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7・隠れ里へ招かれる

 私が錬金術士だと名乗ると彼らの警戒が緩み、手近な石を成形して見せればもはや歓迎の意を示して来るほどにまでなった。


「こっちこっち」


 私に詰め寄ってきた者は私を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。


 引っ張られるままについていけば、小径は街道を逸れて谷へと降りて行くではないか。


 幾筋かの小径の中でこれを選んだのだから、住処があるのだろうと従った。

 相手は歓迎しており、オットすら対応出来ない身軽さである。下手に抵抗しても無意味というものだ。


 しばらく小径を歩くと、前方に階段状にそびえる集落が現れる。

 なんと表現すべきか、前世の知識から引き出すならばマチュピチュが近いだろうか。


 街道からは死角になる絶妙な位置に築かれた天空都市。

 上部に人が居住し、下方は畑だろうか。キレイに刈株の列並んでいるのが見える。


「外ん人が来るのは珍しかきい、みんな見とるがよ」


 私の手を引きながらそう自慢気に笑う人物。


 町の石垣は精巧な作りをしており、街道と同じ技術で作られている事を伺わせる。


「錬金術士ば連れて来たっちゃ!」


 小径の果て、断崖に架けられた橋でそう中へと声を掛け、さらに我々への注目が集まる。


 橋を渡って入ると、まるで王都を思わせる整然とした石畳の道が整備され、家々の壁も石畳同様に整っている。

 

 私たちは促されるままに道を進み、最上部にある一際立派な屋敷へと案内された。


「錬金術士はおんしか?」


 立派なヒゲを生やす人物からそう問われた私は素直に答える。


「錬金術士はまだ居ったがか!」


 何やら驚かれてしまった。


 ローナンの言葉であろうそれは、少々難解な部分はあるが、何とか理解出来た。


 さらに何やら歓迎の宴をやると言い出した長らしき人物。


 何やらオットが隣へとやって来た。


「アレは天糸の衣(てんしのころも)ではないでしょうか?」


 そっとそんな事を言う。


 天糸の衣とは、鎧の下に着る最高級の防刃素材。貴族の当主ですら中々手に入らない貴重な素材で、王族や近衛騎士の長が着る、いわば権威の象徴の様な布地である。


 それはつまり、彼がやんごとない血筋という事を指すのだろうか?


 その視線に気付いたらしい長はにこやかに


「こん着物はウチの自慢ちゃ。剣も矢も通さん、昔からの鎧下がきい」


 と、まさしく正統な血筋と認めて来た。


 そんな彼に誘われ、屋敷へ入る。


 そして出された飲み物を見て驚く事になった。


 それは見た目が白く、湯気が出るほどに温められている。見た目にも粒が浮いているのが分かる。


 我々には未知の飲み物に当たるが、前世の記憶がひとつの飲み物であると訴えている。

 飲んでみれば確かに記憶通りにとろみと甘みがあり、ほんのり酒の香りが漂う。


「これはなかなかに甘い酒ですなぁ」


 オットがそう口にする通り、麹発酵させたアルコール分を含んだ甘酒に他ならなかった。


 甘酒と言えば栄養補給に良いと言われていた記憶があり、ここでもそうなのだろう。


 甘酒を飲み、長の話を聞く。


 ここはローナン崩壊時の戦乱から逃れた一族郎党が築いた隠れ里であるらしい。


 険しい山の中、ちょうど街道からは死角になり、なおかつ日当たりのある場所としてこの地に街を築き、これまで暮らして来たとの事。


「錬金術士はなかなか生まれんがよ。そんせいで街は徐々に廃れちゅう。街道もこの200年は人が通らん言う話ちゃ」


 そんな村だが、天糸の衣を生み出す養蚕が行われているとの話を聞いた。

 ただ、それは我々が想像したものとは違い、ローナン帝国時代には一般的な防刃服として流通し、天糸織の服が軽鎧であったと言うではないか。


 我々を見つけた者達の服も天糸の衣だそうだが、一般的には染色されているので気付かなかっただけらしい。

 

「天糸の衣は染色しないものと、そう聞いていましたが」


 そう質問すると笑われてしまった。


「そりゃあ、北には染料に適した木ノ実が無いだけじゃが」


 との事である。


 確かに、トンネル辺りから植生の変化を感じていたが、まさかそれが衣料品にまで影響を与えているとは思いもしなかった。


 話している間に宴の準備が出来たらしく、湯気の上がる鍋が持ち込まれて来た。


「パエリア?」


 それは浅い鍋、或は深底のフライパンで炊いたらしい米に肉や野菜が盛られていた。

 記憶のパエリアという料理とは趣が異なると考えていたところ、ある記憶がヒットした。

 パエリアが伝わり、現地料理として魚介から肉へと中身が変化した北米料理のジャンバラヤと言う物である。どちらも大鍋やフライパンで焚き上げることに変わりはなく、大人数で囲むことも同じ。


 私たちが座る中心へとそれが置かれ、個々に渡されたスプーンで鍋から直に食べる。

 マナーもパエリアやジャンバラヤに近い様だった。


 私は初めて食べる米を味わうのだが、記憶はそれを「コレジャナイ」と訴えている。私にはよく分からないが、きっと、記憶の米とは違うナニカなのだろう。


 そう思いながら記憶を引き出せば、米には長粒種と短粒種が存在する。

 長粒種は東南アジアから東アジアで栽培が盛んで、短粒種はより北の北東アジアで栽培されているらしい。

 さらに短粒種には北東アジアで栽培される粘り気を持ったジャポニカと、パラっとした長粒種と似た食味をした東南アジアや地中海地域で栽培されるジャパニカに分けられる。


「なるほど、これはジャパニカという米に近いのか。或は、アジア稲とは系統の異なるアフリカ稲かも知れないが」


 などと食中の歓談とは無関係な事に頭を巡らせていた。





 朝、目を覚ますと知らない天井だった。


「ここは?」


 そして、人の気配に隣を見ると人が居た。  


 その顔を見て昨日の出来事を思い出す。


 パエリア風料理を食べ、勧められた飲み物を口にしていた。

 スパイスなのか辛めの味付けによく合う飲み物だった。

 その時お酌をしていたのは街道で出会った小柄な人物。


「前世であれば案件ではなかろうか。いや、私も前世では法に引っ掛かる年齢だから事件と呼ぶべきか・・・」


 隔離された環境においては外からの来訪はまたまたとないチャンス。

 それは記憶にある古い時代の因習などと済ませられない事が、自身の身に起こっている。


「髪も短く平坦だから男だとばかり思っていたのだが・・・」


 隣で眠る人物を見て、そんな感想が零れた。


 

 

なぜかナーロッパ米はジャポニカ米ばかり、世界の主流はインディカ米だし、ヨーロッパでもイタリア北部、シチリア、スペインでは米が栽培され、その主流はジャバニカらしいので、ちゃんと欧州米を登場させてみだがよ

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