フェーズ13、ファイナル。黄金の夢の後。 パート3。
「お疲れ。でも、なさそうだな」
「体はな」
喫茶剣塚。マスターである蔵入違史に声をかけられ、
答えたのは直樹。声は疲労を帯びているが、歩調はシャッキリしているので、
違史は多少面喰ったのである。
「そこのドラゴンも、戦力だったのか?」
「そうだよ。けっこう戦えたんだから」
勝ち誇った調子で言うみくるドラゴン。
「そっか。じゃ、お嬢ちゃんにも、お疲れ、だな」
「流石怪人にも慣れてるだけはありますね。ドラゴン見ても驚かないなんて」
てんまの感心には、
「いちいち人外に驚いてたら、この世界じゃ身がもたねえからな」
とあっさり答えた。
「で……どうだった、あいつの最後は」
少し言いづらそうな様子で、違史が切り出した。
親友であるオルトロン変身者だった、対シグマド組織ターミナット所長
南島操真の最後が、吹っ切れたように見えて、
やはり気になっていたようである。
「満足そうだった。やっと眠れる、って」
「そうか。なら……いい。あいつが満足して逝ったんなら、な」
そう言うが、違史の視線は宙を見つめている。
「で? 面子が足りないようだが?」
すぐに気を取り直して、誰にでもなく尋ねるように言う。
「少しすれば追いついて来ますわよ」
「そうだな。ずいぶんと短い少しみたいだぜ」
「え?」
違史に言われて、思わず店の出入り口を振り返る覇司魔。
「あら、ずいぶん早かったんですのね」
「まあな。おやっさん、これ」
現れるなり、和也は違史に借りていた物、
パイロプライムブレスを左手から外し、差し出す。
「せっかちだなぁ」
苦笑いしつつ受け取る違史に、
「すぐ渡さないと忘れそうでさ」
と苦笑いを返す和也である。
「オーバーブーストって機能使ったから、今動かない状態になってる。
その辺作った人たちに言っといてくれないか?」
「オーバーブースト。まだ知らせてない機能を、よく見つけたな」
驚いた様子の違史に、
「もしかして、おやっさんがそのシステム作ったのか?」
と和也が聞き返す。
「ちょっとかかわってる。わかった、伝えておこう。
んで、異世界組みはこれからどうするんだ?
通例、帰れないからこの世界で暮らすことになって、
この店が家みたいになるんだが」
「大丈夫、ニャたしが送るわよ。確実に元の世界に帰れる方法あるから」
「へぇ、そりゃすごいな。それは、異世界の住民だから……とは、
ちょっと違いそうだな」
「まあね」
「そっか。異世界人慣れしてるのは、
単純に多くかかわってるってだけじゃ、なかったんだ」
てんまが感心した調子で、違史の言葉に頷いている。
「あの、ところで。鎧騎士の怪人さん、知りませんか?」
エレメルと言う、自分たちの戦う敵、ラグナレイドの怪人の総称を用いず、
てんまは、いつのまにか戦場からいなくなっていた人のことを尋ねる。
「あいつか? 店を出てからはわからないな」
「そうですか。無事だとは、思うんだけど」
「ゴーレママの回復効果、使ったって考えれば無事でしょうね」
「ですよね」
「俺達が出会った、狼闘士とトカゲも、無事だといいけどな」
「あたしが傷の回復のさせ方教えたから、問題ないよ」
勇大の言葉に、みくるが自信たっぷりに頷いた。
「すぐに仲良くなれるもんだな。若者の特権、か」
ふっと自嘲気味に笑って呟くように言うと、マスターは話題を切り替える。
「せっかくだ、一杯飲んでってくれ。出すのは水だがな」
「助かりますわ」
「酒薦めるような言い方で、出て来るのは見ずなんだな」
直樹の突っ込みめいた言葉に、周囲が笑いに包まれる。
「バカ野郎。直樹はともかく、他の連中に酒なんて進められるかよ」
微笑交じりに言うと、違史は一路奥へ引っ込んだ。
「直樹さん、お酒飲める年齢なんですか?」
てんまの質問に、「ああ」と頷き直樹は続ける。
「俺が夢粒子、今で言うアキロノス粒子に関する実験体やった時は
大学入りたてだった。今はそこから数年経ってるからな。
なんとか飲酒できる年だぜ」
「そうだったのか」
「なんでお前が驚くんだよ勇大?」
半笑いで直樹が突っ込んだ。
そこに、違史が康太と分担して水を運んで来る。
それぞれ受け取り口にする。
「ところで覇司魔。鎧、脱がないのか?」
和也に問われて、「そのままお返ししますわ」と切り返すオ嬢。
「あ……」
「一本取られた、って奴ですね、だんなさま」
「そういうお前も鎧着っぱなしだけどな」
「そういえば、そうですね」
鎧着っぱなしの三人は、なんとも言えない微妙な笑いを浮かべることになってしまった。
「すぐ、帰るのか?」
少し寂しげに問いかける違史に、カグヤはええと頷く。
「あんまり長居すると、名残惜しくなるから」
「なるほど。お前らなら、そうなりそうだな」
カグヤの答えに、そうからかい交じりに違史は返した。
「そういうわけだから、水飲んだらいくわよ」
「伝えてねえのかよっ?」
目を派手に見開いた上に、のけぞって驚く違史。
それでまた、周囲に笑いが広がった。
「みんな。もう、いいかしら?」
ぐるりと見回し、カグヤが静かに問いかける。
「ええ」
「大丈夫です」
「ですね、だんなさま」
「ああ。だんなでは、ないけどな」
「んもう、そこは言わないところですよぅ」
「既に名残惜しそうなツラしやがって、お人よしどもが」
憎まれ口を叩く違史だが、その表情は人の事を言えない物である。
「じゃ、そんなお人よしどもは、さっさと退転しましょっか。
心が店に張り付かないうちに」
言うとカグヤは勢いよく椅子から立ち上がり、そのまま背を向けて店を出て行く。
「さっさとしなさいニャんたたち。帰してやんないわよ、ほら」
一度振り返ってせかすように言うと、カグヤはまた出入り口に向かって歩き出す。
「そう、ですわね。心が店に張り付かないうちに」
言うと優雅に立ち上がり、背を向ける覇司魔。
「後でな、って言ったてまえ、あんま長居すっとゴーレママに心配かけちまうもんな」
「そうですね」
鎧着っぱなし組みは、全員出入り口に向かって行く。
「わたしも、いきますね。お世話になりました。
また、奇跡の扉が開いた時に」
気取ったことを言ったものの、「なんちゃって」と
恥ずかしさに顔を赤らめたてんまは、恥ずかしさをバネにしたように
ガバっと椅子から立ち上がり、小走りで異界の友を追った。
「見送って来るか、勇大」
「そうだな」
「あたしも行く」
そうしてついさっき店に来た戦士たちは、
全員店の外にとんぼ返りしてしまった。
「まったく、嵐みてえな連中だぜ」
***
「さて。この辺でいいかしらね」
人通りの少ない場所を気配で探し歩き、カグヤは結局
自分たちが戦っていた場所に辿り着いていた。
「犯人は現場に戻る、みたいな状況だな」
苦笑いする和也は、「なんの犯人ですか」とディバイナに突っ込まれ、
多少面喰った。
「見つけた!」
その声は少し上空からしているらしく、響きを伴っている。
「空から見られるって、見通しいいんだろうなぁ」
「便利だよな、簡単に飛行できるなんて」
「直樹は銀色フォームにならなきゃ飛べないんだもんな」
「ニャんたたち。なんでここに?」
驚くカグヤにひとこと直樹が、見送りに来た、とだけ答えた。
「そう。ま、ついでだし、ニャたしの言葉の真偽、確かめるといいわよ」
「言葉?」
「そ。扉神と友達で、狙ってこの世界に来たって奴」
「ああ、あれか。たしかに、ちょうどいいか」
「よし。じゃ、いい?」
全員に確かめるカグヤ。カグヤ以外の全員が生唾を飲んだ。
「プライマル。終わったから、そっち行かせてくれる?」
虚空に話しかけたカグヤの、その態度に思わず、
覇司魔以外の六人は同時に、
「軽っ!」
と叫んでしまった。
「本当に、友達感覚なんですのね」
驚き方が他と違うお嬢様である。
「プライマル……今、プライマルって言ったのか?」
思い返し、信じられないと言う表情で直樹が問う。
「ええ。扉神プライマル。それが、あいつの名前よ」
「そうか。プライマルゲートが異世界と繋がる門。
神の扉……そういうことだったのか」
「で、プライムローダーは神の力を読み込む物、か?」
「意味としては、そういうことになりますわね。
偶然なのか、それとも操真さんがその名前を夢の中で聞いていたのかは、
わたくしたちにはわかりようがありませんけれど」
そう覇司魔が言ったところで、ブウウウンと言う低い音と共に、
彼等の眼前に、一枚の扉が現れた。
まるで一般家庭のそれのような、円いノブ付きの、上を向いた楕円形のドアが。
「サイズとしては、普通のドアぐらいだな」
和也の感想に他が頷く。
「さ、いきましょ」
ガチャリ、あたりまえのようにドアノブを回したカグヤが言う。
そして、そのままドアを引き、開ける。
「なんだか、やけに穏やかな風景ですね。丘が見えるし」
てんまの感想に、またも頷く面々。
「あの丘のてっぺんにいるのよ、プライマルが」
「神様のとこって言うから、もっとこう……神殿みたいなとこなのかと思ったぜ」
再びの和也の感想。
「ついてきて」
言うとカグヤは、さっさとドアの先に足を踏み入れる。
半信半疑ながら、異世界組みもそれに続く。
「またいつか。奇跡が交わった時に」
身体を反転させた五人。まず覇司魔がそう言って、
小さく頭を下げた。
「あなたたちのこと。忘れません」
そう言って、てんまは微笑む。
「今度は、二人で皆さんの顔でも見にきましょうか。
ねっ、だんなさま」
「だから、おめめキラキラさせんなって……そうだな。
今度は疾たちもつれて来るか」
「面白いかもですね。と言うことなので、またそのうちに」
「カグヤの言うことは間違ってねえだろうし、俺達も帰れるだろう。
それじゃーな」
四人の言葉の後、カグヤは一つ頷いて、言った。
「じゃ、またね」
扉向こうのメンバーが全員手を振る。それに手を振り返す直樹と勇大。
手のかわりに、右の翼を上下動させるみくる。みくるの動きに笑みを浮かべた異世界組み。
その微笑みが消えないうちに、カグヤがゆっくりと、名残惜しげに扉を閉めた。
完全にカチャリと閉じた扉は、出て来た時と同じ音を立てながら、
静かに世界に溶けて消えた。まるで、全て幻だったかのように。
「今度は、もっと平和な時に遭いたいもんだぜ」
「そうだな。緊急事がない時が、気が楽だしな」
「ほんと」
名残惜しさにぼんやりとする三人。
しかし、その少しせつなさを含んだ空気を、
プライマライズフォンの着信音が叩き壊した。
「はい、直樹です」
『直樹君。勇大君もいるんなら聞いて。大変なのよ』
「どうしたんだリアンさん、大変って」
『アキロノス反応が上昇したの。底上げされたように、世界中で。
オルトロンが活動してた時には劣るとは思うけど、
それより前と比べればプライマルゲートの出現頻度が増えると思うし、
シグマドの力も増すと思う』
「そうなのか?」
『ええ。世界のアキロノス反応が底上げされたってことは、そういうことよ。
本部に戻って来て。あれだけの激戦をやったんだから、
あなたたちのローダー、メンテナンスが必要だから』
「了解」
『じゃ、後でね』
そういうと、リアンは通話を終える。
「これが、オメガの言った禍根って奴か。けど、これがいいか悪いかは、
これから決まることだ。今はまだ、判断できない」
直樹の言葉に頷き、勇大が言葉を引き継ぐ。
「それに、プライマルゲートが出やすくなったってことは、
またあいつらが現れるかもしれないってことだしな」
「ああ。そういうことだ」
「二人はターミナットに行くの?」
みくるに尋ねられ、そうだなと答える勇大。
「そっか。じゃ、ここでお別れだね」
「だな。けど、二度と会えないわけじゃねえ。
そんな言い方すんなって」
「そっか。そうだね。じゃぁ……うー……、あたしこっちだから」
そう言って、左の翼を動かすみくる。
「急に下校感覚かよ」
頑張って考えた末に出たと思しき代案に、吹き出しながら突っ込む勇大。
「じゃあどう言えばいいんだよー!」
いらだち紛れに翼を上下にバタバタするみくる。
「なんにせよ、だ。みくる」
「ん?」
「お前はシグマドだ。意味もなく変身するなよ。ローダーの中には、
なにものであれシグマドは倒すべき存在って思う奴がいる。
アキロノスエネルギーが濃くなったって言う今からは、余計に
シグマドの風当たりがきつくなるかもしれないからな」
「わかった」
「よし。じゃ、またどこかでな」
「うん。死ぬなよ、世界の希望。じゃあね」
そう鼓舞するように、茶化すように言って、
みくるドラゴンはどこかへと飛び去って行った。
「世界の希望、か。実感ねえな」
勇大の言葉に、「まあな」と相槌を打ち、直樹は続ける。
「だが、いつオルトロンみたいなのが出てもいいように、
いろいろ考えないといけなくなりそうだな」
「おいおい、めんどうなのはごめんだぜ」
おどけて見せた勇大に、「そうだな」と軽く吹き出しながら答える。
そんな厄介事を押し付けられた風なやりとりをする二人は、
しかし言葉とは裏腹に、楽しげにニヤリと笑った。
「よし。ターミナットにいくぞ」
「よっしゃ!」
そうして、勇大と直樹は駆け出した。
ーー新たな奇跡の可能性に向かって。
The End




