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C面 初手フィールド変更ぶっぱは戦術の基本です

「ではまずは先ほど配布した資料をご覧ください。それと改めて注意しますが、今日中に一般公開する情報の記載が大半ですが、後半の一部にまだ未公開予定の情報も含んでいますので、先ほど皆さんにサインいただいた秘密情報保持同意書の対象に含まれています」



 つんとすました社長顔のアリスの目配せに軽く頷いて、先ほどギャラリーに渡した情報データをメイン画面に共有表示。


 題材はAIキャラクターの活用およびこれからの商業展開。そして段階的に行う世論の認識変換の為の啓蒙活動。



 小難しいお題目とちょいと分厚い資料を軽く解説すれば、そのメインは何のことはない。


 PCOで既に採用している人工知能、いわゆるノンプレイヤーAIの現状と、これからの展開と、ゲーム外で行う活動内容だ。


 もう少し具体的に言えば、最初の章では、


 ゲーム内で今も活発に自由活動を続けているNPCAIの傾向やそれにともなうゲーム内での影響報告。


 プレイヤーからのAIキャラに対する反応。


 プレイヤーの行動を模倣、もしくは反面教師としたAIによる活動事例

 

 またはプレイヤーの影響を受けていない状態で起きたAI同士の戦闘や対立事例。


 元々こちらで設定していた種族特性や文化、思考が実際ゲームが稼働し始めて生じた変化等々。


 それらを極々真面目にアリスは説明していく。


 俺も大半は理解できない、いつものマニアックネタは禁止しているので、アリスは資料の内容を読み上げつつ、適時に小学生の陽葵や高校生組にも判りやすい解説をいれていく出来る若手女社長ムーブを敢行。 


 ネタ抜きで出来るなら普段からそれでいけと声を大にして言いたいが、真面目一辺倒はそれはそれでアリスらしくなくて気持ち悪いと思うのは、俺のわがままだろうか。



「このようにPCOでは惑星文明ごとの特色や、その影響による社会変化をリアルタイムかつ大規模なシミュレーションが行えることを示しています。これらの極めて膨大かつ広域の条件指定が可能な事を示すことで、ゲーム運営だけでなく、仮想空間でのAIを用いた各種実証実験を運用可能な……」



 ゲームはオープンしたばかりだが、その中でのAIの思考変化などを詳細に把握可能な事を示し、それらを他業種へとアピール。


 ゲーム運営のみでなくAI活用事業への事業複線化による経営基盤安定化への展望をアリスは語っていく。


 それらを聞き耳たてて傾聴するギャラリーを見回し、最後に鉄面皮を保つ親父と、ゲームに疎く説明の半分も理解できないのかはてな顔のお袋、そしてにこやかな女将スマイルを維持しつつ、口元がぴくぴくと動いている姉貴を確認。


 いやー姉貴のもどかしげな顔が、心地良いこと心地良いこと。


 エリスの存在をはっきりさせるはずが、遠回りな説明から入られていらついているが、こっちも筋は通しているので文句のつけようはないはず。


 エリスの存在は、機密情報にがっつり絡んでいるので、秘密情報保持関係の書類にサインは当然。


 うちの会社やディケライア社の存亡に関わる重要な機密案件なら、一介の社員の俺ではなく、社長のアリスが出るのは当然。


 そして何よりアリスは地球ではまだ婚約段階だが俺の嫁にして、エリスの母親。なら俺じゃなくてアリスが説明をしても問題は無し。


 姉貴とお袋は、まともに勝負しない形でいなすのはとりあえず成功。


 問題は親父の方だ。退職したが元々は地方銀行行員しかも融資課担当。


 今は個人デイトレをたしなみつつ半隠居の田舎でのんびりライフを送っているが、こちらの資料をチラ見しつつ、アリスの話を精査するその表情は現役のやり手感マシマシ。


 一口に俺の嘘を見抜いてくるといってもうちの家族の場合は、それぞれ担当というか得意分野が違う。


 姉貴が俺のやらかし関連の嘘を見抜くのが得意なら、お袋はほとんど情報を与えて無くても、俺の言動を見て確信は持てないが何となく嘘をついていると全体的にぼんやりと判断してくる。


 そして親父はといえば俺の話の整合性や、タイムスケジュールや数値が出てくる関連だと、ズバズバと見抜いてくる。


 ちょいとした矛盾やごまかしは、具体的な数値や証拠を出して論破される。


 小学一年の夏休みにサボってため込んでいて、最終週に適当に書いた夏休み日記をほぼ書き直しを食らったのは軽いトラウマだ。


 ガキ相手にそれなんだから、こっちを社会人としてさらに厳しい目でみてくる親父相手の対戦法。


 それは親父から融資をもぎ取るぐらいの気持ちで、会社事業説明をする真正面戦闘。


 エリスの存在をごまかすために、まさかそこまで用意しないだろうと考えてしまうほどの本気資料が親父用に用意した特効武器。


 そして親父に与えたダメージを通して、お袋や姉貴の判断や思考にくさびを打ち込む。


 普段はつけていない所か、必要性を感じていないので持っていない為、急遽先輩から借りた左手の腕時計をちらりと見て残り時間を確認。


 男では珍しい文字盤を内側に向けた付け方をしているので、”傷一つ無い”つるりとした肌が姿を見せている。


 対姉貴用の特殊兵装は準備万全。


 さらにこいつは美月さんへと打ち込む清吾さんを取り戻すためヒント兼思考誘導イベントの発生トリガー兼ちょいと俺も引くぐらいに急成長している麻紀さんへの牽制、ついでにかなり落としてしまったエリスへの好感度調整と。


 我ながら盛りに盛った狙いだが、イベント連発中なうえに貴重なアリスの時間まで使ってるんだ。


 ちょっとよく張りになっても罰はあたるめぇ。



 

 

 



「うぁっ、三崎君。見事なまでに陰役にステルスしつつ、うまいことフィールド変えてますね」



 本社地下のGMルームに隣接した休憩室にお邪魔させてもらったホワイトソフトウェア名物受付嬢大磯は、年上後輩の性格の悪さに改めてどん引きしつつも感心する。


 午前中は三崎達と一緒にどぶ掃除に汗を流していたので、今は長めのお昼休憩をもらったので、自作お弁当にぱくつきつつ観戦中だ。


 同じく昼休憩中で相席している開発部主任の佐伯も同様の感想を抱いたようであきれ顔だ。



「アリスを呼んだ時点で勝ち確いってたね。何でも自分の嘘はすぐご家族に見破られて粗が出やすいから、エリスの存在を会社事業に絡めて、嫁さん兼ディケライア社長のアリスが自然と矢面に立つようにしたんだとよ。ったくいつまで立っても小賢しいクソガキだねあいつは」



 隠し子発覚で両親、実姉からの詰問スタートとなるはずだったのに、それを会社事業報告へとスムーズにかつ自然に転換させた三崎のやり口を解説した佐伯は微妙に不機嫌だ。


 自分の不得意フィールドが戦場となるならば、それを各種スキルや小細工で自分有利のフィールドへと瞬く間に変えていくその思考と手腕。


 たかが一プレイヤー、一ギルドのギルマスのくせに、矢継ぎ早にボス狩りの新戦術を考案し猛威をふるって、佐伯や開発部の手を煩わせた三崎の現役ゲーマー時代を思い出したのだろうか。



「あー……そういえば、三崎君からこのイベントの後、あっち側からテスト的にお客さんを招くって聞いてますけど、数ってどのくらいの予想なんですか?」



 触らぬ神にたたり無し。


 佐伯の思考をそらすため、事業複線化すら単なる前振りな、この先の本命案件へと話題を変えようと、大磯は天井、いや偽りの空を超えた先の宇宙を指し示す。



「天国の親父さんからの緊急連絡で、向こうでなんかあったみたいで一気に増えそうだとさ。2、3万ですめばマシな方かって言ってたかね。急な流入で一応秘密な素性が即バレしたり、水増しなんて揶揄されるのも業腹だから、いくつか御新規歓迎イベントを打って地球側のプレイヤーも同数ぐらい増やそうって、今うちの連中が動いているよ」



「あぁ……じゃあ今日も残業ですね。夕方に情報公開したあと問い合わせ殺到しそうですし、あたしもしっかり目を通しておかないと」



 脳内ナノシステム事故でVRMMO規制後に比べれば、ブラック全開な忙しい今の方が比べるまでもなくマシだが、さすがにこうもイベントを連発されると、いくら大磯が記憶力に自信があっても関連資料や関係者を覚えるだけでも一苦労だ。


 画面に目を戻せばアリシティアの説明は、次の項目に移っている。


 ここまでは既存の投入済みの既存AIについて。


 ここから先はこれまで蓄積したデータや改善点を元に新しく組み直した新型AIの投入に関する話となる。


 それこそが希代の詐欺師三崎伸太が繰り出す一世一代の大嘘。


 なんせ対象は全地球人。老若男女余すことなくペテンに掛けようとするのだ。恐れ知らずも良いところだ。



「新規AIって嘯いているキャラって名目上はなんて名称でしたっけ?」



「シークレットノンプレイヤーキャラクター。通称SNPC。自分がいる世界がゲームだと知らない、文字通り向こうの世界がリアルだと思っている自由行動NPC。プレイヤーと同等の権限を持っていて、プレイヤー側からは判別が出来ない様に設定されている……って設定だね」 



「ほんと無茶しますね。本当の宇宙人をプレイヤーでゲームやらせたうえにNPCとして扱うって…………改めて三崎君ってどういう思考回路してるんでしょうね?」



「三崎だからしかたないさ。どうだまくらかすかお手並み拝見といこうか。まぁうちのリーディアンに参戦してたアリスって実例もあったんだし、どうにかするだろうね」 



 自分がメインの一人として構築していたリーディアンの世界観に嵌まっていた有名廃神のアリシティアが、文字通り宇宙人と初めて知ったとき。


 異星人にも通用したと嬉しさや宇宙人が実在した驚きという物は佐伯には皆無だった。


 激務で三崎の精神が壊れたと常識的に心配して、それが真実だとはすぐには信じられなかった。


 業務上で関わり合いがあろうがなかろうが、思考ポジション的には観客目線が一番楽だと割り切ることにしている佐伯は、ドラマ鑑賞でも楽しむつもりでちょっと変わった家庭問題を見守ることにした。 

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― 新着の感想 ―
れ、、、連続更新 GWだから大丈夫、、なのか? 休みがとれないみたいな話ありましたが、命削ってませんか?
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