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A・B両面 オープニング

 つい先日ナノシステムをいれたばかりでVRカフェ初体験の美月は、がらりと変わった光景に興味深げに目を丸くした。


 1階は自然光を多く取り入れる事が出来る大きな窓を多用し、デスク型端末を簡易な仕切りで区切っただけで開放的な雰囲気。


 しかしエスカレーターを上がった2階は、カプセルタイプの筐体型VRマシーンが整然と並ぶSFじみた光景を展開していた。


 薄いオゾン臭が時折鼻につき、VRマシーンが微かに奏でる稼働音が響く物静かな2階フロアはひんやりとした空気に満たされていた。


 間接照明が多用されたフロアは光量が抑えられ少しだけ薄暗く、明かりの色も薄紫や淡いオレンジなど、日常ではあまり使われていない色を用いている。


 これらには非日常感を演出する狙いでもあるのだろうか?

 


「私共アンネベルグでは、お客様のニーズに合わせて、それぞれ特色のあるVR筐体を各種メーカー事に取りそろえていますが、荻上町店において設置台数が最も多いのはノースファクトリー製のGZタイプⅢカスタムとなります。GZシリーズは元々ハーフダイブでの使用をメインとして考えられた演算性能強化機体になります」


 

 美月達に店内案内をしていた柊と名乗った若い女性店長は、銀色のカバーに覆われた一台の細長い筐体を指し示す。


 高い演算機能を持つ高性能機をあえてフルダイブではなくハーフダイブで用いる事で、余剰計算能力を処理速度向上や、各種高性能ソフトを併用可能状態とする為に用いる。


 そのような設計思想の元に生み出されたGZシリーズは、ビジネス街にほど近い荻上町店では何かと重宝がられていたのだろう。



「タイプⅢカスタムは規制条例施行後に、最新型だったタイプⅢの環境再現システムを強化したマイナーチェンジタイプになります。フルダイブに負けないレベルの仮想空間演出を行えるように、内部空調システムや音響効果システムの改良が施されています。今回のPCOオープン記念協賛フェアには、こちらのGZタイプがメイン機体として使用されます」



 柊が説明と共に一番手近の筐体の開閉スイッチに触れると、表面を覆う金属製カバーがスライドして、内部構造を晒し出す。


 ハーフダイブでの使用を主としているので、一般的な筐体型マシーンよりも若干広めに空間が取られ、内部は柔らかそうなクッション材で覆われている。



「シートはセミバケットシート形式。長時間使用でも不快感を極力低減する為に電圧調整ジェルを用いているので、お客様の好みの座り心地に合わせると共に、マッサージチェア機能も兼ね備えています。もちろんハーフダイブだけでなくフルダイブでの使用も可能となっていますので、身体固定機能も利用可能です」



 柊がシートの横からコードを延ばし自分のコネクタに接続すると、展開した仮想コンソールで環境数値を弄ったのか、内部照明が増減し、シートがうねうねと波打って、さらには脇のスリットから、フルダイブ時に四肢を固定する為のベルトが飛びだしてきた。



「今回皆様には、協賛フェアで用いる当店特製特殊サポートAIのテストをかねてオープンβテストに参加していただき、レポートを提出していただきます。協力していただくお礼としまして、テスト期間中は無料。正式オープン後はオープンイベント期間中のみとなりますが従業員割引価格の一週間千円使いたい放題でのご利用が可能となります」



 羽室が美月達に提案した、高性能機を安く使える当てとはこの事だ。

 要はテストプレイヤーとして参加しレポートを提出する見返りに、多少、いやかなり割引された金額で高性能機が仕様可能となる。

 オープニングイベント期間は7/20から一ヶ月後の8/19日まで。


 丁度夏休み期間中。


 5週間で5千円+PCOの基本固定プレイ料金が1000円に+電車代など諸々。


 就活中といえど大学生の美貴達には余裕であっても、しがない高校生の美月達には結構な金額だが、それでもかなりお得な事は間違いない。




「では基本説明は以上となります。新しい世界をどうぞお楽しみください。他にご不明な点がある場合は、接続時に細かい諸注意を記載した簡易マニュアルが自動展開されますので、そちらをご参考になるか、呼び出しボタンで店員をお呼びください」



 きりっとした眉を少し柔和に曲げて接客用の笑みを浮かべた柊が軽く頭を下げる。


 若い女性の身でありながら、大型店舗の店長を任されているだけのことはあるのか、いかにも仕事が出来る才女といった雰囲気を醸し出す柊だが、



「どっから出してきてんだ。そのクソ丁寧で気持ち悪い接客言葉。普段はもっとがさがっ!?」



 余計な茶々が横から入れられた瞬間。


 柊の手が電光石火で動き、その発言者の内臓を抉るえぐい角度のボディーブローが躊躇なく打ち込まれた。


 余分な発言をして一撃で沈められたのは、VR業界誌『仮想世界』の編集記者を名乗る井戸野という若い男だ。


  

「何か他にご質問はございますでしょうか? こちらのバカ様のように、モツ抜きの仕方を聞きたいなら身体に教えて差し上げますよ」 



 ゴミくずを見るような蔑んだ目で井戸野を見た柊は言葉を吐き捨てると、何事も無かったかのようににこりと微笑み直した。


 井戸野はVR業界復活に向けた活動を取材しているとの事で、今回はPCOとの協賛フェアをやるアンネベルグの密着取材を行っているとの紹介だったが、どうやら柊と親しい関係なのか、二人のやり取りには遠慮という物が感じられなかった。 



「うぁ……さすが武闘派餓狼のマスター。見事なストマックダウンスマッシュ」



「クリ+昏睡効果ありか?」



「いや部位破壊+麻痺でしょ。追撃ふるぼっこしたいかんじだねぇ」



「タイマン勝負でアリスさんに対応出来るだけあるよな。さすが」



 柊の一撃に拍手混じりで歓声をあげる不謹慎な就活組は、倒れ込んだ井戸野を見てもよくある光景と言わんばかりに受け入れている。



「今の重い一撃。嫌な記憶が蘇るな……あんた本当にセツナなんだな。あっちと背格好とか言葉使いが違いすぎるだろ」



 一方で羽室は卓越した動きを見せた柊をじろじろと見て、言葉の中に懐かしさを感じさせつつも、胃の辺りを押さえて冷や汗を掻いている。


 どうやら口ぶりや反応から、羽室も過去に同じような攻撃を受けた事があるようだ。



「それを言うならそっちこそ。あたしと鎬を削ったあの悪名高い暗殺者の特攻ハムタロウの、引退後のリアル職業が学校教師って」



 接客用の仮面を脱ぎ去った柊が砕けた口調になると、窮屈そうに見えた襟元を僅かに緩めて先ほどまでとは違う種類の笑顔を見せた。



「最初にKUGCの人らに聞いたときは悪い冗談かと思いましたよ。そっちの二代目マスターは『俺の名だ。地獄に落ちても忘れるな』って決めぜりふが出来たとか、いつも通り意味不明なネタをいって喜んでましたけど」




リアルで会うのは初めてのようだが、羽室とはVR世界での因縁があるようで、楽しげに語る柊はにも少し懐かしそうな感情が混じっている。



「あー……アリスについてはすまん。ありゃシンタの管轄だが、あいつも基本は放置してたからな」



「ほんと少しは管理してくださいよあのマスターズ。今回も……」



 旧交を温めるのは良いが、しかしだ……いいのだろうか?


 足元に倒れ込んでピクピクとしている井戸野がいるというのに談笑を初めだした二人に美月達は顔を見合わせる。



「ここリアルだよな。若い姉ちゃんが兄ちゃん一撃で沈めたなんて、どんな冗談だよ」



「西ヶ丘ちゃんもいけるだろ。でもなんで俺達以外はさほど驚いてないんだよ。こえぇよ」



「急所だけど、内臓破裂まではいってないから大丈夫だと思う」



「はは。西ヶ丘さんがそう言うなら安心……なのかな?……廃人クラスになるとこれが日常とか……ど、どうしようか高山さん?」



 高校での羽室は、年齢が近い若手だけあって生徒に理解のある教師という上々の評判。


 人が倒れ込んでいるというのにあまり気にしない非常識な性格ではなかった。


 麻紀は動きを目で追えていたのか目を見張っている程度だが、さすがの伸吾達も若干引き気味で、どうすると美月を見てきた。


 この集団にこのまま付いていって良いのだろうかと、その顔には書いてあるような気がしたのは、美月の気のせいではないだろう。



「基本を習うだけだし。うん。基本だけだから。大丈夫……たぶん」



 父の事を知る為ならなんでもしようとは思う。


 だがさすがにここまで非常識な反応を見せるようにはなるまい。


 そう美月は心に堅く誓っていた。












 多少のすったもんだはあったが、今日の目的はPCOへの登録と、既にPCO攻略を始めているというギルド連合本隊とのVRでの顔あわせ。


 ギルド連合はPCOを主導するという三崎と親しい関係にあるので、今回のオープニングイベントでの賞金争奪戦への参加資格はないそうなので、ギルドに参加するかどうかは自由意思に任せるとの事。


 やり方を教えて、魅力を説明するくらいなら、規約には引っかからないのは、三崎本人に確認済みだそうだ。


 あまりに用意周到な状況ととんとん拍子で進む手はずに、美月はどうにも三崎の影をちらほらと感じる。


 だが不安というデメリットよりも、熟練者達と知り合えるメリットのほうが大きいのは明白。


 罠かと思いつつも今は乗るしかない。


 バケットシートに身を預け高さや角度を調整した美月は、シートの横からコードを延ばして、首筋に貼り付けていた粒子通信用新型コネクタへとつなげる。


 コネクタが発した起動信号を受け、脳内で休眠状態になっていたナノシステムが立ち上がり、美月の視界にいくつも仮想ウィンドウが展開されていく。


 正面メインに浮かぶウィンドウには、PCOのアクセスHPへのログボタンが映っている。


 ほどなくして仮想ウィンドウの一つに美貴からの接続メッセージが表示され、すぐに本人の顔が映った。

 


『全員準備いいわね。それじゃ高校生諸君は初体験VRMMOなんだから、ハーフダイブでの登録じゃなくてフルダイブでいきましょか。君たちはPCOのアクセスページで初期登録してきて、それから向こうで落ち合いましょ。初期ステーションに迎えを寄越すから』



 ハーフダイブで電子書類に記入して、登録も出来るそうだがせっかくのVRMMO。


 やはりフルダイブがいいだろうと美貴はにこりと微笑む。


 ゲームをやるのが心底楽しいという感情が感じられる極上の笑顔だ。


 就活期間中は支障が出ない程度に適当に遊ぶつもりで美貴達は既に登録を済ませていたそうなので、ここからはしばらく別行動の予定だ。


 柊辺りは残念がっていたが、羽室はさすがに今更現役復帰はないとの事で、美月達が戻ってくるまでリアルで待っている事になっている。



『身体の固定とシートの調整を忘れないでね。たかだか二時間って甘く見てると後々来るわよ』



美貴の注意に従って、美月は慣れない手つきながらベルトで身体を固定して、フルダイブへの準備を進めていく。



『登録前に流れる導入OPがクソ長いけどちゃんと見とけよ。あの先輩の事だからさらっと重要なヒントを残してる可能性あるぞ』



『そうかな? あれアッちゃんの趣味でしょ。シンタ先輩だったらスキップ機能つけてるだろうし』



『そうかもな。かなり凝ってるけど、ありゃアリスさんが好きそうな設定だもんな。あのロープレ派筆頭なら大げさなの好むし』



『だからこそでしょ。アリスさんだと思わせといて、あの腐れ外道の手とかってパターンかも』



 サブウィンドウに映る他の連中も高揚感を感じさせる顔を浮かべている。


 やはり根っからのVRゲーマー揃いなんだろう。



『はいはい。とりあえず見てのお楽しみ。ネタバレ厳禁だってば。じゃあ全員行こうか。フルダイブスタート』



 手をぱんぱんと鳴らした美貴が会話を区切り、フルダイブへの移行を指示すると、すぐに次々にフルダイブ状態となったのかウィンドウから消えていった。


 緊張からか少し早い心音を落ち着ける為に息を深く吸った美月はフルダイブしようとする直前に、画面に映る麻紀の顔色が悪い事に気づき、急遽ショートメッセージを送る。



『頑張るね。お父さんの事もそうだけど。麻紀ちゃんが知りたい事のために』



 あの時三崎が提示した画面に映っていたあの小さな子が誰だったのか美月は、麻紀に尋ねていない。


 人の死を恐れる麻紀のトラウマに直結していたのだろうと想像が付くからだ。


 ただ麻紀にとって大切な子だったのは間違いない。


 自分の為、そして親友の為に頑張ろうと美月が決意を改めていると

 


『うん。ちょっと怖いけど……私も頑張る。美月の為に』



 メッセージが送られてくると共に小さな画面に映る麻紀がこくんと頷いた。


 これで準備は完了。


 美月はシートに背を預け仰向けに寝転がるってもう一度深呼吸し、



「フルダイブスタート」 



 脳内を電撃が走るような高揚感と共に美月の意識が一気に暗転していった。


























『万物には始まりと終わりがある』



 どこからか声が響く。


 その声につられるように、仮初めの身体の瞼を開いた美月の視界は真っ黒な闇に染まっていた。


 上下もおぼつかない浮遊感は、ここがリアルではないと理解していてもどうにも不安を覚えるおぼつかない物だ。



『全てが生まれ、そしてやがて死ぬ』



 またも声が響くと色鮮やかな映像群が暗闇の中に次々に浮かんでは消えていく。


 種が芽吹き、茎を伸ばし、葉を生やし、大輪の花を咲かせ、そして枯れて散る。


 切り出された丸太が、材木へと加工され、さらに家屋に組み込まれ、やがて朽ち果てていく。


 山崩れで落ちてきた巨大な岩が川に落ちて、やがて水の力で徐々に削られ、仕舞いには小指の爪ほどの欠片まで小さくなる。


 そして生まれたばかりの赤ん坊が成長し、少年となり、青年となり、やがて年老いて死して骨となる。


 形や例えは違えど生と死を表した数百、数千のイメージが美月の周囲を覆い尽くして、早回しの映像となって一瞬で展開されていく。


 どうやらこれが金山の言っていたOPのようだ。


 死生観とはやけに哲学的な題材だがこれがゲームとどう関係があるのか?


 何かヒントがあるかと美月が考えていると、周りに映っていた映像が一気に消え失せて、またも真っ暗闇に戻る。



『それは我々が住む宇宙も例外ではない』



 声が響いて、小さな白い点が美月の目の前に浮かんだかと思うと、閃光と共に破裂した。



「わっ!? い、今のって……」    



 目が眩むまばゆい閃光に思わず悲鳴を上げて目を背けた美月だったが、次に目に飛び込んできた光景に思わず声を奪われる。


 星空の海の中に美月はいた。


 上下左右どこを見ても溢れんばかりの星がその視界には広がる。


 父の影響で星空が好きな美月の嗜好にピタリと嵌まる演出。



「うわぁっ……っていけない。ちゃんと見なきゃ」



 歓声をあげ見惚れかけるが、すぐにはっと我を取り戻す。


 これが三崎の息のかかる物で無ければ、素直に楽しめるかもしれないのにと多少残念に思いつつ、星の海を見渡してヒントを探す。



「日本の空じゃない……か。どこだろ?」



 どちらの方角を見ても美月には見覚えが無い天体配置が広がる。


 見覚えのある星座が一つも描き出す事が出来ない。あまりに星が多すぎるのだ。


 よくよく観察してみればそれらの星は圧倒的なスピードで拡散しているのか星々の間が急速に広がっていっている。


 先ほどまでナレーションと思われる声が語っていたのは、様々な生と死。



「宇宙の始まりはビッグバンか………じゃあ次に来るのはビッグクランチかな」



 予想をつぶやいた瞬間 広がっていた星々が一気に収縮を開始する。


 宇宙の開始である膨張がビッグバンなら、宇宙の終焉の一つとして提唱される収縮がビッグクランチ。


 今は宇宙は永遠に膨張を続けるという考えが有力となっているので、少し廃れた終末論の一つだが、ビッグバンの対局としては、実に分かり易い例えなので採用したのだろうか。



 そうこう考えているうちに無数の星々は。あっという間に美月の胸元に集まって、元の小さな白い点へと、始まりの宇宙へと変化した。 



『やがて宇宙も終わる……これは真理であり絶対。だが人はその終わりを、自分達の文明の終焉を、素直に受け入れられるほど賢くはなく、そして愚かでもなかった』



 ナレーションが響き、次いで美月の手元に浮かんでいた白い玉から映写機のように光が放たれ、暗闇をスクリーンとして今では演出でしか使われない白黒の二色で彩られたモノトーン映像が表示される。


 映し出されるのは恒星らしき巨大な星と、その周囲を回る惑星。


 そして惑星上の宇宙空間に無数に浮かぶ艦船群と、それらが細枝のようにも見える巨大な宇宙ステーション。

 

 それらをバックにして、ナレーションと共に、文字が流れ初めていく。



『かつて銀河には大帝国が存在した。銀河帝国の頂点に君臨する支配種族は多次元を感じ取る特殊器官を持って生まれる。


 ディメジョンベルクラドと呼ばれるその力を持って、技術的に不可能とされた超長距離超質量跳躍能力を実現させた帝国は銀河全てを己が物とせんと動き始める』



 ナレーションに合わせて、惑星上展開していた艦船群が次々に跳躍を開始して、巨大な宇宙ステーションさえも跳躍したのか消えていた。



『やがて宇宙の大半をその手に収めた彼らは、宇宙創生期にほど近い時代の物と思われる超古代遺跡を偶然にも発見し気づく。


 自分達の力の意味を。なんのために自分達が他次元を感じられるのかを。


 それは宇宙の終焉から逃れるため。


 やがて終わる今の宇宙から、別の新しい宇宙へと移り住むための力だと思い出す。


 記憶にも記録にも残らない遥か太古に、自分達は新しく生まれたこの宇宙へと移り住んできたのだと。


 その事実が判明したとき時の皇帝により、やがて起こるであろう宇宙の終焉に備え、帝国最高機密として二つの宇宙を繋ぐ移住計画『双天計画』が発案され、当時の最高技術をもって作られた『天級』と呼ばれる衛星サイズの巨大宇宙要塞艦が新たに作り上げられる』



 惑星の側にいくつもの宇宙船が集まり巨大な枠組みを作り初め、月ほどの大きさの巨大な人工物が組み上げられていく。


 衛星クラスの大きさを1から組み立てとは、いくらフィクションとはいえさすがに大げさすぎないかと美月が考えていると、それどころかそれと同サイズの物が、あと2つ組み立てられていったのだから呆れるしか無い。



『天級は三艦が建造された。

 

 他次元宇宙への跳躍を可能とする恒星系級超質量長距離跳躍実験艦『送天』


 移り住んだ宇宙で自分達の生存環境を整える恒星系級惑星改造実験艦『創天』


 全ての事象記録を観測し記録する事で、再現を可能とする恒星系級事象観測実験艦『総天』』 



 どれくらいの年月が流れたのか判らないが、なんども小さな船が行き交い、三隻の巨大艦は徐々に形作られていき、ようやく完成を迎える。

 


『三隻の実験艦が完成してすぐに、他次元跳躍実験の前段階として恒星系に属する全てを一度に同宇宙の別地点へと跳躍させる最初の跳躍実験が行われる運びとなった。


 その実験対象として選ばれたのは若い恒星とその周囲を回る複数の惑星と衛星群。


 他次元への跳躍ではないが、前例のない恒星系全てを跳躍させるという前代未聞な実験に際し、主立った物でも数百の実験が同時で行われる。


 その1つに、跳躍対象となる恒星系の居住可能環境惑星に、帝国人と同種の遺伝子配列に組み替えた実験生物を放ち、超質量超長距離跳躍での遺伝子変貌を観測するという物があった』



 獣耳を生やした人間と類人猿が並んだ映像が映し出され、猿の方が映っていた惑星へと吸い込まれていく。


 どうやらあの星と恒星が跳躍対象の恒星系という事のようだ。



『周到に準備を重ね、何重もの安全策を施した末に、送天、総天の両艦と、当時最高峰の能力を持つディメジョンベルクラドの帝国姫の遠隔操作によって最初の無人跳躍実験が行われる。


 異空間への跳躍自体は成功したが、その恒星系が予定出現位置に現れる事は無かった。


 次元の藻屑と消えたのか。

 

 観測範囲外の別銀河へと跳躍してしまったのか。


 それとも結果を帝国へと伝えるべき天級が破損したのか。

 

 原因不明のまま跳躍実験は失敗に終わり、帝国は二隻の天級を失う事になった。


 同時期に最高機密であった双天計画がどこからともなく漏洩し、移住計画が帝国支配種族のみを対象とした物で有り、帝国に敵対する種族のみならず、帝国の屋台骨を支える他種族すらも置き去る事であったが判明する。


 将校クラスからも大規模な反乱が発生。


 やがては皇族の一部までも反乱軍に味方をする内乱となり、帝国は瓦解。その長い歴史の終焉を迎える事になった……』



 星々がいなくなった宇宙に、残った一艦だけが寂しげに佇む映像が、徐々にノイズが入った荒れた物になってフェイドアウトしていく。


 ナレーションも相まって荒涼感を感じる作りは、なんというかオープニングというかエピローグではないかと美月は思わざる得ない。


 これで終わりなのだろうか?


 そう思っていると、再び白い玉が光り新しい映像が浮かび上がる。


 しかしそこも何もない宇宙だ。


 だが忽然と巨大な恒星といくつもの惑星が跳躍して来たのか出現した。



『帝国が滅び幾星霜が過ぎ、新たな政治体系である星系連合が築かれ、つかの間の平穏を過ごしていたこの銀河に、失われたと思われていた恒星系が数億年もの時間の誤差と共に帰還する。


 全ては恒星系を飛ばしたディメジョンベルクラドである姫の企み。己が種族だけでなく、この世にあまねく全ての人を救おうとする姫の願いによりその恒星系は帰還する。


 ……恒星系の名は太陽系。ディメジョンベルクラドと同じ遺伝子をもつ種族が住まう星は、現地呼称で地球と呼ばれていた』

 


 先ほどまでは白黒だった画像なのでよく判らなかったが、色が付けばその青々とした惑星は美月にはお馴染みのものだった。


 なるほど大げさと行ったのは、こういう事かと美月は納得し、同時にヒントらしいヒントがなかったと落胆する。


 こんな大風呂敷な裏設定を見せられてどうしろというのだ。


 さすがに父に関係ありそうな事柄も見当たらない。

 


『銀河にあまねく人々を救う為。今地球人類は宇宙の最前線に立つ』



 Planetreconstruction Company Online開幕



 緊張が空回りに終わった美月が息を吐き出すと同時に、視界が真っ白に染まりゲームが開始された。   

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