表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/108

第108話 そこは私の大事な

最終回

 夢を見た。


 きちんとベッドで寝ていたはずなのに……真っ白な空間の中で、ひとり立っていたから。


 けど……見覚えがないわけじゃない。



「……久しぶり? 宏香(ひろか)



 美しい緑の黒髪が特徴的な、女性。


 顔面偏差値もめちゃくちゃ高い……女神様。


 美女神様だったわ!



「……お久しぶり、です」



 と言っても、この空間からあの世界に転移してから……半年程度だけど。



「ふふ。無事に……あの場所を解決してくれたようね?」



 魔法で、テーブルと椅子……さらに、紅茶のセットを出すのも変わらない。


 腰掛けるように言われたので……遠慮なく座る。夢のはずなのに、質感などもきちんと感じ取ることが出来たわ。


 それよりも。



「解決……とは? 貴女の願いは、私が店を開くことだったのでは」


「それはもちろん。けど……あのアヤカシ達の秩序を正すのには、神である私の介入が制限されていた」


「……そこに、私が?」


「ふふ。貴女と縁が深くなった……あのスインドとも引き合わせるためもあったわ。でも……それ以上に、まとまりの悪かったあの里もね?」



 たしかに……長老おじいちゃんにも聞いたけど、私が来るまでは長老一同の結束も緩かったらしい。そこに、私はジビエ料理を振る舞ったことで……あそこまで一致団結するようになったそうだ。


 イルアさんの件もあったが……里は、今本当の意味で輝いてき出したんだって。



「……私はこのままでいいんですか?」



 中途報告ではあるが……美女神様がわざわざこの場所に呼ぶんだもの。


 何かしらの……理由はあるだろうから。



「……もちろん。穏便に事を運んでくれたんだもの。貴女にも、辛い経験をさせてしまったし」


「え?」


「雷よ。あの世界の魔力の大半は……あの長老が司る、雷が主なの」


「……そうだったんですね」



 じゃあ……もう日本には帰られないけれど。


 これからも……スインドさん、クレハ達と一緒に。『小料理屋ヒロ』を営業出来るんだ。正直言って……嬉しい。



「けど、ひとつ」



 美女神様は……私に向かって、指を立てたのだ。



「はい?」


「私も食べたいわ。貴女の作った、ジビエって料理」


「……ここで?」


「もちろん、お店に行くわ。姿は変えるけど」


「……是非」



 私がそう告げると……意識が薄れていく感覚があった。


 次に意識が覚醒したのは……スインドさんの腕の中。一緒に住むようになって……ザックさんが作り変えてくれたベッドで、毎日一緒に眠っているのよね?


 あったかい温もりに……つい、ぎゅっと抱きついた。



「ん……おはよう」



 私の行動で目が覚めたのか……すぐに、目を開けておでこにキスをしてくれた。まだ慣れないけど……嬉しくて、つい笑っちゃう。


 だけど……まだ起きるには早い時間なので、彼に夢を通じて美女神様に会った事を伝えた。



「……てことが」


「それは……いつ来られるかわからないのだな?」


「けど、いつも通りで良いと思います」



 私は私なりに。


 いつもの接客と、料理でお客さん達にはおもてなしをするだけだ。


 しっかり言い切ると、スインドさんも頷いてくれたわ。



「そうだな。俺もいつも通りでいいと思う」


「今日のメインは、スインドさんも好きなボア肉のメンチカツです」


「! まかないが楽しみだな」


「せっかくなので……新作も兼ねて、コアナ(チーズ)入りにしようと思って」


「……物凄く美味そうだ」


「お気に入りに追加されると思います」




 怪我をして……絶望に堕ちてたあの頃の私は、もう何処にも居ない。


 大好きな人や、大切な人達と一緒に。


 生涯叶わないと思ってた……自分のお店を出すことが出来たのだから。


 ちょっと普通じゃない……色んなジビエ食材を今日も駆使して。


 アヤカシだけじゃなく……最近は少しずつ増えてきた、人間のお客さん達にも。


 美味しい料理を振る舞っていく!


 ……そして。


 この場所に、またひとつの命が増えたのはしばらくしてからだった。



【終】

応援ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ