フェーズ2。夢か現(うつつ)か異世界転移。
「ここは……?」
虚空から一人、黒い鎧姿の少年が現れた。
鎧と言っても顔に一切の防具がなく、中途半端に見える。
「おかしい。中ボス部屋に入ったはずなのに、なんで外にいるんだ?
しかも、だんじょんの外じゃない。どうなってんだ?」
辺りを見回し、困惑の表情で一人ごちる。
「でも……あそこにいるのは、騎士鎧のモンスターだし」
目に入った鈍い銀色の鎧姿の存在を見て、混乱を深めている。
「ゴーレママの気まぐれか? いや、でも。
まったく無関係の外の風景なんて、際限できるのか?
いや、際限の線はないか。これがただの景色の再現なら、
いっしょにいなきゃいけないはずの、疾たちがいないのはおかしいもんな」
「なんだお前? どっから出て来た?」
思考中に声を賭けられ、「うわっっ!」っと派手に驚いてたたらを踏んでしまった少年。
「喋った? だんじょんのこいつは無言のはずなのに。
マジでどうなってんだ?」
「シグマドが喋ってなにがおかしいんだ?」
「シグマド?」
「お前、黒い鎧。ローダーだな? 顔が出てるってことは、新型でもできてるのか?」
「ローダー? お前こそなに言ってんだ?」
「戻ってこい雑兵たち!」
「雑兵? って言うか俺の話聞けよ!」
お互い噛みあわないままに状況は動く。
「な? なんだこの、顔面に白い兎型のっぺらぼう張っ付けたようなの!?
しかもめっちゃいるっ! 無言でゾロゾロ集まってきやがったっ!」
驚愕しかしていない黒鎧少年。
「ローダーをぶっ倒せ!」
「おいまて! こっちの事情も考えろ!」
「知るか! ローダーである以上、俺達の敵だ!」
「なぁもぉわっけわからん! ちっくしょ、やるしかねえか!」
少年はぎこちなく、右手で己の得物を抜いた。
「ハッハッハなんだその動き! 素人じゃねえか!」
「そうだよ、俺はただの高校生だからな」
「黒い鎧着て抜剣するただの高校生がいるか!」
「アトラクションでな」
「どんなアトラクションだ!」
などとシグマドと鎧姿の少年が、丁々発止していると。
「グレイルチェンジ!」
「なに?」「なんだ?」
突然した少女の声に、二人の動きが止まった。
「今度はなんだ!?」
シグマドが困惑している間に、
ヘリアルたちがなにかに撃ち抜かれて消滅して行く。
「雑兵どもが一撃でやられて行く!? な、何者だ、お前っ!」
「あなたこそ何者よ? 偽物のヘリアルなんて従えて」
「偽物だと?」
「無言でやられるヘリアルなんて、偽物に決まってるでしょ」
「なんだその理由? って言うかこいつら、ヘリアルって言うのか?」
「知らないで従えてるの? ほんとになに、あなた?」
少女の声の青い戦士は、そう言いながらシグマドに
銃口を突きつけるように向けた。
「お前、ずいぶんこののっぺらぼうに詳しいみたいだな。なんなんだ、こいつら?」
「それは後です。とりあえずはエレメル……じゃない、エレメルもどきを倒さないと」
「エレメル? 俺はシグマドだっつってんだろ、そっちこそローダーもどきのくせに」
「シグマド? ローダー?」
「俺も、こいつがなに言ってんだかさっぱりなんだよなぁ」
状況が飲み込めない二人と、困惑するシグマド。
シュールな状況ながらも、漂う気配はたしかに戦意を孕んでいる。
「とりあえず、数を減らそうぜ」
「うん」
青い戦士は、そう頷くと躊躇なく、銃をヘリアルたちに再び打ち始めた。
「なんで、弾が赤いんだ?」
少年は、青い戦士に疑問を投げかけながら、がむしゃらに剣を振るう。
それでも、ヘリアルにはなんとか命中し、雑兵の姿を虚空へとおいやる。
「雑兵どもを倒してたのは、その銃だったのか」
攻撃の正体がわかり、シグマドはその威力に感心している。
「わたし、炎担当だから。ブルーだけどっ」
かわらず乱射しながら答える青い戦士。
「炎だと赤って感じだけどなっ! っと」
不意打ちのように振り抜かれた、鎧騎士からの一撃をどうにか剣で受け止め、
少年は、軽く間合いを取る。
「お前のような、ただの高校生がいるか!」
「この鎧のおかげだ。俺自身は凡人だからな」
あくまでも、と言う意思表示か、少年は凡人をやたらに強調して答えた。
「高校生? 年上なんだ」
「マジか? 中学生戦隊かよ?」
「えっ、どうしてわたしが戦隊ってわかったんですか?」
仮面の裏で驚愕し、その心を隠さず問い返す青い戦士。
「だってそうだろ? こののっぺらぼうたち、どう見ても戦闘員じゃないか。
で、さっきの言葉を仮に変身ポーズだったとして、
仮面ヒーローは、なになにチェンジ、とは言わないからな」
「なるほど。流石年上、すごい洞察力」
「いや、ただサブカル好きなだけだぞ」
こんな会話をしながら、ヘリアルたちの排除は止めていない。
「くっそ、化け物どもめ!」
「エレメルもどきに言われたくない」「怪人に言われたくない」
「この野郎ども! 許さねえ!」
がむしゃらに剣を振るい始めるシグマド。
癇癪を起こしているかのように、当たらない位置で無暗に振り回している。
その姿を見て、二人はこう確信を持って同時に呟いた。
「この人、素人だ」「こいつ、素人だ」
「やかましい! 凡人のくせに、動きが慣れすぎてるそっちがおかしいんだ!」
「お前のような怪人がいるか」
「そうだよ! 俺は元々凡人だからなっ!」
大上段から、八つ当たりと見てわかる大振りの一撃を、
少年に振り下ろしたシグマド。
「おわっっ!」
しかし少年は、派手なバックステップで、
焦った表情で回避。なんとかよけられた、と言うのがわかる飛びのき方で、
更には着地に失敗してたたらを踏んでしまって、苦笑いしている。
さきほどのやりとりを逆転させた言い合いと、見るからに素人同市の切り合いに、
青い戦士が楽しそうに笑っている。
「って、笑っちゃったけど、わたしも凡人なんだよね」
苦笑したように言う。しかし、
「「嘘つけ」」
と二人に突っ込まれてしまった。
「アハハ」
またも苦笑い。
「っと」
しかし、
「和やかなところ悪いけど」
直後表情を引き締めたかのように、声の調子が真剣な物になる青の戦士。
「ヘリアルを従える以上は人類の敵。
たとえ元が何者で、ヘリアルが形だけの偽物だったとしても。
グレイルレンジャーは、容赦しない。しちゃいけないのっ!」
改めて銃型の武器、ヤキウチガンを構えた戦士、グレイルブルーは、
シグマドに対して、その銃口を向ける。
そこには既に赤いエネルギーが、打ち出されるその時を待っていた。
「ちょ、おい! いきなり必殺技でもぶちかますつもりかっ?!」
「その通り。ごめんなさい、喋ってる間にヘリアルたちは倒してたし、チャージも終わってたの。
炎浄消砲!」
相手の言葉を待たず、ヤキウチガンから濃いオレンジ色のビームが迸る。
「ぐううっあああっ!!」
とっさに左手で、刃の腹を見せるように構えた剣、
更にそれより体に近いところで、右腕で防御の構えをとったシグマド。
その二重の防御をしてもなお、鎧騎士の姿をしたシグマドは、
威力を抑えきれずに吹き飛ばされた。
「なんて威力だ……」
黒鎧の少年は、戦隊一人の持つ攻撃力を目の当たりにして、
僅かに戦慄の鳥肌が立った。
倒れた鎧騎士シグマドから、緑の光が飛び散る。
その光の後には、一人の少年の姿があった。
「これが……エレメルもどきの正体?」
「らしいな。俺と同い年ぐらいか?」
「どうしよう。ああは言ったけど、流石にこのまま放置ってわけにも……」
困ったように、ゆっくりと少年を見るグレイルブルー。
「つってもなぁ。俺もここに飛ばされたばっかで、なにがなにやら状態なんだ。
そんな、『どうしましょう?』みたいな動きされても困るんだよな」
剣を納めた少年は、左手で頭を掻きながら、
その言葉通り困ったように帰した。
「ですよねぇ」
「なら、いいとこがあるぜ」
息詰まるかと思われたその時、横から声が割り込んで来た。
二人は勢いよく顔を向ける。
「誰だ?」
「通りすがりの、異世界転生者だ」
気取った言い方で、黒鎧の少年の問いにそう返した少年。
しかし、それを聞いて二人の空気は、完全に固まった。
「しょうがねえだろ、ほんとなんだから」
ドンずべりしてしまい、少年はいじけたように、
口を尖らせる。
更に一秒ほど後、少女の声の青い戦士、黒鎧の少年と笑いが電波して行った。
「で? その異世界転生者さん、いいところってのは?」
まだ少し笑いの収まらない黒鎧の少年からの質問に、
「そうだったな」と気を持ち直して、乱入者は答えた。
「俺が世話になってる剣塚ってサテンがあってな。
そこならたぶん、たとえシグマドでも、傷の手当てぐらいはしてやれると思う」
少し自信なさげな乱入者に、戦っていた二人は顔を見合わせる。
その一秒ほど後、二人は頷く。
「他にあてもないことだし、行こう」
「ああ、いいぜブルーさん。そいつは俺が運ぶよ」
倒れているシグマドの少年に向かって歩くグレイルブルーに、
乱入者はそう声を書ける。
「え?」
思わぬ言葉に、グレイルブルーは足を止めた。
「異世界から呼ばれた者とか、俺達みたいな転生者なんかは、
身体能力が強化されてるんだ。ディアボロードって呼ばれてて、
なんか悪役みたいでいやなんだけどさ」
そう言うと乱入者は、ゆっくりとシグマドの少年のところに歩いて行き、
なにげなく、右肩に少年の額をつける形で、ひょいと持ち上げ背負った。
「すげー強化具合だな。この鎧付けてる俺ぐらいか、
ひょっとしたらそれより上かも」
軽々と人を背負う様子に、静かに驚く黒鎧。
ブルーも感心した声で、「すごい」と漏らした。
「付いてきてくれ」
言うなり歩き出した乱入者。
二人の異世界人は、異世界転生者としてこの世界にいる少年の後に続いた。
「ディアボロード、ねぇ。悪役っぽくはあるけど、
その響きはカッコイイな」
「たしかに、そうでもあるから、ちょっと複雑なんだよな」
黒鎧の言葉に頷くと、乱入者はそう少し口角を上げた。
「悪役っぽい響きって、かっこいですもんね」
ブルーも二人に同意しつつ、
「すっかりまもりちゃんの感覚、移っちゃってるなぁ」
と少し遠い目で一人ごちた。
「わたしがいなくて暴れてなきゃいいけど、まもりちゃん。心配だなぁ」
違空の友達を思って、少女は更に呟いた。
「ところで。オタクら、名前は?
俺は葛葉徹。ただの、トラックに撥ねられた系異世界転生者だ。
転生先がここな」
「そんな、『ただの』いませんよ」
微笑しながら、それでも声色は呆れたよう。そんな器用な突っ込みをするブルーは、
「「器用な奴だなぁ」」
と男子二人から同時に感心される。
「どうしたブルー、足止めて?」
黒鎧少年に問われて、ブルーは頷く。
「もう、この姿でいなくていいな、と思って」
右腕のブレスレットに触れながら、「グレイルアウト」と発する。
するとグレイルブルーが、銀に青の混じった色の光に包まれる。
それが収まると、一人の小柄な青いツインテールの少女になっていた。
「へー、戦隊の変身解除なんて、初めてみたけど、こんな感じなんだなぁ」
「俺も生で見るチャンスなかったから、貴重な体験だぜ」
黒鎧少年に続き、徹は冗談めかして続いた。
「小田てんま。ちょっと戦隊ヒーローやってるだけの、ただの中学生です」
柔らかに笑んだ後、軽く前髪を掻き揚げるようにして、
額の汗を拭うしぐさをしながら、グレイルブルー
ーーてんまは名乗り、小さく頭を下げた。
「「そんな中学生がいるか」」
また同時に突っ込まれて、フフフっと表情を崩すてんま。
「仁武和也、ただの高校生だ」
てんまと同じく足を止めてから、黒鎧の少年が名乗る。
「黒い鎧着てるのにか?」
「まだ『ただの高校生』言うんですね」
苦笑する徹と、楽しいとわかる優しい微笑をするてんま。
「いやー、しかし。すごい奴等がいたもんだなぁ。
流石は異世界からの訪問者だぜ」
徹は改めてと言う風に、感心した雰囲気でしみじみ言うと、
目的地に向けて歩みを進めた。
「『呼ばれし者』がローダーのような力を持っている。こんなことはこれまでなかったな。
これなら、私の望みは適うかもしれない」
そう言ってから、直樹を見ていた存在は、愉しそうに含み笑いをした。




