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11・思うようなことが出来なくなってきた

 後から蒔いたソバの収穫を迎える頃、稲もしっかり穂を垂れさせていた。


 前世の知識は、一部思い込みによる失敗はあったものの、概ね良い結果を残している。


 私が甲冑を作ると言い出し、それがある程度かたちを成してきた頃には、鍛冶師も興味を示し、渡した鉄塊を鉄板へと伸ばし、鎧の部品を作っていた。


 さらに、農具をはじめとする日用品はこの春にやって来た野鍛冶が数人、彼らが担当する事になり、私は材料となる鉄塊の錬成のみに集中出来る様になり、鍛冶師が投げ出したチタン材の加工を行っている。

 この世界においてチタン製品は未知の品であり、価値も不明。今のところは私やダナの鎧に使う以外に利用用途が見出だせていない。耐候性や耐食性があるので門扉などにも使えそうだが、私の錬成技術では、人の背丈ほどの扉を一貫錬成するには魔力が足りない。


 そのため、チタン錬成は鎧の材料が揃ってしまえばあまり出番もなく、今は砂鉄から鉄、鋼を錬成する仕事に戻ってしまった。


 こうして時間の余裕が生まれた私は、米にまつわる農具チートを実現する事にした。


 米を栽培する上で必要な技術、正条植えは隠れ里で普及しており、米と共に村へとたらされた。選別用のフルイや籾摺りを行う臼もである。

 しかし、やはり存在しなかった道具があった。

 脱穀機である。


 隠れ里に脱穀機が無い事を知った私は狂喜したが、それよりチタンのインパクトが勝り、これまで先送りしていたのであった。

 チタン熱が過ぎ去った現在、満を期して脱穀機の制作をと考えたのだが、よくよく考えてみれば前世知識にある自走する機械(コンバイン)を作ることは不可能で、ならば据え置き式(ハーベスター)か?となるが、そちらも動力源が必要である。

 残念ながら、私の農業知識は「異世界転生準備用」のものであり、実際に農作業や機械開発などと言った現場知識がある訳ではないため、畜力や水力を用いた独自の機械開発に応用できるほどのものではない。

 そうなると、テレビと言う箱劇で見た記憶の方が有望であろう。脚で棒を踏み、それを回転力へと返還し、歯の付いた筒が回る足踏み式脱穀機。そして、手で風車をまわして風を起こしてワラなどを飛ばす唐箕。その辺りまでであれば、私でも可能だ。


 ただ、その様な機械ならば大工や野鍛冶に任せても良い。私は図面だけを引けば済んでしまわないか?


 そう思った私は、軽く回る軸に拘る事にした。


 まずは図面を渡して大工や野鍛冶にプロトタイプの制作を行わせ、動かしてみた。


 一応、鉄の軸を用いているので動きはそこまで悪くはないが、もっと軽く回す方法が知識としてある。


 軸を直接木で挟むのではなく、そこにローラーを嚙ませる方法だ。


 これから水車などを作る際にも必要になるので、やってみたのだが、まず問題となったのは、軸の真円度であった。

 軸がいびつな形をしていては、そこに棒状の咬ませものを挟んでも、軽やかに回すことが出来ない。


 軽く回る軸受けを作ろうとしただけなのだが、結局、私がすべてを作るのは如何なものかと言う抗議を鍛冶師や野鍛冶から受け、彼らにも製作が可能な道具、つまり旋盤を作る事から始まった。


 そんな事をしているうちに米の収穫が始まってしまい、私の思いとは別に、野鍛冶や大工が製作した脱穀機や唐箕が使われることとなり、わざわざ軸受けを急がなくてもよいという話が出て来てしまったのである。


「ご領主さま、ワシらの道具で十分満足できてますよ?」


 などと大工が私に問いかけてくる。確かにそうなのだ。特に問題はない。


「いや、今後を考えれば大事なことだ。荷車や馬車の軸受けとしても有効に使う事ができる」


 そう負け惜しみを口にし、私は時間を作っては旋盤の構造や役割をあれこれ考察、研究していくことになる。


 何でも錬金術で作ればなんとかなると言いながら、村をまわすという意味では、私がすべてを作る訳にもいかないというジレンマに陥る結果を迎えてしまった。


 結局私は、鉄塊や圧縮木材という他の誰にも出来ないことを除き、いかに村での担い手に役割を振り分けるかを考えなければならなくなった。

 これでは錬金術士としてどうなのかとも思うが、委任男爵という統治者と言う立場からすれば、拒否する事も出来なかった。


 どこか釈然としない話になったが、隠れ里からそれどころではない話が舞い込んで来たので、急いで向かう事になった。


 今回はオットをはじめ、馬に乗れる少数で向かう。やたらオットが浮かれているが、彼の相手が妊娠したからだ。さらに戦士家系から声が掛かるほどの人気ぶりに、この種馬脳筋は浮かれている。


 乗り慣れない馬に揺さぶられながら到着した隠れ里は以前と変わりなく、一体何が起きたのかと訝しんだ。



「おお、来ちゅうがか!」


 長は既に私を身内扱いしている。ただ、それはこの里に新たな錬金術士を生み出すためであり、ダナを開拓村へ出す気はサラサラ無いという。もちろん、ダナもそうだ。


「そいが錬金術士が?」


 見ない顔の老人が不審者を見るような顔をして尋ねてきた。


「北の国人がよ。山の橋を直しちゅうが」


 長がそう、私のウデを説明しているが、あまり効果は無さそうである。


「それがほんまとして、南に砦を作れるがか?ワイら村の死活問題がよ」


 勝手に話が進み過ぎてよく分からない。


「おんしは黙っとるが、ここは村でなかがきい!」


 さらに女性の声が割って入る。


「おんしこそ何ぬかしちゅうか!村が危ないがや!」


「おいらは村を出て来ちゅうが。この里が守る場所じゃきい」


 どうやら他の村から逃げて来た人達の様だった。


「はちきんが・・・」


 老人はそう言って口を噤み後ろに下がり、ハチキンさんが長の隣へとやって来た。


「村はもう、おえんろうがよ。いまさら砦もないがきい、ここを守る事考えるがよ」


 違う言葉ですべてを理解出来る訳では無いが、ハチキンさんが言うには、この里を守る砦が必要だそうだ。


「そいでおんしを呼んだ。硬化術が使えるが?」


  その問いに頷く。


「はなら、サシャ、あとロマンを連れて行きい」


 先ほど老人を引かせた女性の名前はハチキンさんだと思ったが、サシャと言うらしい。さらにロマンという私より年下そうな少年がやって来た。


 なんだかよく分からないまま、事が進んでいる。


「向こうにダナが居るきい、頼むが」


 なるほど、既にダナは現地に。では、行きますか! 

土佐弁はあくまでそれっぽくぜよ。


実際に「ぜよ」としゃべる土佐人に会った事が無いので、実際にしゃべる「ちゅう」「が」「きい」を使っております。


実際に高知の人が読めば違うだろ!と言われそう。

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