049 ― 唐突なる実戦 2 ―
お待たせしました。結局、遅くなってしまいましたね…。最近また遅くまで仕事が長引いているのでなかなか書くことができません。一応、一ヶ月に一度の頻度は守りますが、それ以上投稿するには落ち着くまで出来ないかもしれません。まあ、言うて自分は遅筆なので出せても二つしか出せませんけども…。そんな変わらないのか…な。
長々と失礼しました。では、どうぞ。
「うぐ…。動けない…っ」
「ネバネバしてるぅ…」
「ぜ、絶体絶命…っ」
魔物との戦闘で捕まってしまった彼女たち。3人はどうにか身体を動かして脱出しようともがいているが、動けば動くほど魔物の“糸”は身体に纏わりついてくる。まるで自分たちが巨大な虫取シートにでもかかったような気分だった。
必死に突破口を探っていた彼女らにギチギチ…とおぞましい声が近くで聞こえ、恐る恐るそちらを見やる。
彼女らのすぐ近くで、蜘蛛の魔物は鋭利な牙を鳴らしながらこちらを向いていた。
サーッと血の気が引く。
「───はい。あなたたちの負けね」
と、いつの間にか降りていていた魔族の女性は彼女たちを見下ろしてそう言った。
「いいコンビネーションだったけど、圧倒的に経験不足ねぇ」
おっとりとした口調で言う彼女。しかし、表情はどこかつまらなそうな様子で、近づいてきた彼女はふいに右手を伸ばす。
「───あぐっ!?!?」
「はるはる!?」
「はるにゃん!?」
「敗者の子達には、何が待ってると思う?」
彼女はそう問い掛けながら、三日月のように口角を上げ、遥の首を無造作に掴んで軽々と持ち上げた。
「や、止めろ━━━っ!! おばさんっ!!!」
「はるにゃんを離せっっ!!」
「おばさんとは…いい度胸してるじゃない」
女性は睨みつけ動けない亜衣を容赦なく蹴りつけた。
「うぎゃっ!!?」
「あいにゃんっ!!」
「あら、もう終わりかしら」
彼女は喜悦を含んだ笑みを浮かべ、気絶した亜衣へ再度蹴りつけようと足を上げる。
「…や、…やめ……てっ!!」
右腕に囚われた遥が言葉を絞り出すように言った。
首を絞められ、宙に持ち上げられた彼女は相当苦しそうにもがいているが、まだその瞳には闘志が残っており、苦しみよりも怒りの感情が表に出てきていた。
それを見とめた女性は少し溜飲が下がったように、片方の眉を上げて遥を見やる。
「へぇ…見上げた根性ねぇ。所詮はただのお飾り勇者の癖に」
「───っ!!」
「貴女、状況を理解できているのかしら。ここは殺さないでと許しをこうところでしょう」
小首を傾げ、優しげに諭す彼女。その瞳には到底優しさなど皆無で見下した者を見つめる冷酷なものだった。
「もしかして貴女。時間稼ぎでもしたら助けが来るとでも思っているのかしら。ふふ、おめでたいわねぇ。このわたしがなんの対策もしてないと思う?」
「…っ…!!」
「まあ、わざわざ説明してやる義理もないわね。全然楽しめなかったし、“殺すな”と言われているけど…─── 一人ぐらい殺ってしまっても…構わないわよねぇ?」
その遥を見つめるその瞳はまるで底知れない奈落だった。そこにはまるで突き落とされたかのように青ざめる、遥自身の姿をはっきりと映していた。
やられる…と、思った。その刹那────
「お、おやめなさいっっ!!!」
少しうわずった、高い声が響いた。
その声の正体は天楼院未來。必死に内なる感情を押し殺しながら持っていた扇子を突きつけて叫ぶ。
「そ、その子達を離しなさいっ。さもないと…さもないと、この私が容赦しませんわよ!!」
「へぇ…。一人出てこない奴がいると思ったらそういうことねぇ…」
魔族の女性は彼女を一瞥し、不敵に笑う。彼女は興味が失せたようにその場で遥を捨てると、表情はそのままにゆっくりと未來へと歩きだした。
無造作に落とされた遥は、苦しさの余韻から地に伏せてそれを見ていることしか出来ない。
「腰が引けているわよ? 勇ましい勇者ちゃん」
「なっ!? と、止まりなさい! これ以上近づくと魔法を放ちますわよ!!」
彼女は慌てて脅し文句を叫ぶが、女性は意に介さず、何処吹く風と聞き流しながら歩みを止めない。
なにを考えているか分からない不気味な笑みで、無言で歩く姿はなにものにも換えがたい恐怖があった。
「───っ! 凪払いなさいっっ!!」
その恐怖に耐えきれなかった彼女は持っていた扇子を開き横に凪払う。
すると、その言葉に呼応した“扇子”は光を灯し、凪払った場所から風が放たれる。それは物理的に攻撃を与えることの出きるほどのもので、所謂、“鎌鼬”となんら変わるものではなかった。
────バシュッッッ!!!!!
と、何かが破裂したような音が響く。
それは一瞬の出来事で未來は「えっ?」と、呆気にとられる。
それもその筈。女性に向かって容赦なく飛んだ風の刃は彼女のちょうど目の前で、その音と共に一瞬で姿を消したのだ。
まるで何もなかったかのように歩く彼女を見て混乱するのも仕方がない。
「え…あ、え…?」
「ふふ。これで終わり? これじゃあ何度やっても同じことよ。貴女が持っているそれは“魔剣”でしょう? こんなものじゃないはずなのよねぇ。───ああ、なるほど。使い手が無能なのね」
「っ~!! 誰が! 誰が! ────誰が無能ですってっ!!!??」
彼女の放った一言が未來のプライドをピンポイントに突いた。上手く口車に乗せられてしまった未來は怒りに任せて何度も何度も“風”を放つ。が、それをいとも簡単に彼女は消し去ってしまう。
彼女たちには理解できない現象だったが、これはこの魔族が持つ尻尾が目に見えないほどの速度で動き、先端に付いた刃状のもので叩き消しているのだ。
未來が持つ“扇子”は女性が言ったように“魔剣”と呼ばれるそれだ。それに秘められた力は魔族にも匹敵すると言われている魔法の産物。当然、一般人では扱えない宝具の一種で、武器選びの際に未來がたまたま使えたことで与えられたものだった。
「なんでっ!! なんでっ! 効かないんですのっ!」
我を忘れたかのように必死に彼女は扇子を振るうが、それをことごとく消し去ってしまう女性。
本来ならもう既に近づいているだろう距離だったが、嫌にゆっくりと歩を進める彼女は、未來の攻撃を故意に全てはたき落としているようで、その顔には楽しそうな悪魔的な笑顔が張り付いていた。
「はい。終わり」
「へ?」
その攻防、いや、攻防とも言えない。まるで小さな子供の我が儘を大人が優しく叱っているのような絵面に唐突に終止符が打たれた。
キンッと微かに空気を震わす金属音。次いで聞こえたのが何かが地面に落ちる音だった。
彼女に魔法を放っている間、未來は周りが見えていなかった。自身の感情に押し流されて目の前の敵しか認識できなかったのだ。その結果、未來は自身の得物を弾き飛ばされることとなった。
「え…な…どうして……」
「その怯えた表情。いいわね…堪らないわ」
女性は人とは異なる長めの舌で舌舐りをし、未來の目の前で立ち止まる。その恐怖を体現したような女性を見て後退った未來は、バランスを崩して尻餅をついてしまう。
力の差をありありと見せられ、自分のプライドを砕かれた今の彼女に、戦う気力はもはや残ってはいなかった。
「一思いに殺して上げるのもいいけど、それじゃあ面白味に欠けるのよねぇ。…そうだぁ。貴女の綺麗な目、それを抉りとってあげましょう」
「ひっ」
「ふふ…。大丈夫よ。死にはしないわ。死には…ねぇ?」
彼女はそう言って器用にも尻尾を未來へと向け、近づけていく。未來は怯え動くことすら出来ない。
自身の大切な仲間に、友達に、遥は地を這って近づこうとするも、魔物に阻まれ成す術もない。
「て…天楼…いん…さんっ…」
(…また…。また何も出来ずに…わたしは!)
滲む視界で、悔しさに歯を噛み締める。
「やめてよ…もう…。───もうやめてっっ!!!」
たまらず叫んだ悲痛な声。それは誰にも届かないかと思われた。その直後────
─────ガンッッッ!!!!!
重い衝撃と地響き。広範囲に響き渡る金属音がその場の空気を切り裂いた。
「へぇ…。意外と早かったじゃない」
「王国騎士団を馬鹿にしないで欲しいね」
女性が睨んだ先。フルフェイスの兜と重厚なる鎧。身長ほどもある巨盾を持ち、刃の付いた大型ランスでつばぜり合いを披露する彼女は、静かな口調でそう答えた。
急いで書いたため少々ミスってるところがあるかもしれません。見つけたら言ってもらえると助かります。
今回もお読みいただきありがとうございました。来月もまたよろしくお願いいたします。




