フェーズ6。撃夢の銀鎧。 パート2。
「でや!」
踏み込みの勢いのまま、挨拶代わりとばかりに銀の戦士となった直樹は、
拳を目の前の金色の敵へと叩きつける。
今しがたまで装甲に阻まれていたのか、手ごたえが薄かった鉄拳は、
今この瞬間から、ズッシリと重みを返す
たしかな手ごたえへと変わっていた。
それを肌で感じ、直樹は音を漏らさず口角を釣り上げる。
「流石カオストリームフォーム。
デスタニアフォームで制限していたストリーマーを開放し、
装甲がストリーマーの固まりと化しているだけはあるな」
「お前、どうしてそれを?!」
驚愕する直樹。
ローダーの戦闘スペック、特にカオストリームフォームのような
強力な物の情報は、組織内でも極秘とされているのである。
限られた人間しか使用することのできない強いローダーを、
無暗に量産してしまうことをさけるためだ。
「言ったろ? 私が教えるに足ると判断すれば、教えてやろう、と。
その判定を下す程度には、戦ってもらわないと、私としても困る」
「くっ。目的もわからず、情報も引き出せずじゃ、骨折り損だ。
なにより。こんなコケにされたままやられてたまるか!」
その気迫のまま、直樹 銀のアルターは、再び攻撃をしかけた。
「はっ!」
殴る。
「ふっ!」
打つ。
「はっ! つっ! だぁっ!」
左右の拳をワンセットし、更に蹴りつけた。蹴った勢いで軽く飛びのき間合いを取ったアルター。
「流石に棒立ちで受けきれはしないか」
オルトロンはその言葉の通り、一撃毎にアルターの打撃の威力によって、
少しずつ下がらされていたのである。
「手応えあり、だな」
僅かに吐息を含んだ、疲労を帯びているかのような声でアルターは呟いた。
「なら、このまま押し切るっ!」
再び残像が生まれるほどの凄まじい早さの踏み込みで接近すると、
突き、打ち、蹴り、殴り。アルターは、有無を言わせぬ猛攻を叩き込む。
「まるで嵐ね。でも、危ういわね。銀色になってから突然戦い方がかわった。
あのがむしゃらっぷりは、相手がぜんぜん見えてないわね。
これまではニャたしと調子を合わせたり、相手の動きを捌く冷静さがあったのに、
今はまるで、銀色になったことに追い立てられてるみたい。
少し呼吸が荒くなってるのと関係あるのかしら」
カグヤは心の中で、アルターの戦闘スタイルの変化を
そう分析しながら、戦況を見つめる。
「金色は相変わらず余裕。でも、銀色は暴走状態。
戦力差は縮まらず、か。けど、この状況でニャたしに入る隙なんてあるの?」
現状においての自分の戦闘能力の低さに、カグヤは密かに歯噛みする。
「そういえば、金色の方、常に右腕で受け止めてるわね。
左腕が……あいてる……っ、まずいっ!」
「くそっ、カオストリームになると不必要に焦らされるっ」
言いながらも、アルター ーー倉沢直樹は猛攻を止めていない。
「相手に自分の心の内を明かすのは、戦闘する者としては未熟だな」
「銀色っ! 相手、左腕ががら空きっ!」
カグヤが声を賭けた直後、
「なにっ? がっっ!」
アルターは弾き飛ばされるように、後ろに吹き飛んだ。
地面に背を打ち付けたアルターだが、
しかしそのまま地面を転がり、距離を離すほどの余裕はあるようだ。
これだけでも、今のカオストリームフォームの性能が、
さきほどまでの形態とは一線を画す物であることがわかる。
「攻撃の僅かな隙間に、左手で反撃」
アルターが軽微なダメージで済んだことを見て取って、
小さく短い安堵の息を吐き、
「攻撃の受け方で防御力がおかしいのはわかってはいたけど。
傷の浅さは、そのまま余裕に繋がる、か」
微塵も崩れないオルトロンの余裕に、悔しげに言葉を吐く。
「大丈夫? 少しはおちついた?」
ゆっくりと上体を起こしているアルターに、
カグヤは余裕ありげに声を書けた。
「ああ、少しはな」
しかし直樹、変わらない旗色の悪さにもどかしげである。
「なんて奴。レベルが一段階上だとでも言うの?」
カグヤは呆れ半分、泰然と立ち続ける黄金の敵を睨み、
忌々しげに吐き出した。
「それでは君達は、力不足だと言わざるを得ないのだがな」
不服そうに、そうカグヤの声にオルトロンは答える。
「よく言うわよ、人の力ひっこぬいておいて」
「それはこの、ローダーと言う装甲の性質上しかたのないことだよ、お嬢さん。
我々は、君たちのような強き存在から力を借りなければ、
満足にシグマドと戦うことはできない。
自分たちの世界の危険に、他の世界の力を利用する必要があるんだ。
君達のように、元から戦いをこなせる肉体ではないからな」
「そのくせ、ずいぶんと偉そうに経ってるわね、ニャんたは」
オルトロンの言いぐさに、カグヤは呆れた溜息を吐いた。
「性分でな」
「そ。そう言われちゃ、はいそうですかって納得するしかないわね」
やれやれ、と言う風情でカグヤは肩をすくめた。
「ところでオルトロンさん。カオストリームフォームの俺の攻撃が、
アンタに殆ど通らないのは、どういうことだ?」
皮肉をこめて、睨み付けながら尋ねるアルター。
「それぐらいは答えてやるとするか、
カオストリームになったことに免じて」
「くっ、どこまで赤子扱いしてんだ」
吐き捨てたアルターを気にせず、オルトロンは答えをよこす。
「カオストリームの攻撃が通用しないのはしかたのないことだ。
同じ条件で、そちらのお嬢さんが装甲を使っているならわからないが、
この世界の人間が使っても、スペックは引き出し切れないだろう」
「どういうことなんだよ、そいつは? ダメージと関係あんのか?」
同じことを繰り返されて、直樹は不快な声を漏らす。
「大いにある。なぜなら、このオルトロンは、
そのカオストリームフォームのアルターをベースにし、
スペックを極限まで引き出せるようにした、
史上最強にして唯一、この私のみが使うことのできる
ローダーなのだからな」
「なん……だと……!?
カオストリームがベースで、
更に性能を上げたローダー?」
信じがたい、と言う疑問とも驚きとも付かない声色で、
オルトロンの言葉を復唱するアルター。
「カオストリームのリミッターを解除している、と言う方が分かりやすいかな?」
「な、リミッター解除だと? なんて物使ってんだ?
そんなことしたら、変身しただけで体がボロボロになるだろうが。
なんでそんな、自殺まがいのことしてんだ」
少しの思考を経て、プライムローダー・アルター、
倉沢直樹が行きついた感情は、困惑だった。
オルトロンと言うローダーの性能の危険性に、
それを平然と使用している変身者に対しての困惑が、
直樹の心に押し寄せたのだ。
「それはまた、次の段階で教えてやろう」
「くっ、遊びやがって」
「でも、どうするのよ。埒が明かないじゃない」
「拳で駄目なら、こいつを使うさ」
言うとアルターは、背中のリョウダン・ブレードをゆっくりと抜く。
「それとも、使うか? あんたなら、威力を俺よりは引き出せるらしいからな」
納得いかない、と言う気持ちを隠さず言いながら、カグヤの方を向く。
「そうね。長物は苦手だけど、手を出せない、出しても無意味よりはましだもの。
かしてくれる?」
「よし」
カグヤに向かってブレードを差し出す。一つ頷くと、カグヤはそれを受け取った。
「へぇ、見た目に反して軽いのね」
片手で受け取ったカグヤは、その重量に意外そうに感想を漏らす。
「それを軽いって言えるのか。俺変身してなきゃ片手じゃ扱えないぞ」
「流石は異世界の住人、と言うことだな。
だが、これ以上『異世界の者』の看板を、台無しにしないでもらえると助かるんだが」
「はぁ、もぉ。いちいちいやみな奴ね」
「さて、続きをしようか」
楽しげに語り掛けて来るオルトロン。
その態度に、二人は不機嫌を表情と歯噛みで返した。
「今、笑ったわね。ニャたしの猫の耳見て、笑ったわね。
ケイト・シスの証しを笑う奴。叩き切ってやる!」
カグヤは受け取った得物を構えるのと同時、
金色の相手をその金色の瞳で睨み付けた。
***
「さっき電話漏れ聞こえて来たけど、敵さんの反応が弱まってないって、
そんなに強いのか?」
勇大たち援護組み。尋ねているのは顔出し鎧姿の和也だ。
Tシャツに皮ジャケット、チノパン姿の、この中で一番ラフな服装の勇大は
それに答える。
「ああ、シグマド相手でこんなことは一度もなかったし、あるとは思えない。
もしローダーと、なんらかの原因で戦闘になったとしても、
一向に弱まらないってのは、どう考えても異常だ」
「なるほど。計器類の故障じゃなかった場合はオ嬢の言う通り、
ボス それもラスボスクラスが相手ってことになるな」
「一定領域を超えた、この世界の力の源を宿していると
データが出ているのでしょう? 計器類の故障はないと
思いますけれどね」
和也の言葉を、そう覇司魔が冷静に分析。
「わたしたち、邪魔かも」
てんまは、改めて教えられた敵の強さに、自信なさげに発した。
「職業病が出るほど戦隊やってるだけはあるな。
戦い慣れてるがゆえか、その結論は?」
和也の質問に、てんまは「そうかもです」と苦笑いする。
「でも、戦隊が弱気になるのはステップアップの前触れではなくて?」
「それはお話としての戦隊の話ですよ」
覇司魔の微笑交じりの言葉に、てんまも微笑で返す。どちらも表情は柔らかい。
「軽口が叩けるなら、気持ちに余裕があるってことだな。よかったぜ」
和也が二人の少女のやりとりに、そう安堵する。
「しかし、一向に弱まらない異世界召喚ガジェットの力を持つ敵、か」
「どうしたんですの和也さん?」
「ん、いや。もしかしたら、俺が知ってる奴が迷い込んだんじゃないか、
って思ってな」
「むしろそんな知り合いがいるアンタ、何者だよ?」
勇大に呆れた調子で突っ込まれた和也だが、
まさか知り合いに大魔王がいるとも言えず、
「ただの高校生だよ」
と返すことでごまかす。
「バカなこと言うな。そんなかっこでそんな知り合いがいる、
ただの高校生がいてたまるか」
調子変わらず再び発した勇大に、なおも和也は「ここにいるぞ」と
平然と答えるふりをしてごり押す。
「そういうことにしといてやるよ」
最早言葉を投げやりに返すことしか、勇大にはできなかった。
その態度を見て、密かに和也は心の中だけで胸をなでおろす。
「例の奴にはまだだけど、どうやら敵さんがいるらしい。気を引き締めてくれよ」
真剣な声と表情になって、そう言う勇大。
それに、覇司魔の肩に乗っているマスコットキャラクターのような
小さな喋る猫ヘンカワリーナも含めた全員が、
真剣な表情で頷いた。




