2 喧騒。校舎前にて
いつまでもふさぎ込んだ気持ちではいけない。明日は土曜日だ。夜はゆっくり好きな曲を聴きながらベッドの上で休もうと考えていると、不意に校門が騒がしいことに気が付いて顔を上げる。
いつの間にか学校と外を分ける線の一歩手前まで歩いていた。
学校から見て真正面、車道を挟んだところにあるガードレールの手前に、一人の男が若干下を向く形でこちらを向いていた。大きな黒いバイクが腰かけ台となり、彼の長い脚の上にある腰を支えている。
百八十後半はある彼の手足は長い。赤いVネックシャツを除けば、靴からボトムス、羽織るジャケットまで黒い。細見の身体に無駄なく合わせた服は、彼のすらっとした体格を更に強調していた。
彼を遠巻きに眺める下校途中の生徒達は、一様に彼についての会話に興じながら歩き去って行った。喧騒の中心は、むしろ彼を相手に話す教師だ。
短髪の黒髪が似合う彼の顔は、若干罰が悪い表情を浮かべながら右隣にいる教師の話しを聞いていた。
その様子に驚いた私は、思わず彼に声をかけて近寄った。
「大地!」
予想以上に響いた声に反応した彼と女性教師は瞬間的に私を見た。
途端に彼の顔が明るくなる。
「よっ!優花!」
「優花さん!?」
一度に二人から声を掛けられたが、私はそのまま彼に話しかける。
「ちょっと、何やってんの!」
「いや、お前を待ってたんだよ」
「こんなところで待たなくてもいいじゃん!もうちょっと場所考えてよ!」
「ごめんごめん」
軽く謝りながら、人懐こい笑顔を見せる。すると、手に持っていたバイクのヘルメットを私めがけて放り投げてきた。慌ててキャッチする。
「というわけで優花来たから、俺もう行くわ!優花!早く乗れ!」
「はぁ!?」
「ちょっと!大地君!?」
驚く私と先生の声を置いてけぼりにして、大地は発進準備を進める。
激昂する先生が大地に声を荒げているが、大地は気にせず左手の親指で後部座席を示し、乗車を促してくる。
早く!という声に押されるように飛び乗り、ヘルメットを締めて大地の身体に手を回す。
大地は肩越しに私を一瞥して確認した後、先生に向かって別れを告げ発進する。
瞬間、学校と先生が置き去りになった。
先生が何か叫んでいたが聞き取れない。言葉も置き去りにして、通学路の並木道を走り抜ける。
あいつも変わんねーよな、と大声で話しかけてくる大地は、私と共に愛車で街を走り抜けた。




