6・オブローディング リターン!!
春を迎え、開拓村はさらなる拡大を始める。
伯爵領の貧民を中心に、さらなる人員も送り込まれて来た。
伯爵家からすれば体の良い棄民先とも言えるが、オットが猪を狩りまくり、税を岩塩で納めている事から食糧に余裕があるのも助かっている。
なにせ麦は食糧ではあるが、岩塩はより価値を持っているのだから。
そのため、岩塩は伯爵家へ納めてしまえば商人へ売る量も制限される。岩塩は統制品であったらしい。
開拓村は男爵領として自己の権益も有し、それが商人へ売る量となる。が、申告しない村内消費分も当然ある訳で、それが干し肉やハムの製造に使われている。
例の鍛冶師だが、春になっても村に居座り、私が用意した工房建屋をさらにイジり、今では立派な鍛冶屋として稼働している。王都へ玉鋼を送る連絡所ではなかったのか?
鍛冶師はオットの戦斧に驚き、同様の手法で錬成した農具を見て嘆いた。
「こんな一級品をただの道具に使うのか!」
などと叫んでいたが、気が付いたら炭の質に注文を付けたり金槌を振るう事が増えていた。
そして、開拓村では不要な剣や鎧、装飾品が生み出され、春を迎えてからは立派な工房専用便で送り出されていたりする。
その移動に税を掛け、幾ばくかを私が受け取る訳だ。
こうして2年目も廃墟であった古い遺構を再整備し、増えた開拓民用の住居を整え、何故か鍛冶師に文句を言われながら、私が作った農具で畑を拡大していく。未だにソバと豆が村での栽培品種である。
ただ、昨年と違うところもある。
私が実験的にただの岩から錬成した粉挽き用の臼によってそば粉が挽かれ、ブリヌイなどが食卓に並ぶ様になった。ようやく粥だけの生活から抜け出し、多少は文化的な環境が出現したが、まだまだ先は長い。
こうしてしっかり村らしさが現れた2回目の冬、私は再度、街道を南へとやって来た。
迷宮を抜け、崩れた橋へ。
粉挽き臼は橋を修復する為の実験であった。
そして、実験の成果を得た私は、今ここにいる。
「さて、オットは崖を崩せ」
人外脳筋にそう指示を出し、鍛冶師が呆れた顔でため息をついたツルハシが振るわれる。
焼入れをしていないのに同等以上の性能を示すイカれたツルハシ。王都鍛冶工房が誇る武具にも引けを取らないらしいのだが、私からすれば所詮は道具である。
前世の記憶では、こうした性能こそ、道具として価値が高かったはずだ。性能が高いのであればこそ使いもしない王侯貴族の屋敷に飾るより、道具たちも喜んでいるのではないだろうか?
オットが崩したガラを私が適切なサイズと性質に錬成し、滑車など主要部品こそ村から持ち込んだが、クレーンは現地の木材を圧縮加工して製作した。
今回は工事のためにかなりの人員を連れてきたが、それでも20人ほど、今の村ではこれが限界である。
さらに村からここまでの連絡や食糧輸送などに数人が動いているので、この様な事業は冬の間にしか出来ない。
橋は肝心のアーチが崩れていなかった事から修復を10日で完了し、徒歩での渡橋が可能となった。
その際、橋全体を調べてみたが、やはり魔力を流した跡があり、帝国時代の技術力には驚かされた。
こうして、橋を渡り、対岸へ至ると、これまでは隠れていた峡谷の南の風景がチラリと覗えた。
まだかなり山岳地帯が続いているようだが、その終わりが確実にあると知る。
ここはネーレ山脈でもかなり深い谷を持つ峡谷であると同時に、南北がもっとも近い場所。そう書物には解説されていた。
それを示すかのように、対岸へ渡っても道は方洞門やトンネルが連続し、小さな谷を跨ぐ橋も数多くある。それら全てが、馬車が楽にすれ違える幅で作られている。
こんな工事、今の技術ではとても完遂出来ないだろう。
2日ほど、疲れという感覚が無さそうなオットを先頭に、変わり映えしない方洞門やトンネルが続く街道を進めば、次第に左右の山が低くなり、道が稜線へと躍り出た。
しっかりした石垣で固められた道に綻びはほとんど見られず、オットが倒す木々さえなければ、まさか500年の時を経た廃道などとは思わなかっただろう。
稜線へ至った道は、そこからは稜線に沿って南からやや東へ逸れながら伸びている。
「まだまだ先は長そうだ」
私は周囲を眺めながらそう口にした。
その眺めは絶景と言って差し支えなく、より低い峰々の向こうに平地らしき風景が見える。
なるほど、丸一日は歩くこの稜線の上。この景色はまさに天使の回廊にふさわしくは無いだろうか?
さらに翌日、道は新たな変化を見せる。
遠望は出来ていたが、木が疎らとなり、直に岩肌が見える箇所が多くなり、街道もどうやら広がった谷へと下りだす様である。
そして、この辺りの道は、日常的に人が行き交っているのだろう、人道としての小径が刻まれ出している。
そんな時、オットが不意に停止した。電池切れだろうか?
オットが止まり、我々一行もそれに続く様に停まり、オットが向いた方へと視線を向ける。
それを待っていたかのように声がする。
「おんしら、どこから来ちゅう」
我々の言葉とはどこか異なる響きの声であった。
「北から街道を通りやって来た!」
私がそう叫ぶと、彫りが深く浅黒い肌の人物が姿を現した。
「北から?上の橋は渡れんがなかったか?」
どうやら街道の状態についても知っているらしい。
「橋は渡れる様に直した」
そう言うと、しばらくの沈黙が流れる。
「北の国人かよ、おんしら」
別の声がそう尋ねてくる。
「そうだ」
どうやら歓迎はされていないらしい。なかなか返事が返って来ない。
そんな緊張が流れるが、それを破る様な声が響く。
「北の国人かよ!ほんにたまるか!橋はどう直しちゅうがか?」
私と年齢か近そうな小柄な人物がそう叫んで飛び出して来た。
その人物に停止していたオットが反応して起動したのだが、スルリと躱され、件の人物は私の前までやって来たのである。
「こん人手でやったがか?」
そう、好奇心旺盛に詰め寄られた私は、もう少し人手を出し、道具や石材は錬金術で錬成したと説明した。
「錬金術!北の国人はまだ使えるが?」
より興味を持った人物に気圧されながら周りを見れば、他の人々もしっかり見える位置までやって来ていた。
「錬金術が使える者は居るには居るが・・・」
「ホンマか!」
南では錬金術は何かステータスにでもなっているのだろうか?




