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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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111/825

111・灰色のコールウッド遺跡

転生マールの冒険記を読んで下さって、ありがとうございます。


先日、一時的なのですが、


『日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング、57位』

『総合・日間ランキング、216位』


という順位まで、最高でランキング入りがすることができました。

皆さん、本当にありがとうございました。


現在は、すでにランキング外となっていますが、作者として夢のような時間を過ごせて、とても幸せでした。


これを励みに、これからもまた、自分なりに精一杯がんばっていこうと思います!


それでは、本日の更新、第111話になります。

どうぞ、よろしくお願いします。

 神帝都アスティリオを出発して2日目の夜、僕らはついに、目的地である『大迷宮』へと到着しようとしていた。


 窓の外は、生憎の雨だ。

 窓ガラスには、大粒の雨が絶え間なく、ぶつかっている。


「嫌な天気ね」

「うん」


 ソルティスの呟きに、頷く僕。


 現在、20台以上の竜車の群れは、樹海の中を進んでいた。

 この樹海の奥に、『大迷宮』があるそうだ。


 ガタゴト……


(ん……?)


 長時間、悪路に揺られた先、ようやく見えてきたのは、樹海の木々を伐採して造られた『野営基地』だった。


 そこには、たくさんの天幕が張られている。


 何本も建てられた魔光灯という照明基の光の中では、大勢のアルン軍兵士が働いていて、基地の周辺には、木の杭で造られた塀やバリケードが建設されていた。


(……先発隊がいたんだ?)


 出発までの半月、現場では、色々な準備がされていたようだ。


 考えたら、この樹海の中、ここまで竜車で来れたのも、彼らが木々を伐採し、道を切り拓いていてくれたおかげだろう。

 なんだか、申し訳なくなってくる。


(あ……)


 そんな野営基地の奥に、大きな崖があった。


 その壁面には、巨大な女神像と、太古の神殿の入り口みたいな構造物が、恐ろしい緻密さで掘られていた。


(あれが……大迷宮?)


 ゴクッ


 思わず、息を飲む。


 夜の闇の中、照明の灯りに照らされる太古の遺跡は、僕の目には、妙に恐ろしく、とても不気味なものに映ったんだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 3人の仲間も、窓の外にある遺跡を、ジッと見つめている。


 やがて、野営基地の中で、竜車が停まった。


「――よし。皆、行くぞ」

「うん」

「はい」

「えぇ、行きましょ」


 キルトさんの号令で、僕らは雨避けのローブを羽織り、竜車の外に出た。


 バチバチチ……ッ


(うわ、凄い雨!?)


 ローブの上からでも、かなり衝撃がある。


 聴覚のほとんどが、激しい雨音に奪われて、強い湿気も、少なくない不快感を与えてくる。靴の下半分は、すでに、ぬかるんだ土の中だ。


(お……?)


 隣に停まった、巨大な黒い竜車。


 そこから、ダルディオス将軍とフレデリカさん、ラプトとレクトアリスの『神牙羅』2人が、梯子を下りて、同じ雨の世界に足を踏み入れる姿があった。


 それを見ていると、


「皆様、お疲れ様です。どうぞ、こちらへ」


 野営基地の兵士が1人やって来て、敬礼すると、僕らを、1番大きな天幕へと案内してくれた。


 将軍さんたちの下にも、別の兵士が向かっている。


(おぉ、広い……)


 その天幕の中は、30畳ほどの広さがあった。


「ふぅ」

「やれやれじゃな」

「ですね」


 脱いだローブからは、ポタポタと大量の水滴が落ちていた。


(ほんの一瞬だったのに、びっしょりだ)


 少し遅れて、将軍さんたちも、天幕に入ってくる。


 天幕の中には、黒い軍服姿の5人のアルン兵たちと、ここの指揮官らしい片目に眼帯をした初老の騎士さんがいた。


「ようこそ、将軍」

「久しいな、バーランド!」


 顔見知りだったのか、2人は、熱い握手を交わす。


 天幕には、大きな長テーブルを囲んで、たくさんの椅子が並んでいた。促された僕らは、そこに腰を落ち着ける。


「どうぞ」


 女性の兵士さんが、熱いお茶を用意してくれた。


 ズズッ


(美味しい……)


 知らない内に、身体が冷えていたようだ。お腹から広がる熱が、心地好い。

 みんな、僕と同じような表情だ。


 ただ、神饌しか口にしないラプトとレクトアリスは、お茶を飲まずにいたけれど。


 やがて、皆が一息ついたのを見計らって、


「して、バーランド? 状況はどうなっている?」


 ダルディオス将軍が、武人の顔と声で、指揮官である隻眼の老騎士に訊ねた。

 彼は、重々しく頷き、


「はっ、ご説明いたします」


 僕ら全員を見回すと、現場の情報を教えてくれた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 バーランドさん率いる先発隊が、ここに現地入りしたのは、実は、3ヶ月以上も前だという。


(……僕らが、まだシュムリア王国を出発する前なんだ?)


 当時、シュムリア王国のレクリア王女が神託を授かったように、アルン神皇国でも、聖女や神職者の何人かが、神々からの神託を受けていた。

 そして、ラプトとレクトアリスが発見、保護されると、集めた『神武具』が死んでいることが判明し、『大迷宮の探索』が計画された。


 それが、3ヶ月前になる。


 ようするに、僕らはその計画の終端に、たまたま参加させてもらえたということのようだ。


 現地入りした先発隊は、樹海の木々を伐採しながら、『大迷宮』までの道を確保し、野営基地を建設する。

 同時に、周辺に生息する魔物の駆除も、行われたという。


「確認されたのは、ゴブリン、オーク、トロールなどでした。現地入り当初は、しばらく野営基地への襲撃もありましたが、全て撃退に成功。現在は、3交代制による警戒態勢を維持しております」

「結構」


 バーランドさんの報告に、ダルディオス将軍は頷く。


 今後は、ここまで精兵300名を護衛して来てくれた、アルン騎士200名も加えて、野営基地の警備をすることになった。


 雨の降る天幕の外、遺跡の方を、バーランドさんは唯一の瞳で見ながら、


「遺跡入り口の瓦礫撤去も、すでに完了し、必要な物資も搬入済みです。いつでも、突入は可能になっております」

「うむ、そうか」


 将軍さんは、頷く。


「では、明朝より、作戦を開始しよう。――本日は、しっかりと休むよう、全員に伝えてくれ」

「はっ」


 バーランドさんの指示で、天幕内の兵士が1人、外へと走っていく。


(ついに、明日かぁ)


 緊張が、心に宿っている。

 キルトさんやイルティミナさん、ソルティスも、同じような表情だ。


 その時、


「……コールウッド様の遺跡か。こりゃ、一筋縄ではいかんな」


 ラプトが、不意に呟いた。


(……コールウッド?)


 聞いた僕の胸に、さざ波のようなアークインの感情が湧いた。

 これは、不安?


 物知り少女が、驚いたように反応する。


「コールウッドって、もしかして『灰色の女神』のこと?」

「せや」

「知っているのですか、ソル?」

「まぁ、一応ね」


 姉の問いに、頷く妹。


 灰色の女神コールウッド。


 神様というのは、必ずしも、人間の味方となるような善の存在ばかりではない。悪とは呼べないが、人間のことを歯牙にもかけぬ神様たちも存在していて、その代表として、よく名前に上がるのが彼女の名前だそうだ。


 気紛れに人を助け、気紛れに人を見捨てる――そんな享楽の女神様。


 黒ではなく、けれど、白でもない。


「だから、灰色」


 自己愛や欲望の女神として、現在は祀られているけれど、信奉者には、罪人も多いとか。


(……もしかして、アークインも苦手だったのかな?)


 落ち着かない自分を宥めるように、僕は、片手で胸を押さえる。


 ラプトが表情をしかめて、 


「あの方は、ワイら眷属に対しても、自分を楽しませる道具みたいに思てる節があるんや。……あの遺跡にも、ワイらを困らせるような仕掛けが、きっと仰山あるはずやで?」

「そうね。……できれば、私も、あの遺跡に入りたくはないわ」


 レクトアリスも、暗い声で、そう付け加える。 


(…………)


 この2人が、そんなことを言うなんて。


 天幕内の空気が、重くなる。


「あの……前に『大迷宮』へと調査隊が入ったんですよね? 遺跡内の情報は、何かないんですか?」


 僕は、必死に訊ねた。

 フレデリカさんが迷ったように、隻眼の老騎士を見る。


「こちらのバーランド殿は、かつて、調査隊の一員であったそうだが……」

「え?」


 そうだったの?


 思わず、全員の視線が、彼に集中する。


 しばしの沈黙。

 やがて彼は、閉じていた片目を開いて、重そうに口を開いた。


「第2次調査隊に、参加しておりました」


 おぉ。


「この『大迷宮』の調査は、20年前より2度、実施されております。しかし、どちらの調査隊も、残念ながら壊滅いたしました」

「――――」


 空気が凍った。


「1度目の調査は20年前、調査隊は30名でした。しかし、生き残った者は、たった1名。その人物も、精神衰弱が激しく、数ヶ月後に自死しております」

「…………」

「自分も参加した、第2次調査隊の調査が行われたは、その5年後」


 ザアア……


 雨音が強くなった。

 天幕内には、その片目の老騎士の声だけが響く。


「調査隊の人員は、100名と大規模でした。しかしながら、生き残ったのは12名。その内、5名は発狂状態で、救助されました」


 彼の手が、眼帯に触れる。


「……この目も、その折に」


 ガガァアン


 近くに落雷があったようだ。

 世界が白く染まり、また闇に包まれる。


 雨音だけが、うるさいぐらいに続いている。


「自分が負傷したのは、まだ浅層である10階層でした。しかし、そこまでの道中には、罠も多く仕掛けられており、また遭遇したのは、骸骨王、不死アンデッドオーガ、石化の魔蛇女(メデューサ)などで、それらの魔物が、普通に徘徊している状況でした」

「…………」

「無事に生き残った者は、自分のように負傷し、早期に遺跡を出た者のみです。発狂した5名は、更に奥の階層まで進んだようですが、何があったのかまではわかりません」


 全員、しばらく言葉がなかった。


 やがて、キルトさんが腕組みをしながら、大きく息を吐く。


「なかなか、手強そうな遺跡じゃの」

「……そうですね」


 銀印の魔狩人も、静かに頷いた。


「…………」

「…………」


 僕とソルティスは、お互いの顔を見る。


 顔色が悪い。

 きっと、僕も同じなんだろう。


 ダルディオス将軍は、淀んだ何かを吹き飛ばすように、大きな声で言った。


「しかし、やらねばならん!」

「…………」

「人類のためにも、この3人の『神の子』らに『神武具』を与えねば、未来には絶望があるのみだ!」


 僕らは、頷いた。

 ダルディオス将軍も頷きを返して、そして笑った。


「まずは皆、ゆっくりと休み、英気を養おうぞ? 戦いは、明日からだ」


 うん、そうだね。


 そうして、その場は解散となった。


 キルトさんは残って、ダルディオス将軍やバーランドさんと、もう少し話をするという。


 なので、僕と美人姉妹は3人だけで、兵士さんに案内されて、僕らのための天幕へと向かった。

 天幕の中には、寝袋があるだけだった。


 ソルティスは、1人、先に寝袋の中に潜っていた。


「マール」


 イルティミナさんは、寝袋を使わず、自分のリュックから毛布を出して、僕を招いた。

 僕は素直に、その腕の中に抱きしめられる。


(……あぁ、温かいなぁ)


 彼女の匂いが、体温が、とても安心感を与えてくれる。


 ザアアア……


 天幕を叩く雨音は、まるで止む気配を見せない。

 外の世界は、灰色だ。


(……灰色の女神、か)


 一瞬だけブルリと震えて、そうして僕は、イルティミナさんの身体にしがみつくと、きつくまぶたを閉じるのだった――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


本話より『大迷宮』編です。

ホラー映画っぽい不気味さを、少しでも感じて頂けたのなら幸いです。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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