第34話 特許のために①
「今日は……少し特殊なやつを連れてきた」
「特殊な? スインドさんがそう言うのは珍しいですね?」
顔見知りらしい。
以上に、かなり親しい間柄なのかな?
受付のお兄さん、にっこり笑顔でスインドさんに対応していたから……私やクレハに気づくと、『おや?』って首を傾げたが。
「こちらにいるのが、今告げた相手だ」
「……はじめまして、ヒロと言います」
「……クレハにゃぁ」
クレハはまだ騒ぎ声がしんどいのか、耳をへにょんとしている。アヤカシの里での人混みは普通だったのに……人間の方はなんでダメなんだろう?
とりあえず、挨拶出来るくらいに回復は出来ているけど。
「ああ、どうも。ギルド職員のエイドと言います。スインドさんのご紹介だと伺いましたが」
「……今日はこの女性が作った調味料の特許を取りに来た」
「……女性?」
「……すみません、スインドさんと同じ二十二歳です」
登録カードを差し出すと、エイドさんは一瞬だけ固まったが……すぐに咳払いしてからカードを返してくれた。
「これは大変失礼を。わかりました。……しかし、調味料の特許ですか?」
「ああ、これだ」
スインドさんが鞄からポン酢を入れた瓶を取り出したけど……ぱっと見た感じでは、醤油であるサイシと区別がつかない。
しかし、エイドさんは何かを察したのか……蓋を開けて、軽く匂いを嗅いでくれた。その後に、はっとしたような表情になったわ。
「……柑橘系の香り? サイシにですか?」
「……お肉とかをさっぱり食べるための調味料です。場合によっては、サラダにも合います」
用法を少しだけ告げると……エイドさんは自分の手のひらに軽く垂らし、ためらうことなく舐めてくれた。
「ん? レモン……だけじゃなく、お酢も。しかし……サイシの風味を損なっていないですね?」
「……どうだ? エイド」
「……面白い味ですね。何か食材にかけて食べるともっと変わるでしょう。……ヒロさん、先ほどサラダと言われましたね?」
「はい。根菜類や……葉物でも合うかと」
ポルネギとかのようなものでも合うだろうけど……単純に試すのなら、きゅうりとかが良い。ただ、こちらではどのような呼び名なのか確認してないので……下手に言わないでおくが。
「でしたら……特許取得も兼ねて、試食しましょう。奥の職員厨房にご案内しますね?」
たしかに、実際に他の食べ物と組み合わせて確認しなきゃ、特許とかは難しいと思う。
けど、私はそれよりも!
異世界での厨房がどんなものなのか気になって仕方がなかった!! だって、野営以外でまだちゃんとした場所で料理したことないもん!!
それに、これから里のあの場所で……どう言う厨房を作っていけばいいのかの参考にもなるから。
エイドさんに入るように言われた部屋に入れば……私は思わず、声を上げそうになったわ!
(……懐かしい!)
元の職場だった……日本に居た時の小料理屋。
金属と木材、あと土をうまく使った……素朴ながらも、落ち着いた雰囲気のある……和の空間。
それに近いくらいの、釜戸や炭での焼き場などがきちんと揃った……厨房が部屋の中にあったの。これには、少し泣きそうになったが……グッと堪えた。
次回はまた明日〜




