178・白印のマール
第178話になります。
よろしくお願いします。
翌日、僕は、冒険者ギルドの4階に来ていた。
この階は、事務室なので、ギルド職員さん以外、基本的に立ち入り禁止の場所である。
前にも一度、来たことがあったけれど、その時は、この冒険者ギルド『月光の風』の冒険者登録をするためだった。
そして、その時と同じように、僕は今、仕切りのある応接用の一角に座っていて、僕の前には、あの赤毛の獣人クオリナ・ファッセさんが座っている。
「マール君、緊張しなくていいからね~」
「はい」
こちらの緊張をほぐそうと、明るい笑顔で接してくれている。
彼女は、艶やかなポニーテールを揺らしながら、目の前のテーブルの上に、何枚かの書類を置いた。
「これとこれと……あとはこれ」
ドン
最後に、直径30センチぐらいの魔法球が置かれて、重そうな音を立てた。
「さぁ、この誓約書とかの必要書類に署名して、こっちの魔法球に登録すれば、マール君は晴れて『白印』の冒険者だよ!」
なぜか嬉しそうなクオリナさん。
「はい」
僕は頷いて、一生懸命に書類に名前を書いていく。
(……これだけ数があると、大変だよね)
何枚も書いていると、だんだんと字が適当になってくる。
気をつけないと。
せっせと書き終えると、クオリナさんが1枚1枚、しっかりと確認してくれる。
その間、僕は、なんとなく周囲を見回した。
この階には、ギルド職員さんばかりで、みんな書類仕事に勤しんでいる――まるで前世でいう会社のオフィスみたいだ。
電話がないので、代わりに、宛先のあるボックス棚に書類が放り込まれている。
(あとで配達するのかな?)
他には、仕切りのある離れた席で、新人らしい若い男女が数人、冒険者登録を行っていたりする姿もあった。
懐かしいなぁ。
ほんの半年だけど、ちょっと微笑ましく眺めてしまう。
「はい、問題ないね」
クオリナさんの声で、我に返った。
トントン
書類を整え、クリップで固定すると、
「じゃあ、この魔法球に右手を当ててくれる?」
「はい」
ペタン
魔法球の表面は、とても滑らかで、少し冷たかった。
同じように、クオリナさんも魔法球の反対側に手を当てて、
「『月光の風』のギルド職員クオリナ・ファッセが見届ける。ここに、新しき風の輝きを認めよう」
ポウッ
魔法球が光った。
クオリナさんが手を離す。
「そのままジッとしててね」
「はい」
魔法球の光が、触れている僕の右手に集中する。
皮膚を通して、光が見えている。
手の甲には、自然と『赤い冒険者印』が浮かび上がった。
(……あ)
その輝きが、赤から青、そして白へと変わっていった。
魔法球の光が消える。
でも、僕の手の甲には、真っ白な輝きの魔法の紋章が、まだ光を放っていた。
「…………」
思わず、魅入ってしまう。
パチパチパチ
不意に、たくさんの拍手が聞こえた。
「おめでとう、マール君! これでもう、君は『白印の冒険者』だよ」
クオリナさんが笑っていた。
いや、それだけじゃない。
この階にいるギルド職員さんたちが、みんな仕事の手を止めて、こっちに拍手を送ってくれていた。
…………。
僕は、それほど冒険者ランクに興味を持っていなかった。
いなかったんだけど、こうして祝福されると、不思議と誇らしい気持ちが湧いてくる。
「あ、ありがとうございます」
僕は立ち上がって、クオリナさんたちに深く頭を下げる。
それから、自分の手にある新しい紋章の輝きを見つめて、
(……うん、やっぱり嬉しいな)
つい笑顔をこぼしてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
そのあとは、クオリナさんから『白印』になった上での注意点を教えられた。
まずは仕事の難易度が上がること。
報酬も増えること。
でも、その分、責任も重くなること。
「世間的には、『白印』の仕事ぶりが、その冒険者ギルドの判断基準になるんだよ」
とのこと。
あとは、公共の場での言動とかも、気をつけないといけないんだって。
(ギ、ギルドを背負うって、緊張するなぁ)
小心な僕である。
「あとはね、『白印』から自分の専門分野を名乗れるようになるんだけど、マール君はどれにする?」
(専門分野?)
と驚いたけれど、なんのことはない。
『魔狩人』や『魔学者』などのことだった。
「一応、依頼人に説明し易いからね。ギルドでも、その情報を登録しておいて、紹介する時に活用したりするんだ」
「ふぅん?」
ちなみに、分野は4つ。
・護盾士
護衛や配達など、人々の生活に密着した街中のシティ・クエストを中心にこなす冒険者。
・真宝家
遺跡などの眠った財宝を狙う、トレジャーハンター。マップ作製や罠解除など、特殊技能が必要。
・魔学者
魔法学に関する学者、あるいは研究者。研究で、自分で遺跡に潜る行動型の人もいる。
・魔狩人
魔物を狩ることに特化した冒険者。報酬は一番高いけれど、死亡率も一番高い。
ということなんだ。
(そういえば、冒険者登録した時にも、この話を聞いた気がする)
すっかり忘れてたけど。
クオリナさんは、笑いかけてくる。
「どれにする?」
「魔狩人」
僕は即答した。
だって、魔物を倒すこと以外、やったことないもの。
「そっか。まぁ、キルトさんやイルティミナさんたちと一緒にいるんだから、そうなるよね~」
うん。
「わかった。じゃあ、そう登録しておくね」
そう頷いて、クオリナさんは書類に記入していく。
「もしも向かないと思ったら、あとで変更もできるからね」
「はい」
「あと、専門職以外のクエストも、ちゃんと受注はできるんだ。もちろんギルドで判断して、受注許可が下りればの話なんだけど」
「ん、わかりました」
頷く僕に、クオリナさんも笑って頷いて、
「じゃあ、これでマール君の『白印』昇格の手続きは無事、終了です。お疲れ様でした」
「はい」
「それと、本当におめでとう、マール君!」
「あ、ありがとうございます」
明るい満面の笑顔に、ちょっと照れる僕である。
そんな僕に、クオリナさんは、その翡翠色の瞳を細めて、
「でも、あっという間に、追いつかれちゃったねぇ。まさか半年で『白印』になるなんて、私も思いもしなかったよ」
と苦笑する。
冒険者を引退する前のクオリナさんは、『白印』だった。
「でも、誇らしいな。私の担当した子が、こんなスピード出世して。同期にも自慢できるよ」
「そう?」
「うん。ちなみに2番目の最速記録だよ」
「……1番は?」
「うん、キルトさんの4ヶ月」
あはは……。
(あの人は、本当に規格外だなぁ)
乾いた笑いが漏れる僕だった。
それから、クオリナさんは、報酬と危険度も上がるということで、保険ギルドの新しい保険もお勧めしてくれた。
「保険ギルドと提携してるから、ランクアップした人には紹介しなきゃいけないんだ~」
と苦笑して、教えてくれた。
僕も苦笑いしながら、素直に、クオリナさんのお勧めする保険にすることにした。
これで少しでも、クオリナさんの点数になればいいなと思った。
こうして、僕の手続きは全て終了した。
◇◇◇◇◇◇◇
「おかえりなさい、マール!」
「戻ったか」
「おかえり~」
ギルド4階から3階にある宿泊施設、そのキルトさんの部屋へと移動した。
そこでは、パーティー仲間の3人が笑顔で迎えてくれる。
(わ、凄い料理!)
テーブルには、豪勢な料理たちが所狭しと並んでいる。
(なるほど、ソルティスも笑顔だったのは、これで上機嫌だったからだね?)
納得である。
そんな僕を、イルティミナさんはギュッと抱きしめると、すぐに僕の前で、膝を床についてしゃがんだ。
「手続きは、無事に終わりましたか?」
「うん」
僕は笑った。
彼女は僕の右手を、恭しく持ち上げると、
「見せて頂いても?」
もちろん。
僕は頷くと、体内にある魔力を右手へと集中させていく。
ポゥ……ッ
純白に輝く魔法の紋章が、手の甲に浮かび上がる。
「……まぁ」
白く照らされるイルティミナさんの美貌が、感動したように目を見開いた。
「ほほう?」
「ふ~ん?」
いつの間にか、キルトさんとソルティスも近くに来て、イルティミナさんの左右から僕の手を覗き込んでいる。
(ち、ちょっと恥ずかしいな)
照れる僕の右手を、イルティミナさんの綺麗な指は、何回も撫でていく。
それから真紅の瞳は、僕の顔を見つめて、
「おめでとうございます、マール」
…………。
その嬉しそうな笑顔に、胸の奥がギュッとなった。
「うん」
今度は僕から、イルティミナさんの首に両手を回して、抱きしめてみる。
彼女は、びっくりした顔をした。
「マ、ママ、マール?」
「…………」
「あ、あの?」
「……ありがと、イルティミナさん」
絞り出すようにして、何とか言えた。
「…………」
イルティミナさんは、また驚いた顔をして、それから、優しく僕を抱きしめ返した。
「……はい」
甘く微笑み、白い指で髪を撫でられる。
キルトさんとソルティスは、顔を見合わせて、苦笑する。
「ほれ、料理が冷めてしまうぞ?」
「早く食べましょ?」
キルトさんの手が僕らの背中にポンと置かれ、ソルティスは、小さな両手を腰に当てて急かしてくる。
「うん、そうだね」
「はい」
僕とイルティミナさんは笑って、手を繋ぎながら、料理の並んだテーブルへと向かった。
とても楽しい時間だった。
そうして、その日から、僕は『白印の魔狩人』マールになった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
この第178話を更新する直前に、レビューを頂きました!
暮伊豆さん、本当にありがとうございました!
またいつも読んで下さっている皆さんにも、感謝です。
いつも本当にありがとうございます!
それと、もしよかったらなんですが、下の評価ボタンを押して頂けると、なお嬉しいです(笑)。
作者として本当に励みになります。
もしよかったら、応援してやって下さいね~。
(すみません、一度、こういう文章を書いてみたかったんです)
すでに押して下さっている方は、本当にありがとうございました!
とても勇気をもらえています。
そして、これからも精一杯、頑張りますね~!
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




