第80話 スッポンスープ
「……こ、これ……は?」
「是非召し上がっていただきたい、肉料理です」
「……え……と、ギアラ……?」
「はい。ギアラを煮込んだスープです。向こうでは、『スッポン』と言う生き物とも呼ばれていました」
たまたまだったけど、クレハがニョロギアを捕獲するついでにひっついてきたらしい。
スッポンは、ジビエでも特に高級肉として……小料理屋では重宝されている。特に、天然物となれば一味二味も違うわ!!
大きさが……私に顔以上にあったのは、びっくりしたけれど。外見は、ほとんどスッポンだったのよね? クレハがシメてくれなきゃ、スインドさんも止めに入るくらい暴れ回って大変だったわ……。
「……汁? え……っと、スープ……?」
「はい。きちんと味付けしたスープですよ。ギアラの臭み消しもしてあるので……是非手づかみでガブッと」
「て……手づかみ?」
「おしぼりも用意してありますので、手拭きに使ってください」
普通の肉とは違う……ざらついた皮に最初は抵抗があるかもしれないが、ひと口食べれば病みつきになるのよね。私も修行の最初に師匠から出された時は……思いっきり逃げそうになったのは懐かしい思い出だわ。
「……皮……ごと?」
「ふふ。ギアラには、女性に嬉しいものが含まれているんです」
「! なん……ですか?」
「お肌を潤すものです! 特に皮や甲羅の表面に含まれています!」
なので、このお皿にもあえて甲羅を入れてあるのだ。大きいので、下ごしらえの時にクレハの腕力で半分に割ってもらったが。
「…………じゃあ」
袖をめくり、ユキトさんは……脚肉の部分を手に取った。そこも皮と肉の間にはコラーゲンたっぷりなので、いい選択だ。
髪を巻き込まないように……慎重に口に持っていくと、カプッと言う感じに噛み付いたわ。
「!?」
噛みちぎって、もぐもぐと口に入れると……そこからは、早かった。
しっかり出汁で煮込み、柔らかくも弾力のある肉に……にんにくと長ネギの風味とかに加えて、塩と胡椒の味付けもある……味見は当然したが、まるで鳥もも肉のように食べ応えのある肉の味わいが。
プルプルのコラーゲン部分の食感も合わさると……美味しくて手が止まらないのだろう。
骨ガラの器も教えてから、ユキトさんはひとつ……またひとつとギアラの肉を食べていく。甲羅の表面も美味しそうにしゃぶり……スープもきちんと全部飲み干してから、満足されたため息を吐いたのだ。
「いかがでしたか?」
聞くまでもないが、一応の感想は聞きたかった。
「す……凄く、美味しかった……です! このような……ギアラの食べ方、は、初めて……です!!」
「よかったです。効果はすぐ出るかわかりませんが……もう一つ、珍味をお出ししますね?」
「ちんみ?」
「こちらです」
ぷるんとした……ピンクの塊。
拳大だけど……ユキトさんは、何かわからず首をひねるだけだった。まあ、無理ないわ。
「……お肉? では……ない、ですよね?」
「正確には…………ギアラの脳みそです」
「……のうみそ?」
「頭の中の部分です」
「…………え?」
「ギアラの肉は他に滋養としてもよく。私のいた世界では……この部分も調理すれば食べられていました」
珍味も珍味なので、お客さん全員には出せないけれど。
クレハ達に、最初出した時は……気味悪がられてしまったが。
ユキトさんは……肉の方で、すっかりギアラの虜になったせいか。一緒に出したスプーンを手に、ゆっくりと脳みそをすくったのだ。
次回はまた明日〜




