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21・父の渋面が止まらない

 久しぶりに村へ帰ると、水田予定地がある程度整備されていた。出発の時にはまったく手を付けていなかったはずだが、秋のうちにそんなに進んだのだろうか?


 不思議に思っていれば、執事が待っていた。


「お帰りなさいませ」


 無駄な事は何も言って来ないのは良い事なのか、今日は悩んでしまうな。


「水田の整備が進んだ様だな」


 私がそう尋ねると


「はい、秋に受け入れた移住者に土魔法使いが居りまして、一気に作業が進みました」


 なるほど、そんな報告は確かに受けた気がするが、あまり覚えていない。

 あとは確か、鍛冶師が職人を呼んで炉を作ってたはずだ。


 執事と共に歩いて行くと、水田地帯の横を通る。


 当初思い描いた1枚の巨大な水田からは見るも無残に縮小し、一辺20メートル前後の畦で囲われた無数の枠が雪に浮かび上がる。

 それも、キレイに並んでいる訳ではなく、細切れに段差がついて歪な畦を形成していた。

 棚田の様な曲線こそ描いていないが、もし機械で作業するなら大変そうだ。


 その間にも執事は私への報告を行っている。


 どうやら鍛冶師の作った炉による砂鉄の精鉄は芳しくないらしい。


「砂鉄の質が炉による精鉄には向いておらず、くず鉄しか生産出来ないと言って来ております」


 知らんがな


 鍛冶師は私の帰りを待ち焦がれていたらしいが、先に帰したキーラ一家から武具や鉄塊を買い取り、今はせっせとその整備や鍛冶に打ち込んでいるそうだ。


 彼女らに持たせた武具は全て質を一級品に錬成しなおしたし、代金代わりに渡した鉄塊も、玉鋼や高品質の鉄である。きっと鍛冶師には買取らないという選択肢はなかった事だろう。


 執事の報告は鍛冶師の事以外にも続いたが、特に村に問題は起きなかった様で一安心だ。


 こうして私は日常へと戻り、鍛冶師が乗り込んで来る前に最低限の鉄塊を錬成しておく。


 やはり砦での日々は過酷であったんだなと、僅か数日で鍛冶師に渡す分の鉄塊を錬成して驚いた。


「これは熟練度が上がっているのだろうな」


 ほんの数ヶ月前の自分とは錬成速度が違うのである。


 

 そんな事をしていればあっという間に雪解け時期を迎えた。


「旦那様、伯爵家よりの書状が届いております」


 そんなある日、執事がそう言って封蝋がされた正式な書状を持って来た。

 

「そうか」


 受け取り、封を切る。


 天糸の催促でもして来たのかと読めば、それどころではなかった。




 それから半月後、久しぶりの伯爵家である。


「久しいな、ミハル」


 父が執務机の向こうからそう声を掛けてきた。


「ご無沙汰しております、父上」


 挨拶こそ交わしたが、父は複雑な表情のままであった。

 それに、兄たちも居ない。


「まさか、お前が任官するとはな・・・」


 何とも複雑な表情のまま、父がそう呟いた。


 冬の間にキーラが尋問した聖女を名乗った賊から聞き出した南の情勢を伯爵家へと報告していた。


 その事で父が褒美を貰う話が来たらしいのだが、そこに私の勅任男爵への叙爵も含まれていた。

 この事で、私は正式な貴族となる運びとなったが、それだけに留まらなかった。


 開拓村が最果ての僻地ではなく、古のローナン街道によって南へと抜ける事が出来ると分かり、ただの男爵位には留まらず、辺境職となった。


 たかが男爵なので大した権限は持たないが、それでも外交、軍事の裁量を王国から与えられる事になった。


 冬の戦いはただの私戦扱いだが、これからは王国の軍事行動として行える。

 つまり、国から軍事権限が与えられるのだ。困った事に費用は自前だが。


 だが、それでもこれまでとは色々違ってくる。


 例えば、村にある王都鍛冶工房に対する命令も可能になる。武器は私でも作れるのであまり活用する事はないが。

 さらに、国へ戦果を報告すれば褒賞が貰える。自身で対処出来なければ、国の命令で迅速に援軍がやって来る。


 前世風に言えば、国境警備隊長になった感じだろうか。将軍というには権限が小さい気がする。


 それでも国の役職を得たのは確かである。どちらかと言えば、役職を付けるために伯爵家の家臣ではなく、「国の臣下」として男爵に叙爵された感じだ。

 そのまま伯爵家の寄り子ではあるが、地位は子爵並になる。軍権に限れば、伯爵家に迫る権威があるらしい。

 今回、伯爵家も私の後方を担うために任官するらしいが、後方支援のため、私を無視出来ない立場に立たされる事で、父の表情が優れないのであろう。


 私はまだ男爵にも叙爵されていない身のため、父と共に王都へ向かい、叙爵と任官の儀に参内した。


 


 それからも、村は特に変わりはない。


 所詮は村ひとつを治める弱小男爵家が誕生したに過ぎないのだから。


 だが、その男爵領からは岩塩が産出し、塩の販売に一枚噛んでいる。

 さらに、天糸を安定供給出来るとあって王家や有力貴族からの引き合いが凄い。

 食糧自給のために主要産物である麦は栽培していないが、南方から導入した米によって食糧自給は超過する勢いで達成している。

 


 そして、ダナが妊娠した。種馬脳筋はさらに三人の父となるらしい。



 もはや兄たちは私をバカに出来ないので会う機会もしばらくないのだろうが、天糸の引き合い繋がりで縁談話が持ち込まれて来るので、父の渋い顔が止まらない。

 それにしても、現地妻を持つ私が貴族との婚姻を行っても良いのだろうか?ダナの妊娠が分かるとサシャさんが娘も頼むと圧を掛けて来ているのだが。


 私の前世知識を活かした領主生活は、まだまだ波乱が待っているのかも知れない。


 

  




 


 



今回はこれにて完結となります。



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