第28話 見習いの意志
やはり、異世界……侮り難し。
そう、心の中でめそめそしていたが……ここで悔しがっても意味がない。
私は改めて、店主さんに……自分の登録カードを差し出して、自分の証明になるものを知ってもらうことにした。
「料理人見習いのヒロと言います。未熟者ですが……先ほど食べていただいた串焼きを作った本人です」
登録カードには……私の本名である秋吉宏香ではなく、『ヒロ』と印字されているのだ。多分だけど……あの美女神様が、どこかでいじってくれたかもしれない。私がこちらで馴染めるようにと。
カードを見てくれた店主さんは、一度手に取ってから……すぐに私に返してくれた。
「……そうか。これで証明されているのなら、たしかなことだ。……しかし、獣人の住む場所で店か」
「あちきのおじぃが許可出したんよー?」
「……それなら、大丈夫か」
「調味料以外にも、色んなものが必要なのはわかっています。けど、まずは店主さんのここが良いと思って」
イケメンボイスに加えて、イケメンを直視出来ないと思いそうになるが……真剣な内容なので、ちゃんと目を見て答えた。ちゃんと誠実であることをわかってもらいたかったから。
店主さんは、少し屈んでいた姿勢を元に戻して……少し考え出した。首を軽くひねるだけでも絵になるだなんて、美形はけしからん!
じゃなくて、
「……他にも調味料の露店があるのに。わざわざ俺のところをか」
「醤油の香りがとても良かったので…… 」
「……ヒロの料理には、サイシがよく合うのか?」
「はい! 師匠に教わったのも、ほとんどがサイシを使います!」
さしすせその基本だもの!
そのうちの……和食には欠かせない調味料とくれば、ここで手に入れられない方が後悔する!
また、店主さんから目を逸らさずに……ほとんど見つめ合うくらいに見続けたけど。店主さんは無表情だったが……少しして、わずかだが微笑んでくれた! か、かっこいい!!
「そうか。なら、売る前に……俺の本店に来て欲しい」
「本店……ですか?」
「ああ。他にも、調味料以外色々ある」
「面白そうやんなあ?」
「……いいんですか?」
「試して欲しいことがあるからな」
と言うことで、ここの露店は一度おやすみすることになり……店主さんの案内で、街中に付いて行くことになったのだ。
距離はそんなにも離れていなかったが……商店街のような並びのひとつの前に立ち、入り口上には看板が。
「……スインドの、何でも屋?」
って読めたんだけど……なんか変?
店主さんは、露店では調味料を売っていたのに?
「本店では、出来るだけ何でも扱っている。今日はたまたま、調味料だっただけだ」
「なーる?」
「そうなんですね……」
「……名乗り忘れていたが、看板にあるように俺は『スインド』だ。呼びにくいようなら、スイとか適当に呼んでくれ」
「はい」
とりあえず、中に入ることになったけど……鍵の開け方が、魔法でも指紋認証とかの仕組みに似てて……凄かった!!
次回はまた明日〜




