第32話 秘密を打ち明ける
もちろん……日本でも、様々な許可証などは営業して行く上で必要だと言う知識は……師匠達から学んではいた。だけど……調味料の情報共有まで、許可が必要となる発想はなかったわ。
『それ』が当たり前過ぎていただけで。
美女神様にも……そう言えば、この世界では私の料理が日本でも普通じゃないと言葉にしていた。なら、ジビエ料理もだけど……和食って一般的じゃないから……珍しくて当然。
料理法の一部は似たものがあっても、だ。
「ヒロ。ギルドに行く前に……まだ聞いておきたいことがある」
考え込んでいたら、スインドさんにまた真剣な表情で質問をされた。イケメンだから……ドキドキしちゃうなあ。耐性全然ないもので。
「はい。なんですか?」
「ヒロの持つ知識……このポン酢以外、まだいくつかあるようだが」
「……ありますが」
流石に、めんつゆの素になる『かえし』とか白だし……さらにカツオ出汁や昆布出汁も、材料がないと作れない。
このお店の中を探せばあるかもしれないが……それには、スインドさんに『私自身』のことを多少なりとも伝えなくては。
異世界から来た人間であることを。
クレハの時は別だが、まだ出会って一時間も経っていない相手に……そんな重大な事を言って信じてもらえる自信なんてない。
でも……もし、彼が大事な取り引き先相手になるのであれば。
それに、長老おじいちゃんやクレハだけでは……お店を開く上で、私も含めてこちらでの知識が偏っているもの。なら、一番それを知っているかもしれない、スインドさんを頼りたい。
向こうも、初対面の私に……色々よくしてくれるんだもん。その気遣いに、少し応えたかった。クレハに振り返れば、彼女も察してくれたのか頷いてくれたし。
「……どうした?」
スインドさんは、私達のやり取りを見て首を傾げただけ。必要以上に追求してこない姿勢にも、私は決意を固めることが出来たわ。
「スインドさん、その調味料をお教えする上で……私の持つ真実をお伝えしたいんです」
「……真実?」
「絶対信じてはもらえないでしょうが……私はこの街どころかどこの国も、アヤカシの里にも属していない人間なんです。……異なる世界より、神によって派遣された者なんです!」
伝えた。
言ってしまった。
けど……後悔はしていない。
長老おじいちゃんはすぐにひっくり返ったりしたけど……スインドさんは、少し目を丸くした以外は……口元に手を添えて考え込むだけ。
と言うことは……疑うだろうが、バカにはしていないと思う。
勝手な考えだけど……そうであって欲しかった。
この人には……私はちゃんと向き合いたかったから。
「……異なる、世界。本当にどこの国にも?」
「あちきも知ってるで〜? こん子、六角ボアの逃げ方すら知らんかったんやから」
「……なに?」
「……思いっきり、背を向けて逃げました」
そこは正直に言うと……今度はめちゃくちゃ驚いたのか、スインドさんの表情が固まってしまった。
「……六角ボアだぞ?」
「……はい」
「木の上に登れないのか……?」
「出来なくもないですが。私のいた国では、それも危険だと言われていましたし。ボアもいませんでした」
「……………………本当に二十二か?」
「それは絶対言い切れます!」
最後の質問は意味がわからなかったが……何故か、スインドさんは自分の手で顔を覆った。
「……………………わかっ、た。信じよう」
「へ?」
「……五歳程度の子供でも知っているのを、ヒロは知らないのだろう? どの国でも大陸でも、それは常識だ」
「……なんと」
それは……きちんとした証拠になるのかな?
私がびっくりしていると、スインドさんは苦笑いしてから……私の頭を軽く撫でてくれた。なんで?
次回はまた明日〜




