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13・ちょっとダメかもしれない

「ミハルさま!ただいま戻りました」


 オットがあえて大声で私を呼んだ。


 なぜ普段やらないような事をやったのか?と、顔を上げれば、その後ろをゾロゾロと歩く集団がいる。


 近づいてくるその集団は揃いの色合いをした鎧を身に纏っているのが分かるが、明らかに騎士ではないし、どこかの兵士と言えるほど身だしなみは良くない。


「なるほど、傭兵か」


 オットが私の言いたいことを察して村へ戻ったことくらいしか理解していなかったが、まさか本物の傭兵を引き連れて来たのは予想外であった。伯爵領から有志を募るのだとばかり考えていたからだ。


「アンタがこいつの飼い主かい?」


 集団から進み出て来た女団長然とした人物がそう声を掛けてくる。


「そうだが」


 そう返事をすれば、嘗め回すようにこちらを見て


「ガキだね。鋼の塊ごときで連れて来られて見てみれば、何が始まるんだい?こんな山奥で」


 気にくわないといった顔が物語っているのが分かるが、それでも断ることなくここまで来たのはなぜだろうか。


「あの戦斧、アンタが作ったんだって?錬金術士が作れんのかい?」


 挑発的にそう言って来る。


「あれは私が作ったものだ。玉鋼も見たのなら、分かるのではないか?」


 猛獣のような目で私を睨む女団長。


「ほう、なら、コイツを直してもらおうじゃないか」


 そう言って鼻先へと槍を突き付けてくる。


 その槍は綺麗な装飾が施されており、この人物が作らせたものという訳ではないだろう。どこかの戦場で、名のある騎士を倒して奪い取ったのかもしれない。そんな装飾が施された槍の穂先は、もはや手入れをいくらやろうと、かなり形が崩れるまで研ぎ直さなければ使えそうにないほどボロボロである。


「分かった」


 私はそれだけを言い、穂先へ手を触れ、その材質を読み取る。


 なるほど、きっと名工の作なのであろう。微妙に含まれる添加物が見事な働きをしている合金であると知れた。これは下手に錬成すれば質が落ちる事になるだろう。

 そうと分かれば、元の組成をあまり弄ることなく、分子のレベルで結合や配列を整え、それに合わせて外観を整えていけば良いだろう。


 それから暫くかけて錬成を行えば、しっかり外観が整った穂先が出来上がった。


「ふん、見栄えだけは綺麗に整えたね。おい!」


 女団長が部下に声を掛けると、分厚い刀身が鞘から引き抜かれる。


「コイツはねぇ、東の騎馬民族から奪ったもんだ。見ての通りのナマクラだが、厚さと頑丈さだけは本物さ」


 そう言ったかと思うと、槍を目にもとまらぬ速さで振り下ろし、キンという音が鳴った。


「どうかな」


 部下が構えた曲剣が見事に斬れている。女団長の腕前は確からしい。


 そして女団長は、私に獰猛な笑みを見せながら、穂先をペロリと舐めた。


「いいねぇ。コレを刃毀れさせちゃあ、アタシの腕を疑われるねぇ。手付に鋼。どんなバカかと持って揶揄いに来たけれど、アンタ、本物のバカみたいだね。アンタみたいなバカは好きだよ」


 そして、料金代わりに団員の武器をすべて修理する。中にはただのナマクラも散見されたが、すべて王都鍛冶工房も真っ青の逸品へと変えると、女団長はそれを見てさらに笑い出す。


「アタシらを金じゃなしに、錬金術で買うとはいい度胸だねぇ。こんなモン持たされちゃあ、暴れたくななっちゃうんだが、構やしないんだよねぇ?」


 舌なめずりをしながらそう問いかけてくる女団長と、それに同調したように目が逝っている団員達。


「私の指揮に従う事が前提だ」


「コイツで思う存分遊べるなら、それでいいさね」


 ヒュンと槍を一振りして、女団長はそう答える。


 ふとオットへと顔を向けるが、平謝りと言った顔である。


 どうやら私は思い違いをしていたらしい。常識があるなら、こんな盗賊よりヤヴァイ集団など連れてきたりはしないだろう。

 オットはやはり、ただの脳筋である。


 傭兵たちを砦へと送り出し、オットに詳しく話を聞けば、どうやら有名な傭兵団であるらしい。


「あれはキーラ一家という東方で有名な傭兵団でして、ちょうどこちらへきているというので声を掛けてみたのですが、まさかあんな連中だとは思いもよらず・・・」


 と言い訳しているが、一見して分かるのではないだろうか?あのインパクト強めの団長は。派手な髪型をして鎧を着崩したあの姿。アレのどこが傭兵団なのか。一家などと、どこの盗賊団かと思う。いや、仕事の無いときは盗賊をやっているのだろう、あの団員たちの立ち姿。


 そんな見た目で分かる事が見えていないとは。やはり脳筋の見ている世界と言うのは、常識では測れないという事か・・・


 だが、あまりそんな事を問い詰めている暇はない。まだ準備は途中であったため、オットには砦で兵士や傭兵団の面倒を見るように言いつけ、私は残った錬成や武具の制作に戻るのだった。



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