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14・敵の来襲

「まだなのかい?」


 私がせっせとチタンの錬成や武器製作に励んでいると、不満げな団長がやって来た。

 オットに任せているが、彼女には「私の指揮に従え」と言ったので、直接来たらしい。


 脳筋に統制を任せるのはやはり間違いがあったのか。


「敵の勢力もよく分からず、補給のアテも定かではない場所へ出ていきたいのか?」


「それは願い下げだね。あたしゃ、そんな捨て駒になる気はないよ」


 と、明確に否定してくる。


 ここに討伐隊がやって来るのは川の水量が減る秋口と見られていたのでまだ少し早い。


 川の影響で討伐隊が他へ向かったなら、さらに遅れも予想されている。


「面白くないねぇ。ちょっと見てくるのはダメなのかい?あの騎士はダメの一点張りでねぇ」


 団長はそう肩を竦める。


 確かに、今も里の者が斥候に出ているので不要と言えば不要である。


「斥候か・・・、山歩きには慣れているのか?」


 問題となるのは、傭兵たちの練度やスキルだろう。


「やった事はあるね。蛮族の警戒を掻い潜って襲うには、一番の手だったよ」


 山自体が特定の地域にしかなく、奇襲に成功して以後は近づかなくなったらしいが、イザという時に備えて山歩きは怠っていないらしい。


「ならば、斥候に出てもらおう。ただし、少人数の斥候に限る。里の戦士を付ける事も忘れずに」


 彼らからの評価も聞いてみたいし、連携を取るためにも必要な事になるだろう。

 本来なら脳筋がやる仕事のハズだが、アレは個としての戦力であって、集団として考えてはイケない。


「そうかい。じゃあそうさせてもらうよ」


 ニコニコしている団長に不安を覚えた私は、さらなる条件を付け加える。


「ただし、行動範囲は川まで。他に侵攻ルートが見つかれば、この稜線の範囲で自由に探索して構わない」


 そう付け加えると


「察しの良いガキは嫌いだよ。だが、コレを貰ったんだ。言われた事は守ってやるよ」


 嫌な顔をしながらそう言い


「あー、まだ暴れらんないのよー」


 と、私に聞かせる様に愚痴を言いながら帰って行った。


 何であんな扱い難い連中を連れて来たのだろうか。


 ただ、当初不安視したほどの野蛮な賊徒ではなく、団長の下、厳しい規律が敷かれているのは間違いなく、里の者や村から連れて来た兵士との軋轢などは生じていない。

 それどころから歴戦の戦士として指導してくれているほどで、見た目からは考えられないほど、しっかりした集団と言えるだろう。


 それに、東方の主食が麦よりソバであった事も幸いだった。

 ほぼ毎食がリゾットやピラフという生活にストレスはないらしい。


 そんな彼らから、斥候を始めると防具に関する要望が上がって来る。


 里の戦士が身に着けたチタン製品が気になるらしい。


 彼らは音を抑えるためにチタン板を革の裏に貼り付ける事を望み、その要望には出来る限り応えていった。


 なかなか現れない討伐隊に、戦えない不満を抱える傭兵団であったが、防具の改良で気が紛れるのだろう。捌ききれない要望がもたらされ、サシャさんやロマンの手を借りて何とか揃っていった。今彼らに離反されては困るのは、里も同じ、暴れたり襲ったりしてこない分には、皆ガマンして要望に応えていた。


 こうして村ではそろそろ霜が降り始める時季になり、川は大部隊が渡る事を躊躇わないくらいに水かさが減ると、とうとうやって来たとの知らせを受ける。


「待ちくたびれたじゃないか。これは盛大に歓迎して皆殺しにしてやらなきゃ、相手に失礼だろうねぇ」


 私が砦へと駆けつけると、知らせを聞き、笑顔が抑えられない団長が、危ない事を口走っている。


 討伐隊の一団はそれからゆっくり進み、丸三日をかけて現れた。


「あれは本気でここを攻める気があるのか?」


 あまりの光景に私は絶句した。


 討伐隊は何と重装歩兵なのである。


 こんな尾根沿いの道にはまるで不向きな重装備を持たせて何の役に立つのであろうか?


 しかも、壁の歩廊からでさえ、その長蛇の列が無防備に見えている。

 あんな装備で山岳戦など、どんな素人でも無理と分かりはしないだろうか。


 あれでは街道を歩くのがやっと。斜面で軽快な敵を迎え撃つ様な陣形を整えられる筈がない。迎え撃ったが最期、隙から入り込んだ敵に蹂躙されかねないではないか。


「悪い知らせだよ」


 団員から何かを報告を受けた団長が私にそう告げる。


「あれは囮か?」


 私がそう問い返せば、呆れた様な顔である。


「だったらよかったんだけどね。あれが後ろの端まで続いてるそうだよ。山に適した連中なんかいやしない。あたしゃ、もっと頭も使って暴れたかったんだがねぇ〜、これじゃ、ただの訓練じゃないか」


 心底疲れた顔でそう言うと、私を見てくる。


「遊撃を頼む。オットも連れて行け」


 どうやら団長の意図した問いに応えられたらしい。


「はいよ。アレを先ずは暴れさすよ」


 そう言って歩廊から去る団長。


 そして、半刻もしないうちに敵は戦闘体制を整えたのだろう。掛け声が響く。


「ナチューラ様に感謝を!」


「「ナチューラ様に感謝を!!」」


「悪魔使いに鉄槌を!」


「「悪魔使いに鉄槌を!!」」


「構えー!」


「「チェストー!!」」


 そう叫びながら、あまり広がれもしないままに槍を突き出して突撃を開始した。


 あまりの光景に驚き言葉も出ない。


 キーラ一家がヤバイだと?


 眼前の敵はそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!


 もっと狂った夢遊病者か何かに見える。


「弓隊!構え!」


「放て!放つがよ!」


 私があまりの事に放心していると、ダナが代わって号令を掛けた。


「初陣じゃき言うてボサっとするなが!ほら、射るが!!」


 ダナにそう怒鳴られ、ようやく私は再起動するのだった。  


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