5・村に鍛冶師がやって来た
ローナン街道の探索を終えて村へと帰還した。
本来予定した探索日程より早く終わった事から、復路はオットが次回探索に備えて道筋に生える木を伐採しながら帰る事になった。
その体力たるや人外脳筋と呼んで差し支えなく、常人には真似の出来ない所業であった。
もちろん、彼ひとりが暴れ回るのを見ているだけではなく、私もその合間に街道の調査を行っていた。
ローナン街道は今の技術で再現するのが難しいほどに優れた技術が各所に散りばめられている。
もちろん、街道が帝国の威信を掛けたものであった事に疑いは無いが、あのトンネルや橋、そこに至るまでに散見される石垣一つ一つが技術の高さを物語る。
私が前世の知識を用いて錬金術を扱うソレは、どうやら帝国の技術にも通じているようであった。
錬金術が庶民の使う二流以下のスキルとされているのは、本来もっと万能であったはずが、帝国の崩壊で知識が散逸したか、或は、誰かが独占している事で本来必要とされる知識が制限され、今のような状態になったのであろうと推察している。
それにしてもローナン街道について記された書物には、迷宮だけではなく、天使の回廊だとか悪魔の遊び場なる記述も存在しており、まだほかにも似たような建造物があるのかもしれない。
それからの日々はとても単調である。
雪が積もり外での作業は最低限しか出来ず、元気に外を走り回るのは犬かオットくらいのものである。
そんな中でも獣は出没する。
狼は開拓村が大きくなった事で近寄らなくなっているが、猪や鹿がエサを求めて現れる。
畑が広がった事でエサ場と認識されているのかもしれない。
そんな獣は発見次第にオットが倒し、冬の食糧へと化けている。
最近は岩塩採掘が順調なため、それを用いたハム製造も行わせている。
領地の物は領主のモノを地で行くこの世界、私が良いと言えば肉類の製品化も簡単に行える。
他の領地では領主やその家族くらいしか肉類を口に出来ないそうだが、家臣を含めても僅かばかりの開拓村。よく言えば自然豊かなこの地は獣に溢れ、私だけではまったく消費が追いつかない。
さらに、肉類の売買をしようにも、需要が極めて小さく、精々が一部の商人や旅人に売れる程度。最低限の干し肉を販売しても、後は腐らすだけと言うほどに余り余るほどに肉がある。
そうなると、後は開拓民に分けるくらいしか手段はなく、豊かな開拓村という話が伯爵領内に出回る事に繋がっているらしい。
その様な噂を聞きつけた流民が時折現れる。
労働力は喉から手が出るほど欲しいので、よほどでなければ受け入れる事にしている。
「また流民か?」
執事がやって来たのでそう尋ねれば
「いえ、鍛冶師との事です。この村で売った鉄塊について聞き付け、やって来たと申しております」
普通なら役人が処理して終わる流民受け入れ。
しかし、相手は移住希望ではなく、鉄塊についての問い合わせであるらしい。
やって来た鍛冶師と名乗る人物は、まさにザ・ドワーフ!と言わんばかりの体格をしている。
「アレを領主が錬金術で作り出したとか与太話を聞いたが、冗談は顔だけにしろよ?」
入室するなりカマして来た!
何故かその啖呵に前世の記憶が反応する。
なるほど、子供時代に視聴した喜劇にそんなセリフがあったらしい。
私はフッと笑い、相手を見つめる。
「あぁ゙」
どうやらその態度に機嫌を損ねたらしい鍛冶師。
「委任男爵ゴトキが王都鍛冶工房の俺様にナメた態度しやがって」
なるほど、王都鍛冶工房か。
王家御用達で、王族への謁見を許された鍛冶師も複数在籍するらしい。委任男爵風情には縁もない雲上人である。
「顔を見ても冗談か本当か判断出来ない鍛冶師に見下される謂れはない」
現に私が錬金した鉄塊について聞きに来たのなら、あまりに態度が悪すぎるため、そう言い返した。
「テメェ、これをドコで手に入れた?自分で錬金したなんてフカすんじゃねぇぞ」
と、さらにお怒りらしい。
「そうか、出処を知りたいのか」
そう言ってる執事を呼び、砂鉄を用意させる。
鍛冶師は何やら言ってるが、それを無視して準備を行い、目の前で錬成してみせた。
前世の知識によれば、玉鋼と呼ばれる鋼塊を、である。
「こうやっているのだが」
こちらを訝しげに睨む鍛冶師へと、今創り出した玉鋼を手渡す。
鍛冶師はそれをじっくりと眺め、感触や硬さを調べ、こちらを見る。
「こりゃ、一級品の鋼じゃねぇか!たかが砂鉄からこれを錬金しただと・・・」
錬金術の特性は、熱処理をせずに物質の調整だけでこの様に望むモノを生み出せる事。
さらに、これを成形して道具も簡単に作り出せる。
「面白い事をやってやろう」
そう言って鍛冶師から玉鋼を奪い取り、狩猟用の複雑な矢じりを成形していく。
「どうだ?」
出来上がった矢じりを手渡せば、鍛冶師は驚く事しか出来ない。
「こ、こんな細かい細工をいとも簡単に。しかも、しっかりした切れ味の刃まで作り出せるとは・・・」
これが、本来の錬金術である。
「こんなモノが出来ちまえば鍛冶師なんて要らねぇ」
そう口にする鍛冶師。
だが、実はそんな事はない。
「そうだろう?錬金術というのは何でも出来る。だが、それはあくまでひとりの出来る事に限ればだ。人手を揃えて数を作ろうと思えば、鍛冶師の様な人手は集まらん」
ここに大きなネックが存在する。
錬金術というのは、知識さえあれば何でも出来るのだが、鍛冶師の様に後から育てるスキルではない。
鍛冶師ならばスキルが無くとも庶民の道具くらいは作れるが、錬金術はスキルの無い者に後からスキルを与える事は不可能とされている。
魔術師や鍛冶師にいくら教えても、錬金術のスキルは身に付かない。
さらに、錬金術のスキルがあっても知識がなければ高度な錬成は出来ず、結果として薬師や鍛冶師には及ばないと見做されている。
では、錬金術スキル持ちを集めて知識を教えれば鍛冶師や薬師は不要になるかと問われれば、否と答える事になる。
錬金術士の数は限られ、皆が同じ事が出来る訳では無い。私もポーション製作の知識は少ない。
「なるほど。コレが作れるから、俺たちは要らんとなる訳じゃねぇと」
鍛冶師は私の話を理解したらしい。
「分かった。この村に常駐させてもらう。コレは王族の武具にも使える品質だ。必要な時に納めてもらう」
と、いまいちよく分からない理由で居座る事にしたらしい。




