表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

8・コレジャナイ料理文化

 昨日の事を思い出し、ふと確認したい衝動にかられたが、理性で何とか抑え込んだ。まさか薄い本に出てくる様な『男の娘』であった訳ではないと確認したかったが、さすがにそれは理性で押し留めた。


 彼女を起こさないようにそっと起き、部屋を出て歩いて行けば、朝から元気そうなオットの声が聞こえて来た。


「精が出るな、オット」


 こんな朝早くから戦斧を振るっているとは、どんな体力をしているのだろうか?


「これは、おはようございます。ここは楽園ですなぁ」


 その返答に、昨晩の事が私だけではなかったと悟るが、それにしても元気過ぎではないだろうか、この脳筋は・・・


 しばらくすれば下働きの者以外も活動をはじめ、彼女も目覚めると私が居なかったからか探しにやって来た。


「何しちゅうが?」


 改めて見れば、確かに女性であると分かる姿に、どこかホッとした。



 そんな彼女に案内されて話を聞いたところ、どうやら長の娘であるらしい。


 絶えてしまった錬金術の復活の為、私と床を共にしたのだと。


 貴族である私とはまた違うその価値観は驚きだったが、分からない訳ではなかった。もしも私のスキルがもっと違ったモノであったなら、スキルのためにどこかの貴族へ婿入りしていたかもしれないのだから。


 そして話はこの隠れ里の事に移る。


 この天空都市は複数の錬金術師が築き上げたものであり、修復や拡大が止まった現在、何とか維持するのがやっとであると。


「錬金術士が生まれんと、ここはいずれ朽ちていくがよ。わいはそれを止めたいがきい」


 そう、決意のこもった目で語ってくれた。


 ただ気になる事もあった。


 昨夜の宴の席で長は南から探りを入れてくる者が居ると言っていた。


 南の世界は帝国が崩壊して以降、錬金術排斥が行われ、彼らはその魔の手から逃れるためにここへやって来たのだという。

 これより南では、錬金術を排斥する事で生まれた新たな国が存在し、今も錬金術士を探しているらしい。

 

 その話を聞いて、我が国の事を考えてみたのだが、僻地に追いやられた私が得られる情報は少ない。そもそも、他国から入る情報がそう多くはないのもあって、商人から仕入れる情報にも限りがあった。

 ネーレ山脈は南北を隔てる防壁になっている。が、帝国はそれを越えて北への支配を拡げて来ていた。帝国ほどの規模や勢力を持たないらしい今の南の国が容易に北へやってくることはないかのしれない。

 しかし、ここにその抜け道が存在しており、いくら世界を隔てる山脈などと言ってもその終わりはどこかにある訳で、回り込んでやって来ないとも限らない。


「そうか。出来る限りの協力はしよう」


 そう答えると、彼女も頷いてくれる。私にとっては下心からの思いが大半ではあるが、南からの脅威への対策と言う考えも無いではない。無いったらない。


 そして、皆が活動を始めた頃、私は長に交易をおこなう提案をした。


「そうがか、足りんもんもあるきに、助かるがよ」


 との賛同を得た。


 そして、こちらが得る事の出来る産物について話を行っていた時、天糸と共に宝石が提示された。


「これが我らが出せるものじゃき」


 その宝石は濃いオレンジ色をしており、前世の知識が反応したので手に取り確かめてみた。


 それは間違いなくルチルである。こんな綺麗な形でゴロゴロしているものだろうか?


「井戸を掘る際に出てきたがよ。これが採れる穴は今も使いちゅうが、要るんならもっと掘るがよ」


 どうやらルチルの大鉱脈があるらしい。


 開拓村の砂鉄にも不純物としてチタンが混ざり、多少なら持っているが、まさかこうして原材料として十分な量を手に入れることが出来ようとは思いもしなかった。


「ぜひこれを」


 長は不思議がりながらも承諾してくれる。


 こうして、朝起きてしばらくはちょっとした摘み物や飲み物だけで過ごし、日がある程度昇った頃に食事が出される。

 食事の準備を考えればある意味理に適った時間であり、前世のように一日三食と言う事はなく、開拓村でも二食が基本であった。


 食事に供されたのはやはり米料理であった。


 昨日のパエリア風な料理は宴の料理であるらしく、今日は個々の皿に盛ったピラフとリゾットの中間の様な料理である。

 ピラフと言うには汁気が残り、リゾットと言うには焚き過ぎである。


 それをスプーンで口に運べば、なるほど、しっかりスープを吸った米の味わいが口の中に広がった。料理としては開拓村で食べるカーシャ風な盛り付けに近いだろう。

 これも米の性質が前世のジャポニカではなく、ジャパニカに近いことで起きる料理法の違いなのかもしれない。


 さらに、蒸した米を潰して伸ばして乾燥させた煎餅状の携帯食も存在している様で、私たちのように毎食の煮炊きが必須、さもなければ干し肉を齧るだけという状態よりは恵まれている様だった。


 食事を終えた私は、試しにルチルからチタン塊を練成する。純度の高い二酸化チタン結晶であるらしく、ほとんど不純物が出ることなく手のひら大のチタン塊を練成できた。ただ、砂鉄から玉鋼を作るよりも疲労するのを感じたが、何か魔力特性に違いでもあるのだろうか?


「ざまな錬金がや」


 それを見ていた長の娘ダナがそう驚いたように言う。意味は分からない。


 練成をしばらく繰り返し、ようやく道具が作れるほどの量になった。砂鉄よりも作れる量が少なく、魔量消費も多い。

 さらにそれを板状に伸ばしてみるのだが、なるほど、鉄板に比べて軽い仕上がりになった。ついでに表面の酸化に変化を持たせれば、青紫から鮮やかな青のグラデーションが表面に浮かんでくる。


「こじゃん事ができるがか!」


 何やらさらに驚いているので、板を手渡してみる。


「がいに軽いがよ!」


 さらに驚きが増している。


「これを使えば軽い鎧も作れるようになるだろうな」


 私がそう言うと驚いている。


 ただ、軽いのは良いがその性質なのか硬さなのか、魔力消費が激しいのがネックではある。


 私の言葉で何を思ったのか、食後の運動をしているフルプレート脳筋を見るダナ。


 うーん、アレにこんな軽い鎧は必要ないと思うんだ。今のアレで元気に動き回れるのだから・・・


  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ