第33話 識字を学ぶ
お待たせ致しましたー
なんとか信じてはもらえたようなので……スインドさんには、異世界の知識などをギルドに行く前に共有してくれることになった。
いくら、私が二十二歳でもこの世界の常識はほぼゼロと言っていい。文字は読めても、こちらの文字を書くことが出来るとかがわからないのも含めて。
「……こちらが、この世界の文字だが」
スインドさんに、文字の一覧を見せてもらった。一瞬だけ……不思議なローマ字模様が見えたけど、すぐに日本語のように読むことが出来た。これはやっぱり、あの美女神様が何かしてくれたのかな?
「……読むことは出来ます」
「……書くのは難しいか?」
「……やってみます」
紙とペンは……日本のものとほとんど同じだった。ボールペンとか、普通のぺらぺらな紙。
試しに、ペンを軽く紙の上に走らせると……黒いインクで線が書けたわ。使い心地もとても良い。……不思議なところで、文化が似ているのかしら?
書いてみる文字は、自分の本名にしてみた。漢字を意識して書いたら……何故か、こちらの文字に勝手に書くことが出来た。読み方は、私には漢字に見えるのに。
「……アキヨシ、ヒロ……ク?」
スインドさんに見ていただいたが、やっぱり『宏香』の読み方は異世界の人達には言いにくいようだった。
「それが私の本名です。言いにくいようですし、『ヒロ』で大丈夫ですよ?」
「……登録カードにも書いてあるしな? 下手に言いふらさない方が良い。無論……俺もしない」
「ありがとうございます」
「あちきも言えないわ〜」
「いいよ、大丈夫」
他にもいろんな文字を書いてみて……問題がないと分かれば、次に行くのはギルドだ。ポン酢の特許を取得するのに……大事な場所なんだって。
お店のロックキーとかは、またスインドさんが手をかざせばロック出来る優れものだった! 自動ロックって、ホテルじゃないかって思ったくらい!!
「スインドさん、ギルドってどんな場所なんですか?」
「……そうだな。向かいながら話そう」
背の高いスインドさんを見失うことはないが、クレハとは手を繋いで彼の後についていく。スインドさんが先に行くと、体格の良い彼にぶつからないように避けて行くのがちょっとだけ面白かった。
「どんな場所なん?」
「……獣人らの集落にはないのか?」
「ないにゃ〜、罰則さえ気をつけてれば……楽しく過ごすくらいでええ。けんど、ここ百年くらいで……人間とも商売のやり取りしとる。少しずつ変わってはきとるよ?」
「……なるほど。ギルドは俺が言ったような場所だと『生産ギルド』と呼ばれているところだ。食材や道具などの流通に、レシピの登録や特許の管理。あげたらきりがないが……概ね、そのような場所だと思ってくれ」
「……管理責任の集まりみたいな?」
「……似たのはあるのか?」
「あまり詳しくはないですが……少しだけ、勉強はしてました」
腕の怪我で……途中だった勉強もすべて放り投げてしまったけど。今でこそ、五体満足で日常を過ごせるのだから……あの時の中途半端な知識が役に立つかはわからないが、何も無いよりいいだろう。
「……ヒロの知識。こちらのをうまく取り入れれば、かなり役立つだろうな」
「そうなんですか?」
「ああ……着いたぞ」
止まったスインドさんにならうように立ち止まれば……スインドさんのお店より、はるかに大きな石と木材で作られた建物があった。
上を見れば、看板があったわ。文字はこれも読めたので、『チルット生産ギルド』って言うのがわかった。
「ほーん。そこそこ大きいなあ?」
「ね?」
「とりあえず、入るぞ」
「「はーい」」
スインドさんが扉を開けてくれると……中からは、すぐにざわめき声のようなものが聞こえて来た。外よりもダイレクトに声が聞こえてくるから……クレハは、また耳をへにゃんとさせちゃった。
「……あちらが受付だ」
クレハの様子をちらっと見てくれたスインドさんだったが、目的はきちんとあるので……指を向けた方向に行くことに。
私はクレハの手を引いて、後に続いた。
「おや、スインドさん」
受付って場所にいたのは……少し私より年上っぽい、爽やか系の男の人がカウンターの向こうで座っていた。




