フェーズ5。夢の鎧のオ嬢様。 パート1。
「目が覚めたみたいだね」
喫茶剣塚の従業員側の部屋。
徹が運んだシグマドの少年を、てんまが見守っており、
今まさに目が覚めたところだ。
男性陣では警戒させてしまうんじゃないか、と考えたてんまの提案である。
「……ここは? それに、お前。誰だ?」
シグマドの時の態度を彷彿とさせる尊大な物言いで、
てんまに問いかける少年。
「気絶させちゃったうちの一人だよ。ここまで運んで来たんだ。
持ってきたのわたしじゃないけど。で、ここは喫茶剣塚」
自分より頭一つ、もしかしたら頭二つ分ぐらい大きい相手に、
この口調で怒らせないかと、内心心配しながら、
てんまは状況を説明した。
初対面の人間に、こんな砕けた口調では喋らないてんまだが、
丁寧語だと緊張させるんじゃないか、と考えたゆえの判断である。
しかし、口調は砕けているものの表情が若干硬いので、
てんまが策士策に溺れる形になってしまっている。
「そう……か」
それだけ言うと、なにか言いたげに口をもごもごさせる少年。
しかし言葉は出てこない。言いたいことをなんとなく察したてんまは、
微笑することで答えた。
「まだ動いちゃ駄目だよ。ちょっとまってて、水持って来るから」
今ので緊張がほぐれたてんまは、まるで通いなれたかのように
滞りなく店に戻った。
「気絶させた片方……まさか、今の青髪。ローダーもどきか?」
相手のうち顔の出ていなかった、炎を扱う青い戦士を思い浮かべて、
「……まさかな。ありえねえ」
少年は我が言葉を否定した。
「お、あのシグマド君。目が覚めたみたいだな」
てんまの姿を見た徹の言葉に一つ頷くと、
「なので、水持ってってあげたいんです」
と戻って来た理由を話す。
「目が覚めて状況が把握できたんなら、俺らでもいいんじゃないか?
呼ばれし者のてんまちゃんは、休んだ方がいいと思うぜ。
いきなりドンパチやったんだろ?」
「ドンパチってほどじゃないですけど」
どう答えたらいいものかと、困った表情で返したてんま。
「異世界転移なんてやった上で戦ったんだ。マスターの話じゃ、
これまでを見る限り、異世界転移って奴は、わりかし疲れるもんらしいからな。
とにかく休んどけって、な?」
「そうですか?」
ごり押されてしまい、頷くことしかできないてんまであった。
「ああ。やっこさんが機嫌損ねるようなら放置のプランでいってくるわ」
「案外、容赦ないな」
徹の言いぐさに、てんまと同じ呼ばれし者の和也はそう苦笑いする。
「康太さん、接客よろしくー」
そう言うと徹は、厨房の方へと歩いて行く。
「りょーっかい。仮面ヒーロー好きとして、
康太さんはくすぐったいからやめてほしいんだけど、
や~めてくんないんだよなぁ」
などとぼやいたところで、
「ここですの?」
「ああ、ここが剣塚だ」
フロアからいなくなった徹と入れ替わりに、新たな入店。
それは、戻って来た華人と覇司魔、そして勇大であった。
「おかえらっしゃい」
「混ぜんなよ康太さん」
「まったく、二人して康太さん呼びするんだからなぁ」
と軽口を叩き合う華人と康太である。
「なに、その銀の星いっぱいの鎧?」
思わず声に出していたてんま。その声に顔を向けた覇司魔は、
「あなたと似たような物ですわ」
そうてんまの右手首の、ブレスレットを指差して言う。
そのまま席に付く三人。目ざとくそれに気付いたマスターが、
水を運んで来た。
「似たような物?」
てんまの疑問声に一つ頷き、覇司魔は水を一口飲んでから返す。
「その青いブレスレット。赤い宝石の中に勾玉が埋まっているでしょう?
そんな奇妙なデザイン、選んでつけているとは思い難い物です」
「たしかに……そう思うよね」
覇司魔の言うことの意図がわからず首をかしげて、
それでも問いかけるようだった言葉には頷くてんま。
「一瞬見ただけでわかったんだ、すごいなぁ」
小さく口の中で転がすてんまの声は、
店内の喧噪に掻き消されて届いていないようだ。
「道中、このお店には戦隊物の人がいる、そうお聞きしていましたの」
「え?」
「わたくし、毛色は少々違いますが、日曜日の朝に憧れを抱いた者ですわ」
「あの……ん?」
なおも意図の捉えられないことを言い募る、
黒髪ポニーテールのお嬢様口調の少女に、
てんまは首をかしげるしかない。
だが、まだ覇司魔の言葉は続いた。
「見てくださいな、これ」
そう言うと覇司魔は、右手をてんまに向けてビシっと、
突き出すように延ばした。
「六角形の宝石が埋め込まれた指輪?」
「ええ。おそらくあなたのそれは、変身アイテムでしょう。
わたくしのこれも、同じですの」
変身アイテムと断言されてしまい、てんまは頷くことしかできず、
更に続く覇司魔の言葉に目を丸くした。
「わたくしはこことは別の異世界に召喚されたことによって、
子供のころに抱いた憧れを、考えたことそのままに変身れるようになったんですの」
覇司魔は両手をひしと胸の前で組み合わせて、
表情をほころばせて、喜びを改めて噛みしめるように言葉にした。
「わたしは、なりたくてなったんじゃないんだけどなぁ」
自分との境遇の違いをぼやくてんま。
「あら、そうなんですのね。けれど今は戦隊として戦っている。
違いますか?」
「え、あ、ああ、うん。そりゃ、まあ」
普通に話してるはずなのに、いいえと言わせない謎の迫力にてんまは負けて、
歯切れ悪く苦笑いで答えるしかできなかった。
「すごい勢いで喋るな、この娘は……」
覇司魔から先生と言う敬称をつけられている勇大は、
そう覇司魔のマシンガントークっぷりに溜息を吐いた。
「なあ、その日曜朝の番組って。もしかして、あれじゃないか?」
和也がそう覇司魔に問いかけるように話しかける。
「心当たりがおありですの?」
「ああ。戦隊物とは毛色が違うんだろ?」
「ええ」
「で、その指輪だけが変身アイテムだって言うなら、仮面ヒーローとも別。
となれば残るは一つ。浄化の光波で闇を滅する、
ハートフルボッコ女児向けバトルアニメ。
『二人でボコキュア』のシリーズだろ?」
「ええ、そのとおりですわ」
抑えきれない笑みで答えた覇司魔、それを見て当たったかと
満足気に頷く和也。
この世界の住民たちは、すごい奴等だと不思議な感慨を持って、
サブカルチャー話を、聞くともなく聞いていたのだが、
今の作品タイトルを聞いて、てんままでが同時に同じことを思った。
「ずいぶん物騒なタイトルの女児向けアニメだなぁ」と。
「流石はサブカル大好きさん。女児向けアニメにもアンテナ延ばしてるなんて」
驚きに少しの困惑が混じったてんまの、感心した言葉。
それに一つ頷くと、和也は答えた。
「世に言うオオトモ、大きなお友達の一人ってだけだぜ、俺は。
面白いなら、本来のターゲットなんて関係ない、が俺の持論だ。
作り手はターゲットを定めてるだろうけど、視聴者がそれに合わせる必要はないからな。
この境地にいたるまで、けっこうかかったけどさ」
「そういうものなんだ」
「いいこと、おっしゃいますわね。わたくしもそう思います」
感心するてんまとは違い、何度も頷き激しい同意の度合いを示す覇司魔である。
「それで、ボコキュアをご存じと言うことは。
あなたはわたくしと同じ世界の人、と言うことですかしら?」
覇司魔の推測に、「だろうな」と和也は頷いた。
「和也だ」
「覇司魔ですわ」
お互いに同郷の人間に出会ったことで緊張が和らいだか、
一つ頷いてから、そうやって名乗り合った。
「同じ世界、か」
「どうしたんですか?」
シリアスに呟いた和也に、てんまが尋ねる。
「ん、ああ。俺はアトラクションの途中でここに来ることになっててさ。
そのアトラクションをいっしょに周ってた奴等がいるんだよ。
驚いてるだろうし、心配してるだろうなぁ、ってな」
「そうなんだ。わたしも似たような感じなので、仲間が心配なんですよね」
てんまの言葉に、覇司魔も小さく頷く。
「そうだろうなぁ。俺の場合、特にディバイナってのがな。
俺の突然の消失。あいつなにしでかすかわかんねえからなぁ」
困った風に呟く和也。
「わたしも、わたしがいなくなったことで、
なにしでかすかわかんない子がいるんですよね」
てんまはグレイルレッドこと、浅野まもりの顔を思い浮かべた。
そして、知らず和也と同時に溜息を吐くのだった。
「まもりにディバイナ。そんな名前、アルターのアイコンの中にあったような?」
てんまと和也の口から発された名前に、勇大は思い返すような調子で呟く。
「アルター?」
耳ざとく聞き取った覇司魔が問いかけると、一つ頷き答える勇大。
「こう言って通じるかはわかんねえけど、俺と同じローダーで、
状況によって鎧、フォームを切り替えて戦うタイプの装甲のことだ」
「あら、フォームチェンジするタイプもいらっしゃるんですのね。
ん? そういう、と言うことは、石ノ森先生は
フォームチェンジできないタイプ、と言うことですの?」
「そういうこと。俺、そんな器用じゃねえし、
あのローダーは体への負担がでかくってさ。
俺じゃ扱えなかったんだ」
「テストした結果ですの」
「ああ」
「なるほど、適合者の選定。そういうタイプのヒーローもいますものね」
「わたしも、それで選ばれてますし」
「あら、仮面ヒーローの方で言ったつもりでしたのに、
該当者がこんな間近にいるとは思いませんでしたわ、それも戦隊で」
相好を崩して言うと、「さて。せっかくですし」と覇司魔は
右手の指輪の宝石に触れる。
「この子にも異世界の空気を吸わせてあげましょうか」
「「この子?」」
てんまと和也同時の疑問声に、「ええ」と一つ頷くと、
「ヘンカワリーナ」
続けて、誰かを呼ぶように声を発した覇司魔。
覇司魔が指輪の緑の六角形の宝石、トゥインクリスタルから指を離すと、
それが淡く光を放ち始めた。
『にん!』
指輪が光り始めたその直後、そんな元気のいい声と共に、
トゥインクリスタルの形をした小さな光が指輪から飛び出し、
一瞬にして銀色の猫を形作ると、その猫は柔らかに着地した。
現れた猫のサイズは、掌に収まりそうなほどに小さい。
ゆえに着地点は覇司魔の左の肩である。
そんなかわいらしいサイズの猫は、再び口を開いた。
あたりまえのように。




