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18・勇者よりもアレだったのは・・・

 オットが勇者を名乗る奇人の首を飛ばし、傭兵団が残りの取り巻きを倒した。


 戦闘能力の無さそうな修道女らしき人物はキーラに捕まった。


 程なくして砦まで戻って来た一行に声を掛けようと門へと向かうと、団長からいきなり声が掛かる。


「あの距離を弓でヤッたのかい?」


 賢者や共の魔術師に刺さる矢を見たのだろう。


 確かにあの矢はバリスタにしては細く短い。歩廊にそれらしき装置もなく、かと言ってクロスボウにしては矢が長すぎる。

 歴戦の傭兵からしてみれば、その情報だけで弓から放っのだとすぐに判断しただろうし、もちろん疑問も持つ。


 傭兵団が砦を出発するまで、弓の有効射程の倍は距離の離れた勇者一行を歩廊から射殺出来る弓使いなど、何処にもいなかったのだから。


「凄いがよ。引くのにちょっと力が入っちゅうが、引いてしもたら軽なるがよ。げにまっこと不思議な弓っちゃ!」


 自分の戦果でもあるため、ダナがそう胸を張って自慢する。


「ほう」


 団長が目を細めてダナの左手にある弓を見る。


 それはこの世界では見たことのない形をし、さらに滑車まで仕込まれた見慣れない弓だからだ。


 前世では、映画の乱暴モノにも登場する有名な弓。コンパウンドボウである。

 余ったチタン板と傭兵団へ渡して余剰となった鉄、さらに強度抜群の天糸を組み合わせて作ってみた試作品だ。


「コレは、私にしか製作もメンテナンスも難しい弓だ」


 団長の機先を制してそう声を掛ける。


「そいつは残念だね」


 既に渡したリカーブボウなら、東方の弓師でもメンテナンスは可能だろう。アレなら木と腱があれば直せるはずだ。


 もっとシツコイかと思ったが、あっさりと引いてくれた。


「そんなに意外かい?そりゃ、威力や射程は魅力だが、一度壊れたらそれっきりじゃ、命を預けられないからねぇ」


 理由は、そんな歴戦の傭兵らしい考えだったらしい。


「それはそうと、コレから色々聞けるかも知れない。ちょっと話をしてみるよ」


 そう言って捕まえた聖女を名乗る賊を顎で指す。


「村の話はそっちから聞きな」


 そう言い終わると聖女を引っ張り尋問を始めるのだろう。傭兵たちに貸し与えた建物へと歩いて行った。


 それを見送り、オットへと視線を向ける。


「村の現状は酷いモノでした」


 そう語り出した内容は、酷いどころでは無かった。


 サシャさんやその娘は襲撃を逃れて逃げたので戦闘は直接見ていない。


 話を聴いたサシャさんは泣き崩れてしまうほどの惨状である。


 サシャさんの村があったと思しき場所は、完全に焼き払われて焼け跡しかなく、時間もかなり経った後なので遺体も魔物に食い荒らされたのか原形を留めていない状態だったらしい。


 さらに、武器や鎧の類はもちろん、鍋や農具など、金属製の物は何も残されていなかったと言うのだから徹底している。


「よっぽど鉄に飢えているとしか思えませんでした」


 それでふと気になり、戦士から剥がした鎧を調べれば、確かに鋼である。

 さらに、なかなか死ななかった賢者の服は、黒染の天糸であった。


「貴族だけは、今でも錬金術の恩恵を受けているのだろうか?」


 そう疑問に思ったが、戦士の鎧に魔力の痕跡はなく、高度な鍛冶技術で作られた物だろうと考えられる。

 ただ、天糸は錬金術士が錬金の過程で生み出したカイコからしか取れないらしいと聞いたのだが。


 勇者一行の着衣や武具を改めて見れば、勇者の着衣も天糸の布で織られていた。しかし、共の兵士や魔術師は、普通の布に粗末な鉄鎧である。


 伯爵家では、オットの様に自分の臣下の見栄えも整えているのだが、南の貴族は自身の身なりさえ整えれば侮られないのだろうか?

 騎士や兵士の身なりを整えられない貴族など、領地経営に行き詰まったか、よほど身なりに無頓着か、北の貴族であれば蔑まれていても不思議ではないのだが。


 こうして謎を残したまま、私はまた武具の錬金に戻った。


 キーラ団長が聖女の尋問を終えるのに、それから三日が掛かり、その報告は私やサシャさん、里の長を呼んで行われた。


「碌でもない話だよ」


 団長は呆れた様にそう切り出し、事の始まりから話しだした。



 討伐隊が結成された理由は、今から一年前、かの勇者を名乗った人物が祭祀の場で「北に魔王が居る!ナチューラ様がそう仰られた」と騒いだ事から始まっているそうだ。


 元々素行が良くなかった人物だったが、さすがに祭祀の場での話であり、大人たちも無視する事も出来ず、そうこうするうちに錬金術士は悪魔の申し子だと話が改変されて噂が広まり、各地で錬金術士狩りと称する騒乱が起き始めたそうだ。


 ちなみに、かの人物は侯爵家に当たる位の親族らしい。


 親が子供の話を信じたのか、はたまた利用したのか、周辺貴族まで巻き込んで兵を募り、編成されたのが、あの討伐隊だった。


 当初はもっと雑多な集団だったそうだが、欲に目が眩んだ庶民を前線に置き、数多の村を襲ううちに貧弱な装備しか持たない庶民は倒れ、或は金目の物を持って逃げ去り、錬金術士が組織的に自立していた山間の村を襲う頃には、漁夫の利狙いの連中が少数付いてくるくらいにまで減っていたそうだ。


「村を焼いたのは連中だが、武具以外を盗んだのは、付いてきた野盗崩れらしいね」


 と言う団長。


「さらに東へ山を分け入って村を潰し、街道の先に魔王が居るって話で、ここにやって来たそうだ」


 と、話を切る。


「嬢ちゃんが逃げて来た村ってのは、鉱山があるんだって?」


 そう、サシャさんの娘へ尋ねる団長。


「あの腐れ修道女の狙いは鉱山だったらしいね。あの女というか、アレの家と言った方が正しいのかね」


 どうやら、娘の逃げた先と言うのは、小規模ながら銅鉱山があり、錬金術士が精錬を行っていたそうだ。


 こんな騒ぎになるまでは差別こそあれ、錬金術士と言えど精錬した銅やそこに含まれる金銀を売って生活が成り立っていたとのこと。サシャさんの村は天糸を売っていたらしい。


 だが今回の混乱で、欲に目が眩んだ貴族がその鉱山利権を我が物にしようと娘を使って勇者を名乗る侯爵家ボンボンを誘導し、鉱山を手に入れたらしい。


「さすがにココは伝説の地みたいな場所だったらしいね。どうしてもあのボンボンが、ここを目指すというから、逃げた嬢ちゃんたちを追いかけたんだとさ」


 という団長。


「ここは川の収まる冬にしかこれない。それに、道もマトモに整備されて無いから遭難しても不思議じゃない」


 そうニヤリとし、ここに至る街道の破壊や障害物の設置を提案して来た。


 確かに、隠れ里をしっかり隠すにはそれしか無いだろう。


 尋問で得た話のすべてを話した訳では無いのだろうが、団長はそれで十分と考えたらしい。


「こっから南にゃマトモに金になるモンは無いよ。下手をしたら、近いうちに東の蛮族どもに飲み込まれるかも知れないくらいには、危険な場所だ」


 そんな言葉で話を締められ、街道の破壊、障害物設置へと転換された。


 

 

 

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