フェーズ8。最強の悪夢。 パート3。
「生きてるか?」
和也は、脱力して倒れている直樹に声を書ける。
「ああ、なんとかな」
寝起きのようにぼんやりとした声が返って来て、
和也はカグヤの読み通り、直樹が生きていることにひとまず安どする。
「よっ」
軽々と左肩に直樹を背負う和也は、黒い鎧装備状態で
この世界に呼ばれたことに、初めてありがたさを感じた。
「悪いな、応急処置できるような道具も持ってない上に、土地鑑もないから
戦いを見届けさせる形になっちまって」
「いや、いい。俺は、逃げない、が身上だからな」
「貫き通したいってか。心の強い奴だな」
「それが現状のきっかけを作った、俺の責任の取り方だと思ってるからな」
「主人公気質だなー」
などと雑談しながら、和也は変身系男女三人のところに戻った。
「はがゆいですわね」
「そうですね。こうしてヤキウチガンを構えてるのに打てない」
「まったく攻撃の隙間がわからねえせいで、下手に打てねえからな」
援護しあぐねている三人。それも当然である。
現在怒涛の連撃を浴びせているカグヤの速度は、
変身して肉体の能力を底上げしている三人であっても切れ目が見きれず、
またオルトロンとの距離が近いため、下手に援護射撃すると
カグヤの攻撃の邪魔になってしまうのだ。
それゆえに、トゥインクルサムライ・ステラコーデの覇司魔は
居合いのような構えのまま制止するしかなく、射撃手の二人、
グレイルブルーのてんまと、プライムローダー・キャリバーの勇大は
照準をオルトロンに定めたままで、やはり制止することしかできていないのである。
「難儀だな、超人の援護って」
声を賭けると、和也は背負った直樹をそっと下ろす。
「ええ、本当に」
ちらりと声のした背後を向いて、歩いて来た和也にやりきれない表情で
覇司魔は頷いた。
「たしかにっ、ニャんたの言う通り、ニャたしたちのっ力じゃっ、
有効なっ攻撃にはっなってないわねっ」
数発攻撃を叩き込みながら言葉を紡ぐカグヤ。
手応えはある。が、彼女の言うように、オルトロンを倒すほどの
ダメージには至っていない。
「ニャんた、ニャたしの打撃のっ受け方、慣れて来たわねっ」
さきほどは簡単に吹き飛んでいたオルトロンだが、今は休むことなく殴る蹴るしているが、
身を僅かに鎮める、あえて反発せずに後ろにのけぞるなどして、
ダメージを分散し始めているのである。
「反撃はっ、できないがなっ、以前としてっ」
オルトロンの痛みを耐えているような声の調子から、
ダメージ自体は通っていると実感しているカグヤは、
敵の体力を削ぐ方針に思考を切り替えている。
そのため、とにかく痛みを蓄積する戦法を取っている。
それが現状の、怒涛の連撃なのである。
「はぁっ! やぁっ! はーっ!」
しかし、カグヤは敵のしぶとさに焦り始めている。
魔力を身体能力の向上のために開放する。
それはカグヤ自身が言っていたように、
日常生活においてめったにやることではない。
自意識がある状態での全力をたもったままで、攻撃をひたすらに続けている。
直樹同様、カグヤの体力も、徐々に減り始めているのだ。
本当に微小な変化だが、振るう一撃一撃の鋭さが失われ始めているのを理解していた。
「ニャたしも、焼きが回ったわね」
心の中で、オハヨーの町での穏やかな日々が自らの攻撃力を鈍らせている事実に嘆息する。
「この鈍りも悪くない。けど、今はこの腕の鈍りっぷりが恨めしいな。
アイシアとの組み手、これからはもうちょっと気合入れようかしら」
僅かに弱気になったが、余裕をすぐに取り戻したカグヤ。
「はぁーっ!」
振るう拳に気合が乗った。
「ぐっ、重みが、ました?」
驚いた声色のオルトロンに、カグヤはニヤリと勝ち誇る。
「いい手応えね。このまま攻めるっ!」
「魔力って、すごいブーストかけられるんだな」
カグヤの様子を見ながら、和也は掌サイズの押しかけ女房のことを、脳裏に浮かべた。
「あいつが本気出したら、どうなるんだ、いったい?」
そして、背筋に寒気が走った。
「魔力が使える人、知り合いにいるんですのね?」
「ああ、まあな」
「やっぱり、『ただの』高校生じゃないですね」
はぐらかすような和也の答え方に、てんまは仮面の裏で笑顔になる。
「羨ましいですわね、そんなラノベみたいな状況」
「異世界転移してる奴がよく言うぜ」
思わず吹き出してしまった和也である。
「いいんだろうか。こんな呑気で」
和やかな空気の中で一人、勇大は援護しようと各々武器を構えていると言う
自分たちの見た目とのギャップに戸惑っていた。
「この打撃の重さ。興は乗った。けどキレが鈍ってきたわね。
気付かれる前に、こいつが音を上げてくれればいいんだけど……むりそうか。
小さくうめいてはいるけど、やっぱり決めてにはなってない。
なにか。もっと大きな力がいる。悔しいけどね」
思考しながら、行きついた打開策のなさに、はがゆさすら蹴り足に込めた。
「ぐっ。重い。だが、重いのは、その威力だけではどうやらなさそうだな」
少し息の上がり始めたオルトロンの言葉に、ポーカーフェイスで感心しつつ驚くカグヤ。
「もう気付かれた。格闘能力は大したことないのに、
洞察力だけはやたらいいわね、こいつ。
けど、相手も息を揚げ始めてるわね。押し切れるかしら?」
「おい、少し、カグヤの魔力の光の色が薄くなってるぞ」
和也の気付きに、残る三人はそれぞれ驚いた反応をしてから、
改めてカグヤの体に纏われる魔力の光を見る。
「本当ですわね、少し白が薄くなっていますわ」
「よくわかりますね、そんなすぐに」
「ま、まあ。魔力光はたまに見るからな」
「ほんと、ただの高校生でどんな生活してんだ、お前」
「なあ。こん中でカグヤの次ぐらいに強いの誰だ?」
あえて勇大の突っ込みめいた疑問には振れず、
無視したような形で問いを投げる。
「なんですか突然?」
訝しむてんまに一つ頷き、和也は持論を展開する。
「猫の戦闘不能は、現状じゃ負けと同じだ。
だから、あいつには限界より前に交代してもらった方がいいと思う」
「たしかにそうですわね。それでしたら、
近接攻撃主体のわたくしが適任だと思いますの」
「なるほど。たしかにそうか。強さよりも戦闘スタイルを考えるべきだったな。
よし、ならオ嬢。黄金対決、頼んだ」
「ええ」
力強く頷くと、覇司魔はてんまと勇大を順に見る。
「なんですか?」
「どちらか、一射、していただけませんか?」
「なんでだ? 猫耳に当たったらどうする?」
「だからこそです」
「どういうこと?」
意図を掴めないてんまと勇大、今度はてんまが問いを返した。
「この状況で射撃すれば、カグヤさんなり相手の方なり、一度動きが止まりますわ。
その隙間を利用してわたくしが出て、カグヤさんに交代を促すんですの」
「なるほど、隙を作るためか。わかった、俺がやるぜ」
「お願いしますわね、先生」
「よっしゃ」
言うと改めてイグゼキャノンを構え、勇大 キャリバーは、
グリップの右側にあるレバーを、右手首のスナップを効かせて下に倒す。
『シュート!』
アルターのドライバー音声と同じ声が、イグゼキャノンから鳴った。
「これで打てるんだ。今は通常モードでいいだろう」
言うとカグヤとオルトロンの隙間を見極めるため、右に四歩大股で移動。
改めて二人の状況を注視する。
「射撃、苦手なんだけどな」
言いつつタイミングを計る。
カグヤの攻撃が少し見えるようになっており、
なんとか攻撃の切れ目を見極められそうだと勇大は頷いた。
「目が慣れたのか?」
自分の変化に驚く勇大だが、実際はそれ以外にカグヤの体力が限界を訴え始めている状況である。
「ラッキー。三秒跡に打つ」
そう言い聞かせると、カウントを開始。
「いち」
一撃。
「にい」
二撃。
「さんっ」
三撃。
「喰らえ!」
あえて大声で力強く叫び、同時にトリガーを引いた。
すると、イグゼキャノンの銃口から緑のエネルギーが、
オルトロンへ命中する射線で、カグヤとオルトロンの間に
割って入るように迸った。
「っ!」
驚きつつ、バックステップで距離を取ったカグヤ。一方オルトロンはそのまま攻撃を受けている。
「カグヤさん、交代ですわ」
走り込みながらの覇司魔に、カグヤは怪訝な目を向ける。
「なんで、ニャたしの名前を?」
「異世界生配信の時、神尾明斗、明斗さんが
あなたのことをそう呼んでいましたので」
「よくわかんないけど、アクトの知り合いなら、ま いっか。
悪い奴じゃなさそうだし。けど、交代ならもっとやり方あったでしょ」
不満をそのまま声に出して、じとめで覇司魔を軽く睨むカグヤ。
「隙を作らないと、安全に選手交代できないとの判断ですわ」
「なるほど。たしかに、敵さんの動きを止めなきゃ距離もとれなかったか。
わかったわ。じゃ 任せるわよ、金色さん」
その言葉が終わると、カグヤを包んでいた白い魔力の光がスーッと消えた。
ふぅぅっと、大きく疲労の乗った溜息を吐くカグヤである。
「では、二番手。トゥインクルサムライ・ステラコーデ、覇司魔」
圧力を伴った気迫を持って相手を見据える覇司魔。
最早その気配は、ただのオタクのお嬢様ではない。
「参りますわ」
光彩刀サムライトブレードの柄を握り直し、真剣な声で宣言した覇司魔。
この迫力は、日常の延長として戦っていたカグヤより、
遥かに戦士のオーラを放っていた。




