16・後始末だけじゃ終わらない
キーラ一家を中心に手際よく剥ぎ取りを行っているが、遺体をどう埋葬するのかが決まっていなかった。
場所が場所だけに谷底へ抛り捨てるのも手ではあるが、途中で引っかかる事もあるだろうと勝手に転がり落ちた歩兵はともかく、投げ捨てる事はせずに一か所に集めている。
「ならば穴を掘れるようにしよう」
岩がちの硬い地面を掘るのは無理と諦めていた者たちに、私はそう声を掛けた。
何を言っているんだ?と言った顔をされるが、硬化術を修得して村へと帰る際、あのトンネルを見てひとつの可能性が頭に浮かんでいた。
砂や礫を敷き詰めれば硬化させることが出来る。と言う事は、逆も出来るのではないのか?と。
岩盤をくりぬいたあのトンネルには、ノミの痕のような物は見当たらなかった。その代わりに、橋と同様に魔力を流した後がある。
はじめは脆い岩盤に硬化術を掛けたのだと考えもしたが、それだけでは説明がつかない程、トンネルの魔力痕は濃いのである。そうなれば、答えはひとつしかないではないか。
そう思って試行錯誤して、崩壊術のやり方にたどり着いた。
この術を使えば岩を砂に変えるだけでなく、鉄も砂鉄に戻せるし、チタンも粉々に出来る。本当に、錬金術と言うのは何でもありであったらしい。
その術を使って地面を土や砂へと変化させれば、あとはそれを掘り出すだけで穴が完成するという寸法である。
「なんと・・・」
もし、取水堰建設時にこの術を会得していれば、河床の掘削や硬化にも使えてより早く工事が進んだだろうにと、別の事を考えてしまったが、それだけ余裕があったという事だろう。
砂や柔らかい土へと変化した地面を掘り返す兵士や傭兵たち。
穴が完成し、そこへ遺体を放り込んだならば、土や砂をかけ、再度硬化で固めてしまえば、雨でこの辺りの斜面が崩れる危険もほぼ無くすことが出来る。
「こうまで何でもできてしまうと、便利という感想よりも恐怖を感じてしまいますよ」
兵士の1人がそう声を掛けてくる。
「そうやって恐れを抱いた者たちに、ローナンの錬金術士は排除されたのかも知れんな。便利になり過ぎるというのも考え物だ・・・」
前世の記憶もその様な便利な世界である。ただ、一つ何かが止まるだけで混乱が起きるような社会。それはとても怖い社会でもある。ローナンもそんな便利で、そして、原理や中身の分からない怖さを抱えた社会であったのかもしれない。
戦いを終えた私たちはしかし、しばらく砦に滞在する事になった。
剥いだ鎧や武器があまりにも粗末なものが多く、そのままではあまり価値が無かったためである。
私が買い取る形で、その対価となる鋼塊なり武具へと作り変えて傭兵団へと渡すことになった。
武具を複数持っても嵩張るだけだが、どこかの街で売りに出せばかなりの収入になる。
こうして数百の武器を錬成し直し、鎧を鉄板や鉄塊へと戻して鋼に錬成しなおす作業はそれなりの時間を要するものとなった。
私がそうした作業を行っている間、傭兵団や里の者たちは残敵掃討やより広範囲に索敵の網を拡げ、逃げた者や敗戦を知らせる伝令の捜索などを行っていた。
もはや使い物にならない剣や槍は鉄塊へ、まだ形が良い物は練成して性質を整え、使える鋼の武器へと練成していった。
それほど昔の優秀な武具は残っておらず、品質も北の国々に劣る程度の物が大半を占めるところから見ると、今の南方地域は衰退著しいのかも知れないと考えるに至った。
今や北方の方がまだ技術的にはマシと言って良いのかもしれない。
ただ、隠れ里の様に米が主食として栽培され続けているのなら、未だそれなりの人口を養うことは出来ている筈で、文明こそ衰退しても、人の数自体は減っていないかもしれない。
もし、それがあのような狂信集団を産む土壌なのだとしたら、私は近づきたいとは思わない。
武器の仕分けを終え、使えそうな武器の練成もやっと目処が立った頃、砦へと駆けこむ伝令がひとり。
「大変じゃ!また変なのが来ちゅうがよ!」
狂信者集団はまだ居たらしい。そうなる事も危惧はしていたが、やはり下手に人が多いという事は、おかしな宗教に身を持ち崩す者も多いという事なのだろう。
一体ナチューラとは何の事であろうか?チェスト―とは何の事であろうか。とても正気の集団ではなかったが、また同じような連中がやって来たのかと思うと、辟易としてしまう。
今回現れた集団は、砦に辿り着く前に傭兵団やオットによってニューメツされた。
数は100を少し超えた程度とあって、キーラの一存で攻撃を行っている。
「先日の奴らと変わらないゴミしか身に着けていなかったよ。稼ぎにならないねぇ」
しばらくして戻った団長は、そんな事を口にする。
剥ぎ取り労力も無駄だとばかりに、目ぼしい武器だけをもぎ取り川へ投げ棄てたとの事。
その目ぼしい武器ですら、村の野鍛冶たちでも打てそうな剣や穂先。いや、そもそもの製鉄技術が後退した結果かも知れない。
それら武器も新たに錬成する事になり、また、砦への滞在期間が延び、とうとうこちらでも雪が舞う季節に入ってしまった。
長く村へは帰っていないが、きっと執事がうまく回してくれているのだろう。定時連絡を超えた案件が届く事はなかった。




