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A面 知らざるを知らずと為す是知るなり

 美月が人込みに苦労しながら予約していた筐体端末があるノースファクトリーのブースを目指していた頃には、先行していた麻紀は既にゲームプレイを行っていた。

 麻紀が選んだ初期種族はランドピアース。

 故あって人死に強烈なトラウマを持つ麻紀にとって、宇宙開発戦争を舞台にしたゲームとしての面を大きく持つPCOにおいて、戦闘がメインとなる種族はあり得ない選択だった。

 いくつかの候補があったが、その中でもランドピアースに引かれたのは麻紀が理想とする姿をそこに見たからだ。

 傷ついた身体でリアル世界に存在するのでは無く、精神体となり仮想世界に住まうという設定が琴線に触れたというのが大きい。

 肉体を持たない種族であるランドピアースにとってリアルの身体とは、搭乗艦その物であったり、製作したサイバロイドボディ。

 機械工作を得意とする麻紀にとっては心身ともにあった種族といえた。

 そんな麻紀が選んだ搭乗艦はランドピアース初期艦の中の一艦種『ホクト』

 ブロック艦と呼ばれる艦種であり、耐久力は一体成形型の船には劣るが、その名の通りブロック構成となった船体を組み替えやすい自由度の高いカスタムが売りになる。

 トレーダー種族であるランドピアースは船一つで、遥か彼方の星々まで出かけ、さらに仕事を選ばないというゲーム内設定に合わせ、改良しやすい、改良の幅が大きいという事らしい。



「最大加速から右ターン!」



 エンジンブロックと直繋ぎされた重力可変スラスターユニットが最大稼働。

 艦周囲の物理法則を変化させ、艦全体に掛かる前向きの重力を生みだして艦を最大船速へと一気に加速させる。

 周辺情報を確認しターン目標とする一際明るい恒星に目星をつけ法則変換スラスターを方向転換モードで操作。

 艦全体にかかる負荷値を詳細観測しながら急速方向転換。

 急激に増加する負荷が安全設定値を超えたと警告アラームが鳴るが、それを無視して操艦を継続。

 最大稼働状態で激しく揺れるシートに振り回されながら、コンソールを正確に刻む右手船を操る。 

 星々の光が線となり景色が回る最中も、その高い肉体能力を遺憾なく発揮した麻紀は平衡感覚を失う事も無く、目標方向である恒星を捉え重力推進を再偏向させて、ほぼ垂直のターンを決めた。 

 操作性設定はフリーモード。

 最低限のAI補助のみで己の反射神経と判断能力に全てがゆだねられる代わりに、安全設定を無視した緊急航行が可能となるモードだ。

 急ターンを終えた麻紀はゆっくりと重力制御用スロットルの出力を下げながら、物理スラスターを起動させて速度を落としていく。

 


「通常エンジン巡航出力状態で適当に流しながら、全体の損傷度チェック開始して」



 急激な揺れで三半規管が大きく揺れた所為で吐き気を覚えそうになった麻紀は、最低限の指示だけを出すと柔らかいシートに背を預ける。



「ぅ……この子ならもうちょっと無理なくいけるはずなのに」



 宇宙艦サイズで戦闘機クラスの戦闘軌道を可能とする高機動艦。

 それが今の搭乗艦『ホクト』のコンセプトだ。

 カタログスペックだけなら、この設計で出来るはずだが、気持ち悪くなるほどに揺れたのは、自らの操作がまだ稚拙だからだと自責する。

 ターンを決める際のスロットル操作を、もう少し状況に合わせて調整できれば、艦全体の負荷をもっと押さえられるはずだ。

 それは希望でも思い込みでも無く、計算が生み出す純然たる事実だが、タイミングがシビア過ぎるからこそ超人的な操作が求められる。



「うぅー! あとすこしなのに! あーもう! なんで動かないのよ!」



 どうすれば良いかは判っても、そこに手が届かないもどかしさに麻紀は悔しさを覚える。

 こんな事は生まれて初めてだ。

 小さな時からやろうと思えば、身体は麻紀の思い通りに動いてきた。

 跳び箱だろうが、鉄棒だろうが、前宙、バク宙。全身を使う運動は何でもだ。

 それなのに今は指を動かすだけだというのに、それが出来無い。

 これなら祖父母が5才の誕生日に買い与えてくれたピアノでも真剣に習っておけば良かったか?

 しかしピアノの音よりも、それが鳴る構造に興味があって、すぐに分解してしまった根っからの技術者気質の自分には無理だとすぐに思いだす。


  

「……あーもう! なんで娯楽目的だと規制時間なんかあるのよ! ばっかじゃないの!」



 フルダイブ状態でパルクールに参加していたときはもっと動けたのに。

 あっちなら確実にやれる。その確信があるからこそ、現実の肉体の限界が悔しい。

 仮想世界に希望を抱く麻紀にとって、今のVR規制条例が腹立たしくてたまらない。

 だいたいだ。議論やらなんやらで施行に時間の掛かる法律での規制で無く、手続きが簡略化できる自治体ごとの条例ですぐに規制してきたのが実にいやらしい。

 母の話ではVR規制の流れを望む団体や業界の後押しがあった事も原因だそうだが、なんであんな素晴らしい世界や技術に規制を望むのか理解しがたかった。



「あ、あと1年、ううん。2年早く生まれて来れば! あーでも! そうすると美月と学年が違う!? いやでも……美月が後輩だったら……ん、それは……それで」



 自分の少し上の世代は思う存分VR世界を満喫できたのにと悔しがりかけたが、そうすると親友と学年が違う事に気づき、それはあり得ないと気づき顔を青ざめさせたかと思えば、すぐに後輩の美月に懐かれる自分というあり得ない妄想が脳裏を過ぎったりと、躁鬱のはげしい麻紀らしい錯乱状態に陥りかける。



『マスター麻紀。艦体チェック終了です。またミズ美月よりフライトプランを受信しました。合流地点までの地域情報を収集しますか?』



 初めての壁に鬱屈した精神が暴走しかけていた麻紀を現実世界に戻したのは、補佐AI『イシドールス先生』

 情報収集と簡潔かつ分かり易い分析に優れた情報分析特化AIで、美月と同じくアンネベルグ提供のサポートAIだ。

     


「ん…………コホン。オッケー。美月にメール送って文面は『りょーかい。こっちはもう外に出てるから合流地点にすぐに向かうから』以上。損傷分析レポートを見てるから、情報集めと目的地までのオート操縦よろしく」



 冷静なAIの音声に我に返った麻紀は、一瞬前までの自分の痴態やら妄想を思い返し赤面し、脳内ナノシステムを入れて今やファッションの一部になったモノクル型モニターを直す振りをして顔の火照りを冷ますために手で押さえながら指示を出す。



『はい。オートパイロットに切り変え。恒星間ネットに接続、現地リアルタイム情報の収集を開始します』



 白髭を蓄えた守護聖人の二頭身キャラは、好々爺な笑顔でにこりと微笑み一礼してから己が映っていたウィンドウをレポート画面へと切り変えた。

 醜態を見られたのがAIでよかったと安堵の息を吐きながら、麻紀は早速損傷レポートの詳細を確認し始める。

 泣いても叫いても制限時間は変わらない。

 仮想世界ならば搭乗艦のスペックを最大まで引き出せるからでは満足は出来無い。

 死にトラウマを持つ自分はただでさえ、ゲームに対して強い意気込みを持つ美月の選択肢の幅を狭め負担をかけている。

 いくら非戦闘プレイをメインにしたとしても、いつ自分達が戦闘に巻き込まれるかは判らないのだから、せめて確実に逃げられるだけの操船技術は絶対に必要となる。

 だからあっちなら出来るけど、こっちでは出来無いなんて通用しないし、言いたくない。

 ブロック艦である『ホクト』を選んだのも、チューンアップがしやすいという利点が大きい。

 今の全力航行と急速タ-ンで生じた不具合を一つずつ確かめながら、制御での問題点をピックアップして潰していけば、もっと操縦がしやすくなるはずだ。

 重力制御スラスターの配置や出力。物理スラスターとの連動。

 いくらでも改造できる所はあるはずだ……



「まずは艦全体の振動を減らしてスラスターの効率あげ! 艦形状を少しずつ変更して……あれ? これって」

 

 

 高速機動用により特化した艦体構造改良プランを練ろうとした麻紀は、レポートの数値をみて違和感に気づく。

 それはほんの些細なことだが、後部外装の一部に生じていた重力異常だった……











「重力異常の原因は艦に付着していたチェイサー。しかもティア3……」



 艦を接近させ同軌飛行をしながら、有線通信で麻紀と緊急会議を行っていた美月は、情報ウィンドウに映る兵器に得体の知れない不安を覚える。

 中型艦クラスのマンタの船腹にすっぽりと覆われている、麻紀が搭乗する小型艦クラスであるホクトの後部船体に付着していたそれは、全長一メートル弱ほどの小型ながら、各種諜報機能とステルス機能を兼ね備えるゲーム内で『チェイサー』と呼ばれる特殊兵器の一つだ。

 他艦の船体へと付着させ、その艦の位置情報を母艦であるプレイヤー搭乗艦へと送る情報送信機能を基本としている。

 そしてチェイサーに限らずPCOのアイテムは、基本性能にプラスして付随能力を持つほどにティアと呼ばれるランクが上がっていく。

 チェイサーのティア3となれば、高度なステルス機能と位置発信機能以外にも、付着艦の艦体構造やエンジン出力等の構成情報から、艦の制御コンピューターからフライトプランや所有情報までも盗み出し、さらには通信傍受機能も兼ね備え、様々な情報を母艦へと送る高性能スパイユニットとしての機能も持ち合わせている。

 

 

『ティア3だから、あたしの今の防御オートスキルだと反応できなくて、アクティブ判別でも探知成功率1割以下だった。重力異常に気づいて艦外作業ユニットを、その箇所に直接派遣してようやく見つけられた感じ』



 作業ユニットを使って取り外したチェイサーは、今は強制機能停止状態にして隔離空間倉庫に放り込んであるので危険は無いが、あまり気分の良いものではないのか麻紀は実に嫌そうな顔を浮かべている。



「私の方は高ティアのチェイサーは無かったけど、麻紀ちゃんつけられた覚えある?」



『出航の時にチェイサーを飛ばしている人は、いつも通り結構いたからあんまり気にしていなかったけどその時かも……』



 麻紀の言う通りチェイサー自体は別段珍しい物では無い。

 PCOにおいては、基本的にはスキルレベルが低い時は、ティア1の基本機能しか持たない低レベル製品しか使えず、対応スキルレベルを上げることで段階的に高ティアアイテムが使用可能となる。

 スキルレベルをあげる方法にはいろいろあるが、一番手っ取り早く安上がりなのは、そのアイテムを使う行動をすることだ。

 だがチェイサーは直接攻撃能力は持たないとはいえ兵器の一種。

 NPC艦にやれば、ステルスレベルが低いからすぐに見破られ、敵対行動と判断され敵認定される危険性もある。 

 だから、まず最初にチェイサー関連スキルを上げようと思ったら、初期拠点を出たときにたむろしている他プレイヤー艦相手に、経験値稼ぎをやるというのが一般的だ。

 つけた方はチェイサーに関連したスキルの経験値をもちろん習得できる。

 そしてつけられた方も、ティア1チェイサーのデメリットといえば、たかだか位置情報を取られるだけ。

 ある程度の時間が経ってから船体チェック系スキルを発動させれば、チェイサーを発見してスキル経験値を確保できる上に、チェイサー本体を取得出来る。

 無論ティア1のチェイサーなんて売っても小銭程度にしかならないが、エネルギー補給をして、内部プログラムの所有者欄を書き換えすれば自分で使うこともできるので、今度は自分が誰かにつけて経験値稼ぎが出来る。

 このようにチェイサーを使った経験値稼ぎは、初期拠点近辺ではプレイヤー間の暗黙の了解として、一種のリサイクル循環が出来上がっている。

 だから美月も麻紀も、チェイサー自体はあまり気にしておらず、いつも通り第1跳躍ゲートを跳ぶ前にチェックスキルを使って除去していたのだが……



「誰か判らないよね……たまたま間違えてティア1のつもりでティア3をつけたとかは……ないよね」

   


 言ってはみた物のそんな都合の良い答えを自分でも信じる気にはなれず、美月は途方に暮れる。

 ティア3兵器となれば、どの種別でも運用可能になるスキルレベルはそれなりに高くなる。

 ゲームが正式オープンしたばかりの今は、それこそ初期スキル、ステ振りを特定兵器特化してもギリギリ届くか届かない位だ。



『店売りノーマル品だけどお安くはないよ。やっぱりあたしを狙ったんじゃないかな。もう少しあたしが早く気づいてれば良かったけど、美月から来たフライトプランも盗まれてるかも……ごめんね』



 さらに言えば鹵獲したチェイサーは店売り品ではあるが、値段は初期資金のほぼ全額をつぎ込む現時点では高級品。

 間違えて使ってしまったとか、単なる思いつきの酔狂で使ってみたと考えるには無理がある。

 自分の確認ミスに少し落ち込んだのか、麻紀が陰りのある表情を浮かべ始める。

   


「よし。まずは良い方に考えよ麻紀ちゃん。偶然だけど早く見つけられたから良かったって」



 鬱状態に入りかけているらしい麻紀の表情から良くない兆候を感じ取っていた美月は、小さく頷いてから、我ながらぎこちなく思いつつも無理矢理に笑うことにする。 

 情報が不足しすぎて判断がしにくい。

 誰が、いつ、どこで、どうして。

 大まかな予想は出来ても、確実な答えではない。

 考えれば考えるほどに悩んでいく自分に気づいて、これでは堂々巡りだと考えを切り変える。



「ティア3なんか使っているんだから、相手は麻紀ちゃんがドッグに戻るまで見つけられないくらいには思ってたはずだよ」



 少なくとも何らかの意思を持つ者が麻紀を、もしくは自分達を見張っていると気づけたのだ。

 そのような相手がいるとクエスト宙域に到達する前に気づけただけ、何も知らないより、千倍はマシだと。



「麻紀ちゃんなら、誰かが仕掛けてくるの判ればそうそう不意はつかれないだろうし、あんまり悩まないでいこ」



 自分一人ならばいろいろと考えてしまうし、突発的自体に混乱してしまうかも知れないが、信頼できる、そしてなにより頼りになる麻紀が一緒だ。

 開き直りに近いが美月は前向きに考える事が出来る。  

 


『……そっか……うん。そうだね! どこの誰か知らないけどストーカーなんかに負けるわけにいかないもんね!』



 そして開き直った美月が手を伸ばせば、麻紀はその手を掴み何とか精神を立て直すことが出来る。

 一人じゃない。二人いる。


『コンビプレイってのは楽しく心強い』


 三崎の台詞が、不意に二人の脳裏をよぎる。

 少し癪だが、あの男が言う意味を二人は実感していた。



『それじゃあ美月どうする? 前提としてフライトプランは盗まれているって考えた方が良いでしょ。それにチェイサーの反応が消失してこっちが気づいたって事も織り込むべきだとあたしは思うよ』



「うん。その方が良いと思う。悪い方で考えていた方が用心できるし……目的地がばれている……なら選ぶのはクエストをリタイアして別のクエストに変更か、ルート変更して到着時間を早くして早期クリアの二つに一つかな。クエストリタイアした場合のデメリットと、現地点から最短時間で目的地に到達できるルートを算出してもらえますか?」



 補佐AIシャルンホルスト君を呼び出した美月は、クエストを続行するべきか否かを判断するための情報を求める。

 美月の問いかけに少しだけ間を置いて、麻紀との間の共有ウィンドウに二つの情報が表示される。



『クエストリタイアの場合は違約金と、現地にも到達できてないから信頼度の減少が大きい。こっちは避けたいよね』



 麻紀の言う通り違約金も痛いが、依頼主からの信頼度減少はさらに痛い。

 信頼度が下がると依頼主やその所属勢力から、次にクエストを受ける際に成功報酬の減少や、下手すればクエスト受領すら不可能になるからだ。

 もちろんいきなりクエスト受領不可にはそうそうならないだろうが、次に受けたクエストが100%成功する保証も無いのだから、リスクが上がるのは変わらない。

 


「でも最短ルートも危険度が高いと思うよ。古戦場跡を抜けるルートみたい。もしのぞき見していた人がこっちの考えを読んでいたら襲撃を仕掛けるには良い場所になっちゃうかも」



 表示された最短ルートは現状のあと5つのゲートを跳躍するコースでは無く、3つですむ。

 時間的にも半分ほどになるが、最後のゲートがあるのが、かつての資源惑星を巡って大きな争いがあり、最終的に星が破壊され無数の岩石群と艦艇の残骸が漂う古戦場宙域となっている。

 隠れ場所には困らないうえに、周囲に船の残骸が無数に散らばっているので、金属探知反応が無数にあって索敵難易度もあがっている。

 唯一の救いは、メイン交易路からは大きく外れているので交易船狙いのNPC海賊艦はおらず、古戦場としては古い部類であらかためぼしい物は回収された後という設定で、戦場漁りのスカベンジャー艦もくず鉄狙いの低レベルアクティブ艦が出現する程度という事で脅威度はさほど高くない宙域だ。 

   

 

『……逆に言えばこっちが隠れる場所もたくさんあるよね。あたしがここに残って、後をつけて来た人がいるか跳躍ゲートを監視するから、美月が先行するってのはどう? 最低限のクエストクリアだけをまず優先』 



 画面の向こうの麻紀は少し考えてから、ホログラム星図に指を当てて作戦を書き込んでいく。

 跳躍ゲートごとに探査プローブを残していき、その後に跳躍してくるプレイヤー船を監視。

 追跡してくる船があるかを最終跳躍ゲートまでの間で篩にかけて確認するという方針を打ち出す。

 美月達が受領したクエストの目的は無人惑星の資源探査で、クリア最低基準は資源探査プローブでレア鉱石分布データ観測を行い一定以上のデータを確保。

 オプションクリア条件が無人サンプル採掘施設建造となっていて、さらに派生クエストとして連続クエストが発生。

 採掘したサンプル鉱石を使った試作プローブ製造クエストへと繋がる。

 非戦闘プレイを目指す美月達は、それらの調査、製造系クエストを積み重ねて、暗黒星雲調査計画に使われる調査機に繋がる攻略ルートを進めて、功績値を稼いでいく予定だ。

 効率の良い探査を出来る探査船のマンタに乗る美月が探査プローブを担当し、オプションの施設建造は、建造系初期スキルを強化している麻紀が担当という役割分担としている。

 だから最悪美月だけが目標宙域でクエストクリア基準を達成すれば、パーティを組んでいる麻紀も自動でクリアとなる。

 ただ問題は……



『追跡者がいないとか、もしくは諦めてたなら、合流してオプションクリア。いた場合は、あたしが囮になって時間を稼ぐから、美月はその間に調査を進めて安全エリアまで後退』


 

 戦闘になったときに麻紀の選択手段が逃げだけという事だ。

 麻紀は、ゲーム内での死すら精神負荷となる重度のトラウマ持ち。

 艦構成に必須となる必要最低限の対艦武装は持っているが、それでも使えず、囮として戦闘となっても、ただ一方的に攻撃をされるだけで、回避するしかないからだ。



「でも……麻紀ちゃんの機体の方が足は速いから先行してもらって、囮なら私が残っていたほうが良くない?」



 攻撃が出来無いという麻紀の傷を抉る指摘は元より、親友を囮にするという案は美月的には抵抗が強く、効率的だと思っても難色を覚える。

 


『あたしのスキルレベルや艦種だと、プローブ探査だと美月の倍は終了まで時間が必要になるよ。早く始めたって、終了時間は美月の方が断然早いし、時間稼ぎは短くなくちゃ。それに美月はどうしても入賞しなきゃいけないんだから、いきなり躓いてなんていられないでしょ。囮っていっても逃げるだけだから。私の反射神経の良さは知ってるでしょ』



 理屈的には麻紀があげる正論が正しく、そして目標的にも初クエストから失敗するわけにはいかない。

 だから最低限クリアを最優先して美月が先行するのは正しい判断だ。

 それは判っている。判っているのだが、

 相手の正体や数も判らず、麻紀一人に負担をかけるのは気が進まない。

 いるかどうかも判らないのだから、いっそ二人で追跡者がいるか確認してから行動した方が良いのではないかと考える。

 艦構成的には探査船の自分の護衛として高速機動型の麻紀が護衛で付いていると思うはずだ。

 麻紀がトラウマ持ちで、ゲームですら人死にを嫌がり攻撃が出来無いのを相手は知る由もないはず。

 そこをうまく付いて、自分が攻撃に出れば相手の隙を狙えるのでは?

 しかしそれは相手が単独で、しかも美月の攻撃が命中し、それで撃沈できるという前提の話。

 麻紀の案より、自分の案が大きなリスクを持っているのは口に出さずとも判っている。麻紀も納得しないはずだ。

 相手の事を自分達は知らない。

 だからいろいろ考えている。

 そして相手は麻紀の艦の情報を盗み出してこちらの事を知っている。

 知っているつもりのはずで、その情報に基づいてこちらの事を考えるはず。

 なら……



「麻紀ちゃんの船って重力可変スラスターもあったよね。それを使って……」



 自分の手持ち装備と、麻紀の手持ち装備。

 それらを見比べてから一案を考えた美月は、急造の作戦を説明し始めた。

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