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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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117・黒と白の領域

第117話になります。

よろしくお願いします。

「――遅かったから心配したぞ。何かあったのか?」


 水面に顔を出すと、穴の縁でキルトさんが待っていてくれた。


 両手が伸ばされ、僕とソルティスがその手を掴むと、この子供2人の身体は、床の上へと軽々引き上げられる。


「はぁ、はぁ」

「ふぅ~」


 遅れた理由を答えたかったけど、呼吸が整うまで、待っていてもらう。


(か、身体が重いな)


 ずっと水の中にいたせいか、浮力が消えた途端、思わず床の上に座り込んでしまった。


 見回すと、出口の先にあったのは、遺跡の一室だった。


 壊れたテーブルにたくさんの椅子、空っぽの棚――入口の部屋と同じような構造の、黒い石の部屋だ。


 部屋の中央では、その椅子などを薪にして、焚き火が行われている。


 先行していたラプト、レクトアリス、ダルディオス将軍は、暖を取りつつ、濡れた服を乾かしていた。


 ようやく落ち着き、キルトさんと話そうとしたら、


 ザパァ


 水面が揺れて、2人のお姉さんたちも顔を出した。


「フレデリカさん、イルティミナさん!」


 僕は、重い身体を立ち上がらせ、手を伸ばす。


「無事だったか、マール殿、ソルティス殿」

「うん」


 笑ったフレデリカさんが、僕の手を掴む。


 僕は両足を踏ん張り、黒騎士のお姉さんを床の上へと引っ張った。鎧と背嚢リュックの重量がある分、結構な重さがある。情けないけど、最後はフレデリカさん自身の力で登ったような感じだった。


 イルティミナさんの方は、その妹が引っ張り上げている。


「…………」


 床上に登った彼女は、なんだか恨めしそうに、僕とフレデリカさんの繋いでいる手を見ていた気がした。

 あはは……。


 2人とも、当たり前だけれど、全身濡れている。


 そのせいで、イルティミナさんとフレデリカさんの綺麗な髪は、焚き火の炎に艶やかに輝いていた。2人の濡れた前髪をかき上げる仕草は、なんだか大人っぽくて、少しドキドキする。


 それを隠して、僕はフレデリカさんに声をかける。


「さっきはありがとう、フレデリカさん。おかげで助かったよ」


 隣のソルティスも、小さな声で言う。


「……あ、ありがと、フレデリカ」


 人見知りだからか、ちょっと照れ臭そうな顔だった。

 黒騎士のお姉さんは、優しく笑った。


「気にするな。私の任務は、貴殿らの護衛だ。2人が無事ならば、よかった」


 フレデリカさん……。


 なんだか、胸が熱くなる。


 と、キルトさんが困った顔をしていたので、僕はようやく、水中にいた触手生物にソルティスが殺されかかった事実を教えてやった。説明を聞き終えた彼女は、とても驚いた様子だった。 


 すぐに表情を改め、キルトさんは、僕らの恩人へと深く頭を下げる。


「すまぬ。そなたのおかげで助かった」


『金印の魔狩人』に頭を下げられ、フレデリカさんは少し驚く。

 すぐに首を振った。


「いや。今も言ったが、私は任務を果たしただけだ。……それにメデューサ戦では、不覚を取ってしまった。その失態を、少しでも取り戻せたのならよかったと思う」


 そして彼女は、『銀印の魔狩人』の方を見る。


「あの時、助けてもらった借り、これで少しは返せただろうか?」

「充分です。2人を助けてくれて感謝します、フレデリカ」


 イルティミナさんは、はっきりと頷き、答えた。


 それを聞いたフレデリカさんは、嬉しそうだった。


(……メデューサに石化されたこと、ずっと気にしてたのかな?)


 彼女は、とても責任感が強そうだ。


 キルトさんやダルディオス将軍、イルティミナさんに比べて実力の劣る彼女は、自身のことを、足手まといになっているのではと心配していたのもしれない。


 いや、実際は、僕よりずっと実力ある人なんだけどね?

 比べる3人が異常だから……。


 でも、だから今回役に立てたことで、フレデリカさんは安心したのかもしれない。


「フレデリカさん、あっちに焚き火があるから、暖まろ?」

「あぁ、そうだな」


 呼びかけると、彼女は、曇りのない笑顔で頷いた。


 うん。

 改めて、この人は、本当に魅力的な女の人だなと思った。


 僕とフレデリカさんは一緒に、ラプトとレクトアリス、ダルディオス将軍が待っている焚き火の方へと歩きだした。


「わ、私も行きますよ、マール」


 イルティミナさんが、ちょっと慌てたように追いかけてくる。


 キルトさんとソルティスが顔を見合わせ、小さく苦笑してから、僕らのあとに続いた。


 ――こうして僕ら8人は、無事に、水没した地下通路を抜けたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは、焚き火で冷えた身体を温め、濡れた服を乾かしていく。


 装備も外して、布で丁寧に拭いた。


 その間、見張りは、先に暖を取っていたラプトとレクトアリス、ダルディオス将軍がしてくれた。


「装備の手入れは、冒険者にとって何よりも大事ですからね、マール?」

「うん」


 イルティミナさんに頷き、僕は、手を動かす。


 特に『妖精の剣』を水中で抜いてしまったので、刃に水滴が残らないようにする。鞘にも水が入ってしまったから、ちょっと大変だった。


「風の魔石を使うと、楽ですよ?」


 イルティミナ先生のアドバイス。


 なるほど、言われた通りにすると、風圧で水滴が飛ばされていく。


(こういう使い方もあるんだね?)


 こうしてイルティミナさんに教えてもらっていると、自分がまだまだ新米冒険者なのだと実感する。

 うん、もっと色々と勉強して、がんばらないと。


 やがて、全員の準備が整った。


「よし、では行くぞ」

「うん」

「はい」

「えぇ」


 キルトさんの号令に、僕らは返事をする。


「あぁ」

「うむ」

「はよ、行こうや」

「わかったわ」


 フレデリカさんとダルディオス将軍、ラプト、レクトアリスも頷いた。


 僕は、手入れをしたばかりの『妖精の剣』を空中に走らせる。


「もう一度、僕らの道を輝き照らせ。――ライトゥム・ヴァードゥ!」


 ピィイン


 再び、タナトス魔法の光鳥たちが呼び出される。


 その輝きに照らされた僕ら8人は、休憩をしていた部屋を出ると、この闇に包まれた『大迷宮』の探索を再開した――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 黒い石でできた遺跡の中を、僕らは歩く。


 その黒い壁の中を、時折、赤く光る神文字らしき一文が流れてきては、僕らを照らして、そのまま奥へと消えていく。


(…………)


 思わず、視線で追いかける。


「どうしたの?」


 隣のソルティスが、声をかけてきた。

 僕は答えた。


「いや、この遺跡って400年も前の物なのに、まだ機能を失ってないんだなって思ってさ」

「あ~、そうね」


 頷く少女。


 また赤い光がやって来る。


「…………」

「…………」


 僕らの横顔を、まるで血の色のように赤く照らして、そのまま遠くへ去っていく。

 思わず、2人でそれを見送った。


(……本当に、生きてるみたいだ、この遺跡)


 なんとなく、そう思った。


「ま、気にしてても仕方ないわ。先に行きましょ?」

「うん、そうだね」


 頷き、僕も歩きだす。


(!)


 数歩も行かない内に、僕は足を止めた。


「待って」


 みんなに声をかける。

 全員、不思議そうに僕を見た。


 キルトさんが問う。


「どうした、マール?」

「血の臭い。それと、あの腐ったような臭いがする」


 僕は答えた。


 この先は、道が分かれている。僕の小さな指は、その右側を差した。


「ふむ。……レクトアリス?」

「ちょっと待って」


 第3の目が輝き、


「正解の道も、右ね」

「そうか」


 キルトさんは、僕らを見回した。


「全員、警戒しろ。このまま進むぞ」


 僕らは、神妙に頷き、歩き出す。 


 5分もしない内に、僕以外の皆もわかるほど、血の臭いが強くなった。


 やがて、見えてきたのは、たくさんのアルン騎士の死体だった。


「…………」

「…………」

「…………」


 皆、声がない。


 石化している者、何かにかじられたような者、原型がわからぬほど潰れた者、色々な死体がたくさん、たくさんあった。


(……13人の仲間を10階層へと逃がすため、覚悟の盾となった60人のアルン騎士たちかな?)


 恐らくここで、大量の魔物たちの足止めをしたんだ。


 そして、全滅した。


 黒い床には、血だまりができている。


 中には、分岐する他の通路へと、引き摺られていったような血の跡も幾つか見受けられた。


(……皆さん)


 ギュウ……ッ


 僕は拳を握り、必死に感情を抑える。


 ダルディオス将軍やフレデリカさんも、同じアルンの同胞の悲劇に、ただきつく唇を噛みしめていた。


 僕らは、軽く黙祷する。


 そして歩きだそうとして、『それ』に気づいて、足が止まった。


 クチャ グチュ ビチチッ 


 かすかな音。


 目を凝らすと、通路の先に、黒く巨大な2つの塊がうずくまっているのが見えた。


(――不死オーガっ)


 腐敗した肉体の恐ろしい魔物が2体、そこにいた。


 アルン騎士との激闘があったのだろう、その肉体には無数の剣や槍が突き刺さり、その片方には左腕がなく、もう片方に至っては、右眼から後頭部へと槍が貫通したままになっていた。


 2体とも、何かに夢中で、まだこちらに気づいていない。


 グチュリ ビチュッ


 湿った音が続いている。


 僕らは気づく。


 奴らは、誇り高きアルン騎士たちの死体を、むさぼり食っていた。


「――――」


 反射的に、僕は『妖精の剣』の柄に手をかけた。


 いや、この場の全員が、己の武器に手をかけていた。


「レクトアリスは、周辺の警戒じゃ。新手が来たら、すぐに教えよ。ラプトとフレデリカは、ソルティスを守れ」


 キルトさんの押し殺した声。


 名前を呼ばれた4人は、頷いた。


「将軍は、わらわと片腕を狙え。一気に片をつけるぞ」

「承知」


 メキッ


 答えた将軍さんの太い腕の筋肉が、一回り膨れた気がした。


「マール、イルティミナ。2人は、それまで片目の相手をせい。無理はするな、時間を稼げ」

「わかった」

「はい」


 僕らは頷き、イルティミナさんが問う。


「倒せるならば、倒しても構いませんか?」

「構わん」


 キルトさんは頷いた。


 イルティミナさんは表面上は、落ち着いて見える。

 けれど、長く一緒にいた僕には、彼女が激しい怒りを感じていることがわかっていた。


 キルトさんもわかったから、許可したんだと思う。


(僕だって、許せないよ……)


 アルン騎士たちの死を汚す魔物たちに、敵意を燃やす。


 奴らは、不死だ。

 食事なんて必要ない存在だ。


 つまりあれは、人間の死体を玩具のように弄くり回して、壊して遊んでいるだけだった。


「行きますよ、マール」

「うん、イルティミナさん」


 彼女と呼吸を合わせる。


「よし、行くぞ!」


 キルトさんの声に弾かれて、僕ら4人は一斉に、あの不死のオーガたちへと襲いかかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その戦闘は、呆気ないほど短時間で終わった。


「…………」


 僕の目の前には、手足と頭部が切断された不死オーガが転がっている。


 その中央に立っているのは、白い槍を手にしたイルティミナさんと、3人の光る女たち――彼女たちの髪は、迷宮の風に長くたなびき、そして光の女たちは、無数の光の羽根へと分裂して、消えていく。  


 戦闘開始時、僕とイルティミナさんは、キルトさんの指示通りに、頭部に槍を貫通させた片目の不死オーガを狙った。


 先行したのは、僕。


 迎撃しようとした巨腕に対して、僕は、カウンター剣技で、その腕を斬り飛ばしてやった。


 同時に、


「――羽幻身うげんしん・白の舞」


 イルティミナさんの槍の魔法が発動し、紅い魔法石から、無数の光の羽根が吹き出して、彼女の分身のような3人の『槍を持った光の女』たちを創りだす。


 宙を舞うそれらは、痛みを感じず、僕へと追撃しようとしていた片目の不死オーガのもう1本の腕と両足を切断する。


 思わず、その輝きに目を奪われる僕。


 そして、


「――シィ」


 それらの中で、一番美しいイルティミナさん自身が僕の頭上を跳躍して、不死オーガの頸部に白い槍を振るった。


 ズズゥン


 五体バラバラにされて、不死オーガは地に落ちる。


 そして、その死体の中央に、美しい彼女たちは着地をしたのだった。


(……強い)


 あまりの出来事に、僕は、ちょっと呆然自失だった。


 消えていく光の羽根の中を、美しい『銀印の魔狩人』は、こちらへと落ち着いた足取りでやって来る。

 その足元では、紫の血液の中で、不死の腕や足がいまだに蠢き、その頭部の口が無念そうに開閉を繰り返している。


 美しさと凄惨さの混じった空間で、彼女は、僕の頬に白い手を触れさせて、


「大丈夫でしたか、マール?」


 その声と頬の感触で、我に返った。


「あ、うん」

「それなら、よかった」


 安心したように笑う。


 それは、いつものイルティミナさんの笑顔だ。

 でも、


「……イルティミナさん、僕と初めて会った時よりも、ずっと強くなってない?」

「おや、そうですか?」


 本人に自覚はないようだ。


(だって、不死のオーガを、こんな簡単に……)


 それは、かつて刺青の男が変身したオーガを、あの『金印の魔狩人』が圧倒していた時にそっくりで……。


 あ、ほら、後ろで見ていたソルティスやフレデリカさん、『神牙羅』の2人も、あまりの彼女の強さに唖然としているじゃないか。


 僕の頭を、彼女は撫でる。


「もしそうなら、それはマールのおかげですよ」

「…………」

「貴方がそばにいてくれると、私は不思議と力が湧いてくるんです。……それに、マールに置いていかれないようにと、私も日々がんばっていますからね」


 いや、むしろ置いていかれているのは、僕の方だ。


(も、もっとがんばらないと!)


 ちょっと焦る僕だった。 


 そんな会話をする僕らの一方で、キルトさんとダルディオス将軍の方も、すでに片腕の不死オーガとの決着をつけていた。


 ダルディオス将軍が囮となり、正面から戦う。


 その隙に、キルトさんが背後から大剣を突き刺し、『鬼剣・雷光斬』で腐った体内にあるガスに引火、その不死オーガの肉体を爆散させたのだ。


「ワシを肉片まみれにしおって!」

「いや、不可抗力じゃて」


 そんな会話をしている辺り、向こうも余裕の結果だったようだ。


 そして将軍さんの剣幕に、片手で耳を塞いでいたキルトさんは、ふとこちらを見て、


「……ふむ。本当に強うなったの、イルナ」


 その瞳を優しく細めて、どこか感慨深そうに呟きをこぼしていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「不死オーガは、その腐った肉体ゆえに、爪や牙には毒素があります。普通のオーガと比べても、攻撃を食らうことがより危険な状況になるのです。また体内のガスを、口から毒ガスとして吐くこともあります」


 へ~、そうなんだ?


「不死オーガは、毒攻撃をする。そう覚えておいてくださいね?」

「うん、イルティミナさん」


 歩きながらのイルティミナ先生の講義に、僕は大きく頷いた。


 あれから、僕ら8人は、すぐに場所を移動した。


 第3の目で周囲を探査していたレクトアリスが、「今の騒ぎで、近くの魔物が集まってきてるわ」と警告してくれたからだ。


 この周辺には、60人のアルン騎士を全滅させるほどの量の魔物がいる。


 先のことを考えたら、できる限り戦闘は、避けたかったのだ。


 そうして僕らは移動を続け、ついに12階層へと下る階段を見つけた。


(…………)


 オォオォォオオ……


 相変わらず、階段の奥には、吸い込まれそうな闇がある。


 そして、この先に向かった195名のアルン騎士の精鋭たちは、ただの1人も戻ってこなかったのだ。


 生きているのか、死んでいるのかも、定かじゃない。

 

 確実にわかっているのは、この先には、僕らにとって今まで以上に危険な何かが待っているという事実だけだ。


 ゴクンッ


 誰かが唾を飲んだ。


 恐怖がないわけじゃない。

 でも、それを上回る使命感と闘争心、何より仲間への信頼感が、僕の心を支えてくれていた。


「皆、覚悟はいいな?」


 キルトさんが問う。


 僕らは、彼女の目を見て、頷いた。

 それに彼女も笑う。


「よし、行くぞ!」


(おう!)


 心の中で叫びを返し、そうして僕らは、1段1段、未知なる12階層への階段を降りていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(なんだ、ここ……?)


 12階層に下りた僕らは、全員、呆然とした。


 白い。


 壁も柱も、大理石のように美しい白い石で造られ、それらは光鳥の輝きに照らされて、眩いばかりの白い光を放っている。


 通路も何もない、ただただ純白の空間。


 ドーム球場ほどもある広さの、そんな白い空間が、やって来た僕ら8人を出迎えていた。


 ヒィィン


 時折、白い石の中を、赤く光る神文字が走り抜ける。そこだけは変わらない。


「なんだか、明るすぎて、目が痛いわ」

「うん」


 今までの黒の空間に慣れた僕らには、少々きつい。


 やがて目が慣れ、皆、周囲を見回す。


「ここは、神殿なのでしょうか?」


 イルティミナさんの呟き。


 そう思えるぐらい、壁や柱の装飾は美しく、緻密でありながら、厳かな雰囲気であった。

 でも、


(……血の臭いがする)


 それも大量の。


 見た目が、神聖で神秘的な分、そのギャップは凄まじい違和感となって、僕を襲ってくる。


 思わず、顔をしかめながら、歩いていく。


 広がる白の神殿、その正面には、巨大な像があった。


(……聖騎士の像?) 


 そんな印象を感じる、背中に4枚の翼を生やした3メードほどの立派な騎士像だった。


 その左右には、人間と同じ大きさの、けれど、背中に2枚の翼を生やした騎士の像が3体ずつ並んでいる。


 それらは皆、聖剣のような神々しい剣を高々と掲げていて、


「……おい」


 ダルディオス将軍が、低く呟いた。


 その純白の剣の先端は、7本全て、赤い液体によって濡れていた。


 ポタ ポタ……


 乾ききらない血液が、床に落ちる。


 つまり、この剣が『何か』を斬り裂いてから、それほどの時間は経っていないということだ。


 ――『何か』。


 それは、いったい何だというのか。


(…………)


 恐らく、この長い年月の果て、直近にここを訪れたのは、『彼ら』しかいないはずだ。


 即ち、いまだ戻らぬ、195名のアルン騎士。


 よく見れば、翼を生やした純白の騎士像たちの各部には、小さな血痕が散っている。


「……警戒せい」


 キルトさんの警告を聞くまでもなく、僕らは、眼前にそびえる騎士像たちに全神経を尖らせている。

 この像が動く可能性を、皆が思い描いている。


(……来るなら、来い)


 僕の手は、とっくに『妖精の剣』の柄にあった。


 その時、


 ヒィイイン


 真っ白な壁と床を走ってきた赤く輝く神文字が、4枚の翼を生やした中央の騎士像の頭部に到達する。


 瞬間、波動のようなものが、白の空間中に広がった。


「うっ」

「……ぐっ」


 思わず、吹き飛ばされそうになるのを、皆、堪える。


 そして、騎士像の兜の面、その視界を得るためのスリットの向こうに、眼球のような赤い輝きが1つだけ灯った。


 ヴォン ヴォオン


 それは左右に動き、まるで僕らを見ているようだった。


(……凄い『圧』っ! なんだ、この像!?)


 肌が泡立つような感覚。


 神文字の赤い輝きによって、まるで4枚の翼を生やした騎士像には生命が宿ったようだった。


 8人全員、動けない。


 いつでも武器を抜ける状態にしておきながら、けれど、手を出すことがどれほど危険か、その『圧』によって嫌というほど感じさせられている。


 沈黙は、10秒ほど――そして、


『――汝ら、神の証を我に示せ』


 神々しい4枚の翼を生やした聖騎士像は、感情のない、だからこそ美しく厳かな声を、この白の空間に響かせた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新なのですが、色々とありまして、更新を1回休ませて頂き、来週の水曜日にさせて頂きたいと思います。また更新する時間も日中になりそうです。

楽しみにしてくださっている皆様には、本当に申し訳ありません。

どうか、よろしくお願い致します。


(詳しい理由などは活動報告に書いてあります。大した内容ではありませんが、もし興味がある方は、そちらをどうぞ、ご覧くださいね)

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