フェーズ9。金色(こんじき)の夢VS黄金の悪夢! パート1。
「はぁっ!」
踏み込み一閃。居合いの構えから繰り出された一撃は、
オルトロンの身体を軽く跳ねさせるほどの威力があった。
「なんて威力」
斬撃を放った本人ですら驚くほどである。
「どうやら、その姿で戦い慣れてはいないようだな」
若干の疲労の乗ったオルトロンの、余裕を孕んだ声。
「その通りっ、ですがっ、居合いでっなければっ、問題はっありませんわっ」
間髪入れずに放たれる斬撃の連打に、「早いっ?!」と全員が目を見開く。
「まるでっ、手と刀がっ、繋がったようっ、ですわねっ」
「更に速度が増しただと!?」
「オ嬢、あのポテンシャルはどういうことだよ?」
呆れたような驚きの声を上げる和也。
「……早すぎるわね」
呟いたカグヤを、仲間たちは一斉に見た。
「早過ぎるって、どういうことだ?」
和也の問いに頷き、カグヤは覇司魔の連撃を眺めながら言葉を返す。
「自分の早さに振り回されてるわ。
速度に慣れてないのが、あのはしゃいでるのですぐわかる。
今に足元を掬われるわよ」
「あんなすげー勢いで攻撃してんのにか?」
プライムローダー・キャリバーこと勇大の疑問にも、
またカグヤは歪みなく頷く。
「だからこそよ。彼女、冷静差を失ってるもの」
「たしかに、あの勢いはとても冷静とは言えないですね。
でも、それと足元を掬われるのと関係あるんですか?」
グレイルブルーこと、てんまの問いに「ええ」と頷き言葉を続けるカグヤ。
「二人とも、攻撃の準備しときなさい。心の準備をね」
カグヤに促され勇大とてんまは、半信半疑ながらも気を引き締める。
己の言うことに、まったく疑いを持たないカグヤの態度に、
そうせざるをえない説得力を感じたのだ。
「たしかに、君の攻撃には隙が無い。だが!」
「っ!?」
突然覇司魔が左斜め後ろに吹き飛ぶ、同時にサムライトブレードも。
「今よ!」
カグヤの掛け声で、二人の射撃手が交互に射撃をし始めた。
勇大の少し後にてんま、緑とオレンジの二色のエネルギーが、
隙間が生まれないタイミングで、オルトロンへと、
まるで輪唱のように、餅つきのように襲い掛かっている。
「くっ、うっとおしい!」
「ゆ……油断しましたわ。足元がお留守になっていたなんて」
身を起こしながら、テンションが爆上がりしていた
自らの戦い方を悔いる覇司魔は、そのままサムライトブレードを回収。
心を落ち着けるようにゆっくりと鞘に納める。
『覇司魔、大丈夫でござリーナ?』
「ええ、ダメージはそこまでではありませんわ。
足を引っかけられたら、大した力がなくても転ばされた側の力で
勢いが決まるんですのね。彼の場合は、ある程度の力をこめて
足を滑らせたようですけれど」
緑と橙のデュエットビームを眺めながら、
はていつ再び攻撃に向かおうか、と思考する。
高ぶって行こうとする己の身体を、深呼吸でクールダウンした覇司魔は、
決定打のないこの戦闘は、いったいいつまで続くのだろうと、
静かな溜息と共に知らず空を仰ぐ。
それで初めて、空の色が青から灰色へとかわっていることを知った。
「……いやな空模様ですわね」
「うっとおしいと」
「えっ?」
「なんて奴だ。俺達の射撃を受け続けてんのに、
防御状態の左腕を動かしてやがる」
勇大の言葉に、密かに「なんつう説明台詞だ」と呟き突っ込みする和也。
「いっているだろうっっ!!」
いらだった叫びと共に、二色の光線を受けていた左腕を
その状態のまま勢いよく、薙ぎ払うように振るオルトロン。
「なにっ?!」
「マジかよ?」
「そんなことって……!」
「ほんっと、鎧の強度、とんでもないわね」
「化け物だな、ほんとに」
勇大、和也、てんま、カグヤ、そして直樹。
五人が驚いた理由、それは。
オルトロンが腕を振るったことで、金色の鎧に殺到していた
緑と橙のビームが、まるで切り裂かれるようにして、
切り開かれ消滅したのだ。
呆然とした射手二人が射撃を止めた。
「君達では、まして射撃武器では」
一度言葉を切ると、転がっていた大剣オルトザンバーを拾い上げる。
「この鎧の動きを阻害するのは、きわめて難しい」
言い終わると、オルトロンはその刃を相手へと向け、
埃を振り払うように一振りした。
不可能だと言わないのは、この六人に対するオルトロンなりの
戦闘能力への敬意だが、口調と状況の相乗効果で、
この真意を捉えられる人間は、この六人の中にはいない。
現に全員、腹立たしいと言う反応をしている。
「これから私が、君達に射撃と言う物を見せてやろう」
そう言うとオルトロンは、ゆっくりと大剣の剣身の腹の真ん中に
右手をあてがった。
そうして、鍔の左にある、レバーのような装飾を倒す。
「なにを、するつもりですの?」
レバーのような装飾 ーーいや、レバーそのものを倒したままで、
刃を手で押し開くようにする。
「なんだと?」
「剣が……」
「割れた、ですって?」
カグヤの言葉通り、刃の腹が中心から左右に開き、
オルトザンバーは、まるで弓のような形へとかわったのである。
ガチャリ、と変形状態にロックがかかる。
それと同時に、『アローモード』とオルトザンバーから
低く機械的な、加工されたような、オルトドライバーの物と同じ声が流れた。
それを確認し、オルトロンはレバーから手を離す。
「アローモード、だって?」
直樹が驚愕する。
「おいおい。仮面ヒーローの遠近両用武器みてえなギミックしてんな、あの大剣」
目の前で起きた、近接武器の遠距離モードへの変形を、
和也は驚きながらも、抑えきれない興奮を乗せて、そう感想を口にした。
「たしかに、そうですわね。ですが相手が持ち、使っているのは
おもちゃではございませんわよ」
覇司魔が、そう言いながら射撃手二人の前の位置に、歩いて戻って来た。
「わ……わかってる。けど、あんなん見たらテンション上がるだろ」
若干いじけ気味の和也に、
「わたくしも、そちらのオオトモでもありますから、
その気持ち、よくわかります」
と同意を示す。
「君達は、面白いことを言うな。なら、本物の威力、味わってもらおう」
言うとオルトロンは得物の向きを、刃の先端を覇司魔たちに向ける角度にすると、
別れた刃の隙間の、左の刃の内側に左手を差し込み握る。
続けて、右手は剣の柄を握り、そのまま引いた。
すると柄は20CMほど引っ張られる。
その行動によって、剣状態では見えない剣身の中央の一本線をガイドにして、
緑の光が生まれた。
「いくぞ」
その声の直後、和也と覇司魔が同時に
「伏せろ!」「伏せてっ!」
と叫び、反射的に全員が地面に伏せた。
直後、勢いよく柄から右手を離したオルトロン。
それによって柄は元の位置に戻り、それと同時に緑の光が、
矢のような光線として放たれたのである。
そのアキロノスアローとでも言うべき光線は、戦士たちの背中を通りすぎ少しして、
物体にぶつかることなく消滅した。
「異世界の知識ゆえの回避、と言うところか。
流石、と言っておこう」
オルトロンは再び右手で、アローモードのオルトザンバーの柄を引く。
「だが、連射が効くこのアキロノスの矢。どうかいくぐってしかけて来る?」
挑発的に問いかけるオルトロン、矢をつがえた状態で動きを止めている。
「くそ、デラックスおもちゃなら音だけで済むってのに」
「ごっこ遊びで片付かないのがこの世界の戦闘ですわよ、和也さん」
「わかってる。しっかしどうするよ? このまま
匍匐姿勢でいるわけにもいかないだろ?」
「連射が効くとなるとブーストしたカグヤさん辺りじゃないと、
隙を突くのはむりそうですよね」
「そうだな。俺らでこの状態で撃って、あの武器を手放させてみるか?」
「それぐらいしかないか。なら頼むぜ、勇大と青いの」
「よし」
「わかりました。それとわたしはグレイルブルー、もしくはブルーです」
「わざわざ言い直さなくてもいいんじゃないか?」
「……そういえば、久しぶりにこの状態で自分の名前言うから、
本名が言えないの忘れてた。まもりちゃんとかが変換されるんだから
自分もそうなのに、忘れてたぁ……!」
仮面の裏で顔を恥ずかしさで真っ赤にしながら、小さく叫ぶてんま。
「そんな製薬あるんですのね、てんまさんの場合」
感心する覇司魔にそうなんですよねと、若干うんざりするてんまである。
「そっか、てんまか。ともかく、頼んだぜ」
「さて、私がそんな簡単にこいつを手放すかな?」
「手放させてみせるさ」
言うと勇大は立ち上がる。それに倣い、次々と立ち上がる五人。
「直樹、フェイタルオーダー、いけるか?」
「ああ」
答えると、直樹はプライマライズフォンを操作する。
『トゥー! ゼロ! ゼロ!』
「ロード」と言いながら、直樹は自らのベルトのバックルを叩く。
『フェイタルオーダー!』
「やり方は、レバーを倒して弾種選択、トリガーでチャージ。
ドライバー声の後に、もう一回トリガーだ」
「マジでデラックスおもちゃなギミックだな」
「それが本当に攻撃手段として成り立っているのですから、
すごい世界ですわよね、ここは」
「ってことは、まずは」
『シュート!』
「で、トリガーを」
『ターミネイトブラスター!』
「狙いは……ここだ!」
と言いながら、もう一度トリガーを引くキャリバー 勇大。
すると、さきほどの通常射撃の一回り太いビームが、
銃口から僅かな扇状に広がる形で発車された。
発車の反動に耐えるため、しっかりと地面を踏みしめる形に
体勢を変えたキャリバー。
「ぐううっ。たしかに、こいつは匍匐で撃ったら、肘が痛そうだぜ」
一方、ターミネイトブラスターを受けるオルトロンは、
剣の腹を向ける形で、その膨大なエネルギーを受け止めている。
「ぐ、なるほど。フェイタルオーダーを、この刃で受けるのはっ、
骨だなっ」
「それなら、手放しちゃえばいいんだよ。
炎浄消砲!」
ターミネイトブラスターのエネルギーが消え切らないうちに、
てんま グレイルブルーが追撃をかけた。
狙いは左手が添えられている、別れた刃の下側。
「ぐっ。これは、むりかっ」
一射目、キャリバーからの攻撃を受けた時点で無茶な手の上体だったため、
更なる追撃では、手が折れかねないオルトロン。
しかたなくオルトザンバーを手放し、それとほぼ同時に右へと飛んだ。
オルトロンの行動は正しく、オルトザンバーが弾き飛ばされたその後、
濃いオレンジ色の光線が、今までオルトロンがいた場所を突き抜けて行った。
「隙ありっ!」
すかさずトゥインクルサムライ・ステラコーデの覇司魔が、
滑り込みながら、足元にめがけて斬撃を放った。
「なにっ?!」
対処できなかったオルトロンは、それをまともに受けて転倒する。
「シャアアアッ!」
この機を逃さず、まるで獣が得物に喰らいつくような低い姿勢で
飛び掛かったカグヤは、そのままオルトロンの胸めがけて、
鋭い鉄拳をねじり込んだ。
「ぐはっっ!」
「ようやく、ニャたしのもまともに入ったわね」
そのまま至近距離で睨み付けるカグヤ。
「だ、が。やはり、君達では私を退けるには、いたらないな」
「ええ、そうでしょうね。でも、痛みは蓄積してるわ。
ニャんたが人間である以上、やがて限界は来る。
数で勝るこっちの勝利はいずれ訪れるわよ」
「はたして君達が、その時間切れを待てるほど辛抱強いかな?」
「むりね」
「「撤回早っ!」」
「だからこそ、こうしていらだってるんじゃないっ」
和也と勇大の突っ込みに答えるように、「こうして」と言うのと同時に、
マウントポジション状態のカグヤは、オルトロンの胸を殴りつけ始めた。
「マウントパンチかよ、えげつねえ」
「体力を削るって意味じゃ、効果的だろうが、
あの猫が戦術としてやってるとは思えないな、現状」
いらだちを抑えきれなくなったカグヤの表情と、繰り返される大振りの拳は
明らかに八つ当たりのそれであり、和也に答えた直樹の推測通りだった。




