065 ― 海の街 ―
こんばんは。今回も少し短いのですが、これは二つに切ったためです。今月はもう一回投稿するかと思います。
さて…。と、俺は辺りを見回す。
塩の香りが鼻腔を擽る。関所を抜けたばかりのこの場所では建物が邪魔で見ることは出来ないが、その匂いだけでそれが近いことが分かる。
新たな町。───“アルフレド”。
商業都市との呼び名を持つこの町は、船での貿易が盛んで、諸外国からの物資がこの町に集められている。王都からの“飛空艇”という直通便まであるように、この町は“王国”の流通の要所となる場所だった。
“カノン”では木造の家が目立ったが、ここでは殆どが煉瓦造りの家だ。
メインストリートには石畳が敷かれ、発展途上のような雑多さはない。見た限り“カノン”よりも数倍大きな町で、整備も行き届いている印象を受けた。
たくさんの馬車が行き交う程の大きなメインストリート。この中に先ほどの老夫婦もいるのだろうが、多すぎて探そうとも思えない。
馬の蹄の音とガラガラと車輪が回る音が響き、その中に人の声が混じる。
規模もそうだが、騒がしさや賑やかさも“カノン”より数段上であった。
俺は辺りをキョロキョロと見回しながら賑やかな通りを歩いていく。まさにそれは田舎から出てきたおのぼりさんのような言動だったが…。うん、まあ…実際そのようなものだし…否定はできないな。
関所で聞いた限り、“冒険者”が“飛空艇”に乗るには“ギルド”に依頼を斡旋してもらい搭乗するしかないらしい。なので、まず目指すは『冒険者ギルド』だ。
こんな広い町じゃ、迷うことはほぼ確定なので…。俺は予め道順も尋ねていた。こんな俺だって成長するんですよ。うん。
それによるとメインストリートを通り、丁字路まで出たところで左手にギルドの大きな看板が見えるだろう。と、その人は言っていた。
その言われた通りに歩を進める俺。
「おお…」
と、俺は感嘆の声を漏らす。
不意に建物がなくなり、開けた景色に大自然の神秘が広がっていた。それは言わずとしれた、大海原。
海鳥が鳴き、天の光を浴びてキラキラと乱反射する海面に、どこまでも澄みきった青空が対比して広がっている。
その上を滑るように行く帆船。港に停泊し波に揺られる帆船たち。いくつも並んだそれらが俺を出迎えてくれる。
これがこの世界に来て、初めて見る“海”の景色だった。
十年も過ごしていて見たこと無いのか。と、思われるかも知れないが。この世界ではそれほど可笑しなことではない。
現代の地球ならある筈の移動手段。車や電車、飛行機という便利な技術。それが軒並みこの世界にはありはしないのだ。
俺が住んでいた“霊峰”は内陸部のそれこそ奥地と言える場所にある。そこから海へ行こうとするなら、馬車で下手したら一ヶ月以上掛かる。往復で二ヶ月だ。そんな場所にわざわざ行こうとは思わない。
そもそもこう言う都市部生まれか、“冒険者”のような定住する場所を持たない者でないと生涯一度も海を見ずに亡くなる人が大概なのだ。
俺は別に恥ずかしくない。うん。恥ずかしくない。引きこもり万歳。
さて、そんなことは置いておき。
俺は目的地を目指して再び歩き出す。
さらさらと流れ行く海風が俺の髪を靡かせ、海鳥の鳴き声が俺の鼓膜を叩く。
(海か…)
思い出してみると日本にいた頃、海に行くことはなかった。家族とも少々わだかまりがあったし、学校での行事でもなぜか海はなかった。まあもとから引きこもり気質だったのもあって別に気にはしなかったのだが…そんな俺を知ってか知らずか、遥と勇二は二人して俺を外へ連れ出そうとした。
あの夏の日。やけに早い蝉がうるさく、蒸し暑くも清々しいほどに晴れ晴れとした青空だったことを覚えている。
(結局、約束は果たせなかったわけだが…)
二人と見る筈だった初めての海が、まさか“異世界”の海だとはなんとも皮肉なことだろうか。
こういう状況でなければ、もう少しゆっくりしていってもよかったのだが…まあそれは仕方がない。
ようやく目的地が見えてきた。今回は迷うことなく行けそうである。
さあ、さっさと“王都”までいきましょうか!
・・・・・・・・・・
「…え? 今、なんと?」
呆気にとられた俺はもう一度確かめようと聞き返す。
「はい。予約制です」
「…ということは?」
「今すぐには乗れませんね」
営業スマイルを浮かべた受付嬢さんが目の前でそんなことを言っていた。
俺はその言葉に呆然とし、開いた口が塞がらない。
ウソやん。え、冗談じゃなくて?
「ふぅ…こういう方がかなり多いんですよね。…すぐに乗れると勘違いなさられている方が…」
彼女は少し疲れた様子でそう呟いている。聴覚が良いので普通に聞こえているが。
(せ、セーラさぁーんっ!! 聞いてないですよ!そんなこと!!!)
俺は心中で叫ぶ。頭の中で“てへぺろ”と舌を出しているセーラさんが思い浮かんだ。…いや、真面目な彼女のことだからそんなことはしないだろうけどっ。十中八九畏まって謝罪してくるだろうけどっ。土下座までしてくるかもしれないね!───ってそんなこと今はいいんだよ!
「え…えーと。では、その…予約というのはどこまで埋まっているんですか?」
少し頭が冷えた俺は彼女にそう尋ねる。すると、彼女は少々お待ちくださいと言って傍にあった書類を確認し出す。
「今週のものは全て埋まっていますね。来週の方も…予約を取るとすれば再来週となりますが」
うええーっ!? 再来週っ!?
「ど、どうにかなりませんか…?」
「キャンセル待ちは可能ですが…。あまり期待は出来ないかと。王都へ向かう便は人気が高いので、そうそうキャンセルはされません」
俺の焦りように少し申し訳なさそうにしながら彼女は答える。
チーン、と頭の中で鐘が鳴り響いた瞬間だった。
少々冒険者のランク付けを変えようかなと思ってます。まあどうなるかは分かりませんが、言いにくいですよね。+とか-とか。ただいま考え中です。
さて、今回もありがとうございました。まあ、今月はもう一度投稿するので、さっさと消えます。ではでは~。




