第53話 彼にもまた
お待たせ致しましたー
「ん? なに、その姿勢ぇ?」
ちょっとびっくりしたのか、ザックさんは目を丸くした。
けど、この機会を利用しないと……ザックさんにはちゃんと言えないと思うのだ。
「……ザックさん。信じてはもらえないとは思いますが、お伝えしたいことがあります」
「んー? なになにぃ?」
「……先ほど言っていた出身地ですが。私は……こちらの世界のどれにも当てはまりません」
「…………どゆこと?」
「……他所の世界から、派遣された人間なんです。私は」
言ってしまった。
スインドさんの時のように……驚く以上の事が起きるだろうか?
ザックさんは、少し固まっていたのだが……硬直が無くなると、途端に私の前まで詰め寄って来たのだ!?
「……………………マジ?」
と、まずこのひと言。
疑う、と言うよりかは信じられない気持ちの方が強いみたいだ。
「…………大マジ、です」
「別んとこから来たぁ!? ま……魔法使えないって、それが理由ぅ?」
「それもですが……ザックさんのお仕事とかは、向こうだと誰も出来ません」
「………………えぇ??」
「ついでに言うなら〜、ヒロは六角ボアに背ぇ向けて逃げ出したで?」
「……………………う、嘘ぉ?」
「……ほんと、です」
誰でも、あのボア相手に逃げ出してしまうのは……異常に思われるのだろう。正直に言うと、ザックさんは口をあんぐりと開けた。
「……………………スイ、はいつ知ったぁ?」
「…………俺も昨日だ」
スインドさんに話題を振っても、彼は彼で真面目な表情で頷くだけだった。それで確信を得たのか、ザックさんは敷布の上であぐらをかいた。
「……………………うん。……うん、まあ……わかった。それもだけどぉ、あれだけ美味い料理…………他じゃ、絶対ない」
ついでに頭をかいた時の表情は……苦笑いだったが、受け入れてくださったような雰囲気を感じた。
「…………信じて、くれますか?」
「うん。俺の仕事とかぁ、他の職人でも出来るのにさ? ヒロはぜーんぜん知らないんでしょー?」
「はい。魔法は一切使えない世界でした」
代わりに、魔法じゃない科学文化が発展した世界ではあるけど。ややこしくなるので、それは言うのをやめておくことにしたわ。
「んー。そっかそっか。わかったよぉ。スイも認めてんなら、俺も受け入れるー。……でも、ボアとかもあっちにいないのぉ?」
「……魔物とか、モンスターもいません」
「……けど、料理出来んだ?」
「……似た動物はいたので」
だから、ジビエ料理とか家庭料理を意識したものは作れるのだ。
「ふーん? 面白ーい! もっと聞きたいけどぉ。なんで、こっちに居るわけぇ? 店出すのもその理由になんの?」
「……派遣をしてくださった、神様の願いからです。場所は、この近くでクレハに助けてもらったのがきっかけです」
「あちきも毎日食べたいんよー?」
「なるほー? たしかにぃ、ヒロの料理美味いしねぇ?」
「ありがとうございます」
拒絶されないことにほっとしていると、ザックさんは何故か立ち上がった。
「料理代の分はぁ、働かせてもらうよぉ? 店の内装とかぁ……ここを居住地にすんなら、家具とか」
「え? あの……収納に全部あるんですか?」
「うん。だいたいは工房で作って、さっきの宝玉とかに仕舞ってんのー。出したり、配置は魔法使うけどぉ」
つくづく、異世界はなんでもありだな……と実感出来たわ。




