第50話 自分の厨房
しっくりくる。
馴染むと言ってもいいだろうか?
初めて使う厨房だと言うのに……自分がこれからここで仕事をする場となると、ただ立っている場所だけなのに……扱いやすいのだ。
チルットから出発する前に、ちょっとだけザックさんから物差しで腰の高さとかは計られたが……それだけで、このような場所を作ってくれるだなんて。
だから、気合を入れて料理を作ることにした。
道具とかは、クレハの魔法使い収納から出して……だいたいを調理台や棚に仕舞っていく。その間にも作る料理の構想は練っていた。
(……お好み焼きは、材料が色々足りないし。たこ焼きは道具がないわ)
粉物とは決めたけど……どんなのがいいか。馴染みのある日本食で作ろうにも、色々材料もだが時間もない。
お好み焼きのソースは醤油で仕上げてもいいが、せっかくの粉物の最初はソースが美味しいと思う。自論だけど、ソースの方が絶対美味しいから。
なら、他の粉物ときて手軽に食べられるとすれば。
(……クレープ!)
和食とは程遠いが。
生地だけなら……なんとかなるかもしれないわ。
具材はおかずクレープにすれば、腹持ちにいいかも!
そうと決まれば、と粉類とザルを手にした。
「……何しとるん、ヒロ?」
空腹だけど、私の作業が気になったのかクレハがこっちにやってきたわ。
私が粉類をふるいにかけているのを見て、不思議そうに覗き込んでいた。
「これをね? 生地って言うものにするの」
「きじ?」
「服じゃないわよ? リーガのように、主食みたいなのにするんだけど……どっちかと言えば、パンに近いわ」
「パン? なんなんそれ?」
「……パンも食べたことないの?」
「おん」
スインドさん達の方を見ても、苦笑いされるだけだったわ。ただ、スインドさんが鞄……魔法鞄って凄いの……から、ロールパンのようなものを出してくれた。それをクレハに見せても、彼女は首を傾げるだけ。
「……こう言うものだが」
「……なんや、その茶色いの」
「小麦で作った主食よ? ふんわりしていて美味しいの」
「ふんわり?」
「アヤカシだとぉ、ほとんど食わないだろうなあ? んで、ヒロは何作ってんのぉ?」
「パンではないんですが、薄く焼いた生地に……朝食べたようなお肉を包もうかと」
「うーん?」
想像がつかないと言うことは、こっちにはパンはあっても『クレープ』はないかもしれない。もしくは、呼び名が違うと言う場合もあるわ。
粉類をきめ細かくふるいにかけて、ボウルに……入れたところで卵がないのを思い出したけど、無いバージョンで作ってみるかと決めた。泡立て器がないので……不恰好だけど、菜箸を数本持って水を少しずつ入れながら混ぜていく。
ねっとりから、とろーんとなったらとりあえず生地の完成だ。
「……このまま食うん?」
「……クレハ。違うから」
お腹が限界なクレハは、お米の時と同じような質問をしてきた。
そうじゃないと首を振ってから、彼女には釜戸の火をつけてもらうようにお願いしたわ。
次回はまた明日〜




