3・騎士がやって来たよ
クレーンは順調に稼働し、石を積上げている。
書物では一日で建物が完成したと書かれていたが、さすがにそれは不可能だった。いや、クレーンを増やせば可能性はあるか。
いくつかの遺跡というか廃墟を見分し、再生可能なものはさらに石材加工を行い再生の準備をし、解体が適当なものは解体して石材を再利用する。
この街は書物に名前が出るような著名な街ではなかったらしい。
執事に調べさせたが、ローナン街道の宿場街としての記載もなかった。
では、何だったのだろうか?
そう疑問に思い、周辺へと調査を行わせれば、小規模ながら岩塩鉱山跡が見つかり、川原は砂鉄床と言える場所である事が判る。
「この街は何らかの産業で興り、栄えていたのであろうか」
調査結果から導き出した答えはそれであった。
ただ山間に開けた盆地という以外、何も特徴がない場所。いくら帝国が大きな国であったとは言え、こんな田舎に石造りの建物が複数立ち並ぶなど、「ナニカ」がなければ有り得ない訳だ。
その繁栄を支えたのは錬金術かも知れない。
前世の知識、つまり科学知識こそ錬金術に必要だと実感した今、現在の衰退した文明こそが、ハズレガチャだと、ふとそんな思いが頭を過ぎる。
「だからこそ、前世の知識を得た私には未来があるのかも知れない」
そんな事を考えながら、川原から採集して来た砂鉄を鉄塊へと精製する。
不純物を取り除いて精製されたそれは、きっと売れば価値の高い鋼へと錬金されている。
砂鉄から様々な鉄塊を作り出し、何か作れないか思案していると、執事が声を掛けてきた。
「伯爵家より騎士が参りました」
それを聞いて、ああ、そう言えばと思い出す。
開拓村へやって来て、幾度か定期連絡の手紙を出していたが、この間届いた手紙に、騎士を送ると書かれていた。
こちらはこれから秋を迎えて熊の出没が増える可能性があり、多少の戦力融通を依頼していたのだ。
小規模とは言え岩塩鉱山が見つかり、僅かではあるが伯爵家へ納める税の手立てが出来たので、戦力融通をねだってみた。
まさか本当に叶うとは思っていなかったのだが。
しばらくしてガチャガチャと鎧の音が聞こえてきた。
「失礼します。騎士オット、参上いたしました!」
そんな大きな声に入室許可を出せば、声に違わぬ武骨な男が現れた。
「オットにございます」
当たり障りのない挨拶をいくつか口にし、再度、名乗る騎士。
「一人か?」
私がそう尋ねると
「熊退治との話でしたので、開拓村の負担にならぬ様にと、私が遣わされました。熊ごとき、私のみで十分かと」
とくに嫌味を言うでもなく、純粋に自身の能力を主張しているその姿に、彼がいわゆる脳筋であろうと悟る。
さすがに伯爵家が自家の誇る騎士を寄越す訳もないとは考えていたが、まさか脳筋の廃棄を実行するとは想定外だった。
いや、下手なスパイを送り込むほど期待もされていないのだと安心すべき場面か?
そんなオットの活躍は、まさしく脳筋、野獣の如しであった。
苦心して揃えたリカーブボウすら歯が立たない熊を軽々と倒してしまう。
自前の槍をあっという間に折ったので、圧縮木材と鋼塊から作り出した穂先を備えた槍を渡したのだが、数日で折られてしまう。
確かに熊や猪を狩るのに適した戦力なんだ。
「得物は刃さえあれば何でも扱えます!」
と、何も考えていなさそうな自己紹介をするオットには、嫌がらせで大型の総金属製戦斧を渡してみれば喜んで振り回し、熊を一撃で倒したと報告を受ける。
うん・・・・・・、適材適所と言うことか。
ちなみに、鍛錬だと言いくるめて木こりをさせてみたところ、僅か数振りで大木を伐採してしまったという。
ただ、この話には続きがあって、誰かが見ていないと見境なく伐採しようとするのであまり効率はよろしくないらしい。
オットが来てから飛躍的に安全が高まり、倒した獣の肉も村で消費するには過剰なレベルにまで膨れ上がった事から加工する事にした。
岩塩の産出もあって干し肉作りは順調に進み、皮を鞣す材料と引き換えに商人へと幾らか渡し、皮を鞣し終えれば、それも売って食料を手に入れた。
「ソバと豆か・・・」
残念な事に、商人が持ち込む食料品はソバと豆。麦を持って来てはくれなかった。
これは仕方のない事ではある。私もとにかく冬を越せる量を求めたため、安いソバと豆しか手が出せなかった。
いくらでも作れる鉄塊を売れば良いと思ったのだが、錬金術で作るソレは安価にしか取引き出来ないと言う。
直に鍛冶師に売るなら目利きも確かだろうが、さすがに商人にそこまで求める事ではなかったらしい。
そして冬に備える準備は整った。
薪や炭についてはオットがむやみ矢鱈に伐採したモノが使えるため、あまり苦労はしなかった。




