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B面 これが世界の秘密だ!(ミサキシンタの半分は嘘と虚構で出来ています)

「事の始まりは今から約半世紀前。2020年代の事です。極大期の詳細な太陽観測を目的とした太陽観測衛星打ち上げプロジェクト。SOLAR計画により立案された2つのプランに基づき打ち上げられた観測衛星SOLAR-C【あかつき2】そしてSOLAR-D【しののめ】という兄弟機がありました」



 上空のホテルオリンポスから、火星地表へと降下する無人小型低速飛行船のVIPルーム。


 ソファー席で柳原さんと向かい合いながら、まずは表向きの筋書きの説明を初めていく。


 火星地表へ降りましょうかと伝えてから、柳原さんは時折表情に驚きの色を浮かべるが無言のまま。


 どうやら反応を示さないことで俺から少しでも会話を引き出し、その真偽を見極めようとしているようだ。


 訝しむ感情を隠さない剣呑な目を適当に受け流しながら、俺は1人言葉を紡ぎつつ、対峙する俺らを中心に、室内の様子も写していくカメラの画像をチェックしておく。


 送迎船の見た目は蒼天系の最新飛行船技術をサイズダウンさせたものだが、その内装は火星植物園で成育中の木をふんだんに使って、手すり1本、ドアノブ1つに至るまで、スウェーデン出身の木工家の爺様を中心とした家具工芸チームによる手作り工芸品。


 無論今のVR世界のこっちはコピーだが、リアル火星では既に就航中の実在する船だ。


 職人堅気な幽霊様らを中心に迎える方針だから覚悟していたが、どうにも皆様こだわり過ぎる。


出来れば天然の物、しかも樹齢100年超の自然木って……爺様。火星開拓してまだ30年ほどですんで、物理的に無理です。


 そんなこんなのこだわりでストップも多く、作業は進まず量産が効かないのが玉に瑕な分、ワンオフ物として、銀河で唯一無二と胸を張れる出来だ。



 比べるのも馬鹿らしくなるほどに現在の地球とはかけ離れた科学技術力を持つ銀河文明に対して、俺らが対抗する手段は、いわゆる天才個人個人の卓越した職人技。


 その真髄を、勿体ないというか贅沢にも背景に使うことで、地球人講義受講者の皆様方に地味にアピール。


 こっちから押しつけるのでは無く、興味をもってくれた人に、自ら調べてもらう形を取っている。


 で、調べていくうちに、ディケライアの木工特集特設サイトにたどり着き、歴史や体系を学んでもらう。


 最後に設けられた設問に見事正解した先着数名様に、仮想では無く、リアルの火星ご招待(星連アカデミア特別調査員名目)って寸法だ。


 わざわざ調べて、しかも講義映像を見て、問題を解くほどに興味を持つ人々だ。少なくとも好意的な目を向けてくれるだろう。


 解けなくとも、もしくは制約で来られないなどでも、今の俺らがいるVR火星都市への体験パスをご進呈。異文化を知り、体験してもらう流れを画策中だ。 


 

「日本のみならず各国、地域の宇宙開発・研究機関との協力の下に行われたプロジェクトは、膨大なデータを取得し、とりわけ太陽内部構造の解析に多大な成果をあげました。しかし好事魔多しといいますか、順調に集められたデータの中には驚くべき物がありました……」



 そんな宇宙向けな内職をコツコツやっているとはおくびにも出さず、俺は極めて真面目な顔で、一度間を置いてみせる。


 俺が間を置いた事でいよいよ核心に近づくと感じたのか、無言のままだが柳原さんがゴクリと息をのんだ。


 いや緊張してる所すみません。単に演出と、後一応の不審者チェックの為です。何せこういう展開で出番を見計らって乗り込んでくる目立ちたがりな馬鹿兎が身内にいますんで。



「今後百年以内にほぼ間違いなく、太陽系史上最大級の大規模フレアが断続的に発生する超極大期が訪れると。つまり現代の我々が呼ぶ所の【サンクエイク】発生の予知です」



 とりあえず目的の台詞まで告げてみせたが、アリスが割り込んでくる形跡は無し。


 こっちの動きは向こうでモニターしているだろうが、さすがに会議中に抜け出しては来られまい……と思う。あいつこういう寸劇が大好きだから油断は出来ない。


『話は聞かせてもらったわ。人類は滅亡する』と、ものすごく真剣な表情で、そのくせウサミミを楽しそうにぶんぶん振り回しつつ乱入してきてもおかしくない。


 うむ。嫌な意味で高い信頼感だ。



「サ、サンクエイクの予知……それも半世紀前に……」



 おー驚いている驚いている。さすがに無言は無理か。


 真剣に語るその裏で俺が内心では嫁の奇行発動を警戒しているとは、露ほども思っていないのか、柳原さんは目を見開き驚愕の色に染めている。


 さてここからはしばし無言タイム。

 

 俺は黙りつつもこれ見よがしに仮想コンソールを叩いて、目の前に鎮座する木製テーブルの上に、各種VR資料を展示してみせて、どうぞと手で指し示す。


 俺がテーブル上に広げたのは、今言ったことが真実だと思わせるための、各国の宇宙研究機関による極秘資料。


 柳原さんがとりあえず目に付く資料をいくつも読み取りはじめる。


 記者だけあって速読を身につけているのか、目をあちらこちらに飛ばし、俺の説明が本当かと確かめている。


 ただ無論のこと、これらは全部真っ赤な偽物。


 といっても、ルナプラントのお歴々は、元々それら機関の出身者が多く、紛れも無い宇宙関係専門家。それも第一線のエリート揃い。


 そんな連中が監修、製作している、プロが本気で作った捏造資料という質の悪い代物で、俺や柳原さんみたいな素人がぱっと見では、捏造だとは見抜けない出来だ。


 もっともこれはあくまでも、フレーバーテキスト程度の説得力を持たせるための物。


 こんな大嘘を信じさせる。もしくは信じさせるための本命は、既に俺は持っているし、柳原さんも知っている。


 だから俺はあえて無言を貫く。これ以上は言葉を重ねて誘導するよりも、柳原さんが自分でその推論にたどり着いてくれた方が、そんな荒唐無稽な大嘘でもより信じやすくなるからだ。



「超高速大容量情報交換用粒子通信ネットワーク開発……脳内ナノマシーン技術による人格、記憶移植記録……惑星間意識転位実験にクローン体による火星開拓都市建造!?」



 資料を読み進めるたびに柳原さんの脳裏で点と点が線となって繋がっていく様子が、手に取るように判る。


 衛星通信網完全破壊をもたらしたサンクエイクから、僅か半年足らずで、地球圏の混乱を収める手札となったディケライア社がもたらした粒子通信技術。


 そしてサンクエイクの直撃を受け全滅した月のルナプラントにいたはずの大佐やシルヴィーさんからのサンクエイク後に撮られたメッセージ。


 そしてそのメッセージを、航空網がずたぼろで移動に著しい制限があるはずなのに、同時期に地球各地に散らばるルナプラント関係者家族の元へと届ける事が出来た俺の謎。


 何より今自分達がいる所が火星だと言った理由。


 それらを結びつけるだけの資料。そして柳原さん自身の体験と、目の前にいる俺の言動。


 それが真実味をもたらす。


 つまりサンクエイクの発生は既に大昔に予想されており、その為の対策が、対抗手段が世界規模で秘密裏に進行していたと。


 まぁ、真実を隠すために、1から10まで、それこそ原因であるサンクエイクさえ捏造という嘘の上で作りあげた虚空の世界の驚愕の秘密って所だろうか。



「……こ、これは現実……本当の事なのか?」



 柳原さんが真実を確かめる事を恐れるかのように、汗ばんだ手を僅かに振るわせながらも、それでも知る為に覚悟を決め慎重に口にする。



「そこはそれ、国家機密なので詳細は私の口からはご勘弁を。それよりどうです。まずは火星産のラム酒入りのコーヒーでも一杯飲んで気を落ち着かせませんか」 


 

 色々な個人的な事情ありありな事故の勢いで、地球及び全地球人及び3惑星と一緒に、太陽とほかの惑星を残して、銀河の反対側に空間跳躍しました。


 そんな事をほざけば病院行きの救急車に押し込められる真実よりも、地球人にギリギリで理解が出来る、もしくはかろうじて受け入れる事が出来る大嘘をついている事を隠すため、柳原さんの追及をかわす便利な言葉『国家機密』を口にして嘯いてみせた。

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