第85話 ヒロの自覚?
お待たせ致しましたー
「早朝より失礼する。馳走の匂いがした故、邪魔を致す」
かしこまっているけれど……草の長老様はお腹が相当空いているようです。
「おはようございます。いらっしゃいませ。お席にてお待ちください」
とは言え、お客様に変わりないからおもてなしはしますとも。
「ヒロ、手伝うことはあるか?」
長老様とご一緒に来られたスインドさんは、すぐに手伝いを申し出てくれた。連日連夜……本業の方をほとんどお休みしているのに、働き者さんの姿勢はクレハにも見習ってほしいわ。
「大丈夫ですよ? ちょうど私とクレハの朝ご飯用を作っていたので……試食で良ければ、草の長老様にもお出し出来ますが」
「む? 試食とな!」
「カツやで〜!!」
「すぐ準備出来ますので。スインドさんもゆっくりされてください」
「……仕上げを見て良いか?」
「あ、はい」
圧をかけられたので、つい返事をしてしまう。
ちょっとびっくりしたけど……頷いてしまったので、一緒に厨房に行くことに。中途半端にしていたカツ達を……スインドさんは興味津々に見てくれたわ。
「……肉に衣をつけて、そのまま揚げたのか」
私の持つ、日本での調理法をだいぶ見慣れたせいか……ちょっとだけ彼も詳しくなっている。その真剣な横顔を見ると……なんだか、心が少し早鐘を打つように鼓動が早くなっていくのだ!
(な……なんでも、ない! 気のせい!!)
ユキトさんに……誰か好きな相手が居ないか聞かれた時。ふいに、スインドさんの顔が思い浮かんだ。ザックさんは、ユキトさんが気にかけているから違う……とすぐに納得出来たからとは思っていたが。
スインドさんと……関わり合う時間が増えるにつれて、その……ちょっとずつ、意識してしまうのだ。顔以外にも、仕草とか体付きとか。
まるで、ストーカーじゃないかと思いかけたりもしたので……極力、意識しないようにしていたけれど。
それも……誤魔化しきれないかも。頭を撫でてくれる以上に、抱きしめてくれたあの瞬間も思い出す頻度が増えてきたから。
「……これも、醤油で食べるのか?」
雑念を追い払えないでいると、彼からの質問があったので切り替えることにした!
「はい! サイシでも美味しいとは思いますが……『ソース』と言う単体の調味料が作れれば、もっと美味しいとは思います」
「その言い方だと……ヒロが作るのは難しいのか?」
「手間暇と、仕込みが…………あちらでも見習いでしたし。師匠達も仕入れたものを使っていました」
「……どのようなものだ?」
「どろっとしていて……野菜や果物の甘味と酸味。香ばしさに加えて、独特の味わいもありますね」
「……すぐには出来るものではないようだな」
「なので……こちらには岩塩もありますし。今回はそれとサイシにしましょう」
カツだけだと物寂しいので、ご飯に……味噌もないから野菜スープで定食風に仕上げ。
カウンターで待っててくれてる草の長老様とクレハの分も、持っていくことに。
「…………にゃ」
「……ほぉ?」
カウンターでは、クレハは特に……長老様に突っかかっていなかったわ。むしろ……恋する女の子のようにしおらしくなって。長老様も苦笑いされているし……この二人、自覚有りなのに付き合っていないだけ?




