせて、


「アンタは、アンタの信じたようにやんなさいよ。マールは私の仲間なんだし、私を嫌う連中とは違うんだって、ちゃんとわかってるわ」

「…………」

「私も……その、アンタのこと信じてるから」


 ボソッと、恥ずかしそうに頬を赤らめ、そう口にした。


「う、うん」


 ちょっとびっくりした。


 そして、凄く嬉しかった。


 思わず、ソルティスのことを見つめてしまう。


 と、


 バシャッ


(うわ?)


「だから、あんまこっち見んなって、言ったでしょーが」


 お湯をかけられ、驚く僕に、ソルティスはようやく笑った。


 あはは……。


 苦笑する僕。


 イルティミナさんとキルトさんも、そんな僕らの様子に、なんだか安心したように笑っていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「マールも一緒に着替えていいんですよ?」


 イルティミナさんが、そう訴える。


 あれから露天風呂を出た僕らは、客室に戻って部屋着に着替えることにした。


 でも、僕は男だ。


 ついでにいうと、紳士だ。


 淑女である3人と一緒に着替えるわけにはいかないのである。


 イルティミナさんの言葉に、キルトさんは苦笑しているし、ソルティスは「いいわけないでしょーが!」と姉に異議を申し立てていた。


(あはは……)


 遠慮する僕に、イルティミナさんはちょっぴり寂しそうだ。


「マールはまだ子供なんですから……」


 聞こえない、聞こえない。


 濡れた湯着から、彼女たちの肌も薄っすら透けているので、視線も合わせられません。


「じゃあ、僕、こっちで着替えるからね」


 パタン


 そう言い残して脱衣所の扉を閉め、1人、寝室で着替えることにした。


(ふぅ、やれやれ)


 一息ついて、僕は、さっさと湯着を脱ぎ、バスタオルで身体を拭いて、部屋着を羽織る。


 パサッ シュルル


 部屋着は、前世の日本でいう作務衣みたいな感じだった。


 うん、動き易くていいね。


 脱衣所の方を見るけれど、3人はまだ着替えているようだった。


(みんな、髪も長いしね)


 乾かすのにも時間と手間がかかるのだろう。


 僕も濡れ髪をタオルでこすりながら、自分のベッドに腰かける。


「…………」


 実はここには、僕1人ではなかった。


 目前のベッドには、あの魔物から人間に戻った女の人が眠っている。


 褐色の肌をした20~25歳ぐらいの女性。


 髪は、癖のある長い赤毛。


 ずっと寝ているので、目の色はまだわからない。


(…………)


 タオルを動かす手がゆっくりと止まり、僕の青い瞳は、その寝顔を見つめてしまう。


 起きる気配はない。


 ……いつ目が覚めるのかな?


 なんだか落ち着かない気分。  


 その眠り姫の寝顔を見ていたら、なんだか懐かしい気分になってしまった。


 もう半年以上も前、アルドリア大森林・深層部の塔で、『命の輝石』で助かったイルティミナさんの目覚めを待っている時を思い出したんだ。


(ちょっと似ている状況だよね)


 僕は、小さく笑ってしまう。


 あの時は、イルティミナさんがエルフさんじゃないか確かめようと、髪を触って耳の形を確認してた時、目が覚めたんだ。


「…………」


 僕はつい、あの時と同じように小さな指を伸ばした。


 耳のそばの赤毛に触れる。


 細い髪には癖があって、僕の指に柔らかく絡みついた。


 サラ……ッ


(うん、エルフさんじゃないね)


 耳は、やっぱり人間のそれだった。


 手を離す。


 赤毛の髪はこぼれ落ち、けれど、閉じられたまぶたは開かない。


 やっぱり駄目か。

 いや、そんな簡単に目覚めるとは思ってなかったけどさ。


 僕は苦笑しながら、吐息をこぼした。


 そして、自分のベッドに座り直して、またタオルで髪をこする。


 その時、数秒だけタオルで視界が隠れた。


 ギシ……ッ


(ん……?)


 隠れたタオルの奥で、ベッドの軋む音がした。

 はて?


 タオルをずらす。


 女の人が、ベッドの上で上半身を起こしていた。


(……は?)


 思いがけない出来事に、僕は固まってしまった。


 うつむき加減の美貌。


 そこにあるのは、開かれたまぶたとその奥にある瑠璃色の瞳。


「…………」

「…………」


 硬直している僕の目の前で、美しい赤毛の髪が、その肩からこぼれ落ちる。


 ――魔物から人へと戻った眠り姫は、3日間の長い眠りから、今、ようやく目を覚ましたのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


おかげ様で体調の方は、だいぶ回復しました。ご心配をおかけして、すみませんでした。

ただ執筆できない時間が多かったので、ストックが全然足りていません……(汗)。なので、もう少しだけ週一更新にさせて下さいね。

長引かせてしまって、本当に申し訳ありません。どうか、よろしくお願い致します。


※次回更新は、来週の金曜日8月9日0時以降を予定しています。

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