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第44話 最初の炊飯

 あとは、釜戸の火を弱めて……湯気の具合と時々ふたを開けて様子見したら、蒸らす。


 おこげも美味しいけど、丼には少し不向きだから慎重に火加減は見ていかなきゃいけない。


 きっと、異世界初めての炊飯だから……材料の無駄遣いはしたくないもの。


 クレハもタレ作りの下準備が出来たら、こっちに来てくれた。



「なんや、ちょい不思議な甘い匂いすんなあ?」


「……たしかに、言われてみれば」


「日本でもある米の匂いとも似てます!」



 ああ、異世界だけど米が食べられるだなんて!


 うまく炊けていればいいけど……と願いながら少しふたを開ければ、いい感じに薄ピンク色の粒が立っていたわ。これであとは蒸らせばいいので……薪を取って火を消す。



「ヒ〜ロ〜? これこのまま食えん?」


「……あっついよ?」


「食べたいにゃー」


「うーん」



 ちらっと、スインドさんを見ると……彼も食べてみたいのか、少しほっぺがピンク色になってて目も輝いていた。少しずつだけど、この人の感情の変化もわかってきたようだ。


 まあ確かに。出来立てのものを食べたい欲求は出てもしょうがない。なので、定番調味料になりつつある岩塩を使うことにした。


 作りたいと思っているのは、『おにぎり』。



「……塩使うん?」


「このままでもいいかもだけど、私のいた国では定番の食べ方なの」


「……なるほど」



 ボウルに、炊けたうちでも上の部分を……しゃもじがないので、木べらですくってから入れ。まずは、私が具合を見るのに軽くひと口食べてみると。



「……米だわ!」



 米特有の甘みは少し強めだが、風味も味わいもほとんどコシヒカリとかと同じ。


 噛めば噛むほど……ふんわり、しっかりした粒の食感が楽しくなってくる。芯が残った感じもないし……異世界で初めて炊いたとは言え上出来じゃないだろうか?


 これは……米粉だけの活用だけには、惜しい食材だわ!


 二人にも味わってもらいたいので、岩塩を少し加えて混ぜてから……あちち、と言いながら握っていく。


 試食なので、小さめの三角。



「ふーん? これが?」


「手づかみか?」


「是非是非」



 ささっと勧めれば、二人はお皿に乗ったおにぎりをじーっと見つめてから、手に取ってくれた。


 クレハは匂いを嗅いでから、すぐにパクりと。


 スインドさんは、クレハが食べ始めてからかぶりついてくれたわ。



「なんなんこれ!?」


「…………不思議な味わいだが。…………美味い」


「にゃー! 肉とも野菜とも違うわ〜!!」


「ふふ、おにぎりは塩味だけじゃなく……材料が揃えれば、色々味も変わります」


「ヒロ〜、あちき今度それ食べたいー!」


「材料次第だけどね? これを機に今から作る具材を載せて、食べていくわよ?」


「……リーガでこのような」



 続きをしようとしていたら、スインドさんはひとりでぶつぶつ言いながら何かを考え込んでいた。


 彼には異世界事情を知ってもらったとは言え……普通じゃない食材の使い方を知ったら、商人として何か思いついたのかな??

次回はまた明日〜

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