フェーズ12。夢の残攻。 パート1。
「ゴーレママ。今、召喚しても大丈夫?」
「ゴーレ……ママ、だって?」
「たしかに、ママと言われればそんな口調のようですけれど……」
独特のネーミングに顔を見合わせるそれぞれ。
『あら、カズヤさまとの再会に対して特に感慨はないんですの?』
「喜ぶ暇がなくって、喜ぶタイミング逃しちゃった」
『どうやら、ただ事ではなさそうですわね』
「うん」
砕けたと言うより幼い口調でゴーレママと会話するディバイナを、
初対面のメンバーは意外そうに、そして面白そうに見ている。
和也も、ここまで口調がかわるとは思っておらず、
密かにびっくりしている。
『それで。わたくしを召喚したいと言うのは、いったいどんな状況なんですか?』
「ゆったり話てる場合じゃねえ! 奴が腕を振りかぶった。なんかして来るぞ!」
和也の叫びに頷き、ディバイナは「皆さん、わたしの後ろに!」と
声を張る。
「迷うな、ディバイナは障壁を展開するつもりだ。
直で喰らうよりは遥かにましだぞ。
今の俺たちには、衝撃波だけでもきつい」
和也の言葉に促され、全員ディバイナの背後へと動く。
足音で状況を把握し、ディバイナはすっと目を閉じた。
それによって、ディバイナを含めた全員を包み込む
紅の半球場障壁が生まれた。
「マジでバリア張りやがった。しかも、通信繋げたまんまで」
驚く勇大の声に反応したように、プライムローダー・オメガが
振りかぶった右の拳を、紅の障壁へと振り下ろした。
「ぐっ。拳は届いてない。拳圧だけで、地面に縫い付けられたような重圧っ。
流石超巨大な人型ですね」
「直で喰らってたら、マジでやばかったな。ナイス判断だ和也」
勇大に笑顔で言われ、「経験が生きただけだぜ」と照れ笑いする。
『なるほど。対しているその超巨大人型への対抗策に、
わたくしが必要、と言うことですわね』
「そういうことなの。大丈夫?」
『今、ちょうどお客さまも来ない様子ですし、それでも聞いてみます。
アトラクションが突然消えたら大変なことですもの』
「わかったわ。連絡が済んだら呼んで」
『わかりましたわ』
ゴーレママが答えると、空中のスクリーンも姿を消した。
「なあディバイナ。ゴーレママ呼んでどうする気なんだ?
体力と怪我の治療だけが目的ってわけでもないだろ?」
「言ったじゃないですか。わたしがアレを攻撃するって。
それと、攻撃できる人達のための台です」
「なるほどな。けどよ、ほんとになんとかできるのか?
いくらいつもの十倍の身長になってるって言っても、
そんなの焼け石に水だろ、あのでかさじゃ」
「大丈夫ですよ。わたしの大破壊魔法をもってすれば。
本気で打ったら町一つ、は大げさじゃありませんから」
「だ……大破壊魔法?」
「ほらみろディバイナ、戦隊ブルーが響きにビビってるだろうが。
言ったろ。大破壊って言葉の響きは、大概の人間はビビルんだよ」
「むぅ」
「あ、あの。付かぬことをお伺いしますけれど和也さん」
「なんだ?」
「その大破壊魔法と言うのは、さっき話していた、
人間サイズで全力で使ったら、町一つ消し飛ばせると言う、
あれ……ですの?」
今しがたディバイナが言った言葉が、耳に入っていないわけではない。
ただ、信じられなかったのだ。ゆえに、恐る恐る確認したのである。
「そうだぜ」
「さらっと頷くんじゃございませんわよっ!
そんなのを使う気ですのディバイナさんっ!」
これまで比較的落ち着いた調子を保っていた覇司魔が、
初めて驚愕で大声を上げた。それに驚く面々。
「そうでもしないと、あの攻撃力あの大きさの相手には、
わたしたちの体じゃ、どうしようもないんです。
大丈夫ですよ金色のお嬢様。ちゃんと、
あれに当たるだけの範囲に収束しますから」
「そ……そうですか?」
不安が消えない覇司魔の様子に、和也は同意しつつ言葉をかける。
「等身大サイズじゃなかったけど、終息したバージョンも見た。
威力は申し分ないし、被害もターゲットにしか出なかったぜ」
「そう……ですか。目撃者が言うのであれば、
そうなのでしょうけれど」
納得し切れていない覇司魔に、和也は困ったようにうなることしかできない。
「野郎、今度は額のドラゴンからビームぶっぱなって来るつもりだぞ!」
勇大の言葉で、全員がオメガに視線を向ける。
すると言葉の通り、額の黒い竜を手で作った三角形に閉じ込めた、
そんな構えを取っているのがかろうじて見えた。
「あのポーズ、そのまんま竜水瀑布っ!」
一人その攻撃に覚えのあるてんまが、体育すわりで衝撃に備えた。
「緑のエネルギーが集まり始めた。やばいか」
未だカオストリームフォームの直樹が、
てんまの行動をまねて座り込む。
二人に倣って、他のメンバーも急いで腰を下ろした。
全員が座り込んだ直後、重々しい喰らえの声と同時に緑光が解き放たれた。
「ぐ、ううう。重い……!」
障壁を展開しているディバイナは、障壁全体に圧し掛かる重圧に
思わず両腕を、掌を上に向ける形で上へと伸ばし、
天を支えるようなポーズを取ってしまう。
歯を食いしばったような声で、仲間たちは敵の攻撃の威力の底知れ無さと、
衝撃に耐える少女の様子に、息が詰まっている。
それと同時に、どうすれば少女に手助けできるのかわからず、
歯がゆい思いをしてもいる。
『大魔王様、連絡完了ですわ。って、あら。間が悪かったようですわね』
不意に中空スクリーンと共に顔を見せたゴーレママだったが、歯を食いしばるディバイナの様子を見て、
ばつが悪そうな声色で、状況を把握した。
「どうなったか、教えて……っ!」
収束アキロノスエネルギーと紅の障壁でせめぎ合いを続けながら、
ディバイナは報告を促す。
『わかりましたわ。召喚問題なしとのお答えでした。
その間、わたくしはメンテナンス時間だと説明していただくことで、
お客さまを遠ざけてくださるそうですわ』
「わかったわ、少し待ってて。これ、なんとかやり過ごしてから呼ぶから」
『わかりました、お待ちしています』
そう言うと、再びスクリーンは姿を消した。
「けど、どうにかできるのか、これ?」
不安を隠さない表情で、和也が問いかける。
「なんとかしなきゃ、勝ちはありません。障壁をもっと、強くすれば……!」
ディバイナの表情に、一層力がこもる。
それに比例して、障壁の色の紅が濃くなり、うっすらと見えていた障壁の外の景色が
まったく見えなくなってしまった。
強度を増したと本人が語るだけあり、障壁内に伝わって来る重みが
少しずつ軽くなって行く。
「んうう。はぁっっ!」
気合一閃。その直後、障壁外のオメガの声がくぐもって聞こえた。
それは、自らの攻撃が跳ね返されたことに驚きながら苦痛を耐える、「バカな」の声。
その声を合図にしたように、紅の世界は弾け飛び、空間は元の色に戻った。
「はぁ……はぁ……」
全身にうっすらと汗をかき、肩で息する大魔王少女。
「早く、召喚しないと……。アレが体勢を立て直す前に……っ!」
「大丈夫なのかよだいまおうさま?」
「はい、問題ないですよだんなさま。だって、呼び出すのはゴーレママですから」
疲労を振り払うように笑顔で言うと、ディバイナはまた一つ、大きく息を吸う。
そして、言葉を紡ぎ始めた。
「ベルバーベルバーベル。世界よ」
ゆっくりと両腕を広げるディバイナ。
その声色は柔らかで、優しく語り掛けるようだ。
「あれ? バーベル、連呼しないのか?」
和也の疑問に答えることなく、ディバイナは続ける。
「声にエコー?」
「アニメでそういう演出は珍しくありませんけれど。まさか、本当にこだまするなんて」
てんまの疑問声に続いて、覇司魔は驚きつつ感心したような表情だ。
実は和也にミスト・ラバイトを放った際にも、詠唱と魔法名の宣言には
エコーがかかっていたのだが、誰一人として気付ける余裕がなかった。
「歪に」
言葉と同時に左腕を斜め上へと伸ばす。
「否に」
今度は言葉と同時に右腕を斜め上へと伸ばす。
そこから体全部を使って、Xの字を作る。
「捻じ曲がれ!」
足を肩幅に開いたままで、両腕を無限記号を描くように
大きく回し出した。それと同時に、空気がうねるような音が聞こえ始める。
固唾を飲んで、ディバイナの様子を見つめる和也以外。
和也だけは、ディバイナの様子を見る視線が懐かしさを帯びている。
『っ! プライマルゲート!?』
計器類の反応を見てだろう、アルタライズフォン越しに
リアンが困惑した驚愕の声を上げた。
しかし説明できるほど、戦士たちの注意力に余裕がない。
「召!」
腕の回転を止めた。そして左腕を大きく振り上げる。
優しく語り掛けていたのと打って変わって、力強い声色。
「喚!」
今度は右腕。
「ゴオレママっ!」
これで振付終了とばかり、振り上げた両腕を同時に振り下ろした。
それはまるで、虚空に両手で同時に手刀を放ったようである。
その手刀によって、空間が切り裂かれたかのように、
虚空に巨大な黒く四角い裂け目のような物が生まれる。
巨大な裂け目は少しずつ形を作り上げていく。
「まるで、俺達が変身する時みたいだ」
直樹が組み替えられて行く闇を見つめて、感激したように呟いた。
「そして、オメガが現れた時のようですわね」
「でかい。ゴーレママって、全身が地上にあると、こんなにでかかったのか」
和也は、その圧倒的な大きさの黒い闇を見上げて、呆然と言葉を漏らす。
人型に組み替えられた闇に、今度は色が付いて行く。
煉瓦のような色の中のところどころに、
足がかりにしてくださいと言わんばかりに、
ハートマークやいちご、チューリップのような物など、
四角い土のブロックでできた人形、と言った風情の、
ゴーレムと言われて連想するような姿からすれば、
ファンシーな装飾をされている。
「召喚完了です」
『大魔王様、詠唱を始めるなら始めると言ってくださいな。それに、
まさかこの姿を見られるだなんて、思いもしませんでしたわ』
不服そうな第一声。そして少しだけゴーレムの色に赤みがさした。
「恥ずかしがってるな。たしかに、俺もゴーレママの姿、見たことなかった。
よっぽど久しぶりに姿さらしてんだろうな、今」
「恥ずかしがってる、んですか?」
てんまがきょとんとした表情で、和也に問う。あっさりと頷く和也。
「その証拠が、今ちょっと赤くなってるゴーレママの体だ」
「そうなんですか。なんか、かわいいですね」
てんまが小さく笑んで言うと、少しまたゴーレママの赤みが増した。
「姿と口調に埋められないギャップがありますわね」
ゴーレママを見上げて、覇司魔が考え込むような調子で感想を掃き出した。
「にしてもあのデザイン、誰の趣味なんだ?」
苦虫をかみつぶしたような顔で、勇大が口にする。
『わたくしですわ。これでもオシャレのつもりなんですのよ』
またも不服そうである。
「ごめんなさいゴーレママ、緊急事態だから少しでも時間を短くしたかったの」
『そうですか。わかりました。たしかに緊急事態ですものね、
わたくしをこうしてゴーレムとして呼び出すなんて』
「え? じゃあ、だんじょんって、ゴーレママが変形した状態なのか?」
『そういうことですわ、カズヤさま』
「そうだったのか。道理でゴーレムな部分がまったくないと思ったぜ」
新たな事実に驚き、そして納得する和也であった。




